よし、ファイアドラゴンのおかげでネクステラの土地からエクソンの土地までのただひたすら真っすぐな道を作る事が出来た。
ファイアドラゴンの吐いた焦げ跡はそう数日や一か月程度では消えない。
だからその真っすぐに吐かれたブレスの焦げ跡に沿って真っすぐに平行な線路を敷けば、鉄道を作る事は可能という事だ。
この世界にも鉱山で使われるトロッコがあったから、車輪とレールを作る技術は存在する。
確か、どういう理由かまでは忘れたが、線路の幅は世界標準で1435㎜となっている。
これは4フィート8(1/2)インチという単位で、大昔から荷車やチャリオットの幅で使われているサイズだ。
そう、フィートが大人の足のサイズ、インチが人差し指から親指のサイズだとすれば、多少の誤差こそあれどオレの手と足で測る事の出来るサイズだ。
だが、鉄道となるとその量が多大になるので、これは実際に鍛冶屋に頼まないとレールや車輪を作るのは難しそうだ。
オレが魔族にこのような道具を作れる鍛冶屋がいるのかを聞いてみると、火の魔王エクソンは快く話を聞き入れてくれた。
「よく来たなッ!! 話は聞いているぞッ! どうやらファイアドラゴンに炎を吐かせて何かをやっていたみたいだなッ!! まあいい、内容については触れないとこの間も言ったからなッ!! それで、何の用だッ!?」
「実は、お願いがありまして……魔族でも鍛冶に長けた方がおられましたら、是非ともご協力して頂ければと」
「なんだッ! そんな話かッ!! いいだろう、ニッテツ、ジェフ、コベルを連れていけ!」
なんと、火の魔王エクソンは火に長けた魔族を三人紹介してくれた。
彼等の名前はニッテツ、ジェフ、コベル、三人とも火の属性の魔族のようだな。
「ニッテツです、よろしく」
「ジェフだ、エクソン様から話は聞いている」
「コベル、よろしくです」
三人の魔族はオレに挨拶をすると、何をすればいいのかを聞いて来た。
「実は、あなた方にやってもらいたいのは、丸い円盤をいくつも作ってほしいんです。それと、その円盤のはまる溝のある四角い鉄の棒、出来ますでしょうか」
「問題ありません、数万の魔族の武器を作った事に比べれば、そんなの余裕です」
「俺も余裕だ、それくらいなら目をつむっても出来る」
「出来ると思いますけど、やってみますね」
流石は魔族の鍛冶屋というべきか、ニッテツ、ジェフ、コベルの三人は分担して車輪を作る役割とその車輪の嵌る溝のレールを作る側でそれぞれが作業に取り掛かってくれた。
鉄を溶かす炎はファイアドラゴンが出してくれるので、数千度の熱で作られた車輪と溝はニッテツ、ジェフ、コベルの三人が加工する事で次々と生み出されている。
そして、流石は炎の魔族というべきか、人間が触ったら確実に大火傷確定の燃え盛る炎や高熱で溶けた鉄を素手で触り、形を整えている。
この生産力がもし人間の敵に回ったら、そりゃあ勝ち目無いわな。
人間の鍛冶屋の素手で持てないから使っている鉄の持ち手を使わずに形を整える事が出来るもんだから、作業効率が段違いだ。
そうして完成して冷えた鉄は次々と五体のゴーレム達によって運ばれ、箱状の車を造るのは魔族の他の兵士達がやってくれている。
こうして全員が協力して作業を続ける事で、ほぼ二週間程で車輪やレールが作られ、次の行程に取り掛かれる状態になった。
石油を運ぶのには鉄では危険度が高い、それで使われたのは巨大なラーバウォームの抜け殻だった。
ラーバウォームの抜け殻は、かなり長い物で、細い物は石油精製プラントのパイプに、最大級の物は石油精製の加熱蒸留用のサイロに使われた。
それ以外にもラーバウォームの抜け殻は有り余るほどネクソンの城の一角に山積みにされていて、捨てるに捨てられない、持ち出すにも大変、壊そうにも人手がいる、という事で使われずに持て余していた物だ。
火の魔王ネクソンにとってもこの使い勝手の悪いラーバウォームの抜け殻を有効利用してもらえるという事で、オレはコレを喜んで使わせてもらえる事になった。
ラーバウォームの抜け殻を加工して作られた石油タンクはいくつも用意され、それぞれが車輪付きの台車の上に括りつけられることになった。
元が長いラーバウォームの抜け殻を使っているので、列車の長さは十五両くらいにもなった。
まあこれだけ輸送できれば問題ないかな。
だが、オレはここである事に気が付いた。
――これって、単線で線路を作ってしまうと、この線路を使った場合往復でもう一度こちらに戻している間は線路が使えないのではないのか!?
よかったよかった、まだ工事が始まったばかりだ。
今ならまだ追加作業は可能のはず。
オレはニッテツ、ジェフ、コベルに頭を下げ、更に車輪と台車とレールが二倍必要な事を伝えた。
いきなりの追加注文、これは断られても仕方ないよな……。
だが、彼等は快く引き受けてくれた。
「大丈夫です、問題ありません」
「俺達の仕事はもう終わったのかと思ってたぜ、という事はまだ働けるんだな!」
「はい、やらせてもらいます、よろしくおねがいします」
コレが職人や鍛冶屋ってやつなのかな、いきなり追加作業が増えても彼等は嫌な顔一つせず、追加で車輪とレールを作る作業に取り組んでくれた。
完成している車輪とレールは五体のゴーレムのおかげで次々と作業が進み、コンゴウも鉄鋼を掘り出す作業を終わらせ、五体のゴーレムの数倍の能力で鉄鋼をまるで木の枝のように抱え、敷設作業に取り掛かってもらった。
マジでこのゴーレム達のおかげで数か月、下手すれば数年かかる作業が二週間で済むとは……。
オレの与えられた能力は、この世界を大きく変える為の力だったのかもしれないな。
まあ本来使えるはずだった疑似エネルギー思念隊が古代文明の消滅で使えなくなってしまったので、その代替として使っているのが人間や魔族の魂というのは仕方ないが……。
それでもこき使っているわけではなく、きちんと本人の意思を聞いた上で仕事してもらえるようになったのはネクロマンサースキルを持つカシマールのおかげだ。
彼女がいなければ、オレはこのスキルを使いこなす前に呪い殺されていた。
オレ、カシマール、モッカ、フォルンマイヤーさん、それにコンゴウに五体の巨大ゴーレム達、さらにファイアドラゴンに魔族の鍛冶師ニッテツ、ジェフ、コベル。
全員が協力した事で、二週間後、無事に石油を輸送する為の鉄道が完成した。
本来なら機関車なり電車なりが無いと線路の上に列車を走らせるのは出来ない。
だが、五体のゴーレムとコンゴウ、それにファイアドラゴンが協力してくれた事で、精製した石油をなみなみと注いだタンクの乗せられた列車は線路の上をゆっくりと走り出した。
よし、これでどうにか石油をネクステラの土地に運ぶ事が出来そうだ。
コンゴウ、それに五体の巨大ゴーレム達とドラゴンは、鎖で車両を引っ張ってどんどん突き進み、ネクステラの土地を目指した。
そして三日後、ついに石油がネクステラの土地に届けられ、そこで燃やした石油を使い、火力発電をスタートさせる事が出来た。
これで当分は一安心ってところか。
でも、このままではずっとゴーレムやドラゴンに車両をけん引してもらい続ける事になる。
だがそんな事をずっと続けさせるわけにもいかない、そこでオレは、魔技師のファラデー爺さんに頼み、燃料を燃やして走る車が作れないかを質問してみた。
「そ、そうか。そ、それなら……ス、スチーブンソンに、き、聞いてみろ」
「スチーブンソン?」
「む、昔の……ま、魔技師な、仲間だ。か、彼ならな、何かいい方法をし、知ってるだろう」
そうか、スチーブンソンか、それなら機関車の事をその人に聞いてみる事にしよう。