オレはファラデーさんに話を聞き、彼の魔技師仲間二人の事を知った。
だが、どうやらこの二人、お互いが折れず、いがみ合ったまま喧嘩をしているらしい。
片方がスチーブンソンさん、もう片方の名前はデービーさんというらしい。
どうも話を聞いてみると、スチーブンソンさんの作った坑道を照らすランプがデービーさんの作ったものの盗作だという話になり、その後二人で大喧嘩になった挙句、それからお互いどちらもが一歩も引かないといった状態だ。
困ったもんだな、そんな事で喧嘩されていては、オレのやってもらいたい事どころじゃない。
早く機関車を作らないと、折角敷設した鉄道が使えないままだ。
だが、その機関車を作れそうな魔技師二人が大喧嘩をしたままでは、オレに協力してもらうどころではない。
早くそのランプの問題を解決しなくては。
鉱山におけるランプは必須品だ。
だが、このランプ、メタンガスに引火すると大爆発を起こしてしまい大惨事確定の物だともいえる。
そういう点ではスチーブンソンさんの作ったガラスを使って炎を閉じ込めるランプの方が安全度は高い、というか……一応この世界にも小さいガラスの作り方は存在したんだな。
まあ流石に高級品みたいなので、四方向全部ガラスというワケには行かず、灯を照らす方向だけガラスになっているといった作りみたいだが。
とにかく、この二人を納得させてお互いの言い分を聞きつつ間を取り持つのが良さそうだな。
この問題を解決させないと、機関車を作ってもらうどころじゃない。
さて、この問題は一種裁判沙汰みたいなものだから、ここは司法に携わる人に間に立ってもらうのが一番確実に問題を解決させる方法だろうな。
そうなると、ここは貴族であるフォルンマイヤーさんに間に立ってもらうのが、一番角が立たなそうだ。
「フォルンマイヤーさん、この二人の話、間を取り持ってもらえませんか」
「わ、わかったのである。国王陛下の名のもとに、私がこの件を解決すればいいのであるな」
フォルンマイヤーさんはダイワ王と面識もある大貴族の一人で、騎士団長も務める人物だ。
彼女がこの二人の問題を解決しつつ、オレがこの二人のランプの問題になっている欠陥を解消すれば二人とも納得できるはず。
そうすればファラデーさんのいうように技術力の高い魔技師に協力してもらい、列車の牽引用の機関車を作ってもらえる。
オレは瞬間移動の出来る魔族のトーデン、カンデンに協力してもらい、スチーブンソンさんとデービーさんをネクステラの土地に呼び寄せた。
流石は魔族の斥候、どこでもほぼ移動可能といったところか、二人はどちらも王都に住んでいたのですぐに見つける事が出来たらしい。
「い、いったい何をしようというのだ、儂は研究で忙しい」
「はて、僕にどのような御用ですか? それに何故彼が居るんですか?」
デービーさん、スチーブンソンさん、どちらもいきなりオレが呼び寄せた事に困惑しているようだ。
「実は貴方達に協力してほしい事がありまして、もし聞いていただけるのでしたらそれなりのお礼はさせていただきます」
「ふざけるな、儂だけならまだしも、何故この若造がいるんだ! コイツは儂の研究を盗んだ泥棒だ」
「そんな言い方しないで下さいよ、僕はアナタのやり方を盗んだんじゃないです、これは僕の考案したランプです、アナタの物とは違うんです」
あーあ、どちらも偏屈な技術者にありがちなお互いの技術は認めていても自分の方が正しい、優れていると考えるタイプみたいだな。
「二人とも、今はコバヤシさんのいう事を聞いてくれないか、わしは彼のおかげで素晴らしい発明をさせてもらえたんだ、お前達も話を聞けば何か変わるから」
「うるさい、久々に会ったとたんに説教か、儂はお前を認めていないからな」
「黙っていて下さい、これは僕と彼の問題です」
オイオイ、このままではどこまでも平行線だよ。
機関車を作るどころの話じゃない、その前に先にランプの権利の事を話さないと。
「フォルンマイヤーさん、この二人をどうにか止めてもらえませんか」
「わ、わかったのである」
口汚くお互いをののしりあうデービーさんとスチーブンソンさん、その二人を止めたのはフォルンマイヤーさんだった。
「二人とも黙れ、ここは騎士団長であるこの私、ファンタ―ジェン・フォルンマイヤーが取り仕切るのである!」
「え? 騎士様?」
「僕は盗作なんてしていません!」
やはり騎士団長の地位は一般人には怖い物なのだろう。
あれだけ激しくお互いを罵っていた二人が、水を打ったように静かになった。
「それで、いったいこの騒ぎの原因は何なのであるか」
「騎士団長様、コイツは儂の発明を盗み、さぞ自分が作ったもののように言いまわっているのです」
「僕は盗作なんてしていません、灯りが一方だけ見えるように作っているので、彼の主張する物とは違いますから」
お互いの意見を照らし合わせる為、実際市販されている彼等のランプが用意された。
デービーさんの作ったランプは炎の内側の部分を細かい金網で覆っていて、外に火が燃え広がらないように工夫されたもの。
スチーブンソンさんの作ったランプは、三方向を包んでいて、一方だけに薄いガラスを張って炎が外に漏れないようにしたランプだった。
「なるほど、これが双方の作ったものであるか、それでデービーはスチーブンソンがそのランプの作り方を盗んだと」
「その通りです、この若造は自分で考えて物を作る事が出来なかったので儂の発明を盗んだんです」
「違います、僕はこのランプの欠陥を知っているので、それを解消しようと作ったのです」
成程、これはどこまで行っても平行線だ。
だが、この問題の解決方法ならオレが持っている。
オレは燃えない紙を用意してもらい、蝋燭の周りに包んでみた。
「は? これはいったい何だ?」
これはがんどう、そう、ジャパニーズランタンと言えるものだ。
彼等はオレが何をやったのか意味が分からなかったみたいなので、二重ジンバル、つまりは輪っかを二つ使ったジャイロを作り、その真ん中に蝋燭を立ててみた。
その上で先程と同じように紙でこの蠟燭を包むと……。
オレがどのように振り回しても、火は紙に燃え広がらず、外側を照らし続けた。
「な、何だこれは!?」
「信じられません、炎が絶対に倒れないって……」
そう、このがんどう、江戸時代頃に、忍者や強盗、目明し等に重宝されて使われた物だ。
この二重ジンバルのおかげでどの角度でも絶対に蝋燭が倒れない。
これを見たデービーとスチーブンソンはどちらもが驚いていた。
「良いですか、オレの考えたこのガンドウ、これに貴方達の作ったランプのシステムを合わせれば、絶対に安全なランプを作る事が出来ませんか?」
お互い争っていたデービーとスチーブンソンは、オレのがんどうを見てその完成度に驚いていた。
「わ、わかった。この作りに比べれば、儂らの争っていた物がいかに小さい争いだったか」
「そうですね、僕達がやる事は、ランプで鉱山の人や旅人達がいかに無事に暗い場所を安全に移動できるかの事でした」
どうやらオレの思った通り、この二人の魔技師を説得する事が出来そうだ。
二人は協力し、ファラデーさんも含め、このランプを安全に倒れないように使える方法をみんなで考える事になった。
システムはオレの提案したがんどうを元に、全体の作りはファラデー爺さんが、蝋燭の周囲の後ろ側をデービーさんの発明した金網の覆いで防護し、全面をスチーブンソンさんのガラスの蓋で閉じる形にすると、どのような向きに振り回しても、火の倒れない最高の鉱山用ランプが完成した。
「やった、これで完成だ!」
全員が喜んでいた、これは全員の技術を集めて作ったものだ。
「それではこの発明品は、この四人が協力して完成させたものとして、その売り上げや権利は等しく四等分される事となるのである、皆、文句はあるまいな」
オレ達は全員が申し立てをする事も無く、このランプの権利を四等分する事で話をまとめる事が出来た。