ようやく魔技師たちのいざこざが解決し、本来のオレの目的を伝える時が来た。
四人で完成させたランプは、とても評判が良く、どこでも売り切れになるほどだった。
そう、あの二重ジンバルの二つ重なった吊り輪を使った燭台がとても評判が良く、これなら火事にならないという事でどこでも利用できると評判になったのだ。
この世界ではランプには蝋燭もだが魔鉱石を使ったものもある、だがまだ魔鉱石を使ったランプは値段が高く、蝋燭や木を燃やすランプの方が一般的にはよく使われている。
だからあの二重ジンバルを使った燭台は、見た目は少し変に見えるかもしれないが、転倒による火災はかなり激減する。
だからこのランプは安全面から考えてもとてもよく売れるようになったワケだ。
一般的に使う場合は網による防護やガラスの蓋は付けず、二重ジンバルの燭台だけの場合が多い。
だが、四人の取り決めで、このタイプのランプの売り上げは、等しく四等分という事になっているので、誰も文句を言わないようにしている。
これで魔技師達の争いを止める事が出来た。
ようやくこれでオレの計画を彼等に伝える事が出来そうだ。
「皆さん、そろそろオレの計画について聞いてもらえますか」
「わかった、この問題を解決してくれたコバヤシさんのいう事です、何でもお聞きしましょう」
「僕も協力します、アナタがいなければ僕達の問題を解決する事は出来ませんでした」
オレはデービーさんとスチーブンソンさんのどちらの信頼も得る事が出来た。
これでおれにきょう力してくれる魔技師は三人に増え、また、鍛冶師としては魔族のニッテツ、ジェフ、コベルの三人も協力してくれる。
これだけの人数がいれば機関車を作る事も可能だろう。
さて、それではどのようなシステムで機関車を作るべきだろうか。
とりあえず、まあ考えられる事としては、蒸気機関を使ったSLタイプの蒸気機関車を造るのが良いのかもしれないが、そのためには大量の石炭が必要になる。
その石炭を集めるのにも時間がかかるし、魔鉱石を使った蒸気機関というのも、効率が良くない。
さて、そう考えると……やはり石油を使った方が掘り出したモノも使えるわけで、それに燃費やコストの問題からもそちらの方が電気の発電とも連動させたものが使える。
だが、下手に電気をこちらの方に使うとなると、折角発電させた電気を無駄に使う事になるうえ、数日に一度くらいしか通らない電車の為に電線を張る作業の方が時間も労力も割りに合わない。
オレが困っていると、ファラデー爺さんが声をかけてくれた。
「コ、コバヤシさん、何かなやみごとでも、あ、あるんですか?」
「あ、ファラデーさん、実は……エンジンの作り、つまり動力をどのようにすればあの列車を動かせる車両を作れるかと考えていたんです。電気を使う方法もありますが、電気だと電線に何かが付着したりすると途端に動けなくなるので、長い距離を安全に走らせるには不向きなんです」
オレがエンジンの事で悩んでいるのを知って、ファラデー爺さんはデービーさん、スチーブンソンさんと話をし、解決方法を一緒に考えてくれた。
「とりあえず、その機関車っていうのシステムは作ろうと思えば作れますね、上に大きな煙突をつけた鉄や金属で出来た円筒形の胴体に、下の部分を何度も前進する形の並んだ車輪を作れば、自動的に船をこぐように車輪が回るでしょう」
スチーブンソンさんは自動的に車輪の回るシステムを考えてくれた。
「とりあえず素材は一種類にまとめた方が良いだろう、そうでなければ別金属を擦り合わせると別々の金属が錆びたり腐食するからな」
デービーさんは素材を一種類で合わせて作った方が機関の劣化や腐食を防げることを伝えてくれた。
流石は一流の魔技師というべきか、彼等の意見が無ければオレはそういった知識を知る事が出来なかった。
オレの専門はあくまでも建築、建設であり、技術、機関にはそれ程詳しくない。
だから技師、技術者、鍛冶師等の技術を持つ彼等の協力が無ければ、鉄道を完成させるのは無理だ。
だが、今はオレに協力してくれる魔技師、鍛冶師がいる、だから鉄道は間違いなく完成させられるだろう。
しかし、問題はその機関をどうやって動かすかだ。
石油を使ったエンジンを作る事が出来れば……誰かそういった能力に特化した研究をしている人はいないのだろうか。
「そ、そういえば……い、以前、臭いの強いガスを使った蒸気を使って、エ、エンジンを作ろうとした技師が、い、いたな」
「ファラデーさん、その人は……?」
「ディーゼルというヤツだったな、優秀な魔技師ではあったのだが、そのガスエンジンの実験失敗で大爆発を起こして、今はどうしているやら」
ディーゼル、その人物ならオレの求める内燃機関のエンジンを作れるかもしれないな。
「その人は今どこにいるんですか?」
「さ、さあ、た、多分王都のどこかに、い、いるのではないのか?」
オレはトーデン、カンデンの二人の魔族に協力してもらい、瞬間移動で王都に移動、そしてディーゼルさんを捜してみた。
すると、街の外れの工場で働いていると分かったので、少し無理を言って彼に来てもらう事が出来た。
「ディーゼルさん、お願いです。この石油を使った内燃機関のエンジンを作ってもらえないですか?」
「うーむ、話がどうもよく分からんのだが、何故わたしに?」
オレはディーゼルさんにエンジンを作ってほしい事を伝えた。
「貴方が以前作っていたシステムがアンモニアやガスを使った内燃機関のエンジンだと聞きまして、それで貴方に石油を使ったエンジンの設計をお願いしたいんです」
「そうでしたか、しかしわたしは以前エンジンの設計ミスで大事故を起こし、死にかけた事もあるんです、今でも目と体にその時の後遺症が残っていますし……」
ディーゼルさんはどうもこの話を渋っているようだ。
「そこをどうにか、この計画が上手く行けば、みんな助かるんです。それに、他の魔技師の方達も協力してくれるので、一人だけが失敗するわけじゃないんです。そして、これがあると世界中どこにでも荷物や人を運ぶ事が自由に出来るようになるんです」
「少し……考えさせてください」
オレ達はディーゼルさんの協力を得られない場合も考え、エンジン部分だけを残し、機関車の外側の部分を作る事にした。
外側の車輪の動く部分や、タンクのある部分、車輪部分などは全員の協力とゴーレムのおかげですぐにでも組み立てる事が出来た。
オレ達がどうにか機関車を組み立てていると、そこにディーゼルさんがやってきて、手を差し出してくれた。
「わたしにどこまでできるかわかりませんが、協力させてもらいます。それで、わたしは何を作ればいいのでしょうか?」
助かった、これでディーゼルさんが協力してくれれば、内燃機関の石油エンジンを組み込む事が出来る。
ディーゼルさんは内燃のエンジン、つまり内側で石油を燃やすタイプの動力システムを作ってくれた。
スチーブンソンさんの作ろうとしたエンジンは、水と石炭が必要で、石炭を用意しなければいけないが、ディーゼルさんのエンジンは火の魔王エクソンの土地の地下から取れた石油を蒸留したものの軽油を使えば確実に使えるものになる。
つまり、この鉄道で使われる車両は蒸気機関エンジンではなく、石油を、吸入、圧縮、膨張(着火)、排気の四工程で動かす内燃型石油エンジンになる。
これなら電線も必要ないし、石炭や魔鉱石を新たに用意する必要がない。
よし、これでようやく機関車が完成するぞ!
オレ達は魔技師と鍛冶師達の協力のおかげで、ついに鉄道に走らせる機関車を完成させる事が出来た。