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第95話 機関車……増産??

 軽油で動く機関車が完成し、ようやく鉄道がまともに作動できる状態になった。


 これで火の魔王エクソンの土地から雷の魔王ネクステラの土地まで鉄道で石油の輸送が可能になったワケだ。


 しかし、意外に現地のあり物で代用できるものなんだなとオレは感心していた。

 特に役に立ったのがエクソン達魔族には無用の長物のゴミになっていたラーバウォームの抜け殻だ。

 この抜け殻、溶岩の中で生きている巨大虫のものということで、外皮は頑丈、それでいながら伸縮自在に動く虫なので柔軟性にも優れている、まさに列車やタンク、サイロといった長い物、パイプ代わりに使うにはうってつけの材料だった。


 それに、ゴミを有効利用したという点でも、火の魔王エクソン達にとっても特になる事だったらしい。


 なんせ、このラーバウォームの抜け殻、やたらと増える割には頑丈で捨てるにも一苦労、溶岩でも溶けないので溶岩の中に棄てるわけにもいかない、下手にいじれば毒の棘等でダメージを受けるといった厄介な物だったから、誰も喜んで処理をしようとしなかったそうだ。

 だが、オレにとっては異世界で材料に事欠く中、このラーバウォームの抜け殻は、長さ、強靭さ、加工の容易さといった全ての面でプラスチックや金属に勝る万能素材として重宝出来るものだった。


 むしろ、このラーバウォームの抜け殻が無ければ、ここまでオレの思った通りの石油精製プラントや列車用の石油タンクは作れなかっただろうと思う。


 その材料の数々があっても、それを加工精製出来るスタッフがいなければ意味がない。

 そういう意味でも、オレには魔技師の仲間や火の魔王エクソンが貸してくれた魔族の鍛冶師、それにコンゴウや他のゴーレム、そしてモッカやカシマール達がいてくれたからここまで出来たと思う。


 スチーブンソンさん、デービーさん、ファラデーさん、ディーゼルさん、彼ら四人の魔技師の協力で完成した機関車は、石油、特に軽油をエネルギーに動く内燃機関のエンジンを搭載したものになっていて、電線を使う電車でも石炭を使う蒸気機関でも無い形になった。


 だからちょっとやそっとの悪路でも線路さえあれば石油を燃料にどこまでも突き進めるのが特徴だろう。

 また、これは試作的に作ったものなので曲線は一切使わずファイアドラゴンのおかげでどこまでも続く真っすぐな線路が作れたのがかなり工事の短縮化につながったとも言える。


「ついに完成しましたね」

「そ、そうだな。わ、儂らの協力した、け、結果じゃ」

「ここまで色々と衝突はあったが、あのコバヤシさんのおかげでその問題も解決した。これはその事に対するお返しだ」

「まさか、わたしの考案したエンジンが本当に実現できるなんて。わたし一人だけでは机上の空論で終わっているところでした」


 魔技師四人はお互いが労い、この機関車を完成させた事を喜んでいた。


 うーむ、この喜んでいるところに水を差すのも良くないんだが、これは言っておかないといけないかな……。


「皆さん、ありがとうございます。ですが、この機関車一つだけではいつ故障してて使えなくなってしまうかわかりません。それに、この鉄道は今後ここを拠点に王都や他国までも繋げる事が出来る大型交通網に出来る可能性があります。その為に……皆さんにはまだこれと同じ物を作ってもらいたいのですが……」


 作業が終わった途端に次の作業を持ちかける、これは一番経営者として良くないやり方だとはわかっているが、それでもあまり時間が無い事、あの機関車一つだけでは往復だけで数日かかる事等を考えると、どうしても次の作業に矢継ぎ早で取り組んでもらうしかない。


「勿論だ!」

「も、問題ない」

「なんだ、これで終わりかと思っていたぞ」

「やります、やらせてください!!」


 ひょっとしてこの人達も一種のワーカーホリックなのか?

 休むよりも作業をしている方が落ち着くという人がいるのは聞いた事があるし、オレもどちらかというと、理不尽な押し付けでなければ仕事をしていたいと考えるタイプだ。


「皆さん、本当に良いのですか?」

「ただし、今の人数では結構キツいから、もう少し人員は増やしてほしいがな」

「勿論です!! すぐに人を用意しましょう!!」


 オレはフォルンマイヤーさん、パナマさんに頼み、手の空いている人手を集めてもらう事にした。

 人間、魔族関係なく集まったスタッフは、それぞれが出来る事を進め、機関車の車両は何台かに増産する事が出来た。また、往復の際に雷の魔王ネクステラの土地から火の魔王エクソンの土地に向かう列車には、水や食料、その他必要な物を乗せる為の貨物車両を作り、動かしてみた。

 また、雷の魔王ネクステラも電気を作る事が出来るようになったと聞き、その発電の為の人手を出してくれる事になり、発電所の設営計画も同時進行で進める形になった。


 さあ、ますます忙しくなってきたな。


 最初こそ数日かかってようやく運ばれていた石油は、機関車の増産で一日おきの往復になり、確実に石油が用意できるシステムが作られた。

 火の魔王エクソンの土地からは精製した石油を、そして雷の魔王ネクステラの土地からは水や食料、必要な物資を輸送、この形で機関車は往復で走らせる事になった。


 まあ、今のところ曲がる線路を作れていないので、線路の乗せ換えはゴーレムに頼んでいる形だが、いずれはスイッチバックなり、線路のカーブを作る形でどうにか解決しようとは考えている。


 これならば石油を使った火力発電所を作る事も出来る、そうでなければそろそろいくら魔族が人間よりも体力的に勝っていたとしても機械を手動で動かし続けるのにも限界があってそろそろ疲労で事故を起こしかねない。


 オレは雷の魔王ネクステラに言って、テーマパークを二週間休む事を伝えた。

 流石に魔族のスタッフも人間側のスタッフももう疲労困憊、これ以上運営を続ければ事故確定だ。


 その代わり温泉は電力が必要ないので運営を続け、そこで休みつつ客を迎え入れる形にして顧客は逃さないようにしておけばいい、何も全部休みにする必要は無い。


 休む時はきちんと休みつつ、仕事は継続、これが長く仕事を続ける方法だとオレは考えている。


 この考えは当たっていたみたいで、魔族のスタッフ達は温泉でゆっくり休む休暇を与えた事で疲労を回復できたようだ。

 また、人間のスタッフも同じように休む事が出来たので、お互い交流が出来たらしく、魔族と人間のわだかまりは少しずつ解消出来ていると考えても良いだろう。


 さて、次に俺がやるのは……石油精製からの火力発電か。

 このシステムを作るには、トーデン、カンデン、それに雷の魔王ネクステラにも協力してもらわないと。


 まずは、大型発電機で生み出した巨大な電力を元に、発電機の巨大コイルを回す、それが出来てようやく電気を使った磁石精製が可能になる。


 一度電気を通して作った磁石があれば、その後磁石を元にさらに細いワイヤーを巻き付けたコイルを作る事が出来る。

 このコイルと電磁石があれば、電気はいくらでも精製が可能になる。


 さあ、その為にはまず元になる大型発電機を動かしてもらわないと、それが無ければ最初の電力を生み出す事が出来ない。


 オレは雷の魔王ネクステラの城に向かい、電力、つまり雷の力を貸してほしいと頼みに行った。


「コバヤシか、どうだ、計画は順調か?」

「はい、おかげさまで無事、火の魔王エクソン様の所から石油を運ぶ鉄道を弾いてくる事が出来ました」

「そうか、それは良かった。それで、今回は儂に何の用があるんじゃ?」


 雷の魔王ネクステラは、オレが頼みがある事を知った上でここに来させたのだろう。

 それなら、この後の計画についてきちんと話をした方が良さそうだな。


「はい。実は、ネクステラ様にお願いがありまして、聞いていただけますでしょうか」

「よかろう、話してみるがいい」


 オレは、今後の発電所計画について説明を始めた。

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