雷の魔王ネクステラの手渡してきたものは、骸骨と悪魔を意匠した小さなリングだった。
なんだか……呪いのアイテムに見えないでもないが、コレを要りませんというのも角が立つ。
ここは素直に受け取っておくとしよう。
「ネクステラ様、これは?」
「それは儂の魔力を固めて作ったリングで、コレを身に着けている限り、お前には儂の加護が与えられるモノじゃ。早速つけてみるがいい」
「わかりました」
オレが指輪を身に着けると、トーデン、カンデン達が雷の魔王ネクステラの指示でカシマールやモッカ達をオレから遠ざけた、いったい何があるというんだ?
カシマール、モッカ、フォルンマイヤーさんはオレから十数メートルは離れた後ろ側でこちらを見ている。
「ぬうぅうんっ!!」
え!? 雷の魔王ネクステラがいきなりオレに向かって稲妻を放ってきた!!
しかも今回は避雷針も効果ない様に直接オレに当たるようにコントロールしているのかという直撃ぶりだ!!
「うゎああああっ!!??」
「こばやしーっ!!」
「おにいさぁああん!! 死んじゃったらダメなのだー、でも死んでもボクが呼んであげるのだ」
「コバヤシ殿―!! おのれ、魔王ネクステラッ!! 裏切ったのであるか!?」
カシマール、モッカ、フォルンマイヤーさん、三人ともが雷撃魔法の直撃を受けたオレを見て悲痛な叫びをあげている。
死ぬ! オレが死んでしまうー!! ……あれっ? 痛くも痺れも……無い?
「えっ、何が……いったいどうなって??」
雷の魔王ネクステラの魔法の直撃を受けたはずのオレは、全くの無傷だった。
いや、むしろ、電気治療を受けた後なのかというくらい、身体がスッキリしているくらいだ。
「こ……これは?」
「ハハハハハ、驚かせてすまんわい、やはりこういうのは事前に伝えると効果が分かりにくいからのう、あえて何も教えずにやらせてもらったんじゃ。コバヤシ、お前は儂の魔法を受けても何のダメージも無かったであろう?」
「は、はい。でも、これは……??」
オレが自分の指を見ると、先程雷の魔王ネクステラから受け取り指にはめたリングが光っていた。
そうか、ひょっとすると……このリングは、雷無効、もしくは吸収の力があるのか!
「それは、儂の今までのお前の働きに対する礼じゃ。そのリングは、持ち主に雷の魔王である儂の加護を与えるもので、雷に関する攻撃、ダメージを一切無効化する事が出来る。そう、お前に儂等雷の魔族と同じ属性を与える事が出来るのじゃ」
これは凄い物を受け取ってしまった!!
先程までオレを心配していたカシマール、モッカ、フォルンマイヤーさんは、オレがもう安全だとわかるとすぐに近くに駆け寄って来た。
トーデンとカンデンの二人もオレをちょっと心配してくれていたみたいだ。
「コバヤシ殿ぉぉ、心配、心配したのであぁぁぁる」
「お兄さんが無事でよかったのだ……」
「こばやしーっ、こばやしぃいいーっ」
三人ともオレが無事だとわかって、もう半べそかいている。
オレって、この異世界で本当に良い仲間に出会えたんだな、と実感した。
「コバヤシ、お前にそのリングを与えたのには理由がある。話を聞いてもらえぬか」
「はいっ、ネクステラ様。どのようなお話でしょうか」
「実は、雷の魔族は儂以外にもおる、ソイツがお前の味方になるとは限らんという話じゃ。下手すれば敵対する事もあるかもしれん、アヤツは儂を嫌っておるからのう。ヤツの名前はシェンファ・イベルドローラ、この儂ネクステラ・サザンデュークに匹敵する雷魔法の使い手じゃ」
成程、雷の魔王ネクステラがオレに雷攻撃無効のリングをくれたのはただの好意ではなく、その敵対する雷の魔族シェンファ・イベルドローラというヤツともし出くわした際にオレが殺されたりしない為なんだな。
まあ、雷の魔王ネクステラにすれば、自分の為に発電所を作ったり、恐怖を集める為のテーマパークを作ったオレは必要不可欠、もしそれが別の雷の魔族に知られてしまえば、今度はオレの命が危ないといった話でもある。
これは気を引き締めていかないと。
幸い、オレは魔族の三大魔王、水の魔王ベクデル、雷の魔王ネクステラ、火の魔王エクソン全員と協力関係を作る事が出来ている。
それもこれもオレが建築、建設の技術や知識を使って彼等の特になる事をしてきたからだ。
そしてそれは人類に対しての背徳行為ということでは無く、むしろ魔族と人間達のより良い共生関係が作れているともいえる。
ひょっとしてオレをこの世界に転生した神は、それをさせたかったのかもしれない。
この世界で人間達と魔族達が争えば大地が荒廃し、世界を作りなすのも大変な事になる。
だが、人間達と魔族が共に争う事無く生きていく事が出来れば、お互いの持つ力を分け合い、この世界をより良い物にする事は十分可能といえるだろう。
いやー、たかだかゴーレムを使えば簡単に建物が作れる、くらいに考えていた頃に比べると……やっている事がまさに社会貢献、社会インフラ構築レベルまでなっているよな。
しかし、まだ世界には人間に好意的な魔族だけがいるとは言えない、そういう意味で雷の魔王ネクステラは、オレにシェンファやその手下と対峙した際にオレが殺されない為、彼の加護のあるリングを与えたという事だ。
「わかりました、気を付けます。それで、そのシェンファってのはいったいどんな奴なんですか……?」
「シェンファは儂とは比べ物にならん残忍な奴じゃ、儂は恐怖を得る為に人間を苦しめてはおったが、アヤツはそのような事は考えておらん。目の前にある物が気に入らなければ全て奪い、破壊するのじゃ。後に残す事等何も考えてはおらん、無くなれば別の場所からまた奪えばいい、それがアヤツの考え方じゃからのう」
なにその破壊神。
作ろうという考えがまるでなく、ある物は全て奪う、壊すって……これは説得不可とも言えるレベルじゃないか。
確かに、もしオレがそんな奴に捕まってしまえば、徹底的に使われた挙句、ポイだ。
ブラック企業の社長ってレベルじゃない、もっと恐ろしい何かを感じた。
「わ、わかりました。気を付けます」
「そうするんじゃ、アヤツはまだ今はどこにいるかわからん。じゃが、儂が封印から復活したという事は、アヤツもどこかで封印が解けていてもおかしくはない。コバヤシ、お前も気を付けるんじゃ」
オレ達は雷の魔王ネクステラに礼をし、その後城から離れた。
しかし、雷の魔族シンファか……厄介な奴もいたもんだ。
もしそんな奴にオレの事を知られてしまうと……かなりヤバい事になりそうだな。
このリングの事はこの三人以外には黙っておこう、むしろこんな超SSレア級の道具を持っていると知られたら、誰に狙われるとも限らない。
さあ、それよりも次に何をするか考えないと。
雷の魔王ネクステラの依頼を解決し、テーマパークの件も落ち着いたし、テーマパークに必要な電気を作る為の火力発電所も無事稼働し始めた。
火の魔王エクソンの土地からの機関車での石油の鉄道輸送も順調で、線路の拡張工事も魔技師達のおかげで進行中だ。
オレがこの土地でやるだけの事はしっかりやりきったからなー、そろそろ温泉で一週間くらいゆっくりと体を休めるとするかなー。
……オレがそう思っていた時、王都からの使者がいきなり現れた。
「コバヤシ様ですね。捜しましたぞ。国王陛下からの命令をお伝えする為に貴方様を捜していました」
「ダイワ王から? いったい何なんだ?」
「コバヤシ様、すぐに王都に起こし下さい、国王陛下がお呼びです」
ええー!? 今からようやくゆっくりと温泉で休めるはずだったのに、オレはダイワ王から王都に呼び出される事になってしまった。