まったく、仕事が落ち着いてようやくこれから温泉でゆっくりしようとしたタイミングで呼び出しだよ。
せっかくテーマパークの件も落ち着き、鉄道の運営も魔技師達に任せてこれからゆっくりできると思っていたのに。
あ、そうだ、とりあえず魔族のトーデンとカンデンの力で瞬間移動させてもらえるなら、あと十日くらいは温泉でゆっくりしてから王都に移動すればいいか。
そうだそうだ、その手があった。
早速雷の魔王ネクステラの城に行ってトーデンカンデンに頼んでみよう。
「「お断りします」」
けんもほろろ、二人そろって拒否された……。
「コバヤシ様、我々が瞬間移動で貴方に協力したのは、あくまでもネクステラ様の命令の上でのお話です。ですが、今回の話はネクステラ様には関係のない、コバヤシ様だけの事、そのような事に我々の力をお貸しするわけにはまいりません」
「大変申し訳ございませんが、我々も暇ではないのです、今でもネクステラ様のご命令で動いている中、コバヤシ様からお話があるという事でしたので時間を作った形ですから」
そういう事情じゃ、オレのワガママを聞いてくれというワケには行かないよな……。
むしろ忙しい中オレの為に時間を作ってくれたという話だから、オレが邪険にされているのではないから、なんだか悪い気がするくらいだ。
仕方ない、ここは素直に王都まで十日かけて向かうとするか……。
あーあ、鉄道が王都まで通じていれば十日どころか数日で到着可能なのに。
あ、そういえば鉄道がどうなっているかの様子を見ておかないといけないんだった。
これでさらに二日は無駄にする形になってしまう。
オレはカシマールとフォルンマイヤーさんを残し、モッカと二人で火の魔王エクソンの石油採掘所に鉄道で向かった。
採掘所に到着すると、魔族の兵士達が忙しそうに働いている。
だが見た感じ、不平不満は無さそうで、みんな充実したような働き方をしているようだ。
彼等にとっての報酬は、賃金などではなく現物、つまりは取れたての原油を精製した石油という事らしい。
魔族達はその働きに応じて、重油、軽油、灯油、ガソリン等の各クオリティの石油をもらい飲むのが良いみたいだな。
まあ、火の魔族にとってこの石油は彼等のエネルギーであり、魔力だともいえるものだから、それをもらえるなら喜んで仕事をするといったところなのだろう。
元が火の魔族なだけに、火災は起きる事があるが、それでも特に誰も事故を起こしていないのがある意味で怖い……。
ここには人間属はたとえ仕事で来ると言っても止めた方が良いだろうな。
オレとモッカは火傷しないように遠くから見ていただけだが、それでもすごい熱気だ。
まあ、人間は仕事でここに来ているのがいるとしても、鉄道で石油を輸送する際のスタッフといったところだろう。
オレは採掘場と電車を一通り確認し、鉄道で雷の魔王ネクステラの土地に戻ろうとした。
その時、オレの後ろから聞き覚えのある鳴き声が聞こえて来た。
「ガォオオオン!!」
この鳴き声は……そうか、ファイアドラゴンだ!
ファイアドラゴンはオレとモッカを見ると、嬉しそうに傍に寄って来た。
数か月前は生まれたばかりだったはずの子供は、今ではもうオレの身長を越し、熊くらいのサイズになっていた。
「赤ちゃんも大きくなったなー」
――そうだ! ファイアドラゴンに王都まで運んでもらえばいいんだ!!
「モッカ、ファイアドラゴンにオレ達を王都まで送ってほしいと頼んでもらえるか?」
「わかったっ、きいてみるっ」
モッカはファイアドラゴンに話しかけ、オレ達をまた背中に乗せて運んでほしいと伝えた。
すると、ファイアドラゴンはその話が分かったのか、腰を下ろし、首を曲げながらオレに背中に乗れと言ってくれたみたいだ。
「ファイアドラゴン、それじゃあネクステラの土地までオレ達を運んでくれ!」
「ギャオオオウンッ!!」
ファイアドラゴンは高く吠えると、そのままオレとモッカを背中に乗せ、凄い速さで鉄道を追い越し、ネクステラの土地まで送ってくれた。
「助かった、ありがとう。ファイアドラゴン」
「ギャオオオウン!!」
オレは火力発電所に輸送する前のタンクから、上質のガソリンを取り出し、ファイアドラゴンに飲ませてやった。
すると、ファイアドラゴンは勢いよくガソリンを飲み干し、機嫌良さそうに空に向かって火炎のブレスを放った!
これ、空に向かってだからよかったけど……もし地面や側面だったら大火災確定だな。
ガソリンを飲んで機嫌のいいファイアドラゴンはその体で自分の子供と遊んであげていた。
微笑ましい光景と言いたいところだが、もうサイズが巨大なのである意味このじゃれる状態をオレ達にやられたら大ダメージになりそうだ……。
まあ、ファイアドラゴンがオレを乗せてくれるのに拒否を示さないので、これなら王都まで数日あれば十分到着可能だな。
これなら二日くらいは温泉でゆっくりできるかもしれない。
オレはモッカに頼んで、ファイアドラゴンに王都までオレ達を運んでほしいと伝えてもらった。
だが、ファイアドラゴンは何故かそれは無理だと断って来た。
何故だ? オレ達を乗せるのは嫌がっていなかったのに。
「こばやしっ、ふぁいあどらごん、ごーれむはおもくて、ながいきょりのせられないってっ」
そうかっ!! それは確かにそうだ。
ファイアドラゴンにとってはオレ達を乗せて飛ぶくらいなら何の問題も無いかもしれないが、あのコンゴウや五体の巨大ゴーレムを乗せてここから数百キロあるかといった王都までとなるととても重くて運ぶ事が出来ない。
そうかー、そういえばそうだな。
そうなるとオレ達だけならファイアドラゴンに乗せてもらえるが、あのゴーレムをどうするかってとこだ。
ここにカシマールだけ残してゴーレムと留守番させるのも可哀そうだし、だからといってゴーレムに歩いてついてこいと言っても、ゴーレムだけでなくカシマールにも相当の負担がかかるのでこれもダメ。
カシマールがオレ達とドラゴンで飛んでここを離れてしまえば、魂の維持が出来なくなったゴーレムはただの鉱石に戻ってしまう。
まあ、疑似生体エネルギーで動いているコンゴウはオレ達から離れても崩れる事はないから、最悪コンゴウには歩いて王都まで自分で来てもらう事が可能だ。
うーむ、そう考えると……やはり方法は一つだけだな。
カシマールにはオレに着いてきてもらわないと今後の話でも困るので、彼女をここに留守番させるという選択肢は消える。
だからカシマールもオレもあの五体の巨大ゴーレムを維持する事が出来なくなる。
そうだな……これだけ長い間働いてくれたんだ、そろそろあの五体のゴーレムの中の魂には休んでもらっても良いかもしれない。
「カシマール、あのゴーレム達をもう眠らせてやる事は出来るか?」
「わかったのだ、あの子達……もう身体がボロボロになってきているのだ。そろそろ休ませてあげる事にするのだ」
魂を核に作ったゴーレムに寿命があるのかどうかは分からない。
だが、工事という過酷な労働を短期間とはいえやり遂げたゴーレム達はどれもボロボロに欠けたり、崩れかけている。
指等も壊れるたびに再生はさせたものの、やはり疑似生命エネルギーと本物の魂では定着度合いが違って、魂がゴーレムから外れそうになっている状態でもある。
実質、この五体のゴーレムはもう、肉体的にも精神的にも限界が来たと言える状態だろう。
「カシマール、彼等を眠らせてあげる事は出来るか?」
「出来るのだ、それでは広い場所に彼等を呼んでほしいのだ」
オレは、ムコーガ、グリュック、ガリバー、マテック、ナメガを呼び、カシマールに眠らせてもらう事にした。