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第102話 ジャルと……アナ??

「貴方、確か……コバヤシでしたね」

「誰だ? 何でオレの事を知っている??」


 二人の魔族は攻撃を止め、オレ達の目の前に降りて来た。

 双子? それもかなりの美人に見える。


「御機嫌よう、コバヤシ様。ワタシ達は……空の魔王ヴォーイングの娘、ジャルと申します」

「御機嫌よう、ワタシは……アナ。よろしく」


 ジャルと……アナだって?

 オレは彼女達の声を覚えている、だが、誰だったっけ?


「あら、この姿では初めましてだったかしら。それでは……こちらの姿ではどうでしょうか?」

「そうね、こちらの方が見覚え有るでしょうからね」

「「アハハハハハハハ」」


 魔族の双子はオレ達の前で魔法を使って姿を変えた、って……その姿は! 以前オレ達が王都に向かう時に出会った双子!?


「改めまして御機嫌よう。ニッコですわ」

「御機嫌よう、ニックですわ。この姿でしたら見覚え有りますわよね」


 ――そうだ! 思い出した。

 彼女達はニッコとニック、あの時は何者かわからなかったが、まさか魔族だったとは。


「貴女達は……魔族だったのですか」

「そうですわ。ワタシ達は、お父様……空の魔王ヴォーイングの命令でここの人間達の様子を見に来たのですわ」

「人間達が、ワタシ達魔族の土地に攻め込む為の巨大な船を造っていると聞きましたのでね。でも、見る限りここにはその船は無さそうですわね」

「そ、そうなんだ。ここにはそんな大きな船は無い、飛竜がいるだけだ」


 多分、ジャルとアナの二人が言っているのは、ナカタが作っている大型造船デッキの事なのだろう。

 だがその事を教えるべきかどうか、ここでもしオレが彼女達にナカタが作っている船の造船デッキの基地の事を伝えたら間違いなく破壊に向かうだろう。

 そうすれば確かにナカタの出鼻をくじく事は出来る、だがその為に他の何も知らずに造船作業に携わっているスタッフ達を巻き込んで犠牲にするわけには行かない。


 やはりここは黙っておく事にしよう……。


「そうだ、ここはただの飛竜の牧場が出来る予定の場所なんだ。魔族の土地に攻め込もうという意図はまるで無いんだ」

「そう……そうなのね。まあいいわ、コバヤシ、アナタの事を信じてあげるわ」

「そうね、コバヤシはワタシ達の敵ってわけじゃあないんでしょう、それなら問題はないわね」


 ほっ、どうにかわかってもらえたみたいだな。


「でも……もし人間達が、ワタシ達の土地に攻め込んできたら」

「その時は、空の魔王の全軍をもって人間の国を火の海にして差し上げますわ……お覚悟するのですね」


 やはり……敵に回さなくてよかった、このジャルとアナ、流石に水の魔王ベクデルや雷の魔王ネクステラ、火の魔王エクソン程の力じゃないとしても、その部下のトーデン、カンデンくらいの強さはありそうだ。


「来なさい、ジャンボ!」

「グオオオオウンッ」


 アレは! オレ達が王都に行く際に乗せてもらった大型の魔獣だ。

 あんな奴に上空から攻撃されたらたまったもんじゃない。


 ここの飛竜騎士団がどれくらいの強さかは分からないが、あの大型魔獣と戦える程の練度は無いと考えていいだろう。

 そうなると、ここであの空の魔王の手下のジャルとアナを敵にするのは自殺行為ともいえる。


 五体のゴーレムは上空にいる魔獣ジャンボに対して警戒しているが、だからと言って何か攻撃を仕掛けるという事ではない。

 むしろ、もし上空から攻撃されたら地上にいる人達を庇おうとしているくらいだ。

 多分このゴーレムの中に入っている魂は元軍人だったのだろう。


 そして、そのゴーレムの後ろには数十メートルの巨体を誇る超大型ゴーレムコンゴウが立ち構えている。

 流石の魔獣ジャンボもこのコンゴウ相手には勝てないだろう。

 コンゴウは上空のジャンボがもし攻撃を仕掛けてきたらすぐにでも迎撃できる準備をしている。


 最近は建築や建設の作業ばかりで忘れているかもしれないが、元々このコンゴウは四大魔王すら退けた古代文明最強のゴーレムだ。

 本気を出せばジャンボとジャルとアナを同時に相手にし、圧勝する事も可能だろう。

 だが、もしそうなるとここは焦土と化し、誰一人として生き残れないだろうが……。


 オレとしてもそんな大惨事は絶対に避けたい。

 だからここは穏便に済ませ、ジャルとアナとジャンボにはここから立ち去ってほしいのが本音だ。


「ふふ、かつてお父様を苦しめたという伝説の巨大ゴーレム……」

「そう、コバヤシが自信を持っていたのはアレがいたからなのね」


 ジャルとアナは空中に舞い上がり、オレ達の事を見下ろしていた。


「いいわ、今もしここでアタシ達とコバヤシ達が戦ったら……何も残らないわね」

「そうね、ここは退いた方が良さそうですわね」


 ジャルとアナは空中に浮いたまま、二人で会話をしている。

 どうやらオレ達と戦わずここを離れてくれるようだ


「アナ、こんな所で油を売っている場合じゃないですわ、早く村に行って様子を見てこないと」

「そうですわね、コバヤシ達人間がアタシ達に敵対の意思が無いというなら、こんな所にいる必要は無さそうですわね」

「それでは……コバヤシ様、御機嫌よう」

「また、お会いしましょうね」


 ジャルとアナはオレ達を見下ろしながら、さらに上空高くに舞い上がった。

 どうやら本当に戦いを止めてここを離れてくれるようだ。


 軍の兵士達も緊張状態を持続しながら、あの二人の魔族を見上げている。

 駐屯部隊の隊長、ラプコン、フォスター、ハンセンも三人が槍を構えながら飛竜の背中に乗り、待機状態だったが今のところはあの最強魔族相手に空中戦という事にはならなそうだ。


 張りつめた緊張の糸がお互いに牽制している状態だと言える。

 しかし先に動いたのはジャルとアナだった。


 彼女達は魔獣ジャンボを連れ、オレ達のいる場所から離れ、東に向かって飛んで行った。

 あっちは、ナカタの建造する造船ドックのある方向だけど……何も起こらなければいいんだが。


 だが、オレの悪い予感は的中する事になる。

 なんと、造船ドックの中の飛行戦艦から、空中を飛んでいたジャルとアナに向けて砲弾が放たれてしまったのだ!!

 当然といれば当然だが、砲弾はジャルにもアナにもジャンボにも、当たるどころか、かすりすらしなかった。


 オイオイオイ、いったい何をやっているんだ!!

 せっかくオレが穏便に話を済ませてあのジャルとアナを帰らせる事に成功はしたはずなのに、ナカタの奴が全部パーにしやがった!!


 攻撃されたジャルとアナは当然のように反撃に出た。

 少し離れた場所からでも分かるが、あの二人の魔力は大竜巻を起こしている。

 マズイ、このままでは大量の犠牲者が出てしまう!


「みんな、非常事態だ。すぐに向こうに向かうぞ!!」


 オレは巨大ゴーレムのコクサイ、カンクー、セントレア、シンチト、ブーゲンビリアに命じ、救護活動の為に造船デッキのあるエリアに向かった。


 コンゴウは自分で動いてくれているので、オレがわざわざ命令しなくても良さそうだ。

 とにかく一刻も早くあの飛行戦艦の造船ドックに向かわないと、大量の犠牲者が出てしまう!!


 飛行戦艦のあちこちから煙が上がり始めた。

 不幸中の幸いと言えば、まだあの船が完成前だった事か。

 空中に浮いている状態で攻撃されていたら全員空の上でだれ一人助からずに死んでいたかもしれない。


 ――急がないと! このままではどんどん犠牲者が増えてしまう。

 オレはナカタの作ったバリケードを五体のゴーレムとコンゴウ達に破壊させ、そのまま造船ドックだった場所に踏み込んだ。


 すると、建造中の空中戦艦はあちこちから火炎と煙を上げ、大パニックに陥っていた。


 くそっ、こんな時にナカタの奴はどこにいるってんだ!?

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