オレ達が到着すると、建造中の造船デッキは凄い事になっていた。
デッキの作りは大きな船を造る為に広さを犠牲にしたような造り方で、避難路の事や効率の事は何も考えられていない。
確かに大型船を動かすのには適した造り方になっているかもしれないが、それはあくまでも平時の場合であり、もし戦時中に敵に攻め込まれた場合のような事は想定されていないと考えて間違いないだろう。
一般人は普通造船デッキの内側に入るなんて事はありえない。
もし中に入れる時があるとすれば完成後の満艦飾の時くらいだろう。
まあ横須賀でのカレー祭りの時や観艦式でも、外側に停泊した船は見られても造船している場所は国家機密や軍事機密として普通見る事は出来ない。
突堤やクレーンがあちこちにあり、そこから巨大船を作る為の道具が運ばれたりコンベアで運び込まれた建造用の資材が送られるのはイメージできる人も多いだろうが、それでも実際には造船デッキは惨事に備えた造りをしていて、もし建造中に炎上でもあった場合にはすぐにでも避難できるようになっているはずだ。
だが、ナカタの作っているこの造船デッキ、高い場所で作業する為のタワーも細ければ、階段も外付けで手すりすらなく落下したら死亡確定、こんな危険極まりない場所で作業させているのか。
とにかく今はそんな事を言っている場合じゃない、あのジャルとアナによって破壊されてしまった飛行戦艦の中から作業中のスタッフを助け出してやらないと。
「待て! お前達は誰だ? ここは関係者以外立ち入り禁止だ。許可証を出してもらおうか」
「今はそれどころじゃないだろう! あの飛行戦艦の中はどうなっているんだ!」
「あれは国家機密の飛行戦艦だ、関係者以外は立ち入りを禁止されている」
そこで大きな声を出したのはフォルンマイヤーさんだった。
「黙るのである! 今は形式にこだわっている場合ではないのである!!」
「あ、貴女は?」
「私はファンタ―ジェン・フォルンマイヤー。王国騎士団長である、ここは今から非常事態と見なし、私の指揮下に入ってもらうのである!!」
そうか、フォルンマイヤーさんはこの国の軍事関係の最高指揮官ともいえる騎士団長だ。
彼女がここを仕切れば、オレ達は何の問題も無くここで動く事が出来る!
「ここにいるコバヤシは私の仲間である、彼ならばあの飛行戦艦内部から避難出来ていないスタッフを助け出す事が可能なのである。さあ、今すぐにここを通すのである!!」
「はっ、了解しました!! 飛行戦艦ヒンデンブルグの件は貴女にお任せ致します!」
流石は騎士団長、フォルンマイヤーさんの一言でアレだけオレ達を頑なに拒否していた番人がすんなりと場所を空けてくれた。
ジャルとアナは魔法砲台で撃たれた報復として、風の魔法で飛行戦艦をズタボロにしている。
一方の国王軍は魔法砲弾で彼女達を狙うが一発も当てる事が出来ていない。
「アハハハハ、人間って愚かですわね。勝てない喧嘩をわざわざワタシ達に売ってくるなんて」
「ここで舐めた態度をとればどのようになるのかを思い知らせてあげれば、もう空の魔王の軍勢に手向かおうという気は無くなるでしょうね」
一方的な攻撃で飛行戦艦の巨体は傾き、中の燃料が漏れて火災が起きている。
このままでは、多大な被害だけで無く、大勢の犠牲者が出てしまう!
もしそうなってしまえば、魔族と人間の報復合戦が始まり、オレがせっかく今まで魔族相手に築いてきた信頼が瓦解してしまう!!
くそっ、ナカタの奴!! アイツの管轄だろうに、何でアイツはこの件で何一つとして動こうとしないんだ!!
オレは燃え盛る巨大戦艦に向かった。
アイツがいない今、オレ達以外に巨大戦艦の中のスタッフを助け出す事が出来ないからだ。
「コンゴウ、頼む! あの二人をここから追い払ってくれ!!」
「グゴゴゴゴゴッ!!」
コンゴウの目が赤く光った、これは戦闘モードに移行したという事なのだろう。
オレ達はコンゴウから離れ、巨大戦艦の中の人を助ける為の作業に取り掛かった。
「あれは?」
「コバヤシの……ゴーレム?」
コンゴウの目から高出力のレーザーが放たれた!
流石のジャルとアナもこのレーザーには驚いたらしく、巨大戦艦への攻撃を止めて後ろに下がった。
「危なかったですわね、まさか……あれが古代兵器」
「そうですわね、流石にあれを相手にするのは止めた方が良さそうですわ」
ジャルとアナはコンゴウを見下ろし、そのまま上空高くに舞い上がった。
どうやらこれ以上オレ達と戦うつもりは無さそうだ。
「今回はここまでにしておきますが、もしまだ人間が魔族の国に攻め入ろうと考えているのでしたら」
「その時は……こんなものでは済みませんわ、覚悟して下さいませ」
「「それでは、御機嫌よう!」」
コンゴウのおかげでジャルとアナは魔獣ジャンボを連れてここから離れてくれた。
くそ、時間が無い、早く火災の中からスタッフを助け出してあげないと!
フォルンマイヤーさんは陣頭指揮に立ち、造船デッキの外側にいたスタッフを避難誘導してくれている。
モッカは近くの森から大型の魔獣を呼び出し、どうにか戦艦の入口付近にいた人達を助け出してくれた。
ネクロマンサーのカシマールは今この時点でどれだけの犠牲者がいるのかを把握、残念ながらもう何名かは船内でも死者が出てしまっているらしい事が分かったので、彼女のおかげで助け出せる人がどれくらいいるのかを見極める事が出来る。
飛竜騎士のラプコン、フォスター、ハンセンの三人は上空から状況を把握、五体のゴーレム、コクサイ、カンクー、セントレア、シンチト、ブーゲンビリアは飛行戦艦がこれ以上崩れて大惨事にならないようにその船体を支えてくれている。
ここにいる全員のおかげで飛行戦艦の大惨事はこれ以上悪化せずに済んでいるが、それでも逃げ遅れた人達はまだ船の中にいる。
早くその人達を助け出してあげなければ!
オレはコンゴウの掌の上に乗りながら、彼に指示、飛行戦艦の側面の装甲をコンゴウに引き剝がさせた。
すると。側面がむき出しになった飛行戦艦ヒンデンブルグは竜骨丸出しの造船中の姿になってしまった。
これなら船の側面から船の中のどこがどのように燃えているか分かる。
それに側面が引っぺがされた事で今まで逃げ道の無かった人達が外に出る事が可能だ!
さあ、早く助け出さないと、手遅れになってしまう!
オレは五体のゴーレム、そして飛竜騎士に頼み、逃げ遅れた人達を助ける為に大型戦艦に踏み込んだ。
「おい、無事か? 返事できる奴は返事してくれ」
「た、助けてくれ。足が潰されて動けないんだ……」
中にいたスタッフ達は全員が満身創痍でそのままでは動けない人達ばかりだった。
急がないと、これ以上犠牲者を増やすわけにはいかない!
オレ達は一丸になって逃げそこなったスタッフ達を次々と助け出し、ゴーレムや魔獣の手や頭等に移らせ、全員を救出した。
「危ない、このままでは爆発してしまう!!」
残念だがもう亡くなってしまった人達までは連れてきてやることは出来なかった。
それでも犠牲者が最低限で済んだのは、ここにいる全員とゴーレムや魔獣たちのおかげだと言えるだろう。
オレ達がスタッフ全員を避難させると、大炎上していた飛行戦艦ヒンデンブルグは大爆発を起こし、跡形も無く燃え尽きてしまった……。
危なかった……もし助け出すのにもう少し時間がかかっていたら、下手すればオレ達も巻き込まれてしまい、全員が全滅してしまうところだった。
オレ達は造船デッキの跡地で脱出した中でも重症の人をファイアドラゴンの背中に乗せ、王都に向かって飛んでもらった。
ここでファイアドラゴンがいなければ更に犠牲者が増えていたかもしれない。