ファイアドラゴンがすぐに重傷者を王都の病人に運んでくれたので、飛行戦艦の炎上という大惨事は最小限の犠牲で済んだ。
怪我人多数、重傷者はファイアドラゴンの背中に乗せてもらい王都の病院へ運んだので、命を失ったのはジャルとアナの魔法の直撃を食らった艦橋部分の艦長達と若干名の逃げ遅れたまま焼け死んだスタッフだ。
まあ全くの犠牲者が出なかったというワケには行かないが、それでも最低限の人数で済んだのは、オレだけじゃないが全員が協力したからと言えるだろうな。
しかし……これだけの大惨事にもかかわらず、現場責任者のはずのナカタが一切姿を見せないとは、アイツ……一体何を考えているんだ!
でもなんだかとても嫌な予感がする、後でファイアドラゴンに頼んでジャルとアナの飛んで行った方向を目指してみよう。
まあドラゴンが相手なら魔族も攻撃してこようという事は無いだろう。
その前にとにかくこの場所で造船デッキの残骸をどうにかしないと、ここでまた船を作るにしてもこのままでは何一つ出来やしない。
オレはコンゴウや他の五体のゴーレム達に手伝ってもらい、造船デッキの残骸と飛行戦艦ヒンデンブルグの残骸を撤去した。
しかしこの期に及んでもナカタは一向に姿を見せようとしない。
ひょっとして、アイツ……ここだけではない別の場所に何かを隠しているのではないだろうか?
とにかくナカタを好きにさせておくと、間違いなく人間と魔族の争いが始まってしまう。
アイツはとにかく儲かれば何でも良いのだろう。
それがどれだけの人を不幸にするかなんて事は二の次三の次なのだろう。
しかし、アイツが何を考えているのかが分からないと、今のオレ達が打てる手がない。
それなら今は目の前の問題を一つずつ解決するだけか。
その問題の一つがこの飛行戦艦ヒンデンブルグの件だ。
コンゴウや他の五体の巨大ゴーレム、コクサイ、カンクー、セントレア、シンチト、ブーゲンビリア達は飛行戦艦の残骸を撤去し、折れ曲がったタワーやデッキ、クレーンを取り外し、造船ドックだった場所はだだっ広い土地に姿を変えた。
もしここにナカタが現れたら、何好き勝手に人の場所をいじっている! とか言いそうかもしれないが、ここに責任者がいない以上、空軍基地という事ならここでの今の最高責任者はフォルンマイヤーさんという事になる。
だからアイツに難癖をつけられる筋合いは何も無い。
それにオレ達が助けなければ、あの魔族のジャルとアナのせいで飛行戦艦ヒンデンブルグは大爆発を起こし、中にいた数百人とその周りにいた数百人は間違いなく全滅していた。
あの巨大戦艦の爆発は、それだけの規模のモノだったワケだ。
とにかくこの件、これだけで済む話だとは思えない。
もし、人間側がこの報復として……魔族の土地に侵攻すれば、もう泥沼の戦闘は間違いなしだ。
――まさか! ナカタの奴、それが目的でここを捨てて別の基地に向かったというのか!?
「フォルンマイヤーさん、ここの近くに他に王国軍の基地は無いんですか?」
「う、そう言われても、基地はあちこちにあるので、どこで何があるかまでは分からないのである」
そこでオレに話しかけてきてくれたのは、ラプコン、フォスター、ハンセンの三人だった。
「コバヤシ殿、自分達でしたら、この周辺の基地の事はよくわかります。もし必要でしたら自分達が各基地の様子を見て参ります!」
「コバヤシ殿は我らの命の恩人、是非ともご協力させて下さい!」
「私も協力します、もし何か見つかりましたらすぐにご報告させて頂きます!」
彼等はオレの為に協力してくれるらしい。
「ラプコンさん、フォスターさん、ハンセンさん、ありがとうございます!!」
三人はオレに敬礼をすると、それぞれの飛竜にまたがり、北、南、東の三方向に向かって飛んで行った。
西はオレ達の通ってきた場所なので、特に何も無いとわかっているから、調べるとすれば北、南、東のどこかという事になる。
もしそこにナカタの用意した何かがあるとすれば、あの建造中の飛行戦艦ヒンデンブルグはわざと炎上させる為にあそこに置いていた可能性が高い。
残念だが艦長は艦橋の一部ごと吹き飛んでいたのであの戦艦での攻撃がナカタの指示だったかどうかは分からないが、もしそうだったとすれば、ナカタの奴が姿を見せなかったのも納得だ。
アイツは最初からあの建造中の巨大戦艦を捨て石にして人間と魔族の戦争の引き金にしようとしていたのかもしれない。
「カシマール、頼みがある。聞いてくれるか?」
「お兄さん、分かったのだ」
オレは飛行戦艦ヒンデンブルグの犠牲者達に話を聞いてもらう事にした。
カシマールの能力はネクロマンサー、彼女の前には死人に口無しという言葉は意味が無くなる。
何故なら死者の声を聞ける彼女には、誰も死んでまで嘘をつこうとしないからだ。
まあ普通考えて、死んでも死にきれないというヤツが嘘をつくとはとても思えないわな。
「それで、カシマール、この一連の話はわかったのか?」
「わかったのだ、どうやら艦長さんは上からの命令で魔族が姿を見せたら迎撃しろという命令を受けていたらしいのだ。彼はその命令に従っただけだったが、それでも部下が巻き添えになったのが気になっていたらしいのだ」
オレはカシマールを通じて飛行戦艦ヒンデンブルグの炎上は最低限の犠牲で済んだ事を伝えてもらった。
すると、戦艦の艦長は安心できたらしく、もう眠りにつきたいと願っていた。
「わかったのだ、ボクが天に送ってあげるのだ。さあ、ゆっくりと眠ると良いのだ……」
カシマールが呪文を唱えると、艦長や他の犠牲者達の魂は天高く昇って行った。
本来なら死ななくても良いはずだったのに、彼等はナカタの野望の前に利用されたのだ。
アイツ……人を人とも思わないとは、マジで呪われてしまえ。
オレはやり場のない怒りを感じていたが、ここにナカタがいない以上それを言うわけにもいかない。
それに、もし仮にカシマールが艦長さんの話をしたとしても、飛行戦艦ヒンデンブルグは爆発し、もう姿が残っていないのでそれが本当だったと証明する方法も無い。
オレがやるせない気持ちを抱えていると、そこに戻って来たのは飛竜騎士のラプコンさん、フォスターさん、ハンセンさんだった。
「コバヤシ殿! 大変だ! ここから南西にあった基地から東に向かって何かとても大きな船が飛び上がって向かっている! アレはうわさに聞くもう一つの完成した飛行戦艦かもしれない!」
やはり! オレの悪い予感が当たった。
ナカタの奴、ここを捨て石にして別の場所に置いていた飛行戦艦を使って魔族の土地に報復として空爆をしようとしているのか!
「みんな、急いで東に向かおう。このまま放っておけばもう取り返しのつかない事になってしまう!!」
オレ達は怪我人、負傷者を残し、他の無事な兵士達と一緒に東に向かった。
まだ今なら間に合う、今のうちに空爆される前に魔族の土地に向かってナカタの計画を阻止するんだ!!
アイツの事だ、今までの行動から考えて次にやるのは人間と魔族の戦争を引き起こす事だろう。
その上で双方に武器を売ろうと考えている可能性が高い。
下手すれば他の国まで巻き込んで大戦争にしてしまい、それで死の商人になるつもりかもしれない。
このままアイツの思い通りにさせてたまるか!
少しでも犠牲者を減らしてこの世界の危機を救わなくては!
行くぞ、東に向かうんだ!!
「ラプコンさん、それで……東のどこに向かえばいいんですか!」
「自分が案内します。飛竜でしたらあの飛行戦艦より早く飛べますから!」
オレ達はファイアドラゴンの背中に乗せてもらい、東を目指した。