ファイアドラゴンは東に向かい空を飛んだ。
急がないと、人間と魔族の戦争が始まってしまう!
オレ、カシマール、モッカ、フォルンマイヤーさんはファイアドラゴンに乗り、ラプコンさん、フォスターさん、ハンセンさんは飛竜に乗り、全員が東を目指した。
パナマさんには基地に残ってもらい、ここにいる人達の様子を見てもらう事になった。
コンゴウとコクサイ、カンクー、セントレア、シンチト、ブーゲンビリアは歩いてオレ達を追いかけて来ている。
まあ、あのゴーレムの群れ相手に勝てるモンスターなんて存在しないから、オレ達を追いかける途中で何か事故る事は無いだろう。
それよりも一刻も早く東に向かわないと、ナカタの奴が何をしでかすか分からない!
オレより先行したラプコンさんが戻ってきて大声で叫んだ。
「大変だ! この先の村が燃えているぞ!!」
「何だって!?」
やりやがった! ナカタの奴……マジで魔族の村に報復で絨毯爆撃をしたようだ。
アイツ……マジで人間と魔族の間で戦争をやらせるつもりなのか。
しかし、死の商人をしようというには何か腑に落ちない部分がある。
アイツがそこまで武器や軍船等に特化しているとはとても思えない。
そうなるとアイツの目的は……まさか!!
――そうか、そういうやり口か……アイツらしい下劣なやり方だ。
アイツの目的は、江戸時代でいうところの付け火だ。
つまり、アイツは戦争を起こさせた上で、焦土になった場所に町を立て直す為の資材や人材を確保してしまう事で戦争復興の建物の利権を手に入れようというところか。
そりゃあ人間が勝とうが魔族が勝とうがどちらでもいいワケだ。
焼け野原を立て直す建材を売りつけるのが勝者ならアイツにとっては人間でも魔族でも顧客には変わりない。
そして自身は表に出ず、人間と魔族の戦争を起こさせる為にわざわざ建造途中の飛行戦艦で攻撃させる指示を出したというのがあの飛行戦艦ヒンデンブルグの悲劇の原因という事だ。
くそっ、そうはさせてたまるか!!
オレ達はアイツに魔族の村が燃やし尽くされる前に助け出し、人間と魔族の戦争を食い止めなければいけないんだ!!
「みんな、急いでくれ! 村が燃えているらしいんだ!!」
オレはファイアドラゴンに頼んでコンゴウの所に運んでもらった。
オレ達だけがファイアドラゴンで到着しても、今の状態だと間に合わない可能性があるからだ。
オレはコンゴウに自分の身体を縛り付け、命令を出した。
「コンゴウ! 頼む、思いっきりジャンプしてくれ。それで一気に村の方に向かうんだ!」
我ながら無茶な事をしているのはわかっている。
だが、それくらいの無茶をしなければコンゴウの足では今燃えている村に間に合わない!
オレは自分の身体を出来るだけ布をグルグル巻きにし、クッション代わりにして衝撃に備える事にした。
「コンゴウ! 思いっきり跳んでくれ!!」
「グォオオオッ!!」
コンゴウの目が光る、そしてコンゴウは体をグッと縮め、その後一気に空高くに跳ねた。
何というスピード、そしてとてつもない高さ……これは下手な絶叫マシンよりよほど怖い! だが、そんな事を言っている場合じゃない、このままでは大勢の命が失われてしまうのだ。
ズズゥウウンッ!!
一度跳ねたコンゴウが着地すると、その場所はオレ達の元々いた場所から少し離れた場所だった。
そしてもう一度跳ね上がると、一気に跳躍したコンゴウは燃え盛る村の近くに到着した。
すると、遠くの方に消えていく飛行戦艦と思しき姿が見えた、どうやらあの船がこの村を焼き払っていったみたいだ。
そうか、ここが絨毯爆撃の被害のあった村なんだな。
「助けてくれー!」
「パパー、ママァー!!」
「おれたちが何をしたってんだよ!?」
逃げまどっているのは人間ではなく魔族だった。
どうやらここが飛行戦艦の被害に遭った村で間違いない。
「くっ、コンゴウ、みんなを助けてやってくれ!」
「グゴゴゴ!!」
コンゴウの目が光る。
そしてその腕が燃え盛る建物を二つに引き裂いた。
「なんだあのゴーレムは!?」
「おしまいだ、人間が攻めて来たんだぁぁー」
「おれ達が死んでも、きっとヴォーイング様が仇を討ってくれる、おのれ人間め!」
まあ誤解されても仕方ない、ナカタの手下による飛行戦艦が絨毯爆撃をした後の事だ、その状態で建物を真っ二つに引き裂くゴーレムが現れたら攻撃しに来たと思われても当然だ。
だが今はそれどころじゃない。
口で何かを言うより、行動で示す事、これが重要だ。
幸いコンゴウの引き裂いた建物は外に出る事が出来るようになっていたのでこれ以上の火災による犠牲者は出なそうだ。
さあ次は、燃え盛る炎を踏みつぶし、水を使って火事を止めるんだ。
「コンゴウ、何か大きな器を使ってそこの池から水を掬い上げてくれ!」
「グゴゴ……」
コンゴウは馬小屋の屋根の部分を引き剥がし、それを器代わりにして水を池から汲み、燃え盛る火に向かってぶっかけた。
コレを何度か繰り返すと、燃え盛る火は鎮火、炎に包まれて逃げられなかった魔族の村民達は火の消えた場所から一気に外に逃げ出した。
よかった、これで逃げられたようだな、それじゃあ一気に燃え盛る火の原因を叩き潰して火を消そう!
オレはコンゴウに命令し、燃え盛る家を片っ端から破壊して側面の壁を剥がした。
これは飛行戦艦ヒンデンブルグからスタッフ達を避難させたときのやり方だ、火事の場合外に逃げ出せない一番の原因はドアや家具が邪魔になり建物の外に出られなくなる事、それなら側面をむき出しにしてしまえばそこから逃げ出す事は可能だろう。
実際オレがコンゴウに建物の側面の壁を引っぺがさせるとそこから逃げそこなっていた人達が一気に逃げ出す事が出来た。
そしてもう誰もいなくなったと確認できた建物は次々と破壊、火が燃え広がらないようにして引火、臨焼を食い止めた。
流石にオレがこのように行動していると、村民達はオレがこの村を破壊する為にやって来たのでは無いとうすうす気が付いてくれたようだ。
オレが消火作業をしている最中にフォルンマイヤーさん達が到着、彼女達も逃げ遅れた村民の救助に取り掛かってくれた。
モッカ、カシマールも一緒になって救援活動を手伝ってくれている。
また、飛竜騎士団は上空から村の様子を確認し、逃げ遅れた人がいないかどうかを調べてくれた。
「いいか、相手が誰でも気にするな、今は救える命を一人でも多く助けるのが先決なのである!! そして、もし乱暴狼藉をするようなものがいたなら……私が斬る! 覚悟するのである!!」
「了解しました! 騎士団長!!」
フォルンマイヤーさんは陣頭指揮に立ち、王国軍に魔族の村民の救助を命じてくれた。
最初は人間を敵視していた魔族達だったが、オレ達が敵でない事は行動で理解してもらえたようだ。
村に燃え広がった火は消し止められ、逃げそこなった村民は一人残らずオレ達が助け出した。
それでもやはり助けられなかった命があり、オレ達は犠牲者に哀悼の意を示した。
「何故ですか、何故わたし達がこのような目に遭うのですか? わたし達は人間と争うつもりなんてなかったのに」
「オイ、お前らはわざと火をつけておいて助けたフリをしているんじゃないだろな! もし層だったら絶対に許さねえぞ!!」
「パパー、ママー、どこにいるのぉー……?」
彼等にしたら怒りしかないだろう。
普段通りの生活をしていたはずなのにいきなり人間によって村を焼き払われてしまったんだから。
「お前達、もう終わりだからな! この村で一番足の速いヤツが空の魔王ヴォーイング様の元に向かった、ヴォーイング様は魔王軍最強、お前達が束になってもかなうわけがない!!」
これは困った事になった。
この村はナカタの思惑通りに焼き尽くされてしまった。
こうなってしまうと、人間と魔族の戦争の引き金になるのも間違いない。
どうにかしてそれを食い止めなくては!
その為には……この村を一刻も早く復興させないと!!