オレ達が建物を建てていると、魔族の村人達はやはり興味を示し出したようだ。
それは若い魔族だけではなく、年老いた魔族もいた。
いきなり何もない場所に巨大な建物が出来るとなると、そりゃあやはり誰もが気になるってのが心理ってもんだろう。
その建物が何のために作られるのか、そこまではわかっていないのだろうけど、それでもやはりここに何かが建つというのが村民にとっては他人事ではないのだろう。
まあもちろんここはオレ達が使う場所ではなく、飛行戦艦のせいで焼け出されてしまった村民達の住める場所なんだけどね
まだ今はわざわざここが完成したらあなた達の住める場所ですよというよりは、完成してから伝えた方が良いだろう。
下手すれば作っている最中にそんなものはいらんと突っぱねる可能性もある。
だが完成してしまえば、わざわざ壊せとは言わないで住むようになるだろう。
この村以外に行き場の無い彼等も住む場所に関しては背に腹は代えられないのである。
まあアレだけ大量の大型建造物を造っていたオレ達にすれば、この村の建物を建てるなんて一日もかからない。
五体の大型ゴーレムに加え、コンゴウという超大型ゴーレムもいるくらいだ、通常数か月程度の建設作業なら一日で全部完成する。
実際、オレ達が作った建物は、一日でほぼ完成し、その内側はフォルンマイヤーさん達に指示された兵士達がきれいに整備、夜までには数十人が中に入れる大きな公民館のような建物が完成した。
「な、何をしたんだ? これは魔術か?」
「人間達め! ここに住み着いておれ達を追い出すつもりなのか、そうはさせるか!!」
「パパ……ママ、見つからない」
魔族達はまだオレ達の事を疑いや嫌悪、懸念の目で見ている。
仕方ない、こうなったら食事を用意しよう。
パナマさんが用意してくれた砂糖があるはずだ、それを使って甘く煮たワイルドボアの角煮を作ってみよう。
オレ達が食事を用意すると、魔族の村民達は恐る恐るオレ達に近づいて来た。
「どうぞ、毒なんて入っていませんよ。さあ、疲れたでしょう、どうぞ食べてください」
オレ達は毒が入っていないことを証明する為、自分達でワイルドボアの角煮を食べだした。
魔族の村民は、最初は我慢していたが次第に抑えきれなくなり、器を受け取って一心不乱に食べだした。
一人が手を付けると、途端にみんなが押し寄せた。
どうやら毒が入っていない事が本当だと分かり、空腹に耐えきれなくなったのだろう。
食事をする魔族の村民の中には泣き出す者もいた、あれだけの苦しみを受けたんだ、今になってフラッシュバックが来たとしてもおかしくは無い。
「皆さん、まだまだおかわりはたくさんありますから、どうぞ食べて下さい」
食事をする魔族の村民達の中から一人の老人が歩み出してきた。
「お前さん、いったい何のつもりなんじゃ? 人間は何を考えているのじゃ?」
この老人にすれば何故人間は自分達の村を燃やしておきながら食事を出してくれるのかが理解できないのだろう。
それならきちんと説明しておかないと。
「オレ達は貴方達の村を燃やした連中とは違います。アイツらは人間と魔族の争いを望んでいますが、オレ達はそんな事を望んでいません。だから困っている貴方達を見ていられないので何か出来ることが無いかと思ってここに来たのです」
「その言葉、すぐに信じてもらえると思うのか? お前達がここを燃やした連中の別動隊でないという保証がどこにあるのじゃ? わしらを安心させてから皆殺しにする、そんなやり口をわしは何度も見て来た」
成程、この老人は魔族と人間が争っていた時代からの生き残りなのか、それだとオレの行動に裏が無いといくら説明しても分かってもらえなそうだ。
仕方ない、こうなったらとにかくここを復興させて信用してもらわないと。
オレ達は夜冷え込む前に火を焚き、村民達が凍えないようにしてあげた。
村の外れに作られた大型のストーブは村全体を温めるには良いのだが、村人の中には火に対してトラウマを持つものも出てしまっている。
だからと言って寒いままにしておくと凍えてしまうし、どうにか建物の中に入ってもらわないと……。
本当はやりたくないんだが、強制的に脅して建物に連れてくるという方法もあるが、コレを下手にやると本当に反感を招いてしまう危険性もある。
さて、どうにかして連れてくる方法は……。
「こばやし、ここはモッカにまかせるっ」
モッカ? 彼女はいったい何をしようというんだ?
オレが見ているとモッカは指笛を吹いて何かの小さな動物を呼び寄せた。
? まさかハーメルンの笛吹きみたいに子供を誘導するつもりなのか??
オレが見ている前でモッカは小さな女の子の前に動物を連れて来た、どうやら本当に動物で子供を釣るつもりなのか。
「あなた、だあれ?」
魔族の女の子はモッカの誘導する小さな動物を追いかける形でオレ達の作った建物の中に入った。
「お、おい。危ないぞ! 勝手に入ってはいかん!」
女の子を追いかけるように村民達が建物の中に入っていった。
成程、こういう作戦か。
確かにこれはオレには思いつかないやり方だ。
これなら違和感なく大人もこの建物の中に入ってくれる。
一度建物の中に入ってもらえればこっちのもんだ。
建物の中を見た魔族の大人達はオレ達の作ったこの建物を見て驚いていた。
それもそうだろう、この牧歌的な村の中では見た事も無いような造りの近代的な建物は三階建てでさらに魔鉱石を使ったエレベーターまで設置されている。
さらに魔鉱石で作ったのはエレベーターだけではなくエスカレーターもだ。
この自動で動く階段はこの村にいた魔族達も初めて見るものばかりだろう。
実際、魔族の大人達は初めて見るエスカレーターに戸惑っている。
どうやらどう乗っていいのかが分からないようだ。
まあ、初めて日本にエスカレーターが導入された時は、かなりの人がそれに慣れるのに時間がかかったと聞く。
これは関東の地方都市にあるかなり遅いスピードのエスカレーターと同じスピードにした方が良さそうだ。
通称ノロいのエスカレーター、通常のエスカレーターの数分の一の速さで日本一遅いエスカレーターとも言われている。
まあスピードの調整自体は簡単に設定可能、このスピードを今の半分にすればいいだけだ。
スピードの遅くなったエスカレーターは老人でも転倒せずに乗れるくらいの速さになっている、これなら上の階に行く事も可能だろう。
「こ、この階段……上に行けるのか? うおぉ?」
老人の魔族がエスカレーターに足を踏み入れると、階段は歩く事も無くそのまま老人を上に運んでくれた。
「ぎゃうぅっ!!」
どうやら降りる時に上手く降りられなかったらしく、老人の魔族は前のめりに転倒してしまったようだ。
だが、一人が足を踏み入れた事で、これが罠ではないことが分かった魔族達はエスカレーターで上の階に移動した。
そこで彼等が見た者は、大量に置かれたベッドだった。
「こ……ここは?」
「ここはあなた達の為に作った宿泊所です。村の建物を立て直すまでの間はどうぞここで休んでください」
村の魔族達は戸惑いながらも、ここが罠でない事を分かってくれたようだ。
「本当に、本当に罠では無いんだな? ここで休んでいいと?」
「はい、その通りです。オレ達がこの村の建物を立て直すまでの間、ここで食事と睡眠をとってください」
他に行き場の無い村の魔族達は、オレの提案を受け入れ、ここで寝泊まりする事を選んでくれた。
さあ、それでは明日から本格的にこの村の復興作業に取り掛かるとしよう。
出来れば空の魔王の手下がここに来るまでに作業を終わらせたいところだ。