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第108話 初めての……水道??

 ここの村はナカタのせいで魔族が焼け出されてしまい、家も他の施設も全部焼け野原になってしまった。

 今この状態で空の魔王やその手下がここに来たら、非常にマズイ事になってしまう!


 だから突貫作業だとしても、一気に工事を進める必要がある。

 今回、安全面は二の次で見た目の完成の方が必要だ。


 断熱材や耐震補強、インフラ面の構築は後でも造る事が出来る、いわば今から作るのは映画撮影用見た目セットといったところか。

 最低限雨風さえしのげれば、内装は後々でも改良可能だ。

 今必要な事は、空の魔王かその手下がここに来るまでにこの村を元の姿以上に立派にするスクラップ&ビルドの作業といえる。


 さあ、作業開始だ。


 幸い、魔族の村人達はオレ達が敵でないことが分かり、作業の反対をすることが無くなった。

 むしろ、何か手伝える事があれば手伝わせてくれ、ここはオレ達の村なんだという人もいたくらいだ。


 オレ達はまず心材を使い、この村の建物全体の骨組みを用意した。

 巨大ゴーレムのおかげで本来なら数週間かかる作業は午前中だけで十棟完成したくらいだ。

 後は補強する為に木と木を組み合わせ、煉瓦の上に鉄骨を重ねる作業を進めた。

 本当なら大きな板一枚あれば映画のセット程度の張りぼてならすぐ用意出来るのだが、残念だがこの村の近くにはそれほど大きな森は存在しない。

 だからこの村の家は細い木の組み合わせと煉瓦といった感じで、コンクリートやモルタルもあまり使われていなかったようだ。


 どうやら老人に聞いたところ、昔は大きな森があったのだがエルフ族との対立の中で殆どが燃えてしまい、木で出来た家は昔からの物だけが残ったらしい。

 そしてその時に森を失ったエルフたちが移り住んだのがモッカ達の住んでいたシャウッドの森という話なので、ここでモッカの村の人達から以前聞いた話とつながったワケだな。


 となると、あまり大きな木を使った建築物は作れない、だから必然とこの建物を作る材料は鉄鋼とモルタルやコンクリートという事になる。


 心材に使った鉄や金属は飛行戦艦ヒンデンブルグの残骸から持ってきた。

 まあ、爆発して燃え尽きてしまった戦艦の残骸をどう使おうと書類上処分した事にしてしまえば何の問題も無いだろう。


 ここの部分はフォルンマイヤーさんもあえて目をつむってくれたみたいだ。


 鉄鋼を溶かす炎はファイアドラゴンとその子供が引き受けてくれた。

 このブレス、カエンオオトカゲよりよほど威力があるらしく、鉄はあっという間にドロドロに溶け、加工できる状態になった。

 いやー、このファイアドラゴンがいてくれなければ、作業はもっと時間がかかっていたかもしれないな。


 この鉄鋼精製のおかげで作業は順調に進み、見た目だけならすぐにでも住めそうな建物を用意する事が出来た。

 今この時点でも前のこの村の人達の家よりは立派な家が出来ていると言えるのだが、これではまだ不足だ。


 何故なら、オレがやろうとしているのは、前よりも快適で素晴らしい家を提供する事でこの魔族の村の人達が失った以上の物を用意してやる事だからだ!


 その為に必要な物は、インフラの整備と言えるだろうな。

 現時点でのこの村の家の状態は張りぼてかキャンプ場のバンガローくらいといったところだろう。

 キッチンは後々設置するとしても、その前に整備する必要があるのは水道か。


――そうだ、折角だから水の魔王に頼んでみよう!

水の魔王ベクデル、彼(?)ならオレに友好的だから何か協力してくれるかもしれない。


「ベクデルさん、聞こえているなら返事してくれませんか?」


 オレが何もない村の池に向かって話しかけると……少ししてから池の真ん中が盛り上がり、水柱が立ち上がった。


「あら、アタシに用かしら?」

「ベクデルさん、力を貸してもらえないでしょうか? この村の人達が困っているんです」


 オレが頼むと水の魔王ベクデルは村全体を見渡し、オレを指差した。


「いいわよ、ただし……条件があるけどね」

「条件? それは??」

「そうね、アタシを楽しませて頂戴」


 オイオイ、このふわっとした頼み方、いったい水の魔王ベクデルはオレに何を期待しているんだ?


「わかりました、この件が片付いてからでいいですか?」

「いいわよ、それで……アタシに何をしてほしいっていうのかしら?」


 魔族の村人達はオレが水の魔王ベクデルと対等に会話しているのを見て驚いている。

 まあ彼等彼女等にすれば魔王なんて普段長年生きていてもお目にかかれる事は滅多にない存在だ。


 その水の魔王と人間のオレが対等に話をしているので、村民としたらまず信じられない光景だと言う事だろう。


「そうですね、水が勝手に漏れ出さないように少しの間止めておいてもらえますか?」

「あら、その程度で良いの? まあいいけどさ……もっと、アタシの力じゃないと出来ないような事を頼んでほしいわよね」


 どうやら水の魔王ベクデルは容易くできる事を頼まれたのが少し不満みたいだな。

 まあそれでも普通は出来ない事なのでオレ達にとってはとても助かるんだが。


「ちょっと待ってなさい、こうで……いいのかしら」


 凄い魔力だ、水の魔王ベクデルは村の池の水を水飴のように伸ばし、空中で固定している。

 さあ、今のうちに水道工事を済ませて村の住居全部で自由に水を使えるようにしなければ。


 オレ達は村中の地面にパイプを埋め、その上から土をかぶせて水道管を村中に張り巡らせた。


 村人達は初めて見る上水道下水道の工事に戸惑っているが、まあそれも仕方ないだろう。

 今まで彼等にとっての水は、池から汲んで持っていくものだったワケだ、そこにいきなり近代設備の水道といっても理解は難しいだろう。


 水道の工事はその日の夕方までに村の全部の家に水を給水できる状態になった。


「ねえ、そろそろこの水を元に戻していいかしら?」

「はい、それで……出来ればその水をこの管の中に通してもらえますか?」


 オレが水の魔王ベクデルに頼むと、彼(?)は水をメインの水道管に戻してくれた。


「よし、それじゃあ試しに水を出してみるぞ」


 オレが村の真ん中の水道の蛇口をひねると、そこから水が勢いよく流れだした!


「よし、成功だ! これで全部の家で同じように水を自由に使う事が出来るようになるぞ」


 魔族の村人達は驚いていた。

 そりゃあそうだろう、今までは村の中の池に行っていつも汲んでいた水が家の中で不思議な道具を捻れば自由に出てくるワケだから。


「し、信じられん……これは魔術なのか?」

「いいえ、これは水道です。これがあれば村のどこでも自由に水を使う事が出来るようになるんです」


 オレの説明を聞いた村民達は、早速元の自分達の家のあった場所に戻り、家の中の水道を捻ってみた。

 すると、どの家からも水は同じように流れ出し、全員がビックリしていた。


「コバヤシ、これでアンタの用事は終わりなのかしら?」

「はい、ベクデルさん、ありがとうございます」

「お礼は良いわ、それよりも……約束は覚えてるわよね」

「はい、それで……何をすればいいんですか?」


 水の魔王ベクデルはオレに何を頼もうというのだろうか……?


「アンタ……ネクステラちゃんの所で何か面白いこと始めたんでしょう。アタシもそこに連れて行ってほしいのよね」


 そうか、水の魔王ベクデルは新しくできたテーマパークに自分も招待しろと言っているのか。

 丁度良かった、水が落ち着いたら次は雷の魔王ネクステラにも協力してもらおうと思っていたところだ。


「わかりました、すぐにネクステラ様の所に行きましょう」

「そうね、そこまではアタシが送ってあげるわ」


 これは渡りに船というべきか、オレは水の魔王ベクデルのおかげで瞬時に雷の魔王ネクステラの城に行く事が出来た。

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