オレは、魔族の村の復興作業をカシマール、モッカ、フォルンマイヤーさん、パナマさん達に任せ、雷の魔王ネクステラの城に来ていた。
まあ、あの五体のゴーレム達とコンゴウがいれば作業は問題無いだろう。
オレを連れて来てくれた水の魔王ベクデルは少し警戒しているみたいだ。
まあ、水の魔王と雷の魔王だと愛称は最悪だから仕方ないな。
敵対はしていないがわざわざ普段頻繁に会うような関係では無さそうだ。
オレはトーデン、カンデンに迎え入れられ、雷の魔王ネクステラの玉座の間に通された。
「おお、コバヤシではないか。どうじゃ、元気にしておるか?」
「はい、おかげさまで。ネクステラ様はいかがですか?」
「儂はすこぶる調子が良いわい。お前のおかげじゃ、感謝するぞ」
オレの横にいた水の魔王ベクデルが少し不満そうな顔をしていた。
「あら、アタシをのけ者にして話を進めるなんて、冷たいじゃないのよ。ネクステラちゃん、アンタ、コバヤシと組んで何か面白いこと始めたんでしょ、アタシにも何をしていたのか教えてよね」
「おお、すまんすまん、まさかお前が興味を持つとは思っておらんかったからのう、もし興味があると最初から聞いておったらすぐにでも招待したんじゃがな」
水の魔王ベクデルはまだ少し不満そうだったが、興味があるかどうか分からない物に誘われて断られるくらいなら確かに最初から誘わないと聞いて納得はしていた。
「まあいいわ、それで、コバヤシとアンタは一緒に何をしていたってのよ?」
「そうじゃな、人間から恐怖を集める為の施設を造っておったんじゃ、これが意外に好評でな、次から次へと人間が恐怖を求めて押し寄せるようになっておるんじゃ」
「???? 全く話が見えないわ……」
この説明を聞いた水の魔王ベクデルの頭の中が少し混乱したみたいだ。
まあ、恐怖を集める拷問器具を造ってそれに人間が押し寄せているといったイメージだと理解には苦しむだろうな。
「へ? どういう事なの? 全く話が見えないわ。コバヤシ! アンタ、いったいどうなってるのよ?」
これは下手に説明するより、実際に行ってもらった方が良いだろう、オレは水の魔王ベクデルを連れてテーマパークに実際に向かった。
雷の魔王ネクステラのテーマパークは火の魔王エクソンの土地から鉄道で運ばれる石油によって作られる火力発電所からの電気のおかげで問題なく運営を出来ているようだ。
テーマパークの中は大勢の観客で賑わい、大盛況だった。
そしてオレは水の魔王ベクデルとこのテーマパークの目玉であるジェットコースターに向かった。
「これはコバヤシ様、お待ちしておりました。さあどうぞお進みください」
本来ならこの行列、数時間街でもおかしくない人気っぷりだが、オレは特別扱いでベクデルと一緒に通してもらった。
そして、目玉ともいえるジェットコースターに二人で乗り、実際に体験する事にした。
オレたち二人は一番先頭の車両の椅子に座り、安全バーで体を固定され、動けなくなった。
「コ……コバヤシ、コレって何なの? まさか、コレが恐怖を集めるって道具なのかしら?」
普段冷静なはずの水の魔王ベクデルが戸惑っている。
まあ流石に初めて見るモノ、初めて体験する事だと、そうもなるよな。
そして、ジェットコースターは坂道を上りきり、一気に下に落ちた!
「ギャアアァァアッ!?」
ものすごく野太い絶叫が聞こえた。
どうやらこの声が水の魔王ベクデルの地声なのだろう。
その後もスピードと遠心力に振り回され、オレ達は数分間の恐怖を体験した。
絶叫マシンに振り回された水の魔王ベクデルはずっと叫び続け、ようやくスタート地点に戻ってきた時には、グッタリしていた。
「ななななん、何なのよアレ!? アタシあんな目に遭ったの初めてだわ!」
まあ、いくら魔王でも全身固定された上で遠心力とスピードで振り回されるなんて体験、普通はしないからなー。
「コレがジェットコースターです。コレを使って人間の恐怖を集めていたって事です」
「アタシはもう御免だわ!」
あーあ、機嫌が悪くなってしまった。
これならもう少し安全な何かに連れて行った方が良いかもな。
オレが次に紹介したのは観覧車だった。
だがどうもお気に召さないようだ。
「何で空に上がるのにわざわざこんな変な箱の中に入るのかしら? 普通に魔力で空を飛べば良いじゃないの」
「まあ、それはそうかもしれませんけど……人間は空飛べませんから」
「あらそう、人間って不便なのね」
それ出来るの魔族だけで人間には無理ですから……。
その後もオレは色々と説明したが、どうもこのテーマパークはどれも彼(?)にはお気に召さないモノだったようだ。
早すぎるものはジェットコースターでもう嫌になったみたいで、だからといってゆっくりなモノは退屈だと言っていたんだから、どうすれば満足してもらえるのやら……。
まあ、ここに設置されたのがオレの造った人間の恐怖を集める道具ってのは理解したみたいだけど。
疲れ果てた水の魔王ベクデルの為にオレは最後に温泉を紹介した。
ここでゆっくり休めば少しは機嫌が戻るんじゃないかな。
「ねえ、ここって……どういう所なのかしら?」
「ここは、地下から汲み上げた温泉を使ってみんながゆっくりと休む場所です」
「素晴らしいわ! ここでみんなが水の中で癒されているのね!」
いや、正しくは水じゃなくてお湯なんですけどね……。
まあどうやら、テーマパークはお気に召さなかった水の魔王ベクデルだったみたいだが、この温泉はかなり気に入ってくれたみたいだ。
温泉で気分がスッキリして上機嫌になった水の魔王ベクデルは、オレと一緒に再び雷の魔王ネクステラの元に向かった。
「どうじゃ、実際に体験してみてよくわかったじゃろう」
「そうね、でもアタシにはイマイチだったけどね、アタシは最後のオンセンってのが良かったわ」
まあ、水の魔王だから、水に関する物が良かったのだろうな。
それよりも、オレがここに来た目的だ、雷の魔王ネクステラに協力してもらわないと。
「それですみません、ネクステラ様、もし良ければなんですが……トーデンさん、カンデンさんを少しお借り出来ませんでしょうか?」
「うむ、それは構わぬが……いったい何があったのじゃ?」
オレは魔族の村が一部の人間達によって飛行戦艦の爆撃によって燃やされてしまった話を雷の魔王ネクステラに伝えた。
そして、その村の復興をオレ達が手掛けている事を伝えると、雷の魔王ネクステラは事情を察してくれたのだろう、トーデン、カンデンの二人をすぐに呼び、オレと共にその村に向かうように指示してくれた。
よし、これで一日は無駄になったが、それでも雷の魔王ネクステラの力を借りる事は出来そうだ。
オレは水の魔王ベクデル、そしてトーデン、カンデンと共に魔族の村に戻り、復興作業の続きに取り組む事にした。
さて、水のインフラは整ったので、次は電気をどのように設置するかだな。
他にも魔鉱石を使ったパネルとかを使う方法もあるが、どうやって電気をこの魔族の村に配電すればいいか、そこを考えないと……。
電線の配備、後それから村で使う電気の発電方法は何にすればいいだろうか。
それにこの村が便利に生活できるようにするには、出来れば洗濯等も自動化出来た方が良いだろうな。
オレは電気インフラでこの魔族の村の建物で使用する照明や粉挽き、他に必要な物をどうやって電化オートメーションするか考えていた。
……だがその頃、この魔族の村に東からこちらに向かって凄い速さで飛んでくる二人の魔族がいた事には……この時まだ誰も気が付いていなかった。