さて、とりあえず水回りは一通り完成した。
トイレの問題はあるが、そこは各家庭からの下水道で流れ出るようにだけはしているので、集めた川の水でここから下の水は飲まないようにとの看板が設置される事になった。
本当なら蛇口だけでなくポンプ式の水洗にしたいところなんだが、残念だがオレにはそれ系の技術は無い。
まあそれでも垂れ流しとはいえ下水道でトイレを各家に配置出来ただけ良しとしておこう。
トイレと台所の水だけ上から下に流れるように作る事が出来れば当面生活するのには困らないだろう。
さて、次は電気か。
魔鉱石によるランプなどはこの世界で主流になっているが、せっかく近代的な建物を作る事が出来たならせっかくだから公民館代わりの建物だけでなく各家庭に電気の配線を通して電気をつけるくらい問題無いだろう。
電気工事は感電する可能性の無い大型ゴーレム達やコンゴウのおかげで簡単に終わりそうだ。
また、電気回りで何かトラブルが起きそうな場合は、雷の魔族であるトーデン、カンデンが力を貸してくれるのでそこも安心できる。
この世界にはまだテレビやラジオが無いので、電気といっても使うのは簡易式の洗濯機か電灯くらいだからこの村の規模ならそれほど工事が大変というワケではない。
それにオレがやったワケでは無いんだが、人間によってこの村が空爆されたという事実がある以上、この村を焼け出される前より綺麗に建て直してやるのは人間としての責任ともいえるからな。
そんな風にオレ達が工事をしていると、東の空から飛んできた何者かが上空から姿を見せた。
「あら? 以前この村に来た時にあんな建物あったかしら?」
「いいえ、ほんの十日前には焼き尽くされた建物があっただけですわ」
この声!? まさか、魔族のジャルとアナか。
「お前達! いったい何をしに来たんだ?」
「それはこちらのセリフですわ、こんな所で人間が何をしているのです?」
ジャルとアナは明らかにオレに対して不快感を示している。
まあ、魔族の同胞の村が人間によって空爆されたとなるとそりゃあそういう態度にもなるよな……。
「オレ達はこの村の復興に力を貸しているんだ、邪魔するなら出ていってくれ」
「まあ、何ですの? その言い方。人間のくせに」
「気に入らないですわね、ワタシたちを邪魔者扱いするなんて……」
「ワタシ、立場をわきまえない相手って嫌いなのですわ」
機嫌を損ねたジャルとアナがオレ達を威嚇しようとした時、前に出て来たのは村人達だった。
「止めてくれ! この人達はおれたちの村を建て直してくれているんだ!」
「コバヤシさんに手を出さないで」
「おにーちゃん、おねーちゃんたちは悪い人じゃない」
それも一人じゃない、何人もの魔族の村民達がオレ達をあの最強レベルの魔族二人から庇おうとしている。
最初オレ達を人間だからと敵視していたはずの村民達が勝ち目のないはずの上位魔族からオレ達を守ろうというのだ。
この状況にジャルとアナは戸惑っていた。
「いったいどうなってるの? 何故魔族があの人間、コバヤシをかばおうとするの?」
「それはね、彼だからよ」
「誰!? って……あなたは!!」
「はーい、お久しぶりね」
ジャルとアナの前に姿を見せたのは、水の魔王ベクデルだった。
流石の上位魔族も水の魔王には勝ち目が無さそうだ。
ジャルとアナは魔法を止め、水の魔王ベクデルの話を聞いた。
「コバヤシはね、人間とか魔族とか関係ないのよね、彼が関わった相手全部と仕事をして、何かを残したいのよ」
「それじゃあ金儲けの為に我ら魔族を利用しているのじゃない?」
「そうよ、体よく利用されているだけで魔族のプライドは無いの?」
「小娘が、まだわかっていないみたいね。アンタ、雷の魔王ネクステラちゃんや、火の魔王エクソンちゃんと対等に話出来る?」
雷の魔王ネクステラ、火の魔王エクソンの名前を聞いた二人は驚いていた。
「そ、そんな、お父様に匹敵する魔王様に話なんて、とても恐れ多くて……」
「コバヤシはね、何の力も無いはずの非力な人間なのに、その二人と対等に話をして彼等を納得させたのよ」
「そ、そんな……信じられない」
ジャルとアナの二人は困惑している。
まさかオレがそんな魔王相手に対等にやり取りをしているなんて想像もしていなかったのだろう。
まあ、それもこれもゴーレムマスターのスキルのおかげと、あの超巨大ゴーレムのコンゴウの存在があったからとはいえるかもしれないが。
「だからね、彼はただ商売、金儲けでこの村をどうこうしようとしているわけじゃないの。そうじゃなきゃアタシが力を貸してあげるわけがないじゃない」
この説得力、水の魔王ベクデルだから言える事なのかもしれない。
彼(?)は自分を利用しようとする相手は許せない性格だ。
「わ、わかりました。ここはいったん引きます。その上でお父様と話をして、あのコバヤシ達の事をどうするか決めます」
「そうね、まずはヴォーイングちゃんと話をしてみた方が良いわね、ところで今彼はどこにいるのかしら?」
「お父様は、火の魔王エクソン様に会う為、南西に向かっていますわ」
彼女達のいう空の魔王ヴォーイングは火の魔王エクソンに会う為に彼の居城に向かったのか。
何か悪い話にならなければいいけど……まあ、あの火の魔王エクソンならそうはならないと信じたいところだな。
ジャルとアナはもう少し村の様子を見てから帰ると言って、少し村に滞在する事になった。
オレはその間彼女達には公民館代わりの大きな建物で休んでくれと伝えた。
ジャルとアナは村人達に案内され、新たに再建された村全体を見渡す事にしたみたいだ。
◆
「誰か、出迎えるものはおらんのか!?」
「こ、これは……空の魔王ヴォーイング様! ようこそお越し下さいました」
「フン、挨拶はいい、早くエクソンの所に連れていけ!」
「承知致しました!!」
空の魔王ヴォーイングは、火の魔王エクソンに会う為、彼の城を訪れていた。
「よく来たなッ、数百年ぶりかッ!」
「エクソン、お前も人間との戦いに協力してもらいたい! 魔戦争の再開だ!!」
「どうしたッ! ずいぶんと荒れているようだなッ!!」
空の魔王ヴォーイングは、火の魔王エクソンに戦争の協力を申し出る為、彼に愛似て来てた。
「人間が、我の村を襲った。村民は人間の造った空飛ぶ船で村を焼かれ、多くの民に犠牲が出たのだ、我はその報復として人間の街を攻め滅ぼす。どうだ、火の魔王よ、久々の戦に血が燃えて来ぬか?」
「残念だが断るッ!! オレ様は人間と争う気はない!」
「何故だ!? 前の魔戦争では一番お前が戦闘に意欲的だったではないか! それなのに何故だ、まさか年老いて臆病風にでも吹かれたのか?」
空の魔王ヴォーイングはまさかの火の魔王エクソンの戦争拒否に驚いていた。
「違うッ! これは恩義だッ!! オレ様は恩義ある相手に刃を向ける程の愚か者になりたくないのだッ!!」
「恩義だと? お前ほどの男が、人間ごときに何をしてもらったというのだ?」
「とにかく断るッ!! もしお前があのコバヤシ達人間に手を出すというなら、その時はオレ様がお前の敵になる!!」
火の魔王エクソンの返答に、空の魔王ヴォーイングは言葉を失った。
何故だ、何故あの血気盛んな火の魔王がそこまでしてそのコバヤシという男をかばおうというのか。彼には理解出来なかった。
「なら聞かせてくれ、お前がそこまで肩入れするそのコバヤシという男、いったい何者なのだ?」
「良いだろうッ! お前がオレ様の敵にならないと言うなら、話してやるッ!!」
「わかった……その話、聞かせてくれ」
そして、二人の魔王のコバヤシに対する話が始まった。