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第111話 火の魔王の……説得??

 火の魔王エクソンによる話を聞いた空の魔王ヴォーイングは、話の内容に驚いていた。

 それは三人の魔王と呼ばれる最強の魔族相手に、何の能力も無いはずの人間がゴーレムを使って問題を次々と解決したという話だった。


 その内容は、かつて四魔王と互角以上に戦ったという伝説の巨大ゴーレムコンゴウを使役するといった事から始まり、水の魔王ベクデルを相手に一歩も引かず、彼(?)を納得させ、その力を使って巨大水路を作ったという話だった。


さらに彼は雷の魔王ネクステラ相手に対等に話をし、彼の悩みだった魔力の暴発の問題を解決したといった内容、そして……火の魔王エクソンの悩みの種だったラーバウォームの抜け殻を使用し、さらに誰も手を付ける事の出来なかった地獄の噴門の火炎を鎮火したというモノだった。


「な、何だと……人間ごときが、何故それだけの事を!?」

「それはッ! アイツがコバヤシだからといえるだろうなッ!! オレ様は人間は好きでは無いが、アイツは別だッ! お前も一度アイツに会ってみれば分かるッ!! アイツは普通の人間ではないッ!」

「エクソン、お前がそれほどに肩入れをするとは……前の戦争ではお前が一番人間族に対して敵意を持っていたはずだろうに」

 火の魔王エクソンが豪快に笑いながら器に注がれたガソリンを煽った。


「ワハハハハハッ!! 確かにそうだなッ! だが、アイツはそんなオレ様を恐れる事も無く、語りかけて来たッ!! あんな人間は初めてだったなッ!」

「お、お前の飲んでいるそれは一体なんだ……?」

「これかッ! これはコバヤシの用意したガソリンだッ!! お前も飲むかッ!!」

「い、いや。遠慮する」


 空の魔王ヴォーイングは、火の魔王エクソンが飲んでいるモノを見て少し引いていた。


「アイツは、オレ様の難題を解決し、あの地獄の噴門を鎮火しただけでなく、あの煮ても焼いても食えなかったラーバウォームの抜け殻を使い、地下から資源を掘り起こす方法を見つけ出したのだッ!! そんなヤツ、魔族でも誰もいなかったッ!!」

「な、何だって!? 我でも出来ぬことをたかだか人間がやったというのか」


 空の魔王ヴォーイングは、火の魔王エクソンの話が嘘でない事を確信した。


 地獄の噴門に関しては、火の魔王エクソンによって水の魔王ベクデル、雷の魔王ネクステラにも協力を頼んだが、誰一人として問題を解決出来なかった案件だ。

 ヴォーイングもその話を聞いていたが、空を飛ぶ魔族にとっては燃え盛る火は相性最悪とも言えるものだったので協力出来ないと断った過去がある。


 だが、コバヤシという人間は、その三魔王ですら諦めてしまった地獄の噴門を鎮火し、その地下の資源を掘り出す方法まで見つけ出したというのだ。


「信じられぬ、たかだか人間ごときがあの地獄の噴門の猛火を消し止めたというのか……」

「そうだッ! だからオレ様はあのコバヤシの言う事を聞いてやったッ!! それがオレ様のコバヤシに対する恩義なのだッ!!」


 人間嫌いのはずの火の魔王エクソンすら認めさせるコバヤシという人物、空の魔王ヴォーイングは一度会ってみて人間をどうするか考える事にした。


「わかった、我は一度戻る。そしてそのコバヤシとやらに会った上で人間と戦うかどうかを判断する事にしよう。だが、その上で我が人間とは戦うと決めた場合、お前とは敵になるやもしれんな」

「良いだろうッ! お前自身の目で判断しろッ!! そうすればお前もあのコバヤシの事がよくわかるだろうッ!!」


 空の魔王ヴォーイングは、火の魔王エクソンの城を出、自らの領地である村に向かった。



 魔族のジャルとアナはオレ達の建てた建物の中で休んでいる。

 どうやらずっと空を飛び続けていたので疲れたようだな。


 本当なら温泉でもあればそこに浸かれば疲れはすぐに取れるのだが、今は温泉を引いているワケではないので、彼女達には湯船で入浴してもらう事になった。


「何ですか、これは?」

「これは、コバヤシ様が用意してくれたお風呂です、どうぞこれで疲れを癒して下さい」


 ジャルとアナの世話は女の魔族がやってくれたようだ。

 まあここで下手に人間やオレのような男が手を出すと、後々面倒くさい事になる。


 まあ、率先して二人の世話を申し出てくれた魔族がいたのは、オレ達を信用してくれたって考えても問題ないんだよな。


 さてそれじゃあ二人が風呂から出てきたら食事でもてなしてあげよう。

 今までの経緯から考えても、下手にここで敵対するよりは今の状況を理解してもらった方が良いだろう。


 オレ達は外で大きなかまどを作り、鍋で村人全員が食べられる食事を作った。

 これでオレ達も同じ物を食べているとなると、この食事に毒が入っていないということが分かってもらえるだろう。


「お姉さま、コレっていったい?」

「ワタシたち、いったい何を見ているの?」


 ジャルとアナが戸惑っているのは、人間と魔族が同じ食事を大鍋で用意して食べている光景だった。


 どうやら彼女達の中では人間と魔族は敵対するもの、相容れないものという固定概念があったようだ。

 だが、いま彼女達が見ているのは、間違いなく人間と魔族が敵対する事無く同じ鍋の食事をしている姿だ。


「おねーちゃんもこれどうぞ」

「え、ええ……」


 ジャルとアナの二人は戸惑いながらも器を受け取り、恐る恐る食事を口に運んだ。


「美味しい!」

「これって!」

「お気に召してもらえましたか?」


 やはり相手を説得するのに一番いいのは胃袋を掴む方法なのかも。

 ジャルとアナの二人は、出してもらった食事を美味しそうに食べ、その後村人達の事を見ていた。


「これって……本当に人間と魔族が争う事無く同じ場所にいるわ」

「信じられないけど、どうやら本当みたいですわね……」


 ジャルとアナの二人は、食事の後に再建された村を見渡し、十日前に焼け野原になっていた場所を確認した。


 だが、十日前には家一つ建っていなかった場所には新築の家が用意され、まるでここが空爆された事が嘘だったのではないかというくらいの綺麗さに驚いている。


「信じられない、ここが十日前には焼け野原だったなんて」

「これは全てここにおられるコバヤシ様のおかげなんです」

「そうだ、おれたちはコバヤシのおかげで新しい家に住む事が出来たんだ」


 魔族の住人達が次々とジャルとアナの二人にオレの事を伝えだした。

 どうやらこのままではオレがジャルとアナによって罪人にされてしまうと思ったのだろうか。


「わかりました、どうやらあなた達の言う事は本当のようですわね」

「この事はお父様にご報告させて頂きますわ。大丈夫、あなた達の悪いようにはしません、お食事、美味しかったですわ」


 そう言うとジャルとアナの二人は空に舞い上がり、魔族の村を離れようとした。


 だが、その時突風が巻き起こり、何者かが姿を現した!


 あれは! まさか、空の魔王ヴォーイング!?


「ほう、ここが人間によって滅ぼされた村か……何だ!? この光景は!!」


 高速で飛んできたヴォーイングは、眼下に広がる村を見て驚いていた。


「いったいどうなっているのだ! ここは十日前に人間達によって爆撃されたのではないのか!?」


 眼下の光景が信じられない空の魔王ヴォーイングはゆっくりと旋回しながら村全体を見渡した。

 そして一通り村を見た後、彼はゆっくりと翼を閉じ、村の真ん中に降り立った。


「誰か、誰かおらぬか! いったい、これはどういう事なのだ!」

「お父様、ワタシ達もこの村を見て驚いていたのです」


 どうやらあの魔族が空の魔王ヴォーイングらしい。


 空の魔王ヴォーイングは、魔族の村人にこの村がどうなったのかを聞いている。

 コレがややこしい話にならなければいいんだけどな……。

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