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第112話 空の魔王との……交渉??

 オレは空の魔王ヴォーイングに名指しで呼ばれ、話をする事になった。

 どうやらヴォーイングは魔族の村人に何があったかを話させた上でオレの話と相違があるかどうかを見ようというのだろう。


「どうした、我が怖いのか? 噂ではお前はあのネクステラやエクソンとも対等に会話をしたと聞く、それなら我とも問題なく話が出来るはずだ!」

「あらあら、ずいぶんと頭に血が上ってるみたいね、水でもかぶって頭冷やしてみる?」

「そのふざけた話し方……ベクデル! お前かっ」


 オレと空の魔王ヴォーイングの前に立ったのは水の魔王ベクデルだった。


「そうよ、話をするなら少し落ち着いてから話すのね、そうじゃなきゃきちんとした話ができないじゃない」


 水の魔王ベクデルのおかげで空の魔王ヴォーイングは少し冷静になってくれたようだ。


「わ、わかった。少し高圧的だったな。それで、何があったのかをそこのコバヤシに聞きたいのだが、お前はいったい何をやったのだ? ここが十日前には人間によって焼き尽くされたのを我は見ていたが、今見るとどこにもそのような跡が見えない。これは何かの魔法を使ったのか?」

「いいえ、ヴォーイング様、これは魔法ではありません、建築、建設の技術です!」


 オレは自信を持って空の魔王ヴォーイングに断言した。


「これはオレと仲間達による建築、建設の技術で作り上げたモノです。ここは十日前に人間達によって飛行船で爆撃されました、そして多くの家が焼け、犠牲者も出たのです」

「それじゃあ何だ、お前はその罪滅ぼしでここを建て直したというのか!?」

「いいえ、そうではありません」

「ではどういうつもりだ?」


 この堅物を説得するのは少し難しそうだが、こんなクライアントいくらでも前の人生にいたからまだ対応は可能だ。

 それに空の魔王ヴォーイングはプライドが高そうなので下手に媚びるよりは正面から向かい合った方がきちんと話が出来そうだ。

 オレがここを焼き払ったナカタとは全く違うという事を分かってもらった方が良いだろう。


「確かにここを焼き払ったのはオレも知っている人間です、ですがオレは彼とは違います!」

「何、どう違うというのか言ってみろ!」

「はい、オレは……誰もが幸せになれる世界を作りたい、その為に誰かが犠牲になるというのは避けたいって事なんです」

「綺麗事だな、他者を踏みつけなければ自身が踏みつけられるのに、それでもいいというのか」


 オレの言う事は他人が聞けばただの綺麗事かもしれない、だが……オレはそれを今までこの世界で実現してきた!


「いいえ、そうでは無いです! オレは自分の今持っている力が、他人を圧倒出来ると分かっているので、あえてその力を破壊では無く建設の為に浸かっているんです」


 これは一種のブラフだ。だが、ここで下手に空の魔王ヴォーイングに呑まれては、今後の計画が頓挫してしまうかもしれない。


「ほう、それではお前はあの圧倒的なゴーレムを使いこなせる力がありながら、我等魔族と戦おうという気はないと言うのか」

「はい、ここを焼き払った人間が誰か、オレはよく知っています。ですが、オレは彼とは違い、ここに住む魔族と敵対する気は全くありません。むしろ、一緒にこの世界をよくしていきたいと思っているからこそ、人間を敵だと思って欲しくなかったんです」


 実際、オレは今までにもこの世界の脅威ともいえる三人の魔王を相手に交渉を進めて来た。

 最初はオレを疑いの目で見ていた魔王達も、オレが実際に建設の仕事で彼等の悩みを解消すれば分かってくれた。

 だから、空の魔王であるヴォーイングも、オレが真剣に向き合えば話を聞いてもらえる。オレはそう考え、彼と向き合っている。


「とりあえずお前の言いたい事はわかった。だが、お前の言っていたここを焼き尽くした人間とはいったい何者なのだ!?」

 よし、空の魔王ヴォーイングが少しこの本題に気が付いてくれたみたいだ。

 ここで人間の中にも二つの考えの勢力がある事を伝えておこう。


「アイツの名前はナカタ。どういうヤツかはまだ全部はわかりませんが、オレと同じ世界から来た人間で、その知識や技術を使い他者を踏みにじって儲ける事に使っているオレの敵です!」

「ほう、人間の中でも敵味方がいると言うのか。どうやらお前達は一枚岩というワケではないようだな」


 空の魔王ヴォーイングはオレを睨みつけた後、辺りを見渡した。


「どうやらお前は嘘を言っているようではなさそうだ。あの人間嫌いのエクソンがお前に関しては認めていたようだからな。それに、ここにいる魔族は我の領民のはずだが、我よりもお前の味方をしようという気持ちも感じられる」


 彼は周りを把握した上で、オレにある事を提案した。


「そうだな、我もお前がどんな奴なのか知りたくなった。お前はこの焼き尽くされた村を一週間で住める場所にした。その能力、我に示してみるがいい」

「それは、いったいどういう事ですか?」

「うむ、そうだな……それでは、お前が考える人間と魔族の共に暮らしていける世界に必要な場所を作ってみろ。もし本当にそれが魔族の為になるというなら、この空の魔王ヴォーイングもお前に力を貸してやる。三魔王を説得したというお前の力、我に証明して見せろ!」


 そうか、空の魔王ヴォーイングは、オレの能力で魔族と人間が共に生きていける世界が本当に作れるかどうかを試してみようというのか。

 それならこちらにも考えがある。

 本来ならあの空軍基地建設予定地でやろうと考えていた事だ。


「わかりました、それではオレがこの世界に必要な、人と魔族が共に暮らす為に必要な場所を作って見せましょう!」

「いいだろう、期限は一カ月だ。それまでにやり遂げて見せろ。我の娘であるジャルとアナをお前達の監視役として見届けさせる。さあ、それでは早速取り掛かるがいい!」


 どうにか交渉のテーブルに立たせたと言うか、クライアントとの交渉に成功したと言うか……空の魔王ヴォーイングはオレに仕事の案件を押し付けて来た。

 だが、これが上手く行けば人間と魔族の戦争は回避できそうだ。


 それで、オレの造ろうと考えていたのは、流通倉庫と市場が一体化した空港だ。

 この空港が完成すれば、この世界のどこにでもモノを運ぶ事が可能になる。

 近くならワイバーンや飛行可能な魔族が、遠くの場合や多くの物を運ぶ場合は飛空船を使えばどこにでも物が運べるようになる。


 また、空港があればここをハブにして世界中のどこにでも移動が出来るようになる。

 ここを基準にする事で、人の国、魔族の国それぞれにしかない物を交易する事で、お互いが争う事無く、共に生きていけるように出来るはずだ。


 また、空港には軍事勢力を配備しておくことで、空賊や空を飛ぶ魔獣等が出た際にワイバーンに乗った飛竜騎士団や、魔族の戦団の仕事も確保できる。


 その際の戦力として空の魔王ヴォーイングに協力してもらえるなら、彼も人間に対して敵対しようという事は無くなるだろう。

 また、人間も協力関係にある空の魔王ヴォーイング相手に戦おうという事も無くなり、お互いが協力関係になる事が出来る。


 そうと決まれば早速あの焼け野原だった空軍基地建設予定地を整備し直して流通のかなめになるようにしなければ。


 ターミナルとして使う事を考えるなら、やはりベルトコンベアによる荷物の集積所もあった方が良いな。

 それに関しては若い頃バイトした事のあるヒノモト運輸の配送センターを参考にすればいいか。


 よし、それでは早速作業開始だ!


 あの空軍基地予定地に戻って空港と荷物配送の集積所を建設するぞ。

 まずは手始めに飛行用の滑走路の設営からだな。


 期限は一か月、それまでに空港と荷物集配センターが問題なく稼働するようにしなくては!

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