オレ達はいったん魔族の村を離れ、本来の空軍基地設営予定の場所に戻って来た。
魔族であるジャルとアナの二人は少し申し訳なさそうにしているが、誤解からの行き違いの事なので、下手に彼女達を責めるわけにもいかない。
むしろ、この様な事態を引き起こしてしまったのはあのナカタの奴だ。アイツがいらない事をしなければこの空軍基地予定地の戦艦ヒンデンブルグの炎上も無ければ、それに対する魔族の村の空爆も無かった。
アイツ……ひょっとしたら本当に意図的に世界を混乱させているのかもな。
戦争で焼け野原になってしまえばその後の建て直しは金と技術が必要になる。
だからその分どこかに資材等を温存しておいて、勝者の側にその資材を売りつければ大儲けできるってとこか。
ひどいマッチポンプだが、確かに効率的に金を稼ぐには最適なやり方だ。
――だがそうはさせてたまるか!
ナカタが人間と魔族の戦争を企てているなら、反対にオレは人間と魔族の共存できる世界を建築技術で実現させてみせる!!
その為に今から作るのが空港とターミナル、そして荷物集配センターともいえる場所だ。
この二つが併設している施設なら、軍事だけでなく運輸面でもとても便利な場所だと言える。
荷物集配センターは、オレが学生の頃ヒノモト運輸でバイトした事があるので、どんな造りになっているか分かっている。
大きなベルトコンベアに手動で回るローラーを付け加え、各地域別に荷物の分配が出来るような大きな輪、そしてそこから派生した枝、そしてその先にコンテナという形にすれば荷物を効率的に集める事が出来る。
それに、このシステム自体を造るのはそれほど難しいものでも無いので数日あれば十分かと。
ただし、元々の日本でのコンピューターによる荷物仕分けみたいな事はできないので、ここは人力に頼るしかなさそうだな。
バーを動かして荷物を止めたり流したりするのは人間でも少し簡単な機械を使えば何の問題も無い。
まあ、一度荷物を流すラインに入れれば、ベルトコンベア自体は石油でも魔鉱石でも技師次第でどうとでも出来るだろう。
そうなると、作るべきものは全部の荷物を流すベルトコンベア、仕分け用の円型の作業スペース、そして各ブロック別に荷物を仕分ける枝になった部分というところか。
あとは、荷物が雨で濡れたり、風で飛ばされたりしないように高い屋根と壁を作る必要がありそうだが、その程度なら超大型ゴーレムのコンゴウと五体の大型ゴーレムがいれば数時間もかからず全部完成する。
その壁と屋根を作る作業が終わり次第、中の仕分け用配送センターを作れば問題無いだろう。
幸いこの世界、極端な可燃物なんてものは石油やガソリンくらいで火薬とかもそれ程メインで使われるものでは無い、むしろ魔鉱石の方が取り扱い要注意ってくらいだ。
だから下手に隔離部屋の必要な劇物とかはそう存在しないので、コンテナは普通に木箱や金属の箱を詰め込めるように作れば特に問題は無さそうだ。
この配送センターだが、まだそれほど大量の荷物を仕分けるというワケでは無く、試作的に作る物なのでいったんはそれで様子を見てみればいいだろうな。
それと、空港と滑走路の建設を併設する形になるか。
荷物仕分けエリアは本来の戦艦ヒンデンブルグを建造していた造船デッキの跡地に用意をし、飛空船やワイバーン、または空を飛べる魔族の発着用の滑走路はオレ達が本来作るはずだったエリアで設置すればいいだろう。
また、荷物の運搬はそれこそ魔技師を呼んできて短い列車を作ってもらえばすぐに解決出来そうだ。
オレ達はすぐに作業に取り掛かり、数日もせずに空港と配送センターは設営完了した。
「す、凄い……これが、コバヤシの能力」
「これは確かに、お父様以外の魔王様達が信頼を寄せるのも納得ですわ……」
ジャルとアナの二人は、オレ達が一週間もかけずに空港と配送センターを完成させた事に驚いていた。
また、このピッチでの建設作業を見ていたので、本当に十日かからずに魔族の村が再建されたと言うのも彼女達がれっきとした証人になってくれたともいえるだろう。
「それでは、アタシ達は一度お父様の所に戻ります。コバヤシ様、アナタの言っていた事はどうやら本当だったようですわね」
「大丈夫ですわ、お父様には悪いようには報告しませんから。それでは、御機嫌よう」
どうやらジャルとアナの二人は空の魔王ヴォーイングにこの空港建設と荷物の仕分け配送センターの件をきちんと伝えてくれそうなので、これでようやく問題が一区切りといったところか。
まあ、この空港や配送センターが問題なく稼働するようになれば、人間の国と魔族の国でのお互いの足りない物同士を交易する事が出来るので、お互いに得になると言える。
これでようやく空の魔王との戦争の危機を回避する事が出来ると考えると、オレは今までの疲れがドッと出て来たのだろう、そのまま数日寝てしまった。
オレが目を覚ますと、どうやらその間にフォルンマイヤーさんが主体になり、国の軍への荷物の配送の手はずを整えてくれていたようだ。
「おお、コバヤシ、目を覚ましたのであるな。お前が寝ていた間にこちらで出来る作業は進めておいたから安心するのである」
「こばやし、モッカもてつだったっ。おもいもの、おおきなけものがはこんでくれたっ」
「ボクも……ゴーレムに手伝ってもらって頑張ったのだ……」
どうやらモッカも荷物集配の手伝いをしてくれたみたいで、魔獣の後ろに大きなコンテナカーをつけて運んでくれたらしい。
カシマールはオレ不在の間ゴーレムに直接頼んで荷物の運搬をしてもらったので、オレとしてもとても助かった。
他にも魔族の村の住人達も村を建て直してくれたお礼をしたいと言って無償で手伝ってくれた人達が何人もいたようだ。
だが、流石に働いてもらっておいてタダってのもなんだか悪い気がするので、この働きに関してはダイワ王にオレから人件費を請求しておこう。
そうして空港が稼働し、荷物の集配センターが本格始動を開始した少し後、空の魔王ヴォーイングがジャルとアナの二人を連れてオレの所にやって来た。
「ほう、これが空港か。なるほどな、空を飛ぶ者が快適に飛び上がれる広い場所を用意し、遠くに物を運ぶための空を飛ぶ船も停泊できるようにしたという事か。これは面白い」
どうやら空の魔王ヴォーイングはオレに否定的では無く、むしろ好意的な態度を見せてくれたようだ。
「しかし驚いた、我は期限を一カ月といったのだが、少し短くし過ぎたかと思い、もし一カ月を過ぎてもまだ途中だったら少し期間を延ばしてやろうとも考えていたのだが、まさか……それよりもずっと早くにこれだけの物を作ってしまうとはな。確かにこのペースならあの村が十日足らずで建て直せたのもうなずける」
やはり行動で見せるのが、彼には一番説得力があったみたいだ。
今の空の魔王ヴォーイングは人間に対して敵対的な態度では無い。
そして彼は人間の軍の代表者が誰かをオレに聞いて来た。
まあ、軍の代表者といえば……騎士団長のフォルンマイヤーさんになるんだろうな。
オレは空の魔王ヴォーイングとフォルンマイヤーさんを会わせる事になった。
「貴女が人間の国の軍の代表者で間違い無いのか」
「そうだ、私はファンタ―ジェン・フォルンマイヤー。王国騎士団長である」
「フォルンマイヤー殿、我を一度人間の王に会わせてもらいたい。その上で不可侵の条約を締結したいと思っている。これは、コバヤシがいたからこそ出来た事だ。そこの部分を忘れないでもらいたい」
「無論だ、彼無しに人間と魔族の共存の未来は見えなかったと私も思っているのである」
空の魔王ヴォーイングとフォルンマイヤーさんの交渉は問題なく進みそうで良かった。
どうやらこれで魔族と人間の全面戦争は避ける事が出来そうだな……。