目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第105話 宵に轟き雷霆の音

「 “グゥゴォォォォォ!!!” 」


「これはまたヤバそうな奴だ…、全員油断するなよ…!」


青白い光を発し、分かり易く帯電している鬼…。ただちょっとだけビリビリするくらいなら別に構わないが…絶対そんな優しくない…!


蹄から飛び出た稲妻が地面抉ってるし…直撃したらクッソ痛いぞアレ…。近付くのもやっとなんじゃないか…? 前衛キツくない…?


「ニッキッキッ! まずはニキがどんなものか確かめてやるニ!」


「ちょっオイ…!? んな軽率に…?!」


恐れ知らずなニキバカがまさかの特攻…しかも真っ正面から…。なんて命知らずな奴…進んで鉄砲玉になる奴とか居るんだ…。


だがまあアイツは頑丈だし…これを機に鬼の情報を少しでも得られるならいいか…。頑張れニキ、骨は埋めてやる。


「お手並み拝見ニ!〝纏哭てんこく〟!!」


意外にも鬼は回避せず、むしろ頭突きでニキの拳に挑んだ。額と拳が衝突した途端、再び稲妻が周囲にほとばしる。


しかもさっきより広範囲に稲妻が広がってる…、私達の足元まで及んできてる…。電気が発生するのは蹄だけじゃねェのか…。


この様子じゃ角からもバンバン電気飛び出そうだな…、もしかして隙ない…? どこなら安全に攻撃できるんだ…?


「ニャアアアッ?!! 手がビリビリしてめちゃ痛いニ~…──ニ…? ギニャアアアアアアアッ?!!」


「うおァ…!? ありゃ流石にヤバいだろ…! 止めろ止めろ止めろォ…!!」


強烈な電撃で痛めた手に意識を向けていたニキは、その隙をつかれて思いっきり噛み付かれた。上半身は完全に口の中だ…。


鬼の咬合力は岩をも噛み砕くほどに強い…、如何に頑丈なニキと言えどもあれは相当なダメージを被った筈だ…。


何よりあのまま呑み込まれでもしたら…消化されて糞に変えられちまう…。鬼の消化液は骨をも溶かすから…、埋める骨も残らないぞ…。


“──ヒュンッ!”


「 “ギィガァガァ…?!” 」


私達が焦ってニキ救出に動いた直後、森の中から飛んできた火を纏う矢が鬼の体に刺さった。火の熱さに驚いた鬼はニキを吐き捨て、体を地面に擦り付ける。


今の矢はカーリーちゃんの援護サポートだな? ほとんど音が出ないから鬼も反応できていなかった、これぞ弓ならではの利点だろう。


ひとまずアレスとロイスに鬼の相手を任せ、私は吐き捨てられたニキのもとに駆け寄った。無事ならいいが…。


「ニキ大丈夫か…!? 動けるか…!?」


「ニュイー…腰砕けるかと思ったニ…。あと口の中めっちゃ臭かったニ…めちゃくちゃ血の臭いがしたニ…。偽竜種レックス食べてたからニ…?」


「いや知らねェけどよ…、まあとりあえず無事なら良かったぜ…」


ニキは老体のように腰を摩りながら立ち上がった。あんだけ勢いよく噛み付かれて腰痛めた程度とは…コイツも大概だなマジで…。


とりあえず貴重な戦力に穴が開かず済んで良かった。気を取り直して鬼と戦おう、そう思って顔を上げた私の視界からは…鬼の姿が消えていた。


「気を付けろオマエ等…! 鬼がまた森に入った…身構えながらこっちに来い…!」


ロイスと背を預けて合い、暗い森を警戒するアレスはそう言う。確かに今の状態は危険だな…早いとこ合流してしまおう。


鬼の居場所は直にヒューイが見つけて教えてくれる筈だし、無理に私達が目を凝らす必要もない。今私達のすべきことは守りを固めることだろう。


“──キーン…!!”


「マジかよ…?!」


背後から鳴り響く〝音〟…私はすぐに衝棍シンフォンを構えて振り向くと、おぞましい形相で猛突進をしてくる鬼が迫っていた。


咄嗟に衝棍シンフォンを間に挟めて防御を試みたが…体格差があり過ぎて容易にぶっ飛ばされてしまった…。


脳が揺れそうなほどの衝撃と…電撃による皮膚が焼けそうな激痛に襲われた…。仲良くぶっ飛ばされた私達は…地面へと叩きつけられた…。


更にそこへ無慈悲な追撃の意思…、鬼は大口を開けて急接近してくる…。どうにかしたいが…痺れた腕が言うことを聞かない…。


「〝斑千風エクゼト〟!!」


ギリギリを見計らい…一か八か転がって回避しようかと思ったが、その前にアレスが横槍を入れてくれた。例の超加速での強烈な一閃。


鬼は後ろへ跳んで回避したが、アレスの剣は口の端を僅かに切り裂いていた。やっぱ凄いなあの技…、二等星ハンターは伊達じゃねェ…。


しかし鬼も負けじと反撃に転じてくる。一瞬角の光が強くなったかと思えば、そこから四方八方に稲妻が飛び散った。


それも体毛や蹄を凌駕する数と範囲でだ…、まるで彗星のように地面や森の奥にまで降り注ぐ…。なんちゅうデタラメな攻撃だ…。


私には辛うじて当たらなかったが…前に立つアレスはもろに直撃してしまった。声は上げないが…効いてない筈がない…、これはマズい…!


私は若干感覚が戻ってきた腕を動かして立ち上がり、左脚を軸に後ろ回し蹴りの要領で太股と脹脛の間にアレスを挟んだ。


そのまま勢いを利用してアレスをグイッと引っ張ると、さっきの立ち位置を鬼が通り過ぎていった…。間一髪…冷や汗が出る…。


「いくら素早く動けるとは言え…流石に電撃アレ喰らっちゃ動けねェか」


「ああ…、全身痺れちまった…」


触れるだけなら腕だけで済むが…稲妻は全身か…、こりゃ否が応でも回避しないとな…。ニキ以外が喰らえば一瞬で窮地に立たされちまう…。


でも鬼に攻撃するともれなく体毛から電撃のお返しがくるからな…マジでどうしたもんか…。早いとこ突破口を見つけないと先の見えない消耗戦になっちまう…。


鬼相手に体力勝負を挑むのはバカだ…人では到底及ばない…。4人が交代制で戦えば勝機はあるが…それは全員が鬼と1VS1サシで戦り合えるならの話…。


悔しいがまだ単独で渡り合えはしない…、全員で上手いこと連携してじゃなきゃ鬼は倒せない…。まずは活路を見出すとこから始めないとな。


「そうだ荒男、オマエの高速移動で鬼を翻弄して、隙見て眉間に剣をグサッ!ってできねェのか…?」


「アレは連続使用ができねェ…、使ったら少しインターバルが必要になる…」


条件付きの超加速なわけか…ならトドメ用だな。アレスを抜いた私含む全員で鬼の動きを封じ、一瞬の隙をついて頭部に剣を突き刺す。


もはやこの程度の作戦しか思いつかない…けどもうこれでいいかな…。結局は倒せればいいんだし、終われば全部美談だし。


そうと決まったら早速行動だ。まだアレスは満足に動けずいるが、インターバルの回復と思えば有意義だろう。


鬼は今ニキとロイスと交戦中、横槍を入れて邪魔してやる…! 目立たないよう身を低くしながら背後に回り、衝棍シンフォンで思いっ切り地面を叩いた。


単なる威嚇のようなものだが、無視はできねェよなァ…! 動物でも魔獣でもないとは言え…生物である以上本能には逆らえない…!


加えて一番最初に奇襲されてるのも鮮明に覚えてる筈だ…それこそ過敏なほど反応しちまうよな…! よそ見厳禁だぜ…!


「〝溶解薙ぎ断ちゾール・アルミーガ〟!!」


鬼がこっちを向いたその隙に、ロイスが臀部へと薙刀を振り下ろした。悲痛な咆哮を上げる様子からも、確かなダメージを与えられたのは明らかだ。


しかし少し腑に落ちない点が生まれた…稲妻が発生しなかった…。口の端とは違って臀部には体毛がしっかり生えていた…、なのにどうして…?


稲妻が発生するのにも何か条件があんのか…? 稲妻が生じる部位が決まってるとか…? これは流石に違うと思うが…いずれにせよ重要な情報だ。


「 “グゥガガァ…!!” 」


「うっ…!? がはっ…!」


臀部を斬られ、更なる追撃に備えて回避行動をすると思っていたが…鬼はまるで効いてないと言わんばかりに後ろ脚でロイスを蹴りつけた。


凄まじい脚力と硬い蹄、その強力無比な蹴りを腹部に受けてしまったロイスは…血を吐きながら後ろの木まで飛ばされた。


今のはかなりマズいぞ…内臓にもかなりのダメージが及んだ筈だ…、急いで治癒促進薬ポーションを飲ませねェと…。


だが鬼は私の前に立ち塞がったまま睨み付けてくる…大人しく通すつもりはないらしい…。ニキ達に任すしかねェ…。


鬼は前進しながら右前脚を上げ、私を踏み潰そうとしてくる。動きが見えれば回避は容易だが…問題はこの後…。


蹄が力強く地面に触れた瞬間ほとばしる稲妻…これを〝音〟頼りに気合いで避ける。だが今度は左前脚で踏み潰そうとしてくる。


左…右…左…右──息つく間もない猛攻の嵐…、稲妻を避けるのに必死で反撃どころじゃない…。どんどん追い詰められていく…。


「 “──グゥガァァ!!” 」


「うああっ…?!」


止まぬ足踏みと稲妻…鳴り止まない〝音〟に神経を注ぎ過ぎてしまった…。鬼は何の前触れもなく…で突進してきた…。


角が深く腹にめり込み…激痛と同時に全身を電撃が襲う…。勢いよく飛ばされたが…受け身を取ることもできず…地面に頭を強く打ち付けた…。


油断はしてなかったが…踏み付け攻撃の動作に目が慣れて…無備動のことが抜け落ちていた…。一瞬の不覚だ…。


目がチカチカする…、指先まで痺れて体が全然言うことを聞かない…。どうにか全身に力を込めてみるが…まるで他人の体のようにびくともしない…。


こうしてる間にも鬼が迫って来ている…。だがその行く手を阻むようにアクアスの炸裂弾が命中、しかしほとばしる稲妻が私にも命中…。


鬼の興味は一時的に私から離れたが…今の稲妻でいよいよ全身の感覚すらもが麻痺してしまった…。マズい事態だこれは…。


どうにもならない焦りが頭の中をグルグル巡っていると…不意に体が浮き上がった。何が起きた…!?感覚が無いから何が起きてるのか全然分からない…!


浮いた私の体は、どういうわけか鬼から遠ざかっていく。そのまま少し離れた場所まで移動すると、体が地面に下りた。


「 “クギィ…? クギャギャ…?” 」


動かせない私の顔を覗き込んできたのはクギャだった。そうかオマエが運んでくれたのか…てっきり幽体離脱したのかと思ったぜ…。


心配そうな声を上げながら顔を覗き込むクギャは、ペロペロと顔を舐めて私の反応を窺っている。


ちょ…止めて…そんな舐めないで…、声出ないの…! 動けないんだクギャよ…! ちょマジで止め…後でちゃんと褒めるから止めてくれェ…!


「よくやった偽竜種レックス…! こっちに預けろ…!」


駆け付けたアレスによって舐め地獄から解放された…。私はそのままアレスの手で治癒促進薬ポーションを飲ませてもらい、早目の回復を図る。


腹部の痛みは比較的すぐに痛み止めが効くが…痺れの回復には少しかかりそうだ…。それまではアレスに守ってもらうしかないな…。


アレスに抱えられながら鬼の様子を見ると、鬼は森に向けて角から稲妻を放っていた。ついにアクアス達にヘイトが向いてしまったか…。


だが生い茂る木々が障害物になるし、ただでさえこの暗さだ…正確な位置は把握されてない筈。稲妻を上手く避けてくれてると信じたい…。


「いやー…しかし…思ったより痺れって辛ェな…、また吐きそうだぜ…」


「またって何だ…? ってか絶対に俺の腕に吐くんじゃねェぞ…?!」


「乙女の吐瀉物はご褒美だったりしない…?」


「ただのゲロだボケ…!!」


冷てェツッコミにちょっと心が傷付いたが…そんな間にも徐々に体は回復していき、ようやく体が動かせるようになった。


まだ関節が錆びついたようにぎこちないが…最低限の動きはできる。クギャもいるし、危険から這い出るぐらいは支障がない。


アレスはすぐに剣を持って鬼のもとへ向かって行き、別方向からはニキとロイスも走っている。ひとまずロイスも無事そうで良かった。


鬼はすぐに3人の接近に気付き、すぐさま稲妻で迎撃。3人は降り注ぐ稲妻に苦戦して接近できずにいたが、ロイスが隙を見て飛び出した。


「〝溶解薙ぎ穿ちゾール・シュターチ〟!!」


ロイスの鋭い突きは鬼の右前脚にクリーンヒット、薙刀の刃が深く突き刺さった。やはりロイスの攻撃では稲妻は出ず、鮮血だけが飛び散った。


鬼はすぐに後ろへ跳んで距離を取るが、着地と同時に体が大きくよろめいた。今の攻撃が余程効いたみたいだな。


それにダメージを与えた後ろ脚もそろそろ限界が近い筈だ。もう縦横無尽に好き勝手動き回るのは難しいだろう。


機動力を削がれた鬼の脅威度は各段に下がる…それだけは確かだ。それでも油断できない存在なのは間違いないが…。


ぶっちゃけ下手な援護サポートが逆に私達を苦しませてしまうが為に…アクアス達援護サポート組があまり機能できていない…。


クギャも的がデカいし、中・遠距離攻撃が無いから相性が悪い…、よって私達4人だけで戦わねばならない…。稲妻の雨を避けながらだ…。


吼えれば稲妻…触れれば感電…、これほどまでに戦りづらい敵は…魔物を除けば一番だ…。むしろ魔物に似てさえいる…。


そういえばシヌイ山の魔物も予備動作無しで大ジャンプとかしてたし…マジで魔物みてェだな鬼って生物は…。


鬼はかなり昔から存在してる生物らしいが…何か関係あるのか…? いやそれは今考えることじゃねェな…今はまず目の前の強敵を倒すことに注力しよう。


魔物を2体倒してきた私達だ…魔物モドキなんぞに負けねェぞ…!!



──第105話 宵に轟き雷霆の音〈終〉

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?