「
「だから倍でお返ししてやるって話ニ! ほら下りて来いニ!!」
「減らず口だけは達者ね。いいわ、その減らず口を切り裂いて…二度と喋れなくしてあげるわね…!」
信徒はまた助走を確保する為に遠ざかっていく。さーてどう料理してやろうかニ~? 投擲の効果が薄いのはもう立証済みだしニ~。
多分カカやアクアスだったら、今のうちに木陰に隠れたりするんだろうニけど…察知能力も追跡能力もないんじゃ有効な手とは言えないニね…。
視界の悪い森で標的を見失うのはこっちにしてもリスク…。闇雲に攻撃してきてもし直撃でもしたら…とても成仏できないニ…。
だから小難しい戦法を取るのはナンセンス! 料理は簡単であるほどgood! 肉は焼けば、野菜は洗えば食べられる! 正面からぶちのめせば敵は倒れるニ!!
遠くに浮かぶ信徒を正面に捉え、両腕を前に伸ばしてドシッと構える。そろそろ突っ込んでくる頃だろうし、いっちょ覚悟を決めて迎え撃ってやるニ!
降りしきる雨の中、空の人影が真っ直ぐこっちへ向かって来る。失敗したら死ぬニねこれ…、全身がゾクゾクするニ。
頭の中の嫌な考えを息と一緒にゆっくり吐き出し、まばたき一つせずにジッと信徒を睨み付ける。
「──〝
闘牛が霞むぐらいの衝撃が全身を襲い…物凄い速度で後ろに飛ばされた…。速過ぎて何が何やら分からないけど…背中に鮮烈な痛みが何度も走った…。
さっきの地点からどれだけ離れたか知る由もないけど…やがて硬い物に衝突して体は止まった…。パラパラと
「ぐぅぅ…! 嘘でしょ…!?」
「ニッキッキッ…! 言った筈ニよ…? さっきみたいにはいかないってニ…!!」
めちゃくちゃ引きずられたニけど…一番恐ろしい牙は両手でがっしりキャッチ! 切れ味は恐ろしいニけど…顎を閉じる力は、ニキの腕力より下だったみたいニね…!
閉じないハサミなんて怖くないニ…! こうやって両手で掴んでたら、閉じることも開くことも、口に戻すこともできないだろニ…!
「こんの…離しなさいよ…!!」
退くも進むも叶わない信徒は、苦し紛れにダガーを腹部へ突き刺してきたけど…もちろんお腹に力を込めて軽傷に抑えた。
若干刺さったダガーは、お腹をギュッと締めて抜かれないようにする。これでもはや何もできまい!
「今度はこっちの番ニよ! 今までの分をぜーーんぶお返しするニ!!」
「ちょっ…やめ…!」
見苦しい声はガン無視し、牙を掴んだまま信徒を頭の上まで持ち上げ、衝突した大岩を蹴って高くジャンプ。見据えるはさっきの大岩!
「〝
「ギャアアアアアアッ?!!」
大岩が粉々に砕けるほどのパワーで、信徒を思いっ切り叩きつけた。先の
お腹のダガーを抜いて、付近の木に根元まで突き刺したりしながら様子を見る。全然出てこないニね…もしかしてもう終わりニ…?
確かに攻撃特化みたいな人だったニけど…なんとあっけない…。これだからもやしっ子は困ったものニ…、仕方ない…これで勘弁してやるニ…。
「──こなクソーーーッ!!」
「うわァ…?! 思ってた矢先ニ…?!」
頭から流血し…ふらふらな足取りながらも信徒は砕けた岩の中から這い上がってきた。だいぶ限界に見えるけどニ…。
「こ…これしきのことで…私は負けないわ…! この大陸は…魔物の手によって滅ぶ…! それが神の御定めになった
そう言って信徒はまた空へ…懲りない奴ニね…。しょうがない…ここは次の一撃で確実に沈めてやるニ…。
でないとほんとに死ぬまで挑み続けてきそうだしニ…。ハァ…そこまでして神に従うことの何が救いになるのやら…。
案の定懲りずに真っ直ぐ向かって来る信徒、その心意気に敬意を表してまた正面から挑んでやるニ。
「〝
牙の動きをしっかり見極め、がっしりと両手で掴んだ。また激しく後方へ引きずられるけど…今度はその勢いを利用して…!
「〝
首長ワニにしてやったみたいに、思いっ切り背面投げをかました。勢いが余りに余って…地面に亀裂が入るぐらいの威力になってしまったニ…。
そろ~っと近付いて様子を見ると、白目を向いて完全に気絶していた。まあそりゃニ…これで起き上がられても困るニ…。
ふぃー、ひとまず満足したニ! それじゃー…──コイツどうしようニ…。言っちゃアレだけど…こんなのそばに置いときたくないニ…。
でもただ放置しとくわけにもいかないし…むむむぅ…困ったニね…。とりあえずリュックを置いてきたあの場所まで戻るニ。
信徒を脇に抱え、引きずられた跡を頼りに元の場所まで戻って来た。そしたらリュックの中から縄を取り出し、信徒をグルグル巻きにする。
縄の端は太い木の枝に結んで、そこら辺の草を適当に毟って体を覆い隠せば──完全に特大ミノムシの完成ですがな!
仕上げにダガーの柄と手首を紐で結んでおけば、目覚めた時に自力で逃げられるニ。ふふん♪ ニキはなんて優しくて気遣いのできる女ニ~♪
──さて、やる事が無くなっちゃったし、今度こそ首長ワニの素材をちょーだいしようかニ。あの皮は良い商品になりそうニ♪
“──ガサッ! ガササササササッ!!”
「またァ…!? 今度は
再び背後の茂みがガサガサ動く…、もう嫌ー…全然落ち着けない…。今度は何が襲ってくるニ…? またランルゥ教団の一派ニ…!?
「── “イテキガァァ” !!」
「 “イテキガ!!” 」
「 “イテキガ!!” 」
「 “イテキガ!!” 」
「うわァ…?! 何か変なの出てきたニ…!」
茂みから飛び出してきたのは、
頭に他生物の骨や毛皮などを身に着けているこの六足生物は、自作と思われる石槍を背中の腕に持ち、こっちに槍先を向けている…。
中型犬並みの大きさしかないし、蹴散らそうと思えば簡単にできそうニけど…どうしたものかニ…。
「 “ヴ? ヴヴ?! ウクゾド!! ウクゾド!!” 」
「「「 “ウクゾドォォォ!!!” 」」」
槍先を向けて威嚇していた謎生物は、何故か突然立ち上がり…よく分からない言語とも思える鳴き声を上げてはしゃぎ始めた…。
呆然とその様子を眺めていると、まるで人のように二足歩行で駆け寄ってきて…辺りを囲んで踊り始めた…。
敵意は一切感じない…、えっ…な…何故ニ…!? いや全然いいんだけども…何でこんな急に歓迎ムードになったニ…!?
「「「「 “ウックゾド♪ ウックゾド♪ ウックゾド♪” 」」」」
謎生物は踊りながらニキの顔を指差してくる。ニキの顔がどうかしたニ…? ──あっいや
どうやら頭巾被ってるから仲間と認識されちゃったみたいニね…。争いにならなくて良かったニけど…これはこれで面倒ニね…。
ほんでこの喜びの舞はいつまで続くニ…? 皆が来る前にパパっと首長ワニの素材を剝ぎ取りたいんだけどニ…。
首長ワニの方へ目を向けると、既に小型のスカベンジャー達が集まりつつある。急がないと品質に支障が出ちゃうニ…。
「 “──ヴヴ…!? ツヤイコワ!! ツヤイコワ~!!” 」
「 “ツケヤッタ! ツケヤッタ!” 」
屍を見つけた謎生物達は腕を上げながらドタドタと近付き、屍の上に立ってぴょんぴょん跳ねている。
満足するだけ喜びに浸ると、4匹は足元まで歩いて来て、首長ワニを指差しながら喋り掛けてきた。
「 “ウクゾド、ツケヤッタ?” 」
「うく…ど…? つけたった…? ──つけたったつけたった…!」
「 “オオ~! ウクゾドツケヤッタ~!! ツモノワ~!!” 」
「「「 “ツモノワ~!!!” 」」」
<〝森の賢人〟魔獣 ポカロカ >
適当に返事をすると…4匹は槍を高く掲げガチンガチンッとぶつけ合わす謎の行動をし始めた…。──何なんだろうコレ…、早く皆来ないかニ…。
──
<〔Persp
「ぜーーーんぜん見つからねェなマジで…、景色がほんとど変わらないのもキチィな…。──あっ見て見てカーリーちゃん、さっき言ってた独りでに動くヌルヌルの花」
「ほんとだ…マジで動いてる…、スゲーヌルヌルしてる…キモっ…」
アクアス達と別れ、クソ地道に石版探しを続けているが…段々集中力が削がれていくのは仕方ないことだと思う…。
このキモいヌルヌルフラワーに興味が逸れるぐらいには集中力が切れてきた…。何なんこの花…? 何の役立つんだこのヌルヌルは…。
「
「「 さんせーーい! 」」
人の背を越す木の根に腰を下ろし、昨日燻しておいた膵臓をかじる。あらゆる調理器具や調味料がニキと一緒にぶっ飛んだせいで…これしか食うのが無い…。
狩りをして調達しようにも…生憎の大雨で火なんざ起こせないし…、かと言って生で食うなんざ以ての外…不治の病に殺される…。
早く皆戻って来ねェかなぁ…、ニキは大丈夫なんだろうか…。何かしらのトラブルに見舞われてなきゃいいが…。
そんなことを考えつつ、森の風景をボーっと見つめる。枝を飛び移るウサギの群れ、のっそのっそと歩く大きな四足獣、木を登る…ヤ…ヤドカリ…?
本でも見た事のない生物のオンパレード、この光景は中々言葉にならんな。むしろ既知の生物がほとんど居ないな…トコぐらいなもんだ。
「やっぱスゲー…! ネブルヘイナ大森林スゲー…!」
前々からここに来たがっていたからか、カーリーちゃんは燻し膵臓をかじりながら目を輝かせている。森好きなんだね…実に微笑ましい。
私は大群に轢かれかけたり…
「…っ? なあロイ兄…アレ何…?」
「アレは…何…だろう…。──2人共…!」
「ああ…良からぬ予感がしやがるな…」
それは何の前触れもなく現れた…。人の脛程の高さの濃霧が、地面を覆い隠すように正面の奥の方からこっちへ向かって流れてきた。
二度の魔物討伐を経て…
すぐに幹の後ろ側へ移動し、濃霧が流れてくる先を直視する。今までにない緊張感…、肌を濡らす雨に紛れて嫌な汗が流れる…。
そしてついに
その姿は〝ウマ〟そのもの…。鋭い眼光と…意思を持っているかのようにたてがみが揺らめく様は…、森に一層影を落とすかのような禍々しさだ…。
目算ざっと…
そんで肝心の地面を覆う濃霧だが…やはり発生源は魔物で間違いなさそうだ…。このキモい濃霧は…魔物の足から絶えず放出されている。
正確にはあの
こんなにも視覚的な未知で溢れてるのは初めてだな…。この濃霧がどんなものか事前に知っておきたい気持ちもあるが…どうしたものか…。
「 “──チ˝ュリリリリリリッ!!!” 」
「うわっキモ…?! 何じゃあのキモいのは…!?」
威圧感と禍々しさを放つ魔物に、無謀にも挑まんとする勇者が現れた。余裕で人をも喰らいそうな大きさのバッタ…、鳥肌もんだ…。
バッタは
大型犬がゾウに喧嘩を売っているような絵面だが…、魔物はそんな取るに足らない虫けらにも…鋭い眼光を向ける。
互いに向かい合い、バッタは一層大きな音を奏でた。一触即発の中…果敢にも戦いを挑む姿に応えるかのように、魔物が動いた。
力強く前脚を持ち上げると、後ろ脚で器用に位置を調整し、一切の躊躇なく持ち上げた前脚に体重を乗せた。
勢いよく踏み付けたと同時に発生した風と衝撃によって、地面を覆っていた濃霧が舞い上がり…辺り一面を包み込んだ。
視界を遮られ…不安と恐怖を煽られるが、必死に冷静を保って息を殺す…。その間聴覚にだけ意識を注いでいると、遠ざかっていく足音が耳に入った。
足音が聞こえなくなるまでその場に屈んでいると、やがて濃霧は薄れてきた。地面を覆っていた濃霧も次第に霧散し、雨に濡れた地面がまた顔を出した。
魔物が離れたのを確認し、木の根から地面に下り立った私達は、あの無謀なバッタの様子を確かめに行った。
案の定…ぺちゃんこ…。ぬかるんだ地面に潰れた胴体がめり込み…窪んだ地面に体液が溜まっている…。その死に様に…嫌でもムルクさん達が頭に浮かぶ…。
気付けば雨は止んでいた…、まるで魔物が雨を引き連れていたかのようだ…。雲の裂け目から差し込んだ光が…無残な死骸を優しく照らしている…。
「──早く皆と合流して、さっさと石版見つけて…魔物を討つ準備を整えねェとな…。ここの生態系をめちゃくちゃにされちまう前に…」
「そうだね…。再開しようか…石版探し」
「うん…」
──第112話