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第114話 ツケヤッテ!

──時は少し遡り、あさ


<〔Perspective:‐アクアス視点‐Aqueath〕>


弾葉スプリエラなどという奇怪な植物の被害に遭ったニキ様は…一体どこまで飛ばされてしまったのでしょうか…。


クギャ様のおかげで悪天候の中でもグイグイ進めているのに…一向に姿が見えて来ませんね…。やはり動き回ってしまったのでしょうか…。


ニキ様ならばやりかねませんね…一番やりかねません…。そしてもし本当にそうだったら…どう探せばよいのでしょうか…。


本当に地道な足跡探しになってしまいますね…、ぬかるんでいるので足跡も見やすそうではありますが…。


いえ弱気になってはダメです…! せっかくカカ様に信じて託されたのですから…! 何が何でもニキ様を見つけてみせます…!


「いやー…やっぱ偽竜種レックス良いなぁ…。なあオマエ…俺の所に来ないか…? 俺達と一緒にハンター稼業やらねェか…?」


「 “クギィ…?” 」


「アレス様! クギャ様はカカ様の大切なペット! 家族です! カカ様から大事な家族を奪おうとしないでください!」


「冗談だ冗談…マジにすんな…。──おっ? 向こう開けてやがるな…、一応警戒しとけ…何か居やがるかもしれねェ…」


アレス様の言う通り、クギャ様が進む先には開けた場所が。危険生物が休んでいる可能性もありますし…念の為に折畳銃スケールを構えておく…。


何も居ないことを願いながら、わたくし達は開けた場所へと出た。そこには──


「 “ソチゴウ! ソチゴウ!” 」

「 “クイタダ! クイタダ!” 」


「いやだからー…生肉は食べられないんニよー…。せめて魚にしてくれニー…!」


「アレは…何をしてるんでしょうか…ニキ様は…」

「知るかよ…」

「 “ギィ…” 」


4本の腕を持つ二足歩行のサル?子グマ?のような生物が…ニキ様に生肉を献上している…。何とも意味不明な光景ですね…。


大きな葉っぱの上に座るニキ様…その前にはキノコや木の実が積まれ…その後ろに生肉を持つ謎生物4匹…。何だか崇められているように見えますね…。


「 “ヴ…? イテキガァ! イテキガァァ!!” 」


「わわわっ…!? 何ですか…!?」


わたくし達の存在に気が付いた謎生物達は、生肉を放り投げ…代わりに石槍を持ってすぐそばまで迫ってきた…。


そこまで強くはなさそうですが…ニキ様とどのような関係か分からない以上…無暗に蹴散らしてしまうのもはばかられますね…。


「2人共! コレ被るニ! 今すぐ被るニ!!」


謎生物の背後から、ニキ様が何かを投げてきた。コレは…葉っぱで織った帽子…? よく分かりませんが…ひとまず言われた通りにします。


わたくしのは帽子なので被れますが…アレス様は大きなキノコの傘を頭に乗せただけ…、これに何の意味が…。


「 “ヴヴ…?! ウクゾド! ウクゾド~!” 」


「「「 “ウクゾド~!!” 」」」


「ふぅ…単純な奴等で助かったニ…」


四足歩行で威嚇していた謎生物達は…再び立ち上がって今度は喜びだした…。何故ニキ様は少し扱いに慣れているのでしょうか…。


いよいよ頭が混乱してきましたね…何なのでしょうこのマイルドな悪夢みたいな状況は…。1人はぐれた間に一体何が…。


謎生物達が喜びに震えている間に…ニキ様から説明をいただきましょう…。




     ▼   ▽   ▼   ▽   ▼




「なるほど…全然要領を得ませんね…」


「マジで何言ってるのか分からんのよニ…、困ったもんニ…」


首の長いワニを仕留めたことで…ニキ様がボスとして認められてしまったのでしょうか…。頭巾被ってるだけの完全別種の生き物ですのに…。


知能が高いのか低いのか…、害意が無いのは明らかですが…これ以上関わらない方が良さそうですね…。


「そんなことより、随分と周囲が荒れてるが…コレはオマエの仕業か…? そんなにこのワニが強かったのか…?」


「それは別の戦いの跡ニ。ほら、あそこに居るニよ」


「うわっ何ですかアレ…!? ミノムシの蟲人族ビクトですか…!?」


「まあ蟲人族ビクトではあったニね…」


聞けばあのミノムシ人が、ミクルス様を襲った例の集団の一派だという。突然襲ってきたから返り討ちにしたと…ニキ様は涼しい顔でそう言った…。


服が雨に濡れてて分かりにくいですが…よく見ると流血した跡が確認できる…。この場に残された戦いの痕跡からしても…さぞ激しい戦いだったのでしょう…。


無事ではないかもしれませんが…合流できて本当に良かった…。急ぎカカ様のもとへ戻り、石版探しを再開しましょう。


「この変な生物達にお別れ言ってくるニ。──ニキ、モウイク、バイバイ」


「 “ヴ? ソチゴウ! クイタダ!” 」


「ちょちょちょっ…! そうじゃないニー…!」


意思疎通は失敗に終わり…謎生物達はニキ様の腕を引っ張って、さっきの特等席に誘導しようとしている…。


困りましたね…、悪意がない分…無理やり連れて行こうとすれば攻撃してくるかもしれません…。かと言って対話は不可能ですし…倒すのも違う気が…。


「頭巾、コイツ等会話は無理でも絵でなら分かるんじゃねェか? 地面か岩にでも絵描いてみろよ」


「なるほど! その手があったニ!」


ニキ様は適当な石を手に取ると、近くの岩に絵を描き始めた。──これは中々…味があるというか…独創的といいますか…、まあ…はい…。


何はともあれ絵は完成。背を向け合い、それぞれの方向へ進もうという意思のこもった絵。果たして通じるでしょうか…。


「 “キクラガ! キクラガ~♪” 」


「ダメみたいですね…」


「画力の問題じゃねェか…?」

「おいっ」


ニキ様のへt…味のある絵を囲んではしゃぐ謎生物達。すると4匹の内3匹は、走って森の中へと入っていった。


絵に満足して帰ったのかと思いましたが、3匹は手荷物を持ってすぐに戻ってきました…。木の棒に結ばれた手作り感満載のレザーポーチ…、ポーチといい石槍といい…見た目以上に器用なのですね…。


謎生物達はポーチを漁り始めると、手のひらサイズの平たい石を取り出した。それを大層嬉しそうにニキ様に見せている…。


「おー、コレ全部オマエ達が描いた絵ニ? ニキよりうま…──どっこいどっこいニね。──ニィ…!? 2人共ー! ちょっとコレ見るニー!」


ニキ様は一つの石を指差し、手を振ってわたくし達を呼ぶ。謎生物達の絵に何かを見つけたご様子。


すぐにニキ様のもとへ駆け寄り、アレス様と一緒にその絵を覗き込んだ。絵の内容は何の変哲もない森を描いたもの。色まで塗られている。


ですがその木の上…鉛色の空の真ん中に白い光のようなものが描かれていた。もしこれが見たままに描かれたものならば…これは大きな手掛かりかもしれません…!


「コレ、ドコカ、ワカル?」


ニキ様は片言な言葉で話しかけ、ジェスチャーなどを駆使して必死に意思を伝えようと努力している。伝わればよいですが…。


謎生物達はニキ様の動きをジッと見つめ、そして何かを受け取ったのか、小石で岩に絵を描き始めた。


じきに完成したそれは、大きな〝何か〟の絵。巨大な魚のような姿をしていますが…これが何なのでしょう…?


「 “ツヤイコワ! ツヤイコワ!” 」


「 “ツケヤッテ! ツケヤッテ!” 」


4匹はこの絵を指差して騒ぎ始めた。ここに描かれた生物に何か特別な因縁でもあるのでしょうか…。


「新しい絵が見たいんじゃなくて…コレ、オシエテ!」


「 “ツヤイコワ!! ツケヤッテ!!” 」


「オシエテ!!」

「 “ツケヤッテ!!” 」


何だか子供の押し問答を見ているようですね…。お互い一歩も譲ることなく…自分の主張をぶつけ合っています…。


このままでは埒が明きませんね…どうすれば進展するのでしょうか…。せっかくのまともな手掛かり…逃す訳にはいきませんのに…。


「おい頭巾代われ…このままじゃ一生話が進まねェ…」


「ワカッタ、カワル、ニ」


ニキ様に代わってアレス様が交渉に出た。ニキ様よりかは何とかしてくれそうですが…果たして上手くいくでしょうか…。


アレス様は魚の絵を指差し、次にご自身を指差すと、石で魚の上に×バツを書いた。その後光の絵を指差し、またご自身を指差した。


えーっと…わたくし達がその魚を倒すから、倒したらその光について教えて…っということですかね…?


流石にそれは伝わらないのでは…──


「 “ヴ!” 」


伝わったんですか?


謎生物達は絵石をポーチにしまうと、肩に担いで今すぐ出発しようと意気込みだした。本当に伝わったのですね…。


「じゃあ早速出発するニ~! レッツラゴーニ~!」


「待ってくださいニキ様…! 先にカカ様達と合流した方が良いと思います…!」


「そういえばカカとロイスとカーリーが居ないニね。じゃあどうするニ? 一度皆の所に戻るニ?」


「いや、往復すんのは面倒だ…リクを飛ばしてアイツ等にここまで来てもらおう。雨が止んだら手紙を書く、それまでは待機だ。今のうちに行先聞いとけ」


再びニキ様がジェスチャーで会話を試みる。古原大こげんだいの森内であれば、カカ様達も合流が簡単なのですが、どうでしょうか。


ニキ様の必死なジェスチャーを凝視する謎生物達は、何とか意図を理解したらしく、真似をするかのように自分達もジェスチャーし始めた。


これは何を現してるのでしょうか…両手を空に掲げてふりふりしています…。凄く難しいクイズですね…何一つ分かりません…。


ニキ様…も分かっていませんねこの様子は…、見つめたまま固まってしまっています…。やはりアレス様に頼りましょう…。


「これは…何だろうな…、空に向かって手を振る仕草は…たまに町のガキ共がやってた気がするな…。何だったか…星…? いや…キラキラだったか…? 星…キラキラ…──あぁ…そういうことか…」


「分かったニ?! 行先はどこニ?!」


「〝宵星よいぼし樹林じゅりん〟かもしれねェ…、多分だがな…」


古原大こげんだいの森を飛び出してしまいましたか…。ですがロイス様の話によれば、宵星よいぼし喰胃くい冥淵めいえんよりかは危険が少ない場所。


喰胃くい冥淵めいえんじゃなかっただけ良かったと考えるべきでしょうか…。いずれにせよ楽ではないのでしょうけれど…。







──現在、よい


<〔Perspective:‐カカ視点‐Kaqua〕>


「…っで! 私達にそっち行けと! ──行けるかァァァァ!! こっちは最悪の状況なんだよっ! 病人が居んだ病人がっ!!」


「病人のそばで騒がないでくだサーイ」


「ロイス! 手紙書け! 私達は喰胃くい樹叢じゅそうに向かうから、オマエ等の方には行けないってな! 語気強めに書いとけ!」


ニキを連れて戻って来るだけの簡単な話だったのに…何だってこんな事に…。完全に別行動じゃねェかよ…。


本当にプラン通り行かねェもんだな…私達の石版探し…。向こうは手掛かりの為に宵星よいぼしへ…片や私達はハヤタタを求めて喰胃くいに…。


合流できるのはいつになることやら…、ハァ…お先真っ暗だぜ…。先の事はカーリーちゃんを助けてから考えることにしよう…。


「手紙を出したらもう寝るぞ、明日あすも早ェからな。私が先に見張りをやるから、ロイスは休んでくれ」


「分かった、少し早目に起こしてくれてもいいからね」


「ボクも寝ルー。──おネエさん…ボク枕が欲しくテサ」


「言っとくが胸は貸さねェからな? 触れたらぶちのめすぞ」


ドタバタな2日目はこうして幕を下ろしていく。深更しんこう頃まで起きて、その後はロイスと代わって眠りにつこう。


誤って居眠りしちゃわないようにしねェとな…。まあ大丈夫か…徹夜にはなれてる。話し相手が居ないのが寂しいとこだがな…。



──あした


「おい起きろ変態、さっさと朝食摂って出発すんぞ」


「エー…まだ眠いヨー…、ウゥー…! 目覚めのパイターッチ!」


“バキッ…!!”


「目ェ覚めたか…?」

「オハヨウゴザイマス…」


朝っぱらからバカするパークをぶちのめし、昨晩の残り物を胃に詰め込む。カーリーちゃんは食欲がかなり減衰していて…ほとんど何も食べなかった…。


体を起こすのも辛そうだ…、呼吸も荒いし目も虚ろ…可哀想に…。辛いだろうけど…ハヤタタを手に入れるまでの辛抱だからね…。


ロイスがカーリーちゃんをおぶり、周囲を十分警戒しながら私達は川を上り始めた。水を飲みに来た生物と鉢合わせにならなきゃいいが…。


「ハァ~、おネエさんの頭の上は居心地が良いナ~」


「私で楽しようとすんな…、オマエ浮けるんだから浮いて前を行けよ…」


「ヤだよ怖いもン…、おネエさん強いからそばに居させてヨ」


確かにコイツ戦闘面で何の役にも立たなそうだな…、せいぜいデコイが関の山…。単純にお荷物…早く家に帰してやりてェ…。


アクアス達も大丈夫かな…、手紙には何か謎の生物がどうとか書いてあったけど…苦労してなければいいが…。


際限ない不安を抱え…罹患者と変態の精を連れてひたすら川を上っていく…。危険植物の箱庭〝喰胃くい樹叢じゅそう〟を目指して。


森の万能薬〝ハヤタタ〟を手に入れる為に──。



──第114話 ツケヤッテ!〈終〉

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