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第116話 宵星の樹林

──明昼あかひる -古原大こげんだいもり


<〔Perspective:‐アクアス視点‐Aqueath〕>


宵星よいぼし樹林じゅりんはまだなのでしょうか…」


「いい加減着きたいニ~…、もう戦闘はこりごりニ~…」


「言っとくが…宵星よいぼしに着いてからも戦いは続くぞ…? そもそも俺達は戦いに行くんだからよ…」


出発からもう2日経つというのに…未だ宵星よいぼし樹林じゅりんは見えてきません…。今のところ襲ってくる猛獣しか見えてきません…。


ニキ様とアレス様がとても頼りになりますので、今のところ問題なく進めていますが…連日連戦で疲れも溜まってきてます…。


かなり自由奔放に動いてしまう謎生物達この子達の子守りも大変ですし…、心の底から早く着きたいと思ってしまいます…。


本当に…何故こんなことになったのでしょう…。何故こうなったんですかニキ様…? ニキ様のせいですからねこの状況は…。


石版の手掛かりがあったのは良かったですが…、本当であればカカ様と合流できていましたのに…。ああ…カカ様に会いたいです…。


「 “ウクゾド! クチモテキ! クチモテキ!” 」


「口モテ気!? そんな限定的なモテが存在するニ…!? ──するニ…?」


「俺が知るかよ…」


「そういう意味ではないと思いますよ…、まあ意味も分かりませんけれど…。何か伝えたいことがあるみたいですね」


クギャ様の背に乗る謎の子達は、前方を指差して何やら騒ぎ始めた。今の所変わったものは見えてませんが…。


一体何に反応しているのか…、言葉の意味が分からない以上…自分達でそれを認識をする他ありませんね…。


念の為武器を構え…前方に細心の注意を払いながら進んでいくと、不意に気になるものが視界に飛び込んできた。


シャ…ボン玉…? 薄っすら青みがかったシャボン玉のようなものが…木々の奥からプカプカ浮きながらこちらに流れてきた。


その数は進むにつれて少しずつ増えていき、何だか不思議な気持ちを抱かせる。特に危険はなさそうですが…これは一体…。


「 “クチモテキ!! クチモテキ~!!” 」


「──どうやらついたみてェだぞ…例の場所に」


少し先の方…不自然な暗がりが目についた。今日は3日振りの快晴、木々で溢れていても木漏れ日は当たり前に届く。


それなのに…どういうわけか夜のように暗い…。青みがかったシャボン玉はそこから流れているらしく…仄かに光る様は霊魂のよう…。


まるで別世界の入口…、わたくしにも分かります…あそこがなのだと…。



宵星よいぼし樹林じゅりん


「わあァァァ…! なんて幻想的な光景ニ…! 感無量ニ…!」


「本当に凄いですねこれは…、カカ様にも見ていただきたかったです…」


空を埋め尽くす闇と…その中に輝く無数の光──まるで夜空…〝宵星よいぼし〟の由縁ここにありですね。とても言葉にならない美しさ…。


これだけでも十分なのに、先ほどのシャボン玉が加わることで美しさが一入ひとしお増している。死後の世界と形容しても遜色ない。


「この世にこんな綺麗な空間を生み出す木があるとはニ…」


「〝夜影樹ノーツウッド〟っつってな、日光をより集める為に葉も幹も根も、何もかもが黒っぽい木だ。日光から得たエネルギーのせいか…木の実だけは輝いてるがな」


ついつい本来の目的を見失いそうなほど見入ってしまいますね…。予定も目的も無かったら…一日中こうして上を見上げてたかもしれません…。


ふと下に目をやれば、夜影樹ノーツウッドの太い根から綺麗な青藍の花が咲いている。葉っぱがぼんやりと光り、中央からはシャボン玉が排出されていた。


このシャボン玉はこの花が生んでいたのですね。どの花も夜影樹ノーツウッドの根から生えている辺り、発光の原理は木の実と一緒かもしれませんね。


「感動すんのは構わねェが、周囲の警戒は欠かすなよ? ここは昼夜問わず暗ェ…、ここに生息してる生物は…この闇に適応した奴等ばかりだろうからな…」


「急に出てきてバクンッ!とかもあり得るってことニね…、そう考えたらこの暗さが一気に恐ろしく感じてきたニ…」


仄かに光っているシャボン玉のおかげで、ある程度の視野は確保されていますが…裏を返せばいつまでも目が慣れないということ…。


シャボン玉の無い暗闇から急襲を受けたら…いままで通り反応できるかも怪しいですね…。油断なりません…。


「 “ウクゾド! ツヤイコワツケヤッテ!” 」


「はいはい…分かりましたからスカートを引っ張らないでくださいぃ…」


もはや心の底から仲間だと思われているのか…随分親しく接してくるようになりましたね…。わたくしもアレス様も途中から帽子被ってすらいないのに…。


目的を終えてもついてこなきゃいいですが…。まあその時はニキ様に任せましょう…、自己責任です…。


これ以上グイグイ引っ張られるのも嫌ですし…早いとこ例の〝魚〟を見つけてやっつけてしまいましょう…!


──でもどこに居るのでしょう…? っというかこんな暗い森の中からどうやって見つけ出せばよいのでしょうか…?


餌でも撒けば勝手に現れてくれたり…っはないですよね流石に…。そんなことをしては…標的以外の危険生物までわらわら集まってきてしまいそう…。


「──止まれ…! 何か居やがる…!」


アレス様は突然歩を止め、正面を見つめたまま剣に手を伸ばした。わたくしにはまだ何も見えませんが…何かが居るのは確かなようですね…。


折畳銃スケールを展開し…正面に広がる闇を注視する。何も見えない暗淡の間…、そこをまばらに浮かぶシャボン玉が通り掛かった。


ぼんやりと差した光明は…闇に蠢く〝何か〟を照らし出した…。黒い毛皮で全身を覆ったオオカミの群れ…、4頭ほど見えましたが…恐らくはもっと居ますね…。


光が遠ざかるにつれて姿は暗闇に溶け…、気付けば四方から唸り声が向けられている…。囲まれてしまいましたか…。


「ニキ様…! 周囲を照らせる道具アイテムはありませんか…?!」


「探せばあるかもしれないニけど…この暗さで見つかるかどうか…」


ニキ様が何か良い道具アイテムを見つけてくださるまでの間…何とかこの膠着状態を維持しなければ…。


オオカミは警戒心の高い生き物…、じっくり標的を観察し…攻撃できる隙を見つけるまでは迂闊に攻めてこない筈。こちらが下手に動かなければ…


「 “イテキガァァ! ツケヤッロォォォ!!” 」


「「「 “ヴォォォォ!!!” 」」」


「ちょ待ってください…!? そんな軽率に…!」


謎の子達は槍を構えて特攻…、何も見えない闇の中に突っ込んだ…。当然オオカミ等もこれに反応し…雄叫びを上げて臨戦態勢…。


いつ襲い掛かってきてもおかしくない最中…背後からシャボン玉を凌駕する輝きが溢れた。オオカミ等も突然の光に少し戸惑っている。


「見つけたニよー! グラードラ草原で採取していたキラキラ光る花ニー! オラァオオカミ共ー! この威光にひれ伏せニー!」

※第15話・16話参照


ニキ様のおかげでオオカミ等の姿は丸見え、これならば恐れるに足りません…! 戸惑っている今のうちに、先制攻撃を仕掛けましょう…!


「〝炸裂弾さくれつだん〟!!」

「〝無心の剣フロー・ブレイク〟!!」


得意の闇を失い…加えて先制攻撃を許してしまったオオカミ等の勢いは無と化し、一斉に森の奥へと逃げ出した。


少し拍子抜けですが…ニキ様があの花を見つけてくださらなければ、かなり苦しい戦いを強いられてしたかもしれません…。


「はっ…! そういえば謎生物達あの子達は…?!」


「 “ツケヤッタァ! ツケヤッタァ!” 」


「あっ…大丈夫でしたか…、っというか無傷で3頭も討伐してますね…。ひょっとしてまあまあ強いのでしょうか…」


「まあ独自の言語で会話できるくらいには知性あるからな…、上手いこと連携して戦う能があるんだろ…」


思わぬ誤算…、まさか戦力にカウントできるなんて…。流石に大型獣相手は無理なのでしょうが…厄介な小型獣に対抗できる力を持っていたのは僥倖でしたね。


この調子ならスムーズに奥へと進めそうですが…、こうも戦力がしっかりしていると…何だか思うところがありますね…。


カカ様達の方は、主戦力がカカ様・ロイス様・カーリー様の3人だけで…カーリー様は現在罹患の身…、実質戦力はたった2人…。


手紙には妖精族フリルの存在が明記されていましたが…、妖精族フリルが戦力になるとはとても思えませんし…。


カカ様…、前途多難だとは思いますが…どうか頑張ってください…。こちらは必ず手掛かりを入手し…可能ならば石版も手に入れてみせますから…。


「おい頭巾、用が済んだらその花しまっとけ」


「えっ、道中使わないニ? こんなに暗いんだからあった方がいいニよ」


「進む分にはシャボンの明かりだけで十分だ。むしろこの暗さじゃちょっとの光すらも目立っちまう…、余計なもんが寄って来るかもしれねェぞ」


十分対抗出来得る戦力はあれど…余計な消耗は避けて然るべきですからね。連日の移動と戦闘による疲労もありますし…できる限り温存するのが正解でしょう。


シャボン玉の光を頼りに、わたくし達は慎重に奥へと歩を進める。どこに潜んでいるとも分からない…例の〝魚〟を求めて──。




     ▼   ▽   ▼   ▽   ▼




──昼過ひるす


あれからず~っと歩き続けましたが…依然〝魚〟の姿はどこにも無し…。それどころか何一つ変わったことが起きていません…。


せいぜい熟した輝く木の実がニキ様の頭に直撃したくらいです。それ以外は何も起きず…逆にこの静けさが不気味なほど…。


変に意識しすぎてか…終始何者かに見られているような気がします…。落ち着かない…、永遠にこの暗闇から出られないのではないかと思ってしまう…。


「 “ヴ?! キヤガカ! キヤガカ!” 」


「おうどうした…? ──あん…? 何の光だありゃ…」


謎の子達が何かを見つけたらしく、必死に指差す方向へと目を向けると、遠くの方に幾つもの小さな光が見えた。


光は赤→青→黄色と変色してはまた赤に戻る…そのサイクルでずっと光り続けている。そんな未知の発光体は…まるで蛍の群れのように漂っていた…。


一見ただ綺麗な光景ですが…不思議と胸中にざわつきを覚えた…。そしてその胸騒ぎに応えるかのように…光がこっちへ近付いてくる…。


たまたまこっちへ向かって来たのか…、それとも明確に敵対的な意思を持って向かって来ているのか…。


ひとまずニキ様のリュックの後ろに隠れながら、いつでも援護射撃できる準備を済ませておく。細々とした生物は狙撃手には向きませんから…。


緊張感が漂う中…ついに謎の光が迫ってきた…。凄い速さでわたくし達の間を縫うように通り過ぎていく何か…、されどこの暗さと素早い動きで正体が分かりません…。


襲ってくる様子が無いので、ニキ様は手で捕まえようとしますが…まったく上手くいってません…。謎の子達も槍を突いてますが…何も刺さらず…。


それを見兼ねてか…アレス様は狙いを定めて素早く鞘から剣を抜くと、見事剣先に発光体を突き刺した。


全員でその発光体を覗き込むと、それはだった。暗闇で退化したであろう白い目…びっしりと並んだ牙…そして色を変えながら輝く鱗…、結構見た目怖い…。


「この魚が…謎の子達の言う〝魚〟でしょうか…?」


「どうだろうな…、今のとこ襲ってくる様子もねェし…この程度の奴等なら謎の子達コイツ等だけでも対処できるだろ…」


確かに…、数は物凄いですが…さっきのオオカミの方が明らかに強そうですしね…。っとすればこの魚は関係ない別固体…?


宙を泳ぐ魚ってだけでかなり珍しいのに…似たような生物が何種も生息しているのでしょうか…? 本当飽きさせない場所ですねネブルヘイナ大森林…。


剣に刺さった魚はやがて動かなくなり、それに合わせて鱗の輝きも失われてしまった。何だか儚く思えてきますね…。


「ほら頭巾、オメェにやるよ」


「うわわわァ…!? 急に投げるなニ…! 魚どこいったニ…?!」


突然魚を投げられたニキ様は反射的に手で跳ね飛ばし、そして慌ててその魚を拾いに行った…。一応拾いに行くのは旅商人の性ですか…。


「まったく…素材は一つとして無駄にできないというのニ…。──ぶえっ…!? ニィ…? 何かにぶつかったニ…?」


「どうされまし…──ニキ様…! 離れてください…!」


何もない暗闇にぶつかったニキ様…、しかしその暗闇はすぐに正体を現した。赤青黄色と発光し始めた鱗は…先ほどの魚と同じ。


しかし問題はその大きさ…、先ほどの小魚とは比べ物にならないサイズ…。わたくし達をぺろりと平らげてしまえそうなほど…。


「 “ツヤイコワ!! ツヤイコワ!!” 」


「どうやらコイツが例の〝魚〟みてェだな…。しっかし何だこのデカさ…ほんとにさっきのと同種か…?」


「親個体…もしくは特異個体かもしれませんね…」



 ≪颶風魚ハーガラ

輝く鱗を持ち、宙を泳ぐ小魚〝軟風魚ミグラ〟の成長固体。颶風魚ハーガラまで成長する個体は珍しく、軟風魚ミグラとは別種と思われることが多い。



「めっちゃビックリしたニ…! 頭巾から心臓落ちるかと思ったニ…!」


「どういう体構造してんだ…?」

「頭巾が本体なんですか…?」


ニキ様は走ってこっちへ戻って来ましたが、怪魚は特に動きを見せず、悠々と宙を泳いでいる。さっきまでは寝ていたのでしょうか…。


怪魚はわたくし達に見向き一つせず…このままどこかに行ってしまいそう…。こんな広い暗闇の中で見失うわけにはいきません…!


「先制攻撃ですニキ様…! ビックリさせられた恨みを込めて、もう思いっきりやっちゃってください…!」


「任せるニ! 体構造をツッコまれたショックも込めるニ!」


「なんか悪かったな…」


ニキ様はリュックの肩紐を掴み、頭の上まで持ち上げながら突進。悠々と泳ぐ怪魚の側部に、激重リュックを力いっぱい叩きつけた。


浮いているとはいえ怪魚も相当な重量の筈なのに…かなり派手にぶっ飛んで地面に倒れた。なんて凄まじい威力…流石ニキ様…。


しかし怪魚はすぐに起き上がり…生気のない白い目で見つめてきた。意外とピンピンしてますね…、あの輝く鱗は相当硬いようです…。


「ニニニー…あんまり効いてないっぽいニね…、なら今度はもっと本気で殴って──ニ…? 何か様子がおかしいニね…」


「本当は効いていたんでしょうか…」


怪魚は不意に体を捩じると、顔を上に向けて口をがっぱり開けた。痛みに悶えている…わけではないですよね…。


少し様子を見ていると…どういうわけか徐々に体が膨らんできた…。その様はまるでフグのよう…、どんどん膨らんでいく。


ただの威嚇目的なのであればそこまで怖くありませんし、むしろ攻撃できる面積が増えてありがたいぐらいです。


今のうちに炸裂弾さくれつだんを装填してしまいましょう、もしかしたら一撃で破裂死させられるかもしれません。


“プクゥゥゥゥゥゥウ!! ──ビッ!”


「へ…?」

「ニ…?」

「あ…?」

「 “ギィ…?” 」


最大まで体を膨張させたかと思えば、突然鱗と鱗の間に幾つもの切れ目が現れ…一斉に開いた。それがただの威嚇ではないと気付いた時にはもう遅かった…。


直後怪魚の体は一気に縮み…物凄い圧力の風が四方八方に散った…。大樹が軋むほどの強風に…わたくし達は為す術なく飛ばされてしまった──…。







<〔Perspective:‐アレス視点‐Alaes〕>


つつつぅ…、クッソ…結構吹き飛ばされたな…、アイツ等ともはぐれちまった…。どんな生態してんだよあのクソ魚め…」


木に何度も衝突するわ…地面の上を転がるわで方向を完全に見失っちまった…。俺はどっちから来たんだ…?


一番遭難したくない場所で1人になっちまったな…、とりあえずあのクソ魚のとこに戻らねェと…。


「 “クンクン…” あー…微弱だけど一応嗅ぎ取れはするな…」



 ≪蟲人族ビクトの特性:〝蟲色こいろあかし〟≫

蟲人族ビクトは高い嗅覚を持ち、触角で広範囲のにおいを嗅ぐことができる。特に甘い香りには敏感、蟲故。



まあまあ距離がありやがる…、こういう時羽があれば楽なのによ…。なんて文句言ってられねェし、一回加速使って急ぎで戻るか…。


“──…!”


「あ…? なんか遠くで音が…、いや気のせいか…。とりあえず魚がどっかに行っちまう前に戻らねェとな…!」







<〔Perspective:‐ニキ視点‐Nikhi〕>


「ニュニュニュー…!! ふぅ…何とか耐え切ったニ、流石怪力剛力なニキニ! ──でも皆飛ばされちゃったニね…、また1人になっちゃったニ…」


まさかあんな強風を生み出すとは…おもっきし油断してたニ…。咄嗟に木の幹を掴んで堪えたニけど…爪剥がれるかと思ったニ…。


皆大丈夫かなぁ…、アクアス達は何とかできそうニけど…あの謎生物達は大丈夫かニ…。まあクギャと一緒だったし…心配ないと思うことにするニ。


「 “キューーン!” 」


「おっ! やる気になったみたいニね! 先制攻撃したのはこっちニけど、皆を吹き飛ばした分ニキが殴り飛ばしてやるニ!!」


“…ォーンッ!”


ニ? 遠くから爆発みたいな音が聞こえたような…、もしかしてアクアス…? 向こうで厄介事にでも巻き込まれちゃったニ…?


うーん…気になるニけど…ニキがこの場を離れるわけにはいかないしニー…。せめてアレスが居てくれれば任せれたのニ…。


「 “キュオーーーン!!” 」


「なんて人の心配してる場合じゃないニね…! 思いっきりぶん殴ってやるニ…!」







<〔Perspective:‐アクアス視点‐Aqueath〕>


「ううぅ…! このままじゃマズいです…、何とかして止まらないと…。一か八か…〝炸裂弾さくれつだん〟…!!」


“ボォーンッ!!”


進行方向に炸裂弾さくれつだんを放ち、小爆発によって生じた爆風で強烈な向かい風を起こした。ちょっと熱かったですが…何とか止まれました…。


たたた…、まさかこんなことになろうとは…。完全に予想外でした…、本当にネブルヘイナの生物は驚きでいっぱいですね…。


とりあえず〝軌跡〟を辿って元の場所に戻り、皆様との合流が最優先ですね。魚の追跡は〝軌跡〟を辿ればできますし。


“──っ…! っ…! ざっ…! ざっ…!”


元の場所へ戻ろうとすると、少し離れた木の後ろから足音が聞こえてきた。もしかしてわたくしと一緒の方向に飛ばされた方が居たんでしょうか…?


「んあぁぁ…マジで右も左も分からねェ…、グレー様達はどこに行ってしまったのか…。こんなとこで迷子になるなんて…評価が下がっちま…──おっ?」


「え…?!」


てっきりニキ様かアレス様だと思ったのに…木の後ろから出てきたのはまさかの獣族ビケ…! しっかり武装したトラの獣族ビケ…!


この人絶対サイアック獣賊団の方ですね…〝グレー様〟とか言ってましたし…。よもやこんな所で出会うとは…、ってかやっぱり来てたんですねこの方々…。


「オマエは…人族ヒホの賊…?! まさかこんな場所で出会うとは…何たる僥倖…! ここで貴様を消せば…俺の迷子は帳消しにできる…! オマエに恨みはないが、ここで死んでもらおうメイド…!!」

< サイアック獣賊団グレー隊幹部〝獣族ビケ〟Guado Mudeoガッド・ムディオh >


「残念ですがお断りです…! 迷子と敗北を抱えて帰って、上司にキツく怒られてください…! それがお似合いですよネコちゃんには…!」



──第116話 宵星の樹林〈終〉

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