目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第121話 出でた闇

奴は短い間隔で6回も急な方向転換をし、葉は既にボロボロ。恐らくあと4回も急な方向転換をすれば、走れなくなる筈。


さっきまでの要領で強引に方向転換を促してやろう。パークの葉と体を掴んでグイ~っと伸ばし、ちょこちょこ駆けるハヤタタに狙いを定める。


“──ギュンッ!”


「…っ! きたか…」


パークを射出するより早く、ハヤタタは突然右へと進路を変えた。まだ何もしてないのに方向転換したってことは…いつものやつだ…。


食獣植物に守ってもらおうとしてやがる…。まあ遅かれ早かれそうなると思ってたし…こっからが正念場だな…。


「私がメインで追跡する! ロイスは少し間隔を開けながら追ってくれ!」


「分かった!」


ひとまずこのまま私がハヤタタの背中を追い、タイミングを見てロイス側に曲げる。食獣植物が居ようが居まいが、やる事は何一つ変わらねェ。


危険が増えたのはもちろんそうだが…それに関しても秘策がある…! 右手に掴んだままのパークを使った画期的な方法が…!


「──エっ…!? おネエさん何するつもリ…!? それは流石に死ぬヨ…!? 友達の所に行っちゃうヨ…?!」


「大丈夫だ私を信じろ…! もしオマエが死ぬとしたら私の後だ、恐れず突っ込んでこい…! パークパチンコ、略して〝パチンコ〟! 発射!」


「ボク要素死んダ? ──ウワアアアアアアアア…!!」


ハヤタタ目掛けてパークを射出。しかし木に巻き付いていたつたが独りでに動きだし、素早くパークを絡め捕った。


やっぱ潜んでやがったか…アレに絡まれてたら大幅に距離を離されちまってたし、パークを先に行かせた(飛ばした)のは正解だったな。


衝棍シンフォンに手を伸ばし、何かされちまう前につたを破壊してパークを救出。ほとんど足止めを喰らわずに追跡を続行できた。


「良い働きだったぞパーク、この調子で頼むぜデコイ」


「ネーネーおネエさんの略し方でパチンコを略したらサ、チ〇コになるよネ?」


「おう口を慎みやがれよバカタレ、助けねェぞ…?」


アホなことをぬかすパークをまた引き伸ばし、再度ハヤタタ目掛けて射出。絡み捕られてもどうせ助けれるから、気楽に飛ばせていい。


今度はどんなのが待ち受けているのかと思いながら様子を見ると、樹冠から木の実のような物が複数垂れ下がってきた。


マジで多種多様だな食獣植物共…。でもまあどうせ絡め捕って養分吸うか、消化液でデロデロに溶かすかの2種類だけだろうし…救出は容易だな。


「 “──ゲギャギャギャギャギャ~!!” 」


「おっとォ…!?」


単なる木の実かと思ったら…突然ガッパリと縦に開きやがった…。ちゃんと鋭い牙も完備…、案の定パークはがっつり噛み付かれた…。


何か凄くデジャブ…前にも見たぞこの光景…。そうかこういうタイプも居んのか…、ガチで多種多様だな…。とりあえず助けるか…。


「〝震打しんうち〟!」


「イタァァァァイ…?!」


他の垂れ下がった木の実共の攻撃を躱し、パークをはみはみする木の実を震重石の衝撃で破壊。打ち上げられたパークをキャッチして、追跡を続行する。


「大丈夫かパーク…噛まれた箇所は痛むか?」


「噛まれた痛ミよりおネエさんの方ガ痛かっタ…」


「そうか大丈夫か、安心したぜ」

「オニー…バカー…」


妖精族フリルは体が凄ェ柔らかく、噛まれた程度じゃ傷すら付かねェのだから…あまりにデコイに向いている…。


妖精族フリルの主な死因は老衰か丸吞みって言われてるだけあるな…、パークにゃ悪いが…ハヤタタを捕らえるまでは役に立ってもらおう…。


“──ギュンッ!”


「むっ…今度は左か」


ハヤタタはまた進路を変えた、次なる食獣植物の方へ誘おうってわけだ…。だが残念、左側そっちからはロイスが走って来ている、鉢合わせだ。


「〝酸噴射ゾール・アウト〟!」


ロイスはハヤタタの進行方向に大量の酸を吹き出した。直進すれば酸の餌食、かと言って左へ曲がればロイスが、後退すれば私が居る。


となりゃあ残る選択肢は一つしかねェ、それが分かりゃ先手を打てる…! ハヤタタが方向転換する前に、パークを右斜めに射出。


予想通りハヤタタは危険のない右へ曲がった、っがその進路を塞ぐようにパークが急接近している。とすれば…。


“ギュンッ! ズサー…!”


「ビンゴ! やっぱ急な方向転換するよなァ! そんでようやく来たかこの時がっ!」


ハヤタタは急な方向転換で曲がり切れず、勢いよく地面の上を転がった。下の葉に限界が来た証拠だ、もう走って逃げれまい。


痛みとかは無いだろうし、片足だけででも逃げようとはするだろうが…そんなのは焼け石に水だ。簡単に追いつける。


もう食獣植物の方へは行かせねェ…! その前に捕獲だ…!


“──スッ…、タタタタタタタッ!”


「おおおっ…!? 上の葉そっちでも問題ねェのかよ…!」


ハヤタタまさかの逆立ち走法…、腕のように振っていた上の葉で逃走し出した…。何ちゅう生存本能…恐れ入るな…。


とりあえず右に膨らみながらパークを拾い、斜め後ろからハヤタタを追う。振り出しに戻った気分だが…めげずにやり続けるしかねェ…。


9回目の方向転換で葉は破れた…、葉の限界を知れただけ収穫はあったと思うべきか…──…っ? 何だ…? 何か…変だ…。


左斜め前を走るハヤタタだが…明確に差が縮まってきている。さっきまではほんの少しずつしか差を埋められなかったのにだ…。まさか…。


頭に浮かんだ可能性、それを試す為一気にハヤタタへ距離を詰める。飛び掛かればワンチャン捕まえられる距離まで来ると、ハヤタタは左へ曲がった。


だがさっきまでの急な方向転換ではなく、わずかに外側へ膨らみながら曲がった。──これは…やっぱそうことか…!


すばしっこいのは変わらねェが…下の葉に比べて上の葉は走り慣れてない…! 急には曲がれねェし速度も出ねェ…単なる付け焼刃だ…!


これならわざわざパークを射出するまでもねェ…ロイスと連携して追いかけてればいずれ手が届く…! 食獣植物に妨害されてもそう影響は出ない…!


ようやくだ…ようやくコイツとの追いかけっこを終わらせられる…!


“──キーン…!!”


「…っ! オラァ…!!」


「ワワワっ…!? 何ナニ…!? 何ゴト…!?」


背後から迫ってきた何か…。咄嗟に衝棍シンフォンで弾き飛ばしたが…今までのとは感触が全く違う…。今のは…金属…。


「カカ…!?」


「私のことはいい…! それよりハヤタタを追ってくれ…! 今の状態なら1人でも十分捕獲可能な筈だ…! あとコイツも役立ててくれ…!」


「ウワアアアアアアアッ…?!」


ロイス目掛けてパークを投擲。あの2人にはこのままハヤタタを追ってもらう、この好機チャンスをみすみす逃すわけにはいかない。


きっとアイツ等ならハヤタタを捕まえられる…、今はそう信じて…こっちに集中した方が良さそうだ…。


「よォ…! 随分なご挨拶じゃねェか…! 背後から不意打ちしたり黒いローブ着やがったり、ちょー陰湿だなァオイ…! 根暗に武器は似合わねェぞ~?!」


「助言どうも」

「…。」


奇襲を仕掛けてきやがった不届き者は2人組、木の枝の上から私を見下ろしている。両方女…? いや片方男か…? フードのせいで分かりづれェ…。


片方は額から立派な角が生えている、グヌマさんと同じカブトの角だ。流石に何カブトかまでは分からんがな…、蟲嫌いなもんで…。


コイツ等が何者なのか知らねェけど、とりあえずコイツ等が敵ってことだけはハッキリしてる。黒いローブ着てるし…コイツ等が例の異教徒共か…?


「私に何か用か…? オマエ等みたいな日陰共と知り合った覚えはねェ筈なんだが…どちら様で…?」


「私達はランルゥ教団の信徒…神に背く不敬者である貴方の命を頂戴しにきた者…。魔物を討って回ってる人族ヒホは貴方で間違いないわね…?」


「そういう確認は攻撃する前にするもんだぜ…? テメェ等の信仰する神とやらは随分とマナーがなってねェんだな、ネズミでも信仰してんの~?」


そういうと女の目付きは鋭くなった。感情表に出やすいタイプね…これは怒らせればボロが出るタイプと見た、ガンガン煽ってこ。


っでその横の…角生えてる無口君は何なんだろうか…、何も喋らねェし表情も崩れねェ…。やる気あんのか…? 単なる荷物持ちってわけじゃねェんだろうが…。


「不敬に続いて侮辱まで…! その首必ず刎ねてやる…! やるよ〝グイ〟…! 神に代わってあの女をあの世に送るよ…!」

< ランルゥ教徒〝蟲人族ビクト〟Lemoh Krarhiレモ・クラリボルbor >


「うん…お姉ちゃん…」

< ランルゥ教徒〝蟲人族ビクト〟Gouy Krarhibグイ・クラリボルor >


フードを外してやる気満々、面倒くせェがやるっきゃねェか…。男女の刺客…しかも姉弟なのかコイツ等…、随分中性的な顔立ちしてるな弟…。


弟の方はカブトムシで確定だが、姉の方は何の蟲人か今は分からねェな…。面倒な蟲でなければ何でもいいが…。


武器の方は、姉が…何だアレ…〝くい〟か…? よく刺さりそうな黒く鋭い杭を2本、両手に握りしめている。──喰胃くい樹叢じゅそうに…くいか…──フフッ…。


んで弟の方が〝鎖鎌くさりがま〟か…また随分マイナーな…。2本の鎌と…その柄と柄を繋ぐ長い鎖…、背後から私に攻撃してきたのはコイツか…。


ってか鎖鎌くさりがまって鎌2本だったか…!? 鎌に鎖分銅が付いてるのを鎖鎌くさりがまと呼ぶ筈では…!? ジド兵長からはそう習った筈なんだがな…。


とりあえず姉が近接、弟が中距離って感じね。どっちから先に潰せば後々楽かねェ…、何かどっち先に潰しても面倒くさくなりそうだけど…。


まあどうせどっちも伸すんだ、悩んだって仕方ねェか。初っ端から数的不利なんだ…気ィ引き締めていこう…!


2人は木から下りると、案の定姉が距離を詰めてきた。弟の動きに注意しながら対処しよう…、実力拝見だ。


特にフェイントを絡めたりせず、右手に握った杭をシンプルに突き出してきた。いきなり顔狙いか…流石に避けれるがおっかないな…。


初撃を躱された姉は、今度は素早くしゃがむと左手の杭で脚を狙ってきた。これも後ろに跳んで難無く回避。


足が地面に着き次第、すぐに前へ踏み込んで衝棍シンフォンを頭の上に振りかぶる。立ち上がる前に一発キツいのを喰らわせてやらァ…!


“──ジャラジャラジャラッ!”


「げっ…?! おおおっ…!?」


振り下ろす直前…衝棍シンフォンに鎌付きの鎖が巻き付いてきた。しかも突然のことで一瞬体が硬直した隙に…そのまま衝棍シンフォン持ってかれちまった…。


「いいよグイ…! オラ死ね女ァ…!!」


私が丸腰と見るや、姉は強気に杭を突き出してきた。その甘い右手を左手でしっかりと掴み、ピンと伸びた腕に右肘の反撃カウンターを決めた。


そのまま裏拳で右頬を殴り、掴んだ手を離して左脚を軸に体を回し、腹部へ強烈な後ろ回し蹴りを炸裂させた。


「う˝っ…! くぅ…よくも顔を…、絶対殺してやる…!」


「その程度で怒んなよなお姉ちゃん、そんなにお顔が大事かァ? それなら端っから戦いの場に来ない方がいいぜ? 意味分かる? お子ちゃまには難し過ぎたカナ?」


「バカにして…! 殺す殺す殺す…!!」


コイツめっちゃ挑発効くな…大丈夫かコイツのメンタル…。こりゃさぞ弟君は苦労してることだろう…、毎日殴られてたり…?


──よく見りゃ顔や首に薄っすら傷跡があるな…それも2つ3つじゃない…。姉にも弟にも…姉弟仲良く傷だらけ…。


刃物による綺麗な跡ってわけでもねェし…どっちかというと殴られて皮膚が裂けたような不格好な跡だ…。


なーんか闇深ェぞコイツ等…、やりづれェなオイ…。私の戦い方結構そういう感じだぞ…、殴る蹴るのいかつい喧嘩スタイルだぞ…。


まあ向かってくる以上は仕方がねェか…、殴られ慣れてると考えよう。そうだそれなら気持ちが楽だ、思いっきりぶん殴ってやる。


とりあえず盗られた衝棍シンフォンは返してもらおう。衝棍シンフォンは弟君の後方に雑に捨ててあるし、強引に取り返しに行く。


「…っ! グイに近付くなァ!!」


流石にすんなり通してはくれず…狂犬の姉が立ち塞がった。一心不乱に繰り出してくる攻撃…、何とか捌けるが…その勢いは増すばかり…。


とは言え動きはやはり単純、油断しなければ喰らうことはまず無い。こうして姉と接近していれば、弟君も下手に手出しはできねェしな。


さて…大体動きの癖は掴んだし、ここらで反撃に転じる。くいを突き出してくるタイミングを見計らって素早くしゃがみ、左脛に拳を叩き込む。


更にそこから立ち上がりざまに腹部を三発殴った。苦し紛れに反撃を仕掛けてくるが、それもしっかり防御して連撃継続。


首に手刀を入れ、右頬を殴り、腹部に膝蹴りを決め、丸まった背中に肘打ちをかました。そのまま背後へ回って後ろから姉の両手首を掴み、くいを太股に突き刺した。


「うあああああっ…?!!」


「悪く思うなよお姉ちゃん…! 衝棍シンフォン取り返してくるまでそこでジッとしとけ…! 後でまた可愛がってやっから…!」


近接主体の姉が飛び道具持ってるとは思えないし、安心して弟君だけに集中しよう。正直こっちの方が断然危険だしな…、鎌相手に素手て…。


強さの程もまだ未知数だし…全力で取りかかろう…。目の前で姉がやられてても依然無表情を貫く弟君は、私を直視しながら臨戦態勢に入った。


左手は鎌を握ったままで、右手では鎖をグルグル回している。これ予想以上にどう攻めていいか分からんな…、鞭より分かんねェ…。


だが臆してても始まらねェし…覚悟を決めて真正面から突っ込む。今は〝音〟だけが頼りだ…信じてるぜ私の第六感…。


距離が近付いてくると、弟君は鎖の速度を更に速め、体全体を一回転させて右手の鎌を手放した。


左に大きく膨らみながら向かってくる鎌…。歩幅を合わせて思いっきりジャンプし、辛うじて鎌と鎖を跳び越えた。


だが跳び越えたその鎖を左手で長さ調節し、また体を回して再度仕掛けてきた…。今回といいさっきといい…攻撃の高さが絶妙すぎる…。


横方向の攻撃は…この太股から腰周辺の高さが一番避けづらい…。さっきよりやや高めか…? 私がまた飛び越えると思ってか…?


ならば今度はしゃがんで回避し、走りの速度を上げて一気に距離を詰める。弟君は体を回しながら鎖を素早く手繰り寄せ、右手に鎌を握った。


殴り合える距離まで来ると、弟君は顔目掛けて左手の鎌を振るってきた。少し体を仰け反らせ初撃を回避し、空いた左脇腹に右拳を突き出す。


…っが掴まれ阻まれた、それも左手に…。振った直後に鎌手放して左手空けたのか…!? わざと大振りで隙曝して…攻撃誘いやがった…。


しかも力強ェ…振り解けない…、これじゃ回避しようがない…。そんな中で右手の鎌が振りかぶられた…、もう直感で動くしかねェ…!


少し腰を引き、蹴り上げた右脚を振り下ろされた右腕にぶち当てた。未だ私の右腕は掴まれたまま、残された左腕に全てを託して毒ナイフを握る。


鞘から抜き取った毒ナイフで素早く腕を切り付けた。刃に塗っておいた即効性の酔毒すいどくは、あっという間に体を蝕むだろう。


弟君の意識が体を侵す毒へ逸れた隙を突いて腕を振り払い、右脇腹に蹴りを喰らわせてぶっ飛ばした。


出来る事なら追撃したかったが…今は衝棍シンフォン優先。地面に捨てられた相棒を拾い上げ、2人の方へ体を向けた。


「グイ…!! 大丈夫…!? ほら治癒促進薬ポーション飲んで…! 早く…!」


「うん…お姉ちゃん…」


太股に刺さったくいを抜いた姉が弟君に駆け寄った。それ自体は別にいいが…治癒促進薬ポーションマジ…? ちょっとナイフで切って脇腹蹴っただけだぜ…?


もったいねェな…こっちとしては全然構わねェけども…。──しかし…マジで何なんだコイツ等は…?


てっきり特攻仕掛けてきた姉の方が強いのかと思ったが…弟君の方が断然強い…、才能も全然弟君の方がある…。


それなのにやたら前に出てくる庇護姉と…とことん意思を感じられない無表情な弟…。変な姉弟…闇深い2人…、コイツ等相当なもん抱えてやがるな…。


「──よし…いくよグイ…! 全ては神の為に…!」


「うん…」



──第121話 出でた闇〈終〉

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?