奴は短い間隔で6回も急な方向転換をし、葉は既にボロボロ。恐らくあと4回も急な方向転換をすれば、走れなくなる筈。
さっきまでの要領で強引に方向転換を促してやろう。パークの葉と体を掴んでグイ~っと伸ばし、ちょこちょこ駆けるハヤタタに狙いを定める。
“──ギュンッ!”
「…っ! きたか…」
パークを射出するより早く、ハヤタタは突然右へと進路を変えた。まだ何もしてないのに方向転換したってことは…いつものやつだ…。
食獣植物に守ってもらおうとしてやがる…。まあ遅かれ早かれそうなると思ってたし…こっからが正念場だな…。
「私がメインで追跡する! ロイスは少し間隔を開けながら追ってくれ!」
「分かった!」
ひとまずこのまま私がハヤタタの背中を追い、タイミングを見てロイス側に曲げる。食獣植物が居ようが居まいが、やる事は何一つ変わらねェ。
危険が増えたのはもちろんそうだが…それに関しても秘策がある…! 右手に掴んだままのパークを使った画期的な方法が…!
「──エっ…!? おネエさん何するつもリ…!? それは流石に死ぬヨ…!? 友達の所に行っちゃうヨ…?!」
「大丈夫だ私を信じろ…! もしオマエが死ぬとしたら私の後だ、恐れず突っ込んでこい…! パークパチンコ、略して〝パチンコ〟! 発射!」
「ボク要素死んダ? ──ウワアアアアアアアア…!!」
ハヤタタ目掛けてパークを射出。しかし木に巻き付いていた
やっぱ潜んでやがったか…アレに絡まれてたら大幅に距離を離されちまってたし、パークを先に行かせた(飛ばした)のは正解だったな。
「良い働きだったぞパーク、この調子で頼むぜデコイ」
「ネーネーおネエさんの略し方でパチンコを略したらサ、チ〇コになるよネ?」
「おう口を慎みやがれよバカタレ、助けねェぞ…?」
アホなことをぬかすパークをまた引き伸ばし、再度ハヤタタ目掛けて射出。絡み捕られてもどうせ助けれるから、気楽に飛ばせていい。
今度はどんなのが待ち受けているのかと思いながら様子を見ると、樹冠から木の実のような物が複数垂れ下がってきた。
マジで多種多様だな食獣植物共…。でもまあどうせ絡め捕って養分吸うか、消化液でデロデロに溶かすかの2種類だけだろうし…救出は容易だな。
「 “──ゲギャギャギャギャギャ~!!” 」
「おっとォ…!?」
単なる木の実かと思ったら…突然ガッパリと縦に開きやがった…。ちゃんと鋭い牙も完備…、案の定パークはがっつり噛み付かれた…。
何か凄くデジャブ…前にも見たぞこの光景…。そうかこういうタイプも居んのか…、ガチで多種多様だな…。とりあえず助けるか…。
「〝
「イタァァァァイ…?!」
他の垂れ下がった木の実共の攻撃を躱し、パークをはみはみする木の実を震重石の衝撃で破壊。打ち上げられたパークをキャッチして、追跡を続行する。
「大丈夫かパーク…噛まれた箇所は痛むか?」
「噛まれた痛ミよりおネエさんの方ガ痛かっタ…」
「そうか大丈夫か、安心したぜ」
「オニー…バカー…」
“──ギュンッ!”
「むっ…今度は左か」
ハヤタタはまた進路を変えた、次なる食獣植物の方へ誘おうってわけだ…。だが残念、
「〝
ロイスはハヤタタの進行方向に大量の酸を吹き出した。直進すれば酸の餌食、かと言って左へ曲がればロイスが、後退すれば私が居る。
となりゃあ残る選択肢は一つしかねェ、それが分かりゃ先手を打てる…! ハヤタタが方向転換する前に、パークを右斜めに射出。
予想通りハヤタタは危険のない右へ曲がった、っがその進路を塞ぐようにパークが急接近している。とすれば…。
“ギュンッ! ズサー…!”
「ビンゴ! やっぱ急な方向転換するよなァ! そんでようやく来たかこの時がっ!」
ハヤタタは急な方向転換で曲がり切れず、勢いよく地面の上を転がった。下の葉に限界が来た証拠だ、もう走って逃げれまい。
痛みとかは無いだろうし、片足だけででも逃げようとはするだろうが…そんなのは焼け石に水だ。簡単に追いつける。
もう食獣植物の方へは行かせねェ…! その前に捕獲だ…!
“──スッ…、タタタタタタタッ!”
「おおおっ…!?
ハヤタタまさかの逆立ち走法…、腕のように振っていた上の葉で逃走し出した…。何ちゅう生存本能…恐れ入るな…。
とりあえず右に膨らみながらパークを拾い、斜め後ろからハヤタタを追う。振り出しに戻った気分だが…めげずにやり続けるしかねェ…。
9回目の方向転換で葉は破れた…、葉の限界を知れただけ収穫はあったと思うべきか…──…っ? 何だ…? 何か…変だ…。
左斜め前を走るハヤタタだが…明確に差が縮まってきている。さっきまではほんの少しずつしか差を埋められなかったのにだ…。まさか…。
頭に浮かんだ可能性、それを試す為一気にハヤタタへ距離を詰める。飛び掛かればワンチャン捕まえられる距離まで来ると、ハヤタタは左へ曲がった。
だがさっきまでの急な方向転換ではなく、わずかに外側へ膨らみながら曲がった。──これは…やっぱそうことか…!
すばしっこいのは変わらねェが…下の葉に比べて上の葉は走り慣れてない…! 急には曲がれねェし速度も出ねェ…単なる付け焼刃だ…!
これならわざわざパークを射出するまでもねェ…ロイスと連携して追いかけてればいずれ手が届く…! 食獣植物に妨害されてもそう影響は出ない…!
ようやくだ…ようやくコイツとの追いかけっこを終わらせられる…!
“──キーン…!!”
「…っ! オラァ…!!」
「ワワワっ…!? 何ナニ…!? 何ゴト…!?」
背後から迫ってきた何か…。咄嗟に
「カカ…!?」
「私のことはいい…! それよりハヤタタを追ってくれ…! 今の状態なら1人でも十分捕獲可能な筈だ…! あとコイツも役立ててくれ…!」
「ウワアアアアアアアッ…?!」
ロイス目掛けてパークを投擲。あの2人にはこのままハヤタタを追ってもらう、この
きっとアイツ等ならハヤタタを捕まえられる…、今はそう信じて…こっちに集中した方が良さそうだ…。
「よォ…! 随分なご挨拶じゃねェか…! 背後から不意打ちしたり黒いローブ着やがったり、ちょー陰湿だなァオイ…! 根暗に武器は似合わねェぞ~?!」
「助言どうも」
「…。」
奇襲を仕掛けてきやがった不届き者は2人組、木の枝の上から私を見下ろしている。両方女…? いや片方男か…? フードのせいで分かりづれェ…。
片方は額から立派な角が生えている、グヌマさんと同じカブトの角だ。流石に何カブトかまでは分からんがな…、蟲嫌いなもんで…。
コイツ等が何者なのか知らねェけど、とりあえずコイツ等が敵ってことだけはハッキリしてる。黒いローブ着てるし…コイツ等が例の異教徒共か…?
「私に何か用か…? オマエ等みたいな日陰共と知り合った覚えはねェ筈なんだが…どちら様で…?」
「私達はランルゥ教団の信徒…神に背く不敬者である貴方の命を頂戴しにきた者…。魔物を討って回ってる
「そういう確認は攻撃する前にするもんだぜ…? テメェ等の信仰する神とやらは随分とマナーがなってねェんだな、ネズミでも信仰してんの~?」
そういうと女の目付きは鋭くなった。感情表に出やすいタイプね…これは怒らせればボロが出るタイプと見た、ガンガン煽ってこ。
っでその横の…角生えてる無口君は何なんだろうか…、何も喋らねェし表情も崩れねェ…。やる気あんのか…? 単なる荷物持ちってわけじゃねェんだろうが…。
「不敬に続いて侮辱まで…! その首必ず刎ねてやる…! やるよ〝グイ〟…! 神に代わってあの女をあの世に送るよ…!」
< ランルゥ教徒〝
「うん…お姉ちゃん…」
< ランルゥ教徒〝
フードを外してやる気満々、面倒くせェがやるっきゃねェか…。男女の刺客…しかも姉弟なのかコイツ等…、随分中性的な顔立ちしてるな弟…。
弟の方はカブトムシで確定だが、姉の方は何の蟲人か今は分からねェな…。面倒な蟲でなければ何でもいいが…。
武器の方は、姉が…何だアレ…〝
んで弟の方が〝
ってか
とりあえず姉が近接、弟が中距離って感じね。どっちから先に潰せば後々楽かねェ…、何かどっち先に潰しても面倒くさくなりそうだけど…。
まあどうせどっちも伸すんだ、悩んだって仕方ねェか。初っ端から数的不利なんだ…気ィ引き締めていこう…!
2人は木から下りると、案の定姉が距離を詰めてきた。弟の動きに注意しながら対処しよう…、実力拝見だ。
特にフェイントを絡めたりせず、右手に握った杭をシンプルに突き出してきた。いきなり顔狙いか…流石に避けれるがおっかないな…。
初撃を躱された姉は、今度は素早くしゃがむと左手の杭で脚を狙ってきた。これも後ろに跳んで難無く回避。
足が地面に着き次第、すぐに前へ踏み込んで
“──ジャラジャラジャラッ!”
「げっ…?! おおおっ…!?」
振り下ろす直前…
「いいよグイ…! オラ死ね女ァ…!!」
私が丸腰と見るや、姉は強気に杭を突き出してきた。その甘い右手を左手でしっかりと掴み、ピンと伸びた腕に右肘の
そのまま裏拳で右頬を殴り、掴んだ手を離して左脚を軸に体を回し、腹部へ強烈な後ろ回し蹴りを炸裂させた。
「う˝っ…! くぅ…よくも顔を…、絶対殺してやる…!」
「その程度で怒んなよなお姉ちゃん、そんなにお顔が大事かァ? それなら端っから戦いの場に来ない方がいいぜ? 意味分かる? お子ちゃまには難し過ぎたカナ?」
「バカにして…! 殺す殺す殺す…!!」
コイツめっちゃ挑発効くな…大丈夫かコイツのメンタル…。こりゃさぞ弟君は苦労してることだろう…、毎日殴られてたり…?
──よく見りゃ顔や首に薄っすら傷跡があるな…それも2つ3つじゃない…。姉にも弟にも…姉弟仲良く傷だらけ…。
刃物による綺麗な跡ってわけでもねェし…どっちかというと殴られて皮膚が裂けたような不格好な跡だ…。
なーんか闇深ェぞコイツ等…、やりづれェなオイ…。私の戦い方結構そういう感じだぞ…、殴る蹴るのいかつい喧嘩スタイルだぞ…。
まあ向かってくる以上は仕方がねェか…、殴られ慣れてると考えよう。そうだそれなら気持ちが楽だ、思いっきりぶん殴ってやる。
とりあえず盗られた
「…っ! グイに近付くなァ!!」
流石にすんなり通してはくれず…狂犬の姉が立ち塞がった。一心不乱に繰り出してくる攻撃…、何とか捌けるが…その勢いは増すばかり…。
とは言え動きはやはり単純、油断しなければ喰らうことはまず無い。こうして姉と接近していれば、弟君も下手に手出しはできねェしな。
さて…大体動きの癖は掴んだし、ここらで反撃に転じる。
更にそこから立ち上がりざまに腹部を三発殴った。苦し紛れに反撃を仕掛けてくるが、それもしっかり防御して連撃継続。
首に手刀を入れ、右頬を殴り、腹部に膝蹴りを決め、丸まった背中に肘打ちをかました。そのまま背後へ回って後ろから姉の両手首を掴み、
「うあああああっ…?!!」
「悪く思うなよお姉ちゃん…!
近接主体の姉が飛び道具持ってるとは思えないし、安心して弟君だけに集中しよう。正直こっちの方が断然危険だしな…、鎌相手に素手て…。
強さの程もまだ未知数だし…全力で取りかかろう…。目の前で姉がやられてても依然無表情を貫く弟君は、私を直視しながら臨戦態勢に入った。
左手は鎌を握ったままで、右手では鎖をグルグル回している。これ予想以上にどう攻めていいか分からんな…、鞭より分かんねェ…。
だが臆してても始まらねェし…覚悟を決めて真正面から突っ込む。今は〝音〟だけが頼りだ…信じてるぜ私の第六感…。
距離が近付いてくると、弟君は鎖の速度を更に速め、体全体を一回転させて右手の鎌を手放した。
左に大きく膨らみながら向かってくる鎌…。歩幅を合わせて思いっきりジャンプし、辛うじて鎌と鎖を跳び越えた。
だが跳び越えたその鎖を左手で長さ調節し、また体を回して再度仕掛けてきた…。今回といいさっきといい…攻撃の高さが絶妙すぎる…。
横方向の攻撃は…この太股から腰周辺の高さが一番避けづらい…。さっきよりやや高めか…? 私がまた飛び越えると思ってか…?
ならば今度はしゃがんで回避し、走りの速度を上げて一気に距離を詰める。弟君は体を回しながら鎖を素早く手繰り寄せ、右手に鎌を握った。
殴り合える距離まで来ると、弟君は顔目掛けて左手の鎌を振るってきた。少し体を仰け反らせ初撃を回避し、空いた左脇腹に右拳を突き出す。
…っが掴まれ阻まれた、それも左手に…。振った直後に鎌手放して左手空けたのか…!? わざと大振りで隙曝して…攻撃誘いやがった…。
しかも力強ェ…振り解けない…、これじゃ回避しようがない…。そんな中で右手の鎌が振りかぶられた…、もう直感で動くしかねェ…!
少し腰を引き、蹴り上げた右脚を振り下ろされた右腕にぶち当てた。未だ私の右腕は掴まれたまま、残された左腕に全てを託して毒ナイフを握る。
鞘から抜き取った毒ナイフで素早く腕を切り付けた。刃に塗っておいた即効性の
弟君の意識が体を侵す毒へ逸れた隙を突いて腕を振り払い、右脇腹に蹴りを喰らわせてぶっ飛ばした。
出来る事なら追撃したかったが…今は
「グイ…!! 大丈夫…!? ほら
「うん…お姉ちゃん…」
太股に刺さった
もったいねェな…
てっきり特攻仕掛けてきた姉の方が強いのかと思ったが…弟君の方が断然強い…、才能も全然弟君の方がある…。
それなのにやたら前に出てくる庇護姉と…とことん意思を感じられない無表情な弟…。変な姉弟…闇深い2人…、コイツ等相当なもん抱えてやがるな…。
「──よし…いくよグイ…! 全ては神の為に…!」
「うん…」
──第121話 出でた闇〈終〉