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138. 史上最強の禁忌

「くっ……」


 俺ののどから、うめくような声が漏れる。レヴィアの表情ひょうじょうけわしさを増していた。これは、もはや戦いですらない。一方的な虐殺ぎゃくさつになるだろう。


「こらアカン……撤退するぞ」


 レヴィアはウンザリとした表情で首を振り、俺の手をつかむと空間の裂け目に逃げ込む。その手に込められた力から、深刻さが伝わってくる。先ほどまでの少女らしい表情は消え失せ、数千年の時を生きた険しい龍の凄みが戻っていた。


 さらに苛烈さが増す予感の第二ラウンド。俺は神々の戦争に巻き込まれてしまった運命を呪った。戦乙女たちの嘲笑ちょうしょうが背中に突き刺さる中、俺たちは闇の中へと消えていく。


「もはや……覚悟を決めんとならんようじゃな……」


 レヴィアの呟きが、闇の中で重く響いた。



       ◇



 空間の裂け目を抜けるとそこはレヴィアの神殿だった。大理石造りの荘厳な神殿に満ちた静謐な空気が、先ほどまでの戦場の喧騒を洗い流していく。


 巨大なモニターの青白い光が大理石の床に映り込み、幻想的な光景を作り出している。


「あなたぁ! あなたぁ……、うっうっうっ……」


 画面の前で座っていたドロシーは俺を見つけると駆け寄って飛びついてきた。その抱きしめる腕の強さに、再会を待ちわびた時間の重みが感じられる。


 ドロシーの体が小刻みに震えていた。温かい涙が俺の胸に染みていく。慣れない戦闘サポートに不測の事態の連続で相当に消耗しているようだった。


「ありがとう……、よく頑張ってくれた……」


 俺はドロシーを抱きしめ、優しく頭を撫でた。柔らかな髪の感触が、彼女が確かにここにいることを教えてくれる。


「感動の再会の途中申し訳ないんじゃが、ヌチ・ギを倒しに行くぞ!」


 レヴィアが覚悟を決めたように低い声を出す。その声には、これまで聞いたことのない重みが込められていた。


「え? どうやってあんなの倒すんですか?」


 ラグナロク用に準備された戦乙女ヴァルキュリたちを擁するヌチ・ギに対し、ただの人間の俺とドロシーではとても勝ち目があるようには思えなかった。


 レヴィアは覚悟を決めた目で俺を見据える。


「サーバーを……壊すんじゃ」


 へっ!?


 俺はそのとんでもない発想に息を呑む。


「サーバーって……この星を合成レンダリングしてる海王星にあるコンピューター……のことですよね?」


「もう、これしか手はない……」


 レヴィアは深刻そうに顔をしかめた。


 そのまさに禁忌ともいうべき計画に俺は思わず首を振る。


 この世界を創っているシステムを壊す、それは考えうる限り最強の攻撃ではあるが……、とてもやっていいことには思えなかった。


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