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139. ほぼ自爆装置

「サーバーを壊してヌチ・ギを消す……?」


「そうじゃ、壊せばどんな奴でも消せる。これにはさすがのヌチ・ギもあらがえん」


「それはそうですが……、いいんですか? そんなことやって?」


 俺の問いかけに、レヴィアはギリッと奥歯を鳴らした――――。


 一瞬の沈黙。神殿の空気が重く澱んでいく。


「ダメに決まっとろうが! 禁忌中の禁忌じゃ! じゃが……、もはやこれ以外手はない」


 レヴィアの表情には、取り返しのつかない選択を迫られた者の苦悩が滲んでいる。


 その、重圧が刻まれた金髪おかっぱの少女の覚悟に俺は気おされた。この世界を作り出している大元を壊す。それは確かに決定的な攻撃になるだろう。しかし、この世界そのものを壊すわけだからその影響範囲は計り知れない。どんな副作用があるのか想像を絶する話だった。


 最悪の場合、この世界は消滅するかもしれない。そうなれば、ここで暮らす全ての人々の運命も……。


 それに、もし、上手くいったとしても女神ヴィーナに見つかれば、そのペナルティは苛烈なものになるに違いなかった。


 とは言え、このままでは俺たちも多くの人たちも殺されてしまう。やる以外ないのだ。俺はギュッとこぶしを握ると、レヴィアに突き出して見せた。


「大虐殺は絶対に止めねばなりません。何でもやりましょう!」


 迷っている場合ではない。みんなを守るためには何でもやるしかないのだ。


 神殿の周りの魔法のランプが、まるで我々の決意を祝福するかのようにゆらゆらっと瞬いた。



         ◇



 レヴィアは空間を引き裂くとガラスカバーのついたリクライニングチェアを二つ取り出した。


「じゃぁ早速このポッドに入るのじゃ」


 薄明はくめいの光をまとったその未来的みらいてきな装置は、このいにしえの神殿にいささか不釣合ふつりあいに見える。


「お主にはこれを……」


 ドロシーには鮮烈せんれつに赤く輝くボタンのついたリモコン装置を渡した。


「お主は画面を見て、敵の襲来を監視するのじゃ。どうしようもなくなったらこのボタンを押せ。火山が噴火して辺り一面火の海になる。時間稼ぎができるじゃろう」


 ドロシーの瞳が大きく見開かれる。


「ひ、火の海ですか!? ここは……、無事なんですか?」


「んー、設計上は……大丈夫な……はず?」


 ちょっと自信なさげに目を泳がせるレヴィア。


「『はず』……ですか……」


 自爆装置と表裏一体のそのリモコンを見つめるドロシーの目には、露骨な不安が映っている。


「そんなのテストできんじゃろ!」


 レヴィアが余裕なさげに声を荒げる。


「そ、そうですね」


 ドロシーはその気迫に気おされた。


 確かに火山噴火装置などおいそれとは試せない。地形が変わってしまうし、ヌチ・ギに観測されてしまうのだ。



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