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166. 重大テロ行為

「そんなの無理じゃって……」


 レヴィアはブンブンと首を振る。


「いいから、任せてください!!」


 俺は目の前で繰り広げられる数字の舞踏を必死に追った。世界を救える法則、それを何としてでも見出さねばならない。ヌチ・ギもバカじゃない。今頃何らかの行動に出ているはず。もたもたしていたら取り返しのつかないことになる予感が俺を突き動かしていた。


 マインドカーネルの青い光が、俺の決意を見守るように明滅する中、脳内で無数の数字が乱舞する。これは違う、あれもダメ……。おっ! これは……ダメ!


「こんなのランダムじゃないのかのう?」


 渋い顔で不安げな声を漏らすレヴィア。


「静かに!!」


 俺は一喝すると眉間にしわを寄せながら画面を上へ下へと必死に法則性を追った。指先が画面上を踊るように動く。


 システムがサーバーリソースをアサインする場合、きっと何らかの制約があるはずだ。完璧な予測は無理でも、階と列くらいは絞れるはずに違いない。いや、そうであってくれないと無理なのだ。こんな広大なデーターセンターの中で変わり続けるサーバーなどとても追えない。


 次々と変わっていく数字。


 俺は徐々にゾーンに突入していく――――。


 脳細胞をフル稼働して次々と生み出される数字の関連性を必死に追いまくった。瞳孔どうこうが震えるほどの集中力で、画面を睨みつける。やがて、脳の奥で何かがチラチラとスパークし始める――――。


 刹那、脳内に鋭い光が走った。


「あれっ!?」


 電撃のような閃きが全身を貫く。


 ついにある事に気が付いたのだ。二百五十六回前の位置と相関のあるパターンが、微かに見えた――――。


 俺は過去にまでさかのぼって次々とその法則を検証していく。すると、ここ五回だけこの法則が効いているようだった。


「いける……いけるかも!」


 発見の興奮が、全身を駆け巡る。


「だとすると次は……」


 心臓が高鳴り、汗で濡れた手のひらが震える。


「きっとこれだ! レヴィア様、こっち!」


 俺はレヴィアの手を掴み、躊躇することなく走り出した。柔らかな彼女の手から伝わる温もりが、高揚感を盛り上げる。


「へっ!? わ、分かったのか?」


 レヴィアの声が裏返る。


「法則が切り替わらなければ、次はこっちです!」


 もはや迷いはない。ギリギリの淵で見えた光明――――。


「ホントかのう?」


 レヴィアは口をとがらせる。ただの人間にそんなことができるとは信じられないのだ。


「いいから本気で走ってください!」


 俺は魂をふるわせるような気迫きはくで叫んだ。この法則がいつまで続くのかなんて何の保証もない。この時を逃せば、二度とチャンスは巡って来ない。全身の細胞が、そう告げているかのようだった。


 マインドカーネルの光が、二人の希望を祝福するように、より一層明るく輝いていた。



      ◇



 予想されるサーバーラックの前までやってきた二人。渾身のダッシュで心臓は今にも飛び出しそうなほど激しく鼓動を打っている。


「はぁはぁ……。次……、この辺りかもしれません」


 汗で濡れた前髪を払いながら、息を切らして言った。


「はぁはぁ……。世界の命運がかかっとるんじゃ、頼むぞ~!」


 レヴィアは祈るように俺の目を見つめる。今や世界を救う方法はこの予想にしかないのだから。


「後は……サーバーの神に祈るしかないです」


 俺は息を切らしながら端末をのぞきこむ。


「最後は神頼みか……。頼むぞー!」


 レヴィアは目をギュッとつぶると端末の画面に祈った。


 無言で端末の画面に見入る二人――――。


 画面上で明滅するカーソルマークが未来への扉を開く神託のように思えた。


 俺は両手を合わせ何度も何度もこすり合わせる。


「出たっ!」


 果たして、次のサーバー番号が表示される――――。


「D05098-032、D05099-120! ビンゴ!」


 俺はグッとこぶしを握った。ついにゲットした千載一遇のチャンス。俺はドバっと出たアドレナリンの高揚感の中、サーバーを指さした。


「レヴィア様はその百二十番ブレード! 私はこれ抜きます!」


「ほいきた!」


 レヴィアの声が弾む。まるで飛ぶような素早い動きで彼女はブレードに手をかける。


「行きますよ! 三、二、一、GO!」


 時が止まったかのような一瞬。二人の動きが完全に同期した――――。


 ヴィー! ヴィー!


 咆哮ほうこうのような警報が鳴り響き、辺りのサーバーラックのインジケーターが一斉いっせいに真っ赤に染まった。サーバールーム全体が血に染まったように見える。


「や、やった……か?」


 俺は星を創っているシステムの破壊という、ある意味重大テロ行為に動悸が止まらない。


「お主! それは禁句じゃ!」


 レヴィアは渋い顔をしながら端末をパシパシと操作していく。金髪きんぱつが警報の赤い光に照らされ、異様な色に染まっていた。

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