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第87話 絶倫領主、旧都に赴く

 さて、そんなわけで旧都への派兵が決まったわけだが……。


「なんで俺まで行くことになるんだ?」


 なぜかその陣頭指揮に俺まで引っ張り出された。

 旧都の門前に立ち尽くす領主の隣で、クワクワとトリストラム提督が鳴き散らかす。

 そして、銀猫がいつになく嘘くさい笑みを浮かべた。


「一つは、旧都の民を安心させるためです。領主が自ら出向いて、殺人鬼の捜索に乗り出すと宣言すれば、領民たちも少しは落ち着くでしょう」


「むむむ、たしかに。民のことを思えば、そういう心遣いも大事だよな」


「二つは、今回の殺人鬼が今のところは男ばかりを狙っている。さらに言うならば……女好きのどうしようもない色ボケ男ばかりが被害にあっているということです。そのための囮になる人材は、多ければ多いほどいい」


「…………なるほど? 俺が色ボケ男と言いたいわけか、イーヴァン?」


「領主就任から、瞬く間に妻を五人も娶っておいて、いまさらすぎるでしょう?」


 涼しい顔をして銀猫は言い放つ。

 ぐぅの音もでなかった。


「イーヴァンはん、旦那はんのは甲斐性いいはるんよ。言葉には気いつけやあ」


「そうだよイーヴァン。ケビンだって頑張ってるんだから、そんな風に言うのはかわいそうだよ。それに、ケビンはちゃんと奥さんをみんな大切にしてるから……私も含めて」


 さらにその嫁も一緒についてきているから心臓に悪い。

 こうしてフォローしてくれたからよかったが、頷かれたらどうしようかと思った。


 神仙から奪った槍を手にして、俺の脇に並ぶルーシー。

 同じく、得物の石弩を手にして、狩猟者の顔をするララ。

 今回の殺人鬼捜索には、頼りになる武闘派嫁の二人も随行してきた。


 別に後宮で休んでいてくれればいいのだが――。


「旦那はんの身になにかあったらあきまへん。ウチがお守りいたします」


「前にケビンに守ってもらったから、今度は私がケビンを守る番だね!」


 と、強引についてこられた。


 荒事が得意な二人なので特に心配はしていない。

 むしろいろいろ聞きたいことがある殺人鬼に、無茶なことをしてしまいやしないかと、そっちの方が心配だ。


 とくにルーシー。

 ただでさえ強いのに仙宝を持ち出してくるあたりやる気満々だ。


「しっかしまぁ、けったいなことしはるなぁ。元気な子供を産むために、雄を食べるなら理屈もわかるけど、自分の楽しみのためだけに手にかけるやなんて」


「うん、まあ、うん、そうかもしれないな」


「食べ物を粗末にしたらあかん。親から習わんかったんやろか。そんな行儀の悪い子は、ちょっときつめに躾たらなあきまへんな……なぁ、旦那はん?」


 独特の倫理観を吐露して、ルーシーが同意を求めてくる。

 恨み辛みに仇や宿命、いろいろな事情が殺人鬼にもあるのかもしれない。

 だが、そんな言葉ものみ込んでしまうすごみが、絡新婦の笑顔にはあった。


 ちょっとだけ、ステラの気持ちが分かった気がする……。


 ぴぃ。


「ということで、殺人鬼の捜索と並行して、俺とケビンさまの二人で囮作戦を行う。これまでの被害者の傾向から、殺人鬼は『目抜き通りの風俗店で、入店を断られるような、粗暴な男性客』を狙って、犯行に及んでいる」


「被害者像が本当にろくでもない……!」


「囮作戦の実施に当たって、街の風俗店には『俺とケビンさまの入店を拒否するよう』に通達を出してある。もし、犯人が意図してそんな男を狙っているのなら、俺たちのどちらかにアプローチを仕掛けてくるはずだ」


 捜索開始というイーヴァンの声と共に近衞兵たちが散会する。

ルーシーとララも、俺にひと言挨拶をしてその場を離れた。


 はたしてイーヴァンの読み通りに殺人鬼が炙り出せるといいが……。


「それはそれとして、夜の街などどうやって遊べばいいんだ?」


「クワッ! コケケッコ! コッ! グワッワァーッ!」


「おぉっ、トリストラム提督!」


 俺の股の下で勇ましく鳴く好色将軍。

 彼はまるで自分に任せろと言わんばかりに勇ましく尾を立てた。


 もしかしなくても、女性遊びの心得があるのだろう。


 絶倫領主と国民に揶揄されながらも、まったくその手のことに縁がなかった俺には、どのように夜街で遊べばいいのかさっぱり分からない。

 ここは素直に、トリストラム提督の知恵を借りよう。


「よろしくご指導ご鞭撻たまわりたい、トリストラムどの」


「コケェッ! コケコケコケッコー! クワワーッ!」


 まあ、言語の壁はあるけれども。

 自信満々に翼を広げてばたつかせるトリストラム提督には悪いが……さっぱりと、彼が何を伝えたいのか、ステラのように清い心を持たない俺には分からなかった。


 俺駆け出すトリストラム提督。

 彼を追いかけて、俺はまだ日も沈みきらない夜の街へと繰り出した。

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