「なるほど! 身体が雪でできた妖魔ですか! たしかにそれは倒すのも捕まえるのも難しいでしょうね! 厄介な敵と出会ってしまいましたね、マスター!」
「そうだろうそうだろう」
「そこで私――ヴィクトリアを頼られたのはよい判断です! 私の脳――ヴィクトリアAIは高度なLLMを有しており、そのような難解な問題に対しても、ベストプラクティスなソリューションを提供し、結果にコミットをエンゲージメントです!」
「よく分からないけれど、ほぼゴーレムみたいなヴィクトリアなら、なにか分かるんじゃないかと思うんだ。なにか、いい方法はないかな?」
雪女に似た存在が、こんなにも身近なところにいた。
仙宝娘のヴィクトリア。彼女も、ほぼ不死身の身体を持つ者だ。
雪女のように粉になって復活などはできないが――殺人鬼の捕縛に、なにか有益な情報を持っているかもしれない。
ということで、俺はステラに続いてヴィクトリアに知恵を頼った。
任せてくれと胸を張る銀髪の乙女。
いつになくやる気に満ちた彼女は――。
「それでは、質問を『Hey! ヴィクトリア!』に続けて発声してください」
「いや、普通に聞くのじゃダメなの?」
「『Hey! ヴィクトリア!』です! はい、セイ!」
「……Hey! ヴィクトリア! 雪女を捕まえる、いい方法を教えて!」
「『すみません、よく聞こえませんでした。もう一度お願いします』」
「これ、本当に頼りになるの?」
なんだかとても不安になる方法で、俺の質問に答えてくれることになった。
あと、嫁が見ている前で恥ずかしい。ステラもララもきょとんとしている。
ルーシーなんかぷるぷる震えて笑いを堪えてるよ。
いっそ殺してくれ。(しろめ)
「Hey! ヴィクトリア! 雪女を捕まえる方法!」
「『雪女は、雪山などでひっそりと一人暮らしている、独身男性の下に現れる妖怪です。とても魅力的な容姿をしており、男を誘惑して褥を共にしようとするドスケベ女です』」
「ドスケベ女て……」
「『しかし、うっかり褥を共にしてしまった男は、雪女に体温を奪われてしまい……翌朝には冷たくなって死んでしまいます。この伝承は西洋のサキュバスに非常によく似ています。もしかすると雪女はサキュバスの亜種なのかもしれません』」
サキュバスの亜種か。
そう言われると、サキュバスの子でである俺も他人事ではないな。
しかし、どうしてこうも女性の妖魔というのは、精を絞り取った後に男を殺そうとするのだろう。生と死の価値が極端すぎやしないだろうか。
子供を残したいのか、それとも絶やしたいのか。
まさしく魔性だな……。
「『以上から、雪女を捕縛するには
①雪山に小屋を建てる
②小屋に独身男を放り込む
③雪女が男を……して、満足したところを捕縛する
という手順が有効だと考えられます』」
「まず、モロルドには雪山がないんだけれども、それはどうすれば……?」
「『雪山の造り方について。雪山は寒気を伴った高気圧が支配的な地域かつ、周囲に海などがある山の近くに造成……』」
「ストップ! ストップ! もうわかったから! もう十分だから!」
なんだか止めないと延々と喋り続ける雰囲気のヴィクトリアにストップをかける。
妙案だと思ったが、どうやら俺の見当違いだったみたいだ。
とほほと肩を落とす俺に、ヴィクトリアがなんだか不満げに頬を膨らます。
「マスター。そもそも勘違いしておられるようですが、私は機械人形と書いてオートマタですよ? ゴーレムではないので、私と比較して雪女の弱点を探るというアプローチは、流石に無理があるかと思います……」
「それを最初に言ってくれよ!!!!」
「土の巨人(ゴーレム)ということなら……私の知り合いに、ほぼ西洋の土の巨人と同じ構造をした、仙宝がいます。そちらに尋ねてみるのがよいかもしれません」
身も蓋もない結論にさらに俺は肩を落とす。
頼りになるのかならないのか。相変わらず、どこか不思議な我が妻ヴィクトリアに、俺は翻弄されてしまうのだった。
「分かった、その仙宝を紹介してくれ……待て? 仙宝ということは、もしかしなくてもまた神仙の結界に入ったりしないといけないのか?」
「まあ、そういうことになりますね。彼女はモロルドの東方――かつて、この仙境で最も熱く・強く・騒がしいことで知られた、仙人が編み出した仙宝になります」
「また、なんだか物騒な感じの匂いがするが?」
「仙人の名は――東方不敗修士亜細亜老君。仙宝の名は――『勇気凜々ダイ・ナターシャ』と言います。亜細亜老君は、その生涯をかけて東方土の巨人(ゴーレム)の研究を続けた仙人で、その集大成がナターシャです。彼が生涯をかけて集めた叡智と功夫が、彼女には籠められています。偉大なる叡智の巨人なのです」
なぜだろう、名前と説明から匂い立つ、そこはかとなく危険な匂いは。
とはいえ今は藁をもすがりたい気持ちだ。雪女を捕まえるという目的のために、手段なんて選んではいられない。
結局、俺は明朝さっそく、ヴィクトリアが紹介した『勇気凜々ダイ・ナターシャ』に会いに行くことを決めた。