ケビン・モロルド。モロルドの領主。
種馬だの絶倫だの領民から好き放題言われること幾星霜。
五人の亜人の妻を娶り、夜ごと彼女たちに迫られながらも――童貞。
いつになったら女性と閨を共にすることができるのか。
自分の身体のどうしようもい部分に絶望しながらも、いつかきっと妻たちとひとつになれると信じ、毎日を生きてきた。
なのに、はじめて合体したのが、こんな土の巨人(ゴーレム)だなんて!
「あーら! 失礼しちゃうわね! アタシこれでも、操縦席(コクピツト)上手って言われてるのよ!」
「どういう意味ですか⁉ というか、ここはいったい⁉」
気がつくと俺は見たこともない玉座に座っていた。
座り心地が良いのだか悪いのだか、よく分からない鋼鉄製の座席。
なにやら飾りがいっぱいついた肘掛け。
踏ん張りが利くように配置されたような足かけ。
そして、眼前に広がる荒涼とした大地。
ただし、なぜか異様に視線が高い。
巨大なゴーレムに丸呑みにされたと思ったら、謎の空間に通されていた件について。
神仙絡みでは驚くことばかりだが、ぶっちぎりのわけのわからなさに、思わず石兵玄武盤を抜いて、辺りをめちゃくちゃにしてしまいそうになった。
「ちょっとちょっと! そんな物騒なものを使おうとしないでよ! やあねえもう! 大丈夫よ、心配しなくても貴方に危害は加えないから!」
「本当だろうな! 丸呑みにしておいて、説得力もなにもいまさらないぞ!」
「本当に本当! ごめんなさいね、私ってば、いい男をみるとすぐに合体したくなっちゃう土の巨人(ロボツト)なのよ! 三位一体(アクエリ○ン)の系譜なのよね!」
「頼むから俺にも分かるように説明してくれ!」
『マスター! 聞こえていますか、マスター!』
「ヴィクトリア⁉」
その時、眼前にヴィクトリアの顔が急にどアップで浮かび上がった。
なぜ空中に彼女の顔だけが浮いているのだろう。
いや、よく見ると後ろでステラも不思議そうな顔をしてこちらを覗いている。
わかった――さては幻術だな!
「やはり俺に危害を加える気なのだろう! えぇい! 面妖な! それが東方土の巨人(ゴーレム)のやり方というわけか!」
『違いますマスター! これは私がナターシャの操縦席(コクピツト)に直接映像を流し込んでいるだけです! オープン回線による正常な通話です!』
「わからん! 仙宝たちの言うことはなにひとつわからん!」
「まったく、仙宝の話しを聞かない子なんだから。けど、そういう向こう見ずなところ、嫌いじゃないわよん……♥」
なんでもいいから、とりあえずこの部屋から出してくれ。
今にも叫びそうになる俺の目の前に、ふっとまた顔が表示される。
見間違いでなければそれは俺をのみ込んだ巨人――仙宝『勇気凜々ダイ・ナターシャ』の顔であった。
あらためてよく見てみると、カクカクとした顔をしている。
なのに、なぜだか口元だけぬるぬる動く。
俺の知ってるゴーレムとなんか違う!
「そもそもゴーレムっていうのはさあ、喋らなくてさあ、黙々と人間の言われた命令を繰り返したり、要所を守っていたり、そういうものでさあ……!」
「あら、随分と土の巨人(ゴーレム)に対して偏見をお持ちみたいね」
『マスターは西洋の人ですから。東方の文化には疎いんですよ』
東方の文化で済ましていいんだろうか。
絶対に違う気がする。
文化というかジャンルレベルで違う気がする。
うまく説明することはできないけれど!
「まあ、細かいことはいいじゃない。貴方、そんな感じじゃ、早番頭がツンツルテンよ」
「誰のせいでこんな状況になっていると思っているんだ」
「それより、私に会いに来たってことは、なにか知りたいことがあるんじゃないの? いいわよ、なんでも教えてあげる。私はそんじょそこいらの白い悪魔と違って、何も言わなかったり、持っていったりしないから、そこは安心してちょうだい☆」
想像以上にフレンドリー。
話しは通じるゴーレムのようだ。
腹は立つが背に腹は変えられない。
旧都に降りかかった災難を祓うためには、今はこのゴーレムから知恵を借りなくてはいけないのだ。
「教えてくれナターシャ! ゴーレムの弱点とその捕縛方法を!」
「うふふ♪ いいわね、その渋々って感じの表情♪ 弱味を握っている気分でゾクゾクしちゃう♪ ここで私が、イヤって言ったら……貴方どんな顔をするのかしらね♪」
『ナターシャ。マスターは純情なのです、あまりからかわないでください』
「分かってるわよ、ヴィクトリア♪ こんなに大量の仙気を持ちながら、ビンビンに童の波動を感じる♪ だからこそお姉さんからかいたくなっちゃう♪」
「……やっぱり嫌だ! なんで俺の周りに現れるのは、黒天元帥といい、コイツといい、どうかしている神仙ばっかりなんだ! もういい加減にしてくれ!」
「あん♪ ダメよ、私の中(コクピツト)でそんなに激しく暴れちゃ♪ もう、オトコノコ♪」
「殺せぇっ! 今すぐ俺を殺してくれぇッ!」