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第十五章 ゴーレムマスターの農地改革

第99話 絶倫領主、旧都に逗留する

 ダイ・ナターシャに雪女の弱点を聞いた俺は、再び旧都に帰還した。


 おそらく雪女にはその身体を動かす核がある。

 それを破壊すれば、彼女を倒すことができそうだ。


 俺の報告にアフロディーテたち燕鴎四姉妹は安堵し、イーヴァンは肩の荷が下りたような顔をした。トリストラム提督とステラは石畳の上で飛び回り、ようやくはりつめた空気に僅かばかりの余裕が生まれた。


 とはいえ、まだ油断はできない。


「イーヴァン。俺が留守にしている間に、雪女はまた事件を起こしたか?」


「いや。我々と遭遇してから、奴の犯行と思われる殺人は起こっていない。おそらく、顔を覚えられたことで警戒しているのだろう」


 それもある。

 だが、新都から王と近衛隊が捜索に来ているのも大きいだろう。


 雪女は慎重かつ狡猾だ。

 俺たちが旧都に留まる限り、彼女は警戒することだろう。


 膝を叩いてその場に立ち上がる。

 すぐさま妻たち――ステラ、ルーシー、ヴィクトリア、ララが、俺に視線を向けた。


「しばらく俺は近衛隊と共に旧都に逗留する。俺たちがいることで、雪女が犯行を躊躇するならば、それに越したことはない。なにより、雪女の捜索に全力を注ぎたい。いいな、イーヴァン! それと、ルーシー!」


「我が君の仰せのままに」


「旦那はん、わかりましたわ。けど、無茶したらあきまへんえ?」


 かくして、俺は旧都逗留を決めた。

 新都の運営をセリンに任せ、補佐役にヴィクトリアとララを向かわせた。

 ステラとルーシーは、引き続き旧都で雪女捜索に当たる。


 次の殺人が起こる前に、なんとしても捕まえてみせる。

 決意と正義心を胸に、俺は新都へと戻る妻たちを見送った――。


 のだが。


「旦那はん……♥ 殺人鬼やなんて、ウチ怖いわぁ……♥ 今日は一緒に寝ましょ……♥♥」


「ぴぃぴぃ! おにーちゃん、みんなでいっしょにねるのー!」


「いや、二人とも⁉ けっこうな緊急事態なんだが⁉」


 旧都への駐留を決めたその夜。

 一緒に残った妻二人が、俺の寝所に押しかけてきたのだ。

 しかもどこで手に入れたのか、やけに薄手の寝間着に着替えて。


 薄い絹でできたキャミソールは、身体のラインが布越しに透けて見える。

 黒くラバーな皮膚に覆われており色気が薄いルーシーが、この衣装を身につけることで、いやに扇情的に見える。

 ステラについては――相変わらずの幼児体型で安心だが。


「ほら、旦那はん♥♥ 口うるさい、田舎娘もおらんことやし♥♥ 今日はウチと、雪女も溶けてまうような、熱い夜をすごしましょ……♥♥」


「いやいや、明日も捜索があるし。ステラもいるしな」


「ぴぃー! あつあつの、あちあちなの! あ、ちがう……えちえちなの!」


「こらっ! ステラ! いったいどこでそんな言葉を覚えてきたの!」


 絡新婦とセイレーンにベッドに押し倒される。

 夫婦の夜の営みなのに、まるで捕食されている気分だ。


 どうしてこうなると苦悩したその時、視界の先――天井の穴から、こちらを見つめている、三つの視線に気がついた。


「頑張りますのよステラ! 貴方が第一王子を産んだら、この新都も旧都も実質的にセイレーンが支配することになりますのよ! けっぱれですわ!」


「アフロディーテ姉さん、ステラの奴、絶対にアレ分かってないよ? やっぱり、ステラに色仕掛けさせるなんて、無理があったんだよ……」


「あれ? というか、さっきから領主さまがこちらを見いるような……?」


 ステラに入れ知恵した、悪い鳥たちが群がっているようだ。



「お前たちの差し金か!!!! アフロディーテ!!!! マーキュリー!!!! ダイアナ!!!!」


「「「ぴぃっ!!!!」」」



 怒鳴り散らせば気配を消すセイレーンたち。

 妹とその旦那の寝所をのぞき見るとは、なんて義姉たちだろう。


 ステラがまだ子供だからそういうことにはならないが、もしもこれが大人のセイレーンで、そういう雰囲気になっていたら――気まずいどころの話ではないぞ?


「まったく、とんだ義姉たちだ。ステラもたいへんだな……」


「ぴぃ? アフロディーテおねえちゃんたちがどうかしたの?」


「いいかステラ? お姉ちゃんたちになんか言われても、真に受けなくてもいいからな。そんなことしなくっても、ステラは俺の大切な妻に変わりないんだから」


「ぴぴぴぃ? よくわかんないけど……おにーちゃんやみんなとおねんねするの、たのしいからステラはだいじょうぶだよ! ぴぃぴぃっ!」


 なにも知らない無邪気なセイレーンの末姫。

 これは駄目だと俺は頭を抱え、ルーシーがクスクスと笑いを堪えた。


 なんにせよ、こんないたいけのない少女と、男と女の夜を過ごすわけにもいかず――俺たちはいたって健全な夜を過ごすことになるのだった。

 これは、ステラが大人にならない限り、お世継ぎは難しそうだな。


 大人になったステラも、ちょっと想像できないが。


「くわっ! くわくわ、こけっこーっ!」


「トリストラムもいっしょにねるのー」


「いや、流石に鳥と一緒に寝るのはなぁ……」


「クワぁああッ!?」

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