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第103話 絶倫領主、久しぶりの故郷を満喫する

 アドレの親父どのの許可を得て、俺たちはしばらく村に逗留することになった。

 少年時代に俺たち――アドレの親父に拾われたみなしごが暮らしていた住居に寝泊まりしようとしたのだが、王の逗留先としてはみすぼらしすぎると断られてしまった。


「まぁ、あの家に住んでいたケビンなら気にはならんだろうが……。お前の嫁たちが難儀するだろう。伴侶のことを思って、ここは大人しくワシの家に泊まっておけ」


「アドレの親父どのがそれでいいのなら」


「アンネも話し相手がいれば気が紛れる。それに、お前の嫁たちも話したくて興味津々という感じだろう」


 アンネを引き合いに出されると弱い。

 そして妻たちを引き合いに出されるのも。


 せっかく仲良くなった妻たちを引き離す必要もないだろう。セリンたちのこともあり、俺はアドレの親父どのの家に世話になることになった。


「やはり妊娠しやすくなるコツのようなものはあるのですかね? 私も、はやく旦那さまとの子を授かりたいのですが、まるでうまくいかず……!」


「あないなことするだけで子供ができるわけあらへんやろ。ほんに、田舎娘はモノを知らへんなぁ……♪」


「ぴぃ♪ あかちゃんたのしみなのぉ~♪ アンネおね~ちゃん、うまれたらステラにだっこさせてね♪ いっぱいたかいたかいしてあげるの♪」


「だっこはいいけれど、たかいたかいは遠慮しておこうかしら……」


 妊娠したアンネに興味津々なセリンとルーシー。

 同じく、アンネのお腹の子供に、さっそくお姉さんぶるステラ。

 そしてそんな俺の妻たちと、すっかり打ち解けたアンネ。


 すっかりこっちはほったらかしだ。

 ということで、妻たちをアンネにまかせて、俺はアドレの親父どのと村の男衆を交え、村の小さな集会所で宴会に興じることになった。


「いやあ、しかしよくやったケビン! お前がモロルドの領主になってくれて嬉しい!」


「お前は我が村の誇りだ!」


「モロルド領主として、恥じない働きをしろよ! でなければ、イーヴァンの奴もうかばれん! アイツがお前を王位につけようと、どれだけ苦労したことか……!」


 村の男衆の話は決まって、俺が領主になったことだった。


 イーヴァンをはじめとして、男衆は俺を支援してくれた者たちだ。

 たかが片田舎の農夫や漁師たち……と、侮ることなかれ。

 彼らは彼らで、王宮はもちろん多くのコネを持っている。


 持つべき者は同じ釜の飯を食った者たち。

 水は血よりも濃いのだ。


 そんな彼らと木製の杯でミードを酌み交わすこと一刻と少し。

 ほどよく夜も更けてきたところで、イーヴァンに代わって、アドレの親父どのの代官を務めている義兄弟が、杯をテーブルに置いてぽつりと呟いた。


「しかし、参ったものだな。まさかここまでモロルドの復興が急激だとは」


「だとは? なにか困っているのか?」


「…………ケビンが悪いわけではないのだがな。ほれ、新都に人が増えたことで、いろいろなものが物入りになってきているだろう? 特に食糧の需要が高まっていてな」


「それは俺も把握している。新都に近い農村から、高値で作物が買い付けられていると。おかげで食うに困る村落まで出て来たとか……」


 まさか、この村でも?


 アドレの親父どのはこの手のバランス感覚に聡い。

 間違っても村人を飢えさせる判断はしないはずだ。


 村の者たちも金の亡者ではない。

 金よりも大事なモノがあると知っている。


 顔をしかめる俺に、アドレの親父どのが苦汁を舐めたような顔を向ける。

 そのまま酒精混じりのため息を吐き、彼は髭についた白い泡を舐めとった。


「実はな、ワシらの畑を荒らすものたちが現れてのう……」


「賊か? なんではやく相談してくれなかったんだ。すぐに近衛兵を派遣する」


「いやいや、賊ではなくて……狐狸に狼、熊に鹿といった害獣の類いじゃよ」


 曰く、近隣の村落が農作物を綺麗さっぱり売り払ったことで、畑を荒らす害獣どもがこちらの村までやってくるようになったのだという。

 つい最近も、せっかく育てた作物を、根こそぎ食べられたそうな。


「昨年に比べて明らかに被害が大きくなってきておる。このまま獣たちに畑を荒らされ続けたら、年を越えるのに十分な食糧を揃えられるかどうか……」


「…………むぅ。まさか、このような形で被害が出るとは」


 まだ食糧がないだけならいい。

 最悪、都に流入したそれらをこちらで買い上げ、配ればいいのだから。


 問題は飢えた獣が村人たちを襲うことだ。

 狐狸の類いなら安心だが、狼や熊と言った大型の獣が出たらと思うと気が気でない。

 畑で作業するのは子供や老人も多いのだ。


「よし、まかせてくれ。俺がなんとかしてみよう」


「なんとかとは……なにかいい案があるのか? ケビンよ?」


 卓を囲んでいる村人たちが一斉に俺の方を見る。

 村にいた時は見たこともない不安げな視線に、俺は力強く頷いた。

 途端、煤けた天井に歓声が昇る。


「少し見ないうちに、すっかりと領主らしくなったもんだ」


「頼んだぞケビン! 村の平和のために!」


「お前さんが頼りじゃ! ケビン――いや、モロルド王!」


 村人たちが次々に、俺のことを褒めそやす。

 むくつけき農夫と漁師たちが、次々に俺の背中を叩く中――いよいよ抜き差しならなくなったモロルドの食糧自給問題に、俺は思いを馳せた。


 害獣の類いを一掃するのは難しい。

 かと言って、田畑を見回る人員を確保するのも難しい。

 となれば……!


「黒天元帥の力と、ゴーレムについての秘伝を、使う時が来たようだな!!!!」

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