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第104話 絶倫領主、ゴーレムを造る

 村人から害獣の相談を受けた翌日。

 俺はさっそく畑から少し離れた荒れ地に出て、石兵玄武盤を懐から抜いた。


 やることなど決まっている。

 村の畑を警備・巡回する仕組みの構築だ。


 大地を自在に操る仙宝を持つ俺なら、この村に堀を巡らすことなど造作もない。獣たちが隠れ住む森の地形を変えて、彼らを追い出すこともできる。

 だが、それは根本的な解決にはならない。


 今のモロルドに必要なのは、臨機応変に畑を守ってくれる守護神(ガーディアン)だ。

 それも、自立して動き、戦い、壊れても問題ない。


 となれば……!


「土の巨人(ゴーレム)を造るしかないよな!」


 ということになるだろう。


 そう、俺はゴーレムを造るためにやってきた。

 けして先日出会ったナターシャに感化されたからではない。

 あわよくば、彼女みたいな巨大なゴーレムを造りたいとかではない。


 男の子の血が騒いだわけではないのだ!


 すべては領民を思えばこそ!


「さて、東方土の巨人(ゴーレム)は石兵玄武盤を使えば造れるだろう。問題は西方土の巨人(ゴーレム)で言うところの核をどうやって造るかだな……」


「ぴぃ♪ おにーちゃん、なにやってるのぉー♪」


「くわっ! くわくわっ、ぐわっくわっ! こけけぇっ!」


 荒野に佇む俺に、ふいと空を飛んでステラがやって来る。

 胸にはいつものようにトリストラム将軍。

 それと、小さなスライム――プーちゃん。


 この三人はここのところ、どこに行くのも一緒だな。


 俺の前に降り立ったステラが不思議そうに首を傾げる。

 石兵玄武盤に力を籠めるのをいったん止め、俺は彼女の前にしゃがみ込んだ。


 さて、どう説明したものか?


「村の畑が狸や狐に荒らされていてな。それをなんとかしようとしているんだ」


「ぴぃ! わるいたぬきときつねさんなの! ゆるせないの! ひとがつくったたべものをぬすんだりしちゃ、めーなんだよ!」


「くぐわ! ぐわわッ! ぴぇええッ!」


「ぷ♪」


 ステラが頬を膨らませて地団駄を踏む。

 同じく、トリストラムとプーちゃんも、一緒になって彼女と跳ね回った。


 かと思えば、ぴたりとステラが足を止め不安な顔を見せる。


「ぴぃ? けど、いったいどうするつもりなの、おにーちゃん? たぬきさんときつねさん、やっつけちゃうの? それは……ちょっとだけかわいそうなの」


「まあそこは生態系があるからな。追い返すだけにしてやろうと思う」


「うん! それがいいの! やっぱりおにーちゃんはりっぱなりょうしゅさまなの!」


 どうやら、心優しいセイレーンの末姫は、害獣にまで情けをかけるようだ。

 彼女の金色をした髪を撫でれば、むず痒そうに乙女は目を閉じた。


「ぐわっ! くわっわっわ! ぐわっわっ!」


「甘いことを言うなと訴えているのか、トリストラム提督? しかしな……狐狸が減れば虫が増え、今度は他の作物にまで影響が出る。生態系のバランスを考えると、下手なことはできないんだ」


 ステラと違い、トリストラム提督は好戦的なようだ。

 あるいは――狐狸に食われると思っているのかもしれない。

 心なしかさっきから首を左右に振って、辺りを警戒しているようにも見える。


「ぴぃっ! だめなのトリストラム! たぬきさんもきつねさんもいきてるの! ぜんぶやいてたべてしまえなんて、いっちゃだめ!」


「やっぱり、怯えていたのか……」


 くちばしの先に指を押しつけられ、青い鶏が間延びした鳴き声を上げてうなだれる。

 へたって地面を擦るトリストラム提督の尾を撫でると、俺は「安心してくれ」と彼を元気づけるのだった。


「心配しなくても、村民と禽獣を守護も考えてある。無闇な殺生をするつもりもないが、みすみす害獣たちのいいようにさせるつもりもないさ」


「……くわぁ?」


「ということで……ちょっとそこで見ていてくれ、ステラ、トリストラムどの。それと、プーちゃん」


 ステラたちを後ろに下がらせると、俺は改めて石兵玄武盤を手に取る。


 思い描くは土でできたからくりの姿。


 東方土の巨人(ゴーレム)よりも小さく、西方の土の巨人(ゴーレム)よりも機械的に。

 かかしのように目立ち、猟犬のように俊敏で、なおかつ人々に親しまれやすい。

 ここのようなうら寂れた農村を守護する土の衛兵。


「ぴぃいぃっ⁉ じめんがもりもりって⁉ おっきくなってるの⁉」


「くわっ! くわくわっくわぁっ! こけっけっけーッ!」


「ぷぅ!」


 土の中から姿を現す人影に、ステラたちが驚いてあわてふためく。

 そんな中、仙力によって宙を舞う石兵玄武盤から俺は手を離すと――。


「さあ、俺が生み出した土の巨人(ゴーレム)よ、我がモロルドのために働くのだ……!」


 声高らかに自らが生み出した土の巨人(ゴーレム)へと命じたのだった。

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