「エーリカのためならえんやこーらえんやこーらでござる!」
「エーリカが突出しすぎているっ! 皆、遅れずについてこい!」
ブルースは馬上で
一方、アベルは乗っている馬自体を敵兵にぶつけ、ぶっ飛ばされ宙に浮かぶ敵兵を十文字槍の柄部分で地面へと叩き落とす。それでもなお起き上がろうとする敵兵に対して、大槌をその顔面にぶち込むのがミンミン・ダベサであった。
「おいら、エーリカに近づく不貞な
ミンミンはのっしのっしと巨体を揺らし、騎乗しているアベルの後を追う。アベルの周りを敵兵が囲み、彼を馬上から引きずり落とそうとする。だが、
「た、助かったぞ!」
「おいらたちがアベルを補佐するから、アベルは後ろを振り向かずに前へ前へと突き進むんだべさ!」
アベルはミンミンたちにコクリと頷くと、馬の腹を右足で蹴飛ばし、再び前進するように促す。アベルの意志を受け取った馬はヒヒーン! とけたたましい雄叫びをあげ、決してご主人様を落とされぬようにしながらも暴れ馬と化す。
軍師:クロウリーは二頭の馬に引かせている戦車の上から
奇襲は速度が命だ。いくら横腹をつかれた3千と言えども、たった500で突き崩すには数が足りない。足りない兵を補うのが速度なのだ。軍師:クロウリーは戦場全体を俯瞰するように眺めていた。目を細め、額にある
「ロビン・ウィル。前方右斜め45度の方向へ3矢放ってください」
「任されたし。しなれ我が弓!」
クロウリーが乗る戦車に同乗している人物が2人いた。そのうちのひとりがオダーニ村で1番の弓使いと呼ばれているロビン・ウィルであった。クロウリーは右斜め前方へ右手に持つ芭蕉扇を向ける。それを合図にロビンは言われたように3矢放ってみせる。この3矢による結果を見る前に、クロウリーはもう一人の同乗者に巫女の
「平和の使者よっ! エーリカたちの援護をお願いしますわっ!」
セツラ・キュウジョウは祈りを込めるポーズを取り、ここら一帯に住まう野鳥と心を通じさせる。戦火に怯え、草地に隠れていた野鳥たちは一斉に飛び立つ。その羽音の量はすさまじく、敵兵3千をさらに激しく動揺させた。戸惑う敵兵を踏みつぶすが如くに
ついに旧王都:キャマクラから支城へと救援にやってきていた兵3千は混乱の境地に陥る。我先とばかりに手に持つ武器を放り投げ、蜘蛛の子を散らすが如くにその場から霧散し始めた。眼の前の敵兵が散り散りに逃げ出すのを見て、それに呼応するかのように本隊3千を率いるゴンドール将軍が皆に鬨の声をあげよと命ずる。ゴンドール将軍に付き従う3千はワーワー! と喉が張り避けんばかりに勝利を喜ぶ雄叫びをあげる。
だが、そんな本隊3千が驚く事態が起きる。ここで一旦、足を止めるのかと思いきや、500しかいない
戸惑うゴンドール将軍であったが、一羽の
「名無しのケプラー殿はどこまでこの
旧王都:キャマクラを護る北島軍は
旧王都:キャマクラに残された3千の兵は関所の門を固く閉じ、籠城の構えを取った。さしもの
旧王都:キャマクラを護る兵士たちはウグググと苦しそうなうめき声をあげる。陽が傾き、その陽の底部が小高い山の向こう側にくっつこうとしていた。もう1時間余り粘りきれば、いくら勢いがすごい敵兵たちと言えども、一旦、休戦せねばならなくなる。それほどまでに夜は暗すぎる。真っ暗闇の中で強行的なキャマクラ攻略に移れるわけがない。
しかし、もしかするとそんな真っ暗闇の状態でも、敵が攻め手を緩めないのではないか? という危惧が旧王都:キャマクラを護る兵士たちの心によぎる。500の先鋒隊のすぐ後ろには4千ほどの兵士が後詰めに入り、関所を突き破らんと攻撃を開始したのだ。
「ぐぬぅぅぅ……。タモン王から預かったこの旧王都:キャマクラ。易々と敵に明け渡したくないっ。だが……! もう、ここまでなのか!?」
旧王都:キャマクラを護るは将の補佐クラス、千人隊長のビーダ・グレイマンであった。彼の上役たちは支城を囲う2千をすぐさま蹴散らしてくると告げて、兵3千をビーダに預けて、キャマクラの外へと飛び出していった。ビーダも1時間もしないうちに上役たちが帰ってくると思い込んでいた。
しかし、上役どころか、城外へと飛び出していった兵士は1兵たりとも旧王都:キャマクラへと戻ってくることは出来なかった。ビーダはただただ呻き声をあげるしか無かったのである。詰みの状態に入った旧王都:キャマクラにおいて、さらなる悲しみに暮れた声があがることになる。