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第57話:攻防と死地

「わたくしをただの巫女と思わないでくださいましっ! これでも武芸には少しばかり、覚えがありましてよっ!」


「おお、やるじゃん、セツラ。じゃあ、俺は俺で大暴れしますかねっ!」


いくさ場において、自分の身は自分で守る。これはいつの世でも鉄則です。あ~~~、それそれっ!」


 エーリカ率いる残る1千と北島軍BとCとD合わせて1万の兵が入り乱れるように戦っていた。兵を削られるだけ削られ、もはや、血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団は陣形と呼べるような形を取れていなかった。血濡れの女王ブラッディ・エーリカに所属する全員が抜刀し、四方八方から襲い来る北島軍を斬り捨てていく。


 馬に引かれた戦車に乗っていたクロウリーたちも敵兵に囲まれていた。その戦車からセツラが飛び降りて、タケルと共にその手に持つ武器を振り回しての大立ち回りを演じてみせる。セツラの改造巫女装束が段々と紅く染まっていく。それでもセツラは両手でしっかりと握る薙刀を振り回し続けた。


 そんな彼女を背中から斬り伏せてやろうとしている北島軍の野蛮な兵士たちに対して、矢が5本ほぼ同時に放たれることになる。セツラはドサッという音を背中に聞き、チラリと矢を放つことで自分を援護してくれる人物を見ることになる。その視線の先に見えるのは、血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団において、一番の弓使いのロビン・ウィルであった。その弓使いはセツラにコクリと軽く会釈する。


「各々方の背中は自分に任せてほしい。うなれ我が右腕! 今こそその力の全てを解き放てっ!」


 弓使いのロビンは光り輝く矢を放ち続けた。最初は木製の矢を放っていたが、それはすぐに尽きてしまう。それほどの量を誇る敵兵が戦車の周りに殺到していたからだ。だが、矢が尽きると同時に、未だ戦車の上に乗っている大魔導士:クロウリーが自分の領域テリトリー内から次々と光り輝く矢の束を取り出す。その光り輝く矢の束をロビンの足元へと大量に置く。


 どこまで自分を働かせるつもりなのだと辟易しそうになるロビンであった。だが、矢の補充に関して心配が要らないのは弓使いにとって、これ以上無い援護である。ロビンは惜しむことなく、その光り輝く矢を射てみせる。


 野蛮な北島軍は、これでは戦車に近づけないと思ってしまう。こういった戦場において、立派な馬や戦車に乗っている人物は必ずといっていいほどに、その軍のかなめの重要人物である。


 基本的に兵卒や足軽と呼ばれる下級兵士は徒歩かちである。そして、騎乗している兵士はもれなく将や隊長クラスだ。軍団というのはそれを率いる将や隊長を倒せば、その時点でその軍団は崩壊する。だからこそ、騎馬武者や戦車に乗っている人物を、敵は率先して狙うし、味方は命を投げうってでも守ろうとするのだ。


 戦車の近くで戦うセツラたちが戦車から降りて戦わざるをえない状況になっている以上、騎馬武者であるブルース・イーリン、アベルカーナ・モッチンも同様な状況であった。しかしながら、彼らには彼ら用の専門の精強な戦士がぴったりと側についていたのである。


「うひょぉ! 斬っても斬っても敵が波のようにわんさか押し寄せやがるっ! 今宵の皆朱槍は刃の内側まで真っ赤に染まりそうだぜぇ!」


「あぅあぅあぅ……。お尻の貞操どころか命が危険に晒されているこの瞬間が一番、男の娘であることを実感するのですぅ……。屍となった敵兵を今すぐ剥いて、そのもの言わぬお尻の穴に、ボクのびっきびっきになっているおちんこさんをねじ込んでやりたくなるのですぅぅぅ!!」


 ブルース・イーリンの両脇を固めているのは、マグナ家の三男坊であるケージ・マグナと、男の娘真っ盛りのラン・マールであった。騎馬武者であるブルースを狙って、北島軍の兵がわんさかと集まってきていた。そのひとりひとりを大身槍や直剣で斬り伏せていくケージとランである。そんな2人に負けてたまるかとブルースは馬上から斧槍ハルバートをブンブンと振り回す。


 一方、アベルカーナ・モッチンは馬上から引きずり降ろされていた。しかしながら、大槌をこれでもかと振り回し、アベルに纏わりつく敵兵の頭を次々粉砕するのがミンミン・ダベサであった。ミンミンはドッスンドッスンと巨体で地面を揺るがし、バッコーンという気持ちいい音を鳴らして、敵兵の頭を粉々に粉砕し続けた。


「た、助かったぞ! これで何とか体勢を整えれる!」


「良かったんだべさ! さあ、どんどん来るだべさっ! おいらは慈悲深いから、苦しまずにあの世へホームラン一発で運んでやるだべさっ!」


 この野戦において、アベルの補佐として配置されていたのはミンミンであった。彼の膂力は常人の3倍である。ミンミンはいつもは温厚でふくよかな身体つきゆえに、誤解されがちである。重さ100キュログラムもある真っ黒な大槌を振るう今のミンミンはまさに『大槌のデーモン』と呼ぶにふさわしい。


 ミンミンはペッペッと両手に唾を付け、大槌の柄をしっかりと握り直す。そうした後、ミンミンはアベルを取り囲もうとする敵兵の頭を砕きに砕きまくる。ミンミンの大槌の表面は敵兵の血と脳漿のうしょうで汚れきっていた。アベルはそんな『大槌のデーモン』に身震いをしてしまう。


(ミンミンにばかり活躍させてどうするっ! もし、今のミンミンをエーリカが見たら、ミンミン素敵っ! 抱いてっ! と言ってしまいかねないっ! それがしはそれが我慢ならないのだっ!)


 アベルはミンミンにばかり活躍させてなるものかと、十文字槍を敵兵に対して、馳走し始める。十文字槍で突き、薙ぎ払い、さらには上段構えから下方へと振り下ろす。暴れ回るアベルたちから敵兵は段々と距離を取らざるをえなくなる。そんな逃げ腰になりかけている敵兵を逃すつもりもないアベルとミンミンであった。鬨の声を自分の兵士たちあげさせ、一気に戦線を前へと押し返す。


 エーリカたち血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団はよくやっている方であった。残りたった1千に対して、群れを為して襲い掛かる1万と互角以上に渡り歩いていた。戦場全体の時間がゆっくりとであるが進んでいく。戦車に乗っているクロウリーが静かに目を閉じて、ここからだいぶ離れた位置の本隊に居るコッシローと念話を開始する。


(なるほど。そちらはようやく渡河を終え、いよいよ敵本隊と切り結ぶのですね。ちなみにあとどれほどかかりそうですか?)


(チュッチュッチュ。30分……、粘られて1時間といったところでッチュウ。そっちはもちそうなんでッチュウか?)


(皆、よく奮戦してくれていますが、彼我の兵力差はすでに10倍近くですからね。いざとなればエーリカ殿だけでも、先生が逃しておきましょう)


(頼んだでッチュウ。エーリカちゃんこそがボクたちの希望でッチュウ。この世の再創造を迎えるか、それとも世界の維持が続行されるか、エーリカちゃんが鍵となるのでッチュウ)


 ここで、クロウリーとコッシローの通心に雑音が増えてしまい、通心は無理やり中断されることになる。それはまさにこちらの本隊と敵の本隊がぶつかり合った証拠でもあった。クロウリーは再び眼を開けると、額の宝石である第三の眼サード・アイを光り輝かせるのであった。

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