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136話:立ちはだかるアルカネット・1

 そこは、ひたすらだだっ広い部屋だった。白い天井と床、そしてエグザイル・システムしかない。


「ここかー、フリングホルニとやらは。つか、前にも来たっけか一応…」


 ギャリーは忙しなくタバコをふかしながら、ぐるりと室内を見回す。


「なんにもないぞ! 無駄に広すぎる!」


 気合を入れたヴァルトが大声を上げ、ついでに無意味に翼を広げ羽ばたかせた。その拍子に抜け落ちた羽根が辺りを舞い踊り、鬱陶しいと周りから顰蹙を買う。


「時間がないようなことをリュリュさんが言ってましたから、早急にキューリさんを見つけましょう」


 簾のような前髪をかきあげカーティスが言うと、皆黙って頷いた。


「そうはいきませんよ、みなさん」


 そこに、にこやかな声が割って入り、ライオン傭兵団の視線が集中する。


「へっ……おいでなすったか」


 冷や汗を額に滲ませて、ギャリーは小声で呟く。

 すでに退役したというのに、魔法部隊ビリエルの長官服を着込んだアルカネットが、優美な笑みをたたえて目の前に立ち塞がった。

 隙のない立ち姿に、鬱陶しさと不快感をを滲ませた皆の視線が集中する。


「フリングホルニは無事発進しました。あとはアルケラの門を通り、忌々しい神のもとへ行くだけなのです。あなたがたに、邪魔はさせませんよ」


 笑顔はそのままに、声音がスーッと冷たさを帯びていく。

 以前ならこの声を聞いただけで、心底震え上がったものだ。しかし、今回ばかりは怖がるわけにはいかない。

 あの男の向こうに、助けを待っている大切な仲間がいるのだ。


「パーティを分けますよ」


 アルカネットをじっと見据えながら、カーティスが口を開く。


「メルヴィン、マリオン、タルコット、ヴァルト、ブルニタル、シビル、ランドンは、キューリさんの救出へ向かってください。もちろん、あちらにはベルトルド卿が詰めているはずです」

「お…おぅ」


 怯んだようにヴァルトが言うと、ガエルがフフンと鼻で笑う。


「ケツまくって逃げるなよ? ヴァルト」

「なんだとテメークマ野郎! オレサマがあんなオヤジごときにビビってるとでもいうのかよ!」


 いきり立つヴァルトの耳を、マリオンがつまむ。


「はーいはいはい、喧嘩なんかぁ~してるよゆーなんてナイのよぅ? サッサ行くわよん」

「イテーよブス!!」

「なぁんですってぇ~?」

「メルヴィン、頼みましたよ」


 疲れたようにカーティスが笑うと、メルヴィンも苦笑する。


「はい。リッキーを必ず助けてきます」

「ああ、メルヴィン」


 突然アルカネットに名を呼ばれ、メルヴィンは振り向く。


「リッキーさんはベルトルドの愛撫に歓喜の声を上げて、悦び感じ悶えていましたよ。恥ずかしい姿を惜しげもなく晒しながら、ベルトルドに抱かれていました」

「るっせーぞテメー!」


 ザカリーが咄嗟に怒鳴る。

 ククッと嘲笑するアルカネットを、メルヴィンは黙って見つめた。


「みんな行きましょう。オレたちが抜けるフォローを、お願いします」


 仔犬姿のフローズヴィトニルを腕に抱え、メルヴィンはカーティスに頷く。アルカネットの露骨な挑発は黙殺した。

 今はこの男の安い挑発にのっている暇などない。キュッリッキを助け出さなければならないのだ。


「ええ、任せてください」


 カーティスの返事を合図に、メルヴィンたちは出入り口に駆け出した。それと同時に、ハーマンとカーティスの攻撃魔法がアルカネット目掛けて飛び、ルーファスの超能力サイがメルヴィンたちを守った。


「小賢しいことを…」


 アルカネットが魔法で対処しようとしたとき、突如目の前にガエルが飛び出してきて、巨大な拳が襲いかかる。

 直撃を防御魔法で防いでいる隙に、メルヴィンたちは室外へと姿を消してしまった。それを目の端でとらえ、アルカネットは小さく舌打ちする。


「フンッ、まあいいでしょう。どうせすぐに追いかければ済むことです」


 すでにガエルは飛び退っていて、一定の距離を保って構えていた。


「1分でカタをつけますよ」


 アルカネットは不気味な笑みで顔を彩ると、両手に殺意の魔力を込め始めた。




 だらりと両手を下げていたアルカネットは、深呼吸をするようにして反ると、背に漆黒の翼を生やした。

 片方だけ大きく広がったその翼を見て、カーティスたちはギョッと目を見張る。


「アイオン族だった…んですか…」


 キュッリッキと同様に、アルカネットがアイオン族であることは、ライオン傭兵団は知らないことだった。

 しかしヴァルトのような綺麗な白い翼ではなく、カラスのような黒々とした色をしていて、おまけに片翼である。


「子供の頃に片方へし折ったので片翼なのですよ。リッキーさんとお揃いですね」


 へし折ったとなんでもないように言い放ち、アルカネットは微笑を浮かべた。この場にヴァルトが居たら、渋面を作りそうな言動だ。


「それにしても、メンバーをバランスよく残しましたね。ガエルとザカリーが厄介なので、この翼も役に立ってもらいましょう」


 防御のために生やしたのだと判り、ガエルは苦笑する。とくにヴァルトもだが、戦闘〈才能〉スキルを持つアイオン族は、その翼で攻撃を防御することがよくあるのだ。

 アルカネットは魔法使いだ。オマケに魔具がその身体なので、無詠唱でいくらでも魔法を扱える。

 しかしベルトルドのような超能力サイと違って、絶対防御もなく、魔法攻撃と物理攻撃を同時に防ぐためには、防御手段を増やさなくてはならない。

 これまで常に集団戦では圧倒的優位な立ち位置か、ベルトルドが共にいたので、防御に気を使っている所を見たことがなかった。

 ヴァルトと違い強化魔法も込みの防御だから、片翼でも厄介だ。

 ああして防御手段を増やしているということは、こちらを相当警戒してくれているのだろう。やっと認めてくれたのかと嬉しいのか困るのか、ガエルは複雑な心境になった。




「魔力の高まり方が異常だよぉ……カーティス」


 ハーマンがおっかなびっくりといった口調でぼやくと、カーティスも眉間にシワを寄せた。魔法〈才能〉スキルを持つ者たちは、相手の魔力を感知し測定することができる。


「あの人本当に、人間なんでしょうかねえ…」

「カーティス、仕掛けられてくるのも面倒だ。オレ達のほうから仕掛けて、主導権を掴もうぜ。――まあもっとも、主導権なんざ取れるか判らねえがよ」


 愛用の魔剣シラーを肩に担いで、ギャリーが不敵に笑みながら言う。


「そうですね。1分宣言されちゃいましたし、1分以上踏ん張りましょう」

「おうよ」


 ギャリーとガエルが前方に立ちはだかり、カーティスとハーマンが攻撃魔法を撃てるように詠唱準備に入る。

 後方でみんなの様子を見ていたザカリーは、小型拳銃形態にしていた愛銃バーガットを、撃ちやすい大きさの機関銃タイプに変化させる。

 メルヴィンの持つ爪竜刀と同じで、持ち主の思い通りに形状を変化させることができる魔銃だ。

 背負っているリュックの中には、リュリュがあらかじめ用意してくれていた魔弾が大量に入っている。相当使うだろうと思ったのか、足元にも魔弾の詰まったリュックが2つばかりあった。

 火薬の代わりに魔力を込めた弾丸を魔弾という。魔法使いたちにしか作り出せない特殊な弾丸だ。そして魔弾を撃ちだすことのできる銃器もまた、専用に生み出された魔銃のみである。

 魔弾の制作は常日頃ランドンがやってくれていたが、今はキュッリッキ救出のために離れている。カーティスやハーマンは攻撃に集中せざるを得ないだろうし、マーゴットは魔弾が作れない。魔力を込める作業はとても繊細で、魔力コントロールが巧みに扱えないと魔弾は作れないのだ。マーゴットは根本的に魔力コントロールが下手なこともあり、とても頼めなかった。


(残量管理しながらアルカネットとやりあうとか……うーん、難しそうだな)


 鼻の下を指で何度か擦り、小さくため息を落とす。

 魔法使いと超能力サイ使いでは、防御方法が若干違う。さらにベルトルドに至っては、絶対防御で魔弾を転移してしまう。しかしアルカネットはそんな器用なことはできないから、防御魔法で身を守るしかない。

 ただし、どんなに強い相手であろうと、一瞬の隙というものは必ずある。

 遠隔武器〈才能〉スキルのSランクであるザカリーは、見えすぎる視力で一瞬の隙も見逃さない。とくに今はキュッリッキ救出がかかっている。

 メルヴィンに恋人役は取られてしまい完璧に失恋したものの、キュッリッキを好きな気持ちに変わりはない。たとえ恋は成就せずとも、仲間かぞくとして、可愛い妹分として、これからも大切に守っていく覚悟をしているのだ。


(ぜってー、負けらんね)


 アルカネットを倒し、ベルトルドの股間に魔弾をブチ込むことを、今回最大の目標としていた。


(きゅーりを汚したあのでっけぇブツを、オレが魔弾でぶっ潰す!)


 握り拳全開で心に誓う。

 先日の温泉旅行で、あの立派な暴れん棒を直に見た。それを思い出して、こめかみに青筋が走る。バーニングしたアレは、男として妬ましいほどデカかった。


(ムカツクほどでけぇんだから、マジぶっ潰す!!)

(ちょっとザカリー、思考のベクトルがどんどん別の方向イッテルヨ)


 ルーファスの念話が割り込んできて、ザカリーはハッとなった。


(気持ちは判る。ベルトルド様のアレ、ほんとデカイんだよね……羨ましい)

(うっ、羨ましくなんかねえよ! きゅーりを傷つけた忌まわしいブツだ!!)

(ホントだよね。メルヴィンのも負けず劣らず立派だけど、処女でいきなりアレじゃ、びっくりして痛かっただろうに……)


「おめーら真面目にやれよ! 何脱線してやがるゴルァ!!」


 殺気立った顔を振り向けて、ギャリーが声を荒らげて怒鳴る。


「ひっ」

「すまんすっ」


 ルーファスとザカリーが、首をすくめて頭を下げた。

 この場にいるメンバーの意識を、ルーファスが念話で繋げている。アルカネットは念話が使えないので、念話で作戦のやり取りをするためだ。


「まったく……」


 ペルラが小さくため息をついた。


「カーティス、ハーマン、援護頼む。行くぞギャリー」


 構えていたガエルが、しょうもない会話をスルーして言った。


「おう」


 ガエルとギャリーが正面から向かい、攻撃体勢に入る。

 ガエルが右拳を振り上げ、アルカネットの頭上に狙いを定めて振り下ろす。そしてギャリーは肩に担いでいたシラーを、アルカネットの肩に目掛けて素早く振り下ろした。

 2人の攻撃が繰り出される瞬間を利用し、カーティスの氷魔法スヴァード・イスと、ハーマンの氷魔法フロスト・キテートが襲いかかる。更にペルラがアルカネットの両脚の太ももを狙って、短剣を数本投げつけた。


「攻撃の数を増やしたところで、当てなければ無意味なのですよ」


 アルカネットは腰を沈めると、漆黒の翼でガエルの巨体を払い除け、


「トイコス・トゥルバ!」


 土魔法で瞬時に土壁を築いて、ギャリーの魔剣シラーとペルラの短剣を防ぎ、


「トゥリ・タンシ」


 火魔法で自身の周囲へ、炎を舞い上がらせた。これにより、氷の剣スヴァード・イスと、無数に突き伸びた氷の柱フロスト・キテートが、炎に溶かされ飲み込まれる。


「無詠唱で魔法連打ずるいいいいい!!」


 ぎゃーすかと癇癪を起こして、ハーマンが悔しそうに喚く。


「何度も言っているでしょう、あなたの魔法は威力ばかりが強くて、コントロールが甘いのです」

「むっきいいいい」


 命をかけて戦っている場面なのにアルカネットに説教されて、ハーマンの頭の中は怒りで噴火寸前だった。


「前に出るあなたたちを傷つけないよう、攻撃魔法を選ばないとですが…。もう、巻き込む勢いで撃っても構いませんよね?」


 にこやかに、しかし、こめかみに筋が走っている。カーティスの怒りにも火が付いたようである。


「……まあ、かまわねーけどよ…。おいルー、オレたちの防御、マジ頼むわ」

「おっけー、頑張るよ」


 肩を落とすギャリーに、ルーファスはにっこり笑った。

 連携がとりづらいのだ。

 相手が平凡な魔法使いなら、今の連携で防がれる心配は100%ナイ。だが相手はアルカネットであり、これまで見たこともなかった翼まで生やしている。

 ヴァルトのように攻撃を翼で払いのけるやりかたは同じだが、ガエルが勢いよく吹っ飛ばされた様子から、翼には強力な強化魔法が施されているようだ。


(俺とハーマンで組もう)


 立ち上がったガエルが、念話で提案する。


(あれだけ万能に近い形で防がれては、かえって俺たちの持ち味が活かせない。互を気遣いながらでは、攻撃を当てられずストレスを溜めるだけになる)

(そうですねえ)

(ギャリーはカーティスと組め。俺が不利になってきたら交代だ)

(判った)

(了解です)

(ザカリーとペルラ)

(おう)

(うん)

(付き崩せるポイントを見出したら、俺に遠慮なく撃ちまくれ)

(マカセトケ)

(任せて)

(ハーマンも俺に遠慮せず、得意な攻撃魔法をどんどん撃て。防御はルーがするから)

(うん! ガンガンいくよー!!)

(宣言した1分はとっくに過ぎている。いくぞ)


 普段寡黙なガエルだが、こと戦闘になると饒舌になる。更に現場も仕切り出す。とは言っても、現場を仕切るときは相手次第で、アルカネットのような相手になれば本気になる。

 ガエルが仕切り出したときは、皆黙って従う。

 見栄を張ったり見せつけるためといった、下卑たことは一切しないからだ。的確に戦いのポイントを抑え、作戦を立案し、提案する。

 仲間への信頼が厚い証拠だ。

 篭手をカシャカシャと直しながら、ガエルが皆の前に立った。

 身長はゆうに2メートルを超え、ガッシリとした筋肉質の体躯は威圧感に満ち、鋭い眼光をたたえる目が正面のアルカネットをしっかりと見据えていた。

 熊のトゥーリ族であるガエルは、トゥーリ族の種族統一国家ロフレス王国の、元親衛隊員である。しかし、戦いと己の腕を磨いて更に高みを目指すことを望んでいたガエルは、顔見知りだったペルラに誘われてライオン傭兵団へ入った。

 まだ新興の傭兵団だったが、傭兵団とは名ばかりの少ない団員たちに、ガエルは満足している。

 一騎当千のツワモノ達。各々が得意な分野を極め、自信と実力を兼ね備えていた。もちろん完璧ではないが、そこはガエルも同じだ。互いに切磋琢磨し、高め合っていける仲間たち。

 色々と性格的問題はあるにしろ、実力は確かな後ろ盾だったベルトルドとアルカネット。かつて旧コッコラ王国では痛い思いを味わわされたが、いつかもう一度戦ってみたいと願っていた。

 大事な仲間であるキュッリッキが捕らわれて、こんな形で対決する羽目になったが、またとない機会だ。

 魔法と格闘技、異なるタイプだが、相手はアルカネットだ。不足もないし、遠慮する必要もない。

 否、遠慮している余裕などないだろう。


「まずはあなたが相手ですか、ガエル。あなたが相手では、少々本気を出さないといけませんね」


 憎々しいまでの優美な笑みを浮かべるアルカネットを見据え、ガエルは鼻で笑う。


「少々と言わず、全力でかかってくるがいい。手を抜かれて勝ったとなれば、俺の経歴に傷が付く」

「相変わらず負ける気はないのですね。いいでしょう、あなたのプライドが傷つかない程度には、力を出して戦ってあげましょう」


 アルカネットの右掌から、太縄ほどの光が伸びた。そしてそれを掴むと、鞭のようにしならせ床を勢いよく叩いた。


「獣を躾けるには、鞭が一番です。さあ、いらっしゃい」

「やはりアイオン族は、度し難いな」


 口の端をニヤリと歪め、ガエルは床を蹴ってアルカネットに飛びかかった。

 アルカネットは右腕を大きく振りかぶると、ガエル目掛けて振り下ろす。光の鞭がその身をくねらせながら、スピードをつけてガエルに襲いかかった。

 ザカリーほどではないが、ガエルの動体視力はずば抜けて良い。光の鞭の動きを見極め、素早く鞭を掴んだ。

 しかしガエルの手は弾かれたように鞭から離れ、間髪入れず襲いかかってきた鞭の一撃を肩に食らい、ガエルは片膝を付いた。


「無茶をしますね。これは雷属性の魔力を固めたものですよ」

「道理で、痺れるわけだ…」


 素手で掴んだ時より肩に叩きつけられた一撃の方が、ビリビリと身体中に電流が走って堪えた。

 ガエルは立ち上がり、ひと呼吸入れて気を整える。そして再び構え直し、アルカネットに殴りかかった。

 光の鞭がしなり、正面から襲いかかる。ガエルはそれを先端が触れる寸前に片腕を前に出して、己の右腕に鞭を絡みとった。


「!?」


 驚いて僅かに目を見張ったが、アルカネットは左掌にも同じ光の鞭を作り出し、ガエルに向けてしならせた。しかしガエルは、同じように左腕に鞭を巻きつけてしまった。


「ヘンな綱引きみたいな……」


 鞭を引っ張り合う奇妙な光景に、ハーマンはきょとんと小さく首をかしげた。


「まあ、そんなモンだ」


 ニヤリと笑みを浮かべ、ガエルは両腕に力を込めてアルカネットを引っ張った。

 互いに引っ張り合うようにしていたが、力ではさすがのアルカネットもガエルには遥かに及ばない。

 踏ん張るように立っていたアルカネットは、前につんのめるようにして身体が宙に投げ出され、頭からガエルのほうへ突っ込む形で落下した。

 そこを狙ってガエルの右拳が突き出され、アルカネットの頭が叩き割られる。

 はずだった。

 ところが、大きな拳には無数の切り傷が走り、飛沫のように鮮血を吹き上げたのだ。


「なんだ!?」


 ギャリーが身を乗り出した。


「アルカネットの魔法が、ガエルの拳を瞬時に切り裂きやがった。あら風魔法かなにかか?」


 目のいいザカリーが、その瞬間をしっかり目撃していた。


「あのタイミングで魔法を繰り出すのは難しいでしょうから、おそらくあらかじめトゥムルトゥス・リーフで身を覆っていたんでしょうか」


 カーティスが言うと、アルカネットがククッと可笑しそうに笑った。


「カーティス、あなたのレベルで私の実力を推し量らないでほしいですね。宙に身体が投げ出された瞬間に、イアサール・ブロンテを使ったのですよ」


 ふわりと宙に身体を浮かせると、傷ついたままの拳を突き出して立ち尽くすガエルの頭を蹴って、後方へ飛び退った。


「イアサール・ブロンテは効いたようですが、鞭が効いていないようですね……その篭手のせいでしょうか」


 小さく眉をしかめ、アルカネットはガエルの両腕を覆う篭手を睨みつける。すでに鞭は消していた。

 血だらけの拳を下げ、ガエルはフンッと鼻で笑う。


「キューリが俺とヴァルトにくれた、ドラウプニルという特殊な篭手だ。魔法や超能力サイの力を殺す能力があるらしくてな。出自はギャリーたちの持つ魔剣と同じようだが、素直にもらっておいてよかった。こんな時に大役立ちだ」


 魔剣や魔銃といった、特殊な能力を秘める武器のようなものが欲しいと常々思っていた。するとそれを察したように、キュッリッキがガエルとヴァルトに差し出したのが、ドラウプニルという名の黄金の篭手だった。


「見た目は、装着したヒトの好みで形状が変わるよ。2人共殴るのは強いけど、防御がちょっとアレだから。武器じゃないけどね、コレいいかも」


 無邪気に笑うキュッリッキの顔を思い出し、ガエルは優しい笑みを漏らした。

 アルケラのドヴェルグたちに頼んで、キュッリッキが作ってもらったモノらしい。

 普段は子供すぎる少女だが、こういうところはちゃんと見ている。サポートすることに関しては、キュッリッキの見識と能力は申し分ない。

 戦う上で身を守るものがしっかりしていれば、安心して全力を出せる。ガエルにとって、ドラウプニルは最高の武器にも勝る防具だ。

 そして最強の武器とは、己の拳なのだ。

 この程度の魔法攻撃で、潰れるような拳ではない。

 ガエルはぺろりと自らの血を舐めると、闘志で燃える目をアルカネットに向けた。


「さあ、準備運動は終わりだ。本気でかかってくるといい」

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