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137話:立ちはだかるアルカネット・2

 トゥーリ族は外見だけ見ても年齢が判りづらい。老人と呼ばれる領域まで来ると、外側を覆い尽くす毛に白いものが混じって、それで判断するしかない。

 平均年齢が20代後半を占めるライオン傭兵団の中で、ガエルは33歳と一番の年長者だ。見た目はずっと若い印象を持たせるが、寡黙な性格も手伝って落ち着いた雰囲気をまとっている。

 主に作戦を考えるのはブルニタルとカーティスだが、いざ実戦となるとガエルが仕切る場面が多くなる。実戦での指揮役であるギャリーの指示も的確だが、相手次第ではガエルの意見を皆尊重する。ガエルにライバル意識を燃やすヴァルトですらおとなしく従う。

 この場で仕切っているのは、現在はガエルのようだ。正面に立つガエルの後ろに目を向け、アルカネットは内心頷いた。

 現在ハワドウレ皇国の将軍職を務めるブルーベル将軍の甥で、ロフレス王国の元親衛隊員である。戦闘に関しては師範級のプロだ。ライオン傭兵団の中でもっとも現実的で経験も多く、その場で作戦を立て実行するのが巧い。それはアルカネットもベルトルドも認めている。


(ギャリーとカーティスがペアを組み、ルーファス、ザカリー、ペルラが支援と遠隔攻撃に徹するようですね。ガエルのパートナーはハーマンですか。本当に頭の回る男です)


 ハーマンの内包する魔力も中々のもので、アルカネットには遥かに及ばないものの、魔法部隊ビリエルの中で見ればハーマンはトップクラスの魔力の持ち主だ。

 概ね自分と同じ〈才能〉スキルを持つ者には、自然と興味が向く。ベルトルドもなんだかんだ言いながら、ルーファスやマリオンをよく気にかけていた。性格が似ているところがあるのも、類が友を呼ぶようなノリなのだろう。同〈才能〉スキルのアルカネットも、ハーマンの資質に興味を持っていた。

 世界中どこを探してもアルカネットに匹敵、上回る魔法使いなどいない。しかしハーマンは魔力のみに関しては、アルカネットの興味を引く程度に高い。だが魔力のコントロールが上達しない。あまりに高い魔力を持て余しているようで、上級レベルの魔法を使うと大抵暴走する。それが自信喪失に繋がり、肝心な時に真価を発揮できずにいた。

 でもこの戦場では相手に遠慮をする必要もなく、パートナーにも遠慮はいらない。


(魔力コントロールが下手なハーマンと組むことで、劣等感を感じさせず、とにかく全力を出させて私を攻撃させるようにするためですね。自身がわきまえているから、足を引っ張られることもない。――本当に敵にとって嫌な男です)


 ガエルは己の防具と、ルーファスの超能力サイで守られる。ハーマンが魔法を暴走させても、ガエルは無事だしフリングホルニの安全を気にする必要はない。

 魔法は当たらなければ意味はないが、行動を阻害される可能性は大きい。

 アルカネットにとっては厄介だった。


(こんなところで、邪魔をされるわけにはいかないのですよ。31年も我慢したのですから)


 目の前で最愛のリューディアを失ったあの日から、もう31年もの歳月が流れている。

 10歳だった子供が、今やもう41歳の大人に成長するほどの長い年月だ。


(リューディアは13歳のあの時から永遠に歳を取らない。なのに、いまだにこうして自分は生きている…

 あとを追って死ぬことも考えた。しかし、残酷にリューディアを殺した神に復讐するまで死ぬわけにはいかないのだ。何故なら、一矢報いることもせず、おめおめと彼女のいる場所へなど行けやしない!)


 空を飛ぶ乗り物のアイデアが浮かんだ、たったそれだけのことで問答無用に命を摘み取った神。


(殺す必要がどこにあったのだ?)


 9千年の時間の中で、空を飛ぶ技術や記憶などを消し去ったように、リューディアの記憶からそのことだけを消せば良かっただけだろう。


(非道なその行いは、絶対に許すことはできない)


 リューディアを殺した神も、そして神に愛される巫女キュッリッキも。

 今も脳裏に焼き付いて離れない、リューディアを殺した雷。あの凄まじくも忌まわしい力を思い出し、アルカネットは右手に雷の魔力を込めだした。

 あの時のショックが引き金となり、アルカネットの雷属性の魔力を異常なまでに高めてしまっている。それはベルトルドも同じで、雷エネルギーの扱いが異常に巧い。雷霆ケラウノスなどベルトルド以外の何者にも扱えないのだ。

 忌まわしいと感じるその力が、結果的に2人にとって最強の武器ちからになっていた。皮肉さこの上ない。

 アルカネットは笑みを消すと、右手をスッと上にあげる。


「イラアルータ・トニトルス!」


 右手を振り下ろすと、ガエルたちの頭上から無数の雷の柱が降り注いだ。

 雷系の最上級攻撃魔法であるイラアルータ・トニトルスは、魔力を正面から直接対象に向かって叩きつけるのではなく、対象の頭上から攻撃が降り注ぐ。

 1本の巨大な柱のようなものから、無数に分かれた柱のように、形状は魔法使いの意思で自在に変化させることがでる。鞭のようにしならせ、蛇のように敵に襲いかからせることも可能だ。

 アルカネットの得意技であり、代名詞でもある最強魔法。

 室内が眩しいほど発光する中で、アルカネットは目を眇めながら注意深く彼らを見つめる。

 全力のイラアルータ・トニトルスを放つと、このフリングホルニを破壊してしまうので、この室内にはあらかじめ吸収型の防御結界を張り巡らせてある。それでも自らの魔力で結界を壊しかねないので、船に害を及ぼさず、ライオン傭兵団のみを殺す程度に魔力の出力を抑えていた。

 彼らと違って船を沈めるわけにはいかない点が、少々やりづらかった。


「フンッ」


 アルカネットは小さく鼻を鳴らす。

 瞬時に焼死させるほどの威力を誇るイラアルータ・トニトルスは、カーティス、ルーファス、ハーマンの必死の防御で防がれていた。


「なんちゅー威力……オレもうダメかも~~~っ」


 ゲッソリとした表情を貼り付けて、ルーファスは上げていた両手をおろした。

 超能力サイの力の源は精神力だ。アルカネットの激しい魔力を押しとどめるために、ルーファスはかつてないほどの気合で踏ん張った。


「第二のベルトルド卿と名高いんですから、気合中の気合で頑張ってください」


 負けずにゲッソリとした表情で、カーティスは皮肉で励ます。

 自らの魔力よりもはるかに強力な魔力を防ぐために、カーティスも滅多に出さないほどの魔力で防いだ。


「女好きのところだけでイイヨ、もう…」


 ルーファスはガックリと項垂れた。




 イラアルータ・トニトルスを防ぎきって安堵する2人を見ながら、ハーマンはイライラと尻尾をそよがせた。


(くぅうう…ムカツク!)


 アルカネットが魔法を使うたびに、イラッとする。

 ハーマンにとって、アルカネットは嫉妬の塊だ。あれだけの膨大な魔力を自在に使いこなし、世界最強の魔法使いと謳われているのだ。

 キツネのトゥーリ族の中で、もっとも強大な魔力をもって生まれてきたハーマンは、幼い頃から周囲に期待され育ってきた。

 〈才能〉スキルは遺伝しないものだが、どういうわけかキツネのトゥーリ族の中に、魔法〈才能〉スキルを授かって生まれてくる者が多かった。そんな中で、ハーマンは稀に見る魔力の持ち主だと、一族の間では有名なのだ。

 ハーマンの家はハワドウレ皇国に移住していたので、ハワドウレ皇国の魔法部隊ビリエル入隊が決まった時も鼻高々だった。決して多くはない魔法〈才能〉スキルを持つ者の中でも、更に選ばれた者しか入隊が認められない所なのだ。

 それなのに、幼い頃から魔力のコントロールがうまくできない。

 そのため失敗も多く、いくらでも上級魔法を扱えるのに、コントロールが出来ないことで人前では使えなかった。見栄を張りながら、いつも小技の魔法を使うのみ。

 それはハーマンの矜持を傷つけ、鬱憤が溜まるばかりだ。


「傭兵団を立ち上げたんです。強い魔法使いが欲しいんですが、魔法部隊ビリエル辞めてウチで一緒に働きませんか?」


 やがてカーティスに誘われて、魔法部隊ビリエルを辞めてライオン傭兵団に入る。見栄を張りながら退屈な魔法部隊ビリエルに居続けるよりは楽しそうだ、とハーマンは思った。

 しかしライオン傭兵団にベルトルドが関わりだすと、自然とアルカネットとも関わることになった。

 会いたくないけど会うたびに魔力コントロールのことを指摘され、更にはアルカネットの魔法使いとしての強者ぶりを目の当たりにする機会も増える。劣等感の塊と化していたハーマンの矜持は、ジクジクと刺激されっぱなしになった。

 魔法部隊ビリエルでは見栄を張っていたが、ライオン傭兵団の中では魔法を暴走させても誰も嫌味を言わない。むしろフォローしてくれる。だがアルカネットがいるときは常に魔力コントロールを指摘され、腹立たしさこのうえない。


「いちいち言われなくてもよく判っているよ!」


 それなのに心の傷を抉るように、ねちねちねちねち言われ続けていた。

 溜まりに溜まったアルカネットへの殺意とイライラが、ついにハーマンの中で爆発した。


「ぶっ殺ーーーーーすっ!」


 ハーマンは声高に吠え、得意としている火炎系攻撃魔法を放つべく、魔力媒体にしている本を開く。


「火花と火炎を撒き散らし

 猛り狂いて焼き尽くさん!

 エルプティオ・ヘリオス!!!」


 感情で更に膨れ上がった火属性の魔力は、巨大な火の玉を作り出し、アルカネット目掛けて襲いかかった。


「当たらなければ」

「当てればいいんだよっ!」


 アルカネットの声を遮るようにしてハーマンは叫ぶと、アルカネットに火の玉が迫るその瞬間、小さな指をパチリと鳴らす。


「ゲッ」


 その次にくることを察知したルーファスは、慌ててガエルの周りに防御を張る。

 ハーマンが指を鳴らすと、 エルプティオ・ヘリオスの火の玉は盛大に大爆発した。


「防げないほど連続でいくからなーーー!!」


 絶対あてーる!と荒ぶるハーマンは、次々と巨大な火の玉を作り出してアルカネット目掛けて飛ばしまくった。




 火の玉が飛んでいっては、大爆発を起こす連続魔法。


(熱い……)


 ルーファスの防御で火傷は防げているが、ガエルは容赦ない熱に巻き込まれている。朱に染まる室内は、一瞬にして高温で満たされた。

 ガエルはダラダラ汗を垂れ流しながら、この混乱に乗じて素早くアルカネットに攻撃を開始した。

 両拳を前に構えるようにして、爆発の中を躊躇わず突き進む。

 アルカネットは水魔法の壁を作ってしのいでいたが、横からガエルの拳が飛んできて慌てて翼で払う。しかし勢いが足らず、ガエルはすぐに体勢を立て直して再度襲いかかってきた。


「ちっ」


 狂ったように飛んでくる火の玉の起こす爆発は水の壁で蒸発していたが、室内に蒸気が溢れかえり視界が悪くなっていく。


「真面目に付き合っていると、こちらが不利になるだけですね…」


 アルカネットはガエルの拳を翼でかわしながら、巨大な竜巻を生み出した。


「イアサール・ブロンテ!」


 雷と風の混合属性の攻撃魔法。

 蒸気が吹きあげられ、かわりに荒れ狂う風と、風に混じって電気が室内に逆巻いた。

 ガエルも竜巻に攫われそうになったが、床にしっかりと踏ん張り、ジリジリと後退する。


「負っけるもんかああっ」


 風に身体を持って行かれそうになったところを、下がったガエルに間一髪尻尾を掴まれ、風の中で踊るようになりながらハーマンは本を開く。

 足場の悪さを気にするより、アルカネットを負かしてやるといきり立つ気合が、ハーマンを突き動かしていた。


「吹き抜ける疾風

 怒涛の風の翼よ!

 ビュー・レイプト!」


 イアサール・ブロンテに匹敵する竜巻が生まれると、竜巻はアルカネット目掛けて移動を開始した。

 無駄に広い室内とはいえ竜巻同士がぶつかり合い、衝突の余波が更に吹き荒れる。


(魔弾が撃てねえええええっ!)


 轟轟と吹き荒れる風の中、念話でザカリーが絶叫すると、


(無理をしなくていい、暫くはハーマンに頑張ってもらおう)


 ずしりと響く声でガエルに言われて、ザカリーは素直に頷いた。




 室内はありえないほどの風が暴れまわり、静電気が肌に突き刺さる感触に皆顔をしかめていた。トゲトゲバチバチと痛い。

 身体を吹き飛ばされないように踏ん張って状況を見ているカーティスは、 ビュー・レイプトを必死にコントロールしているハーマンに目を向けた。ガルエに尻尾を掴まれ、風の中に浮きながら魔法をコントロールしている。

 魔力の凄まじさも魅力の一つだったが、同じ魔法部隊ビリエルにいた時からハーマンの悩みとストレスもよく理解していた。

 誰にでも得意不得意はある。そして、努力をしてもそれを克服できないこともあるのだ。


「全ての人々が不得意を、思い通りに克服できるわけではないんです」


 あまりに強い魔力を授かって生まれてきたハーマンが、上達しないコントロールを克服しようと常に努力していたところは見ている。そして、そのことで劣等感を抱き、本領を発揮できずにいることも知っていた。


「だから、自分の傭兵団に誘いました」


 フォローしあえる仲間がいれば、不得意なことを隠す必要はない。むしろ、それを逆手に取る方法や作戦を考えてくれる。シビルやランドンも、コントロール訓練に丁寧に付き合ってくれていた。

 そうすることで、精神的な負担を少しでも軽くしてやりたかった。

 同じ魔法〈才能〉スキルを持つカーティスだからこそ、理解してやれたとも言える。

 ベルトルドが後ろ盾についてアルカネットも関わるようになったことは、予想外の誤算だった。そのことだけは申し訳なく思っている。

 克服できないことを判ったうえでネチネチ指摘してくるのは、アルカネットのドS体質故のことだ。そんなことは百も承知で、ハーマンはぶちキレている。

 怨み辛み負の感情を向けながらも、無詠唱魔法と魔力コントロールの完璧さに、憧憬の念を抱いていることもまた事実。

 相反する感情に、ハーマンのイライラは頂点を突き抜けかけていた。




 目の前で拮抗する竜巻のぶつかり合いを見て、アルカネットは面倒そうに眉をひそめた。

 いつになく張り切るハーマンの繰り出す魔法は、予想よりもコントロールがしっかりしていて、侮れないレベルなのだ。

 それがまさか自分のせいだとは微塵にも思っていないアルカネットは、別の魔法で打開しようと隙を伺っている。しかしその隙を与えないほど、ハーマンの魔法は手ごわかった。容赦なしである。

 1分程度でカタをつけるつもりが、はるかに時間もかかって手間取っている。これは想定外の事態だ。


(早く彼らを片付けて、レディトゥス・システムに向かったメルヴィンたちを追いかけなければならないというのに…)


 レディトゥス・システムにはベルトルドが張り付いているが、情をかけて手加減することも考えられた。ああ見えてベルトルドは非情になりきれない一面がある。子飼いにしていた彼らにほだされて、キュッリッキを助け出されたら目も当てられないのだ。

 神の元へたどり着くためには、キュッリッキは絶対に必要不可欠。

 超能力サイの使えないアルカネットには、あちらの状況を知る術がない。


(――急がなければ)


 いつになく焦りがこみ上げてきて、それはアルカネットの心をざわつかせていた。


「こんなところで、あなたがたと遊んでいる場合ではないのです。邪魔をせず、さっさと死になさい!」


 珍しく感情を爆発させて怒鳴るアルカネットに、ルーファスはピクリと身体を震わせた。


(どうしました? ルーファス)


 その様子に気づいたカーティスがたずねると、ルーファスは眉間を寄せる。


(滅多にないことなんだけど……今、アルカネットさんの記憶というか思考というか、流れ込んできてさ)


 激しい感情とともにルーファスに流れてきたアルカネットの心に、ルーファスは小さな怒りをおぼえた。


(ハーマンとカーティス、あの竜巻のぶつけ合いをちょっと止めて、別の攻撃の形でアルカネットさんを黙らせられないかな)


 いつおさまるか見当もつかないほど、荒れ狂う2つの竜巻。


(……なんとか、頑張ってみましょう。――ハーマンはビュー・レイプトの維持をお願いします。私が別の攻撃魔法で意表をついてみます)


 ハーマンが頷くと、カーティスは手にしていた銀の杖を構えた。


「凍てつく大地

 凍える伊吹

 静寂と死を運ぶ氷の翼

 イスベル・ヴリズン!」


 銀の杖から冷気が吹き出し、竜巻目掛けて床を這い進み、研ぎ澄まされた氷の刃が無数に竜巻に襲いかかった。

 逆巻く風の力に、氷の刃は砕かれ飲み込まれていったが、冷気を取り込んだ竜巻は、やがて2本の巨大な氷の柱と化していった。

 辺りに底冷えするような冷気が漂う。


「ふぅ…」


 ホッと息を吐き出すと、カーティスは杖にしがみついて床に膝をついた。

 慌てたように駆け寄ってきたマーゴットに支えられながら、カーティスは汗の滲む顔で苦笑した。


「あんな竜巻を凍らせる芸当、私にも出来たんですねえ」

「ナイスだカーティス!」


 ルーファスがニヤリと口を歪め、カーティスにグッと親指を突き立てた。




「私とハーマンの竜巻を凍らせるとは、やるようになりましたね、カーティス」


 表情はそのままに、アルカネットは目を眇めた。

 イスベル・ヴリズンも、形状や使い方に応用の利く魔法である。カーティスがやってのけた方法は、風の中に水分と冷気を取り込ませ、瞬時に凍らせる高度な応用だ。風の力を押さえ凍らせるためには、魔力のコントロールが優れていないと出来ない。

 ハーマンもカーティスも、優秀な魔法使いだ。アルカネットと比べると全ての魔法使いが足元にも及ばないが、攻撃魔法の扱いに関しては引けを取らない。

 アルカネットにとって、本当に誤算の多い戦いである。


「アルカネットさん、もうこんな戦い止めませんか? 戦いは無意味だと、オレたちのよく知るアルカネットさんが叫んでる!」


 いきなり叫びだしたルーファスに、何事かと室内の視線が全て集まる。

 同様に意味を測り兼ねたアルカネットは、眉間にシワを刻んでルーファスを見た。


「キューリちゃんのことを本気で好きで愛してたのに、昔の想い人と混同してレイプ紛いのことをして傷つけて。そのことで自分を責めてるじゃん!」

「なにを判らないことを、言っているのですか…」


 アルカネットの表情が、ますます不可解そうに歪む。


「自分で判んない? 今のあんたが支配しているせいかな、オレたちのよく知るアルカネットさんが、心の奥底で叫んでいるんだよ」

「おいルー、一体なんの話をしてるんだ?」

「意味が判りません…?」


 ギャリーとカーティスが怪訝そうな声を上げる。それをスルーして、ルーファスは続けた。


「リュリュさんが言ってた。本当のアルカネットさんの人格の上に、かぶらされた別人格面ペルソナってのが、オレたちの知ってるアルカネットさんだ。そっちの別人格面ペルソナのアルカネットさんが、もう戦うなと叫んでる。それが伝わってきたんだよ」


 透視の力で知ることができた、アルカネットのもうひとつの人格の声。

 リューディアの死で精神崩壊しかかったアルカネットが、生きていくためにかぶらされた別人格面ペルソナ。その別人格面ペルソナのアルカネットこそが、皆がよく知るアルカネットその人なのだ。

 別人格面ペルソナのアルカネットは、本来の人格に壊され消えたとリュリュは言っていた。しかしまだアルカネットの心の奥底で、別人格面ペルソナは生きていた。

 今のアルカネット自身は気づいていないようだが、ルーファスには視えている。

 キュッリッキを愛し、慈しみ、大切に想っていた別人格面ペルソナ。その別人格面ペルソナが今の人格を支配することができれば、もうこんな戦いはせずに済むだろう。

 もっともこのチャンスに、これまでの鬱憤を晴らしたいメンツが納得しないだろうが。


「このまま戦いを長引かせることはしたくない。ベルトルド様のようなタフな精神力でもなければ、アルカネットさんのように底なしの魔力でもない。攻めるにしても体力には限界があるし、守る側の精神と魔力が尽きれば終わりだから」


 それこそ情に訴えてでも戦いを終わらせ、早くキュッリッキを救い出したい。

 ルーファスの根は優しく、あまり好戦的なタイプではない。

 剣と念力で戦うこともあるが、超能力サイはもっぱら支援や防御に使うことが多い。言われてすることもあるが、ほぼ自主的にみんなのサポートに回る。

 アルカネットの中に微かな可能性を見出したからには、戦いを避けて現状を打開したかった。

 一方、アルカネットの頭の中は、ルーファスが考える以上の混乱を招いていた。

 ルーファスの呼びかけにより、アルカネットの主人格に、別人格面ペルソナが干渉し始めていたのだ。


(なんだ……一体?)


 片手で額を抑え、アルカネットは内なる声に耳を傾ける。


(彼らを放っておいて、今すぐベルトルドを止めるのです!)

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