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第6話 処刑

「ほら、起きろ。クソ猫!」


 左頬に衝撃が走る。目を開けると赤い鎧が目に入る。

 あのくそパーマ男だ。


 何も出来ない私はただ只管に彼を睨むだけ。


「時間だ」


 いつの間にか私は首輪を着けられ、それにリードと言うかチェーンも付けられており、それを引っ張られていた。

 壁と地面に縛り付けるようにして拘束されていたのは無くなってて嬉しいけれど、首輪を着けられるだなんて……とんだSMプレイだわ。


 だけどそんなことも考えていられない。

 私はもうすぐ殺されてしまうのだ。

 くそウサゴリラに殺されかけた時は正直怖かったけど、今は不思議と何とも思わない。

 思うのはエルのこと、私もすぐそっちに向かうから。


 私はくそパーマ男に引っ張られる形で部屋を出て、今は何処かに連行されている。

 薄々勘づいてはいたのだが、私が居た場所は牢獄だったようで、左右には同じような部屋と部屋を通る度、ドアの隙間から目が現れ様々な表情で私は視姦されていた。


 この中の人たちは何を考えているのだろうか。

 今から処刑される私を滑稽だとでも思っているのだろうか、それとも自分も早くこうなりたい、などと考えているのだろうか。


 私の思考は段々と歯切れが悪くなり、次第にさっき考えていたのも「どうでもいい」と一蹴した。


 何故かって?


 ご飯も水も一切与えられていない。

 くそパーマ男に抵抗して逃げてやろうだなんて到底今の私では考えられなかった。

 きっとそうなるように最初から仕向けられていたのでしょうね。

 マニュアルでも存在するのか、それともくそパーマ男の策略か……どっちでもいい、早く目的地に着かないかしら。


 歩くこと数分。その数分が私には何時間も何日にも感じられた。

 外に出されたと言うのに何の感動も何の感情も湧いてこない。


「ここで待ってろ!」


 そうくそパーマ男は怒鳴りつけるように私には言うと、一本の大きくそびえ立つ丸太に私に着けられた首輪のリードの先をくくりつけ、何処かへ向かってしまう。


 これ私、知ってる。


 丸太しかないけど磔台はりつけだいとか言ったり言っちゃったりするやつでしょ。

 既に何回か使っているのか丸太の上部は赤黒い血のような痕が付着していた。

 西洋では断罪人が逃げられないように文字通り手のひらを釘のようなもので張り付けられていたのだが、異世界でも同じようなことをするのだろうか。


 そう考えたらゾッとした。

 何か抜け道はないか、と辺りを初めて見渡す。

 どうやらここは建物の開けた中央部に位置するようで、四隅は兵士らしき人が私が何かしないかと睨みつけていた。

 手には槍を持っているし、少しでも怪しい行動をしようものならその槍でブスリ……なんてことも有り得なくない。


 有り得なくなくない?


 可哀想だから転生ね、なんて言われたのにもう何度も死にそうな目に遭っていて、これから処刑される……こっちの方が可哀想だ。


 などと考えていると兵士らしき人以外にもゾロゾロと民衆が早朝にも関わらず私を囲むようにして集まってきた。

 年齢層は二十代から八十代くらいまで……流石に子供に処刑される瞬間なんて見せられないよね。


 と言うか、私は客寄せのパンダか!


 なんて声を出して突っ込むほどの気力は今の私には残されていなかった。


 ものの数分でここら辺一帯は人の海になる。

 まるで人がゴミのようだ……と言いたくなってしまうほどに。


「ふぁ、えっ、ちょ!?」


 いつの間にか私は両手を水平にされ、身動きが取れないように横にした丸太を一本、左裾から右裾へ通され、終いには暴れないようその丸太と手首を縛り付けられていた。

 かと思えば地面とはどんどん離れていき、赤黒い血のような痕が近付く。


「本日はお早い中、お集まり頂き誠に感謝致します! この度は、エル第二王子暗殺に加担した獣人をひっ捕らえました!」


 くそパーマ男の声がこの辺り一帯に鳴り響く。

 何処に行ったかと思えば、私をよく見渡せる場所に立っていた。

 二階のベランダなのか廊下なのか……どちらにせよ開けた場所に居て、彼の前には落ちないよう柵が設けられている。

 彼の居る場所だけ少し出っ張っており、まるで死刑をするのを見物するための特等席のようだった。

 左右にはくそパーマ男の部下なのか銀色の鎧に身をまとった人が立っていた。

 頭まで全身装備なので顔までは見えない。


『獣人、殺せー!』

『早く、殺せー!』


 彼の声に反応して民衆が握った手を挙げ、ワーワーと騒ぎ散らす。

 そのどの言葉も獣人を忌み嫌うようなものだった。

 それを聞いて私はようやく理解した。

 この国にとって獣人は絶対悪。望まれぬ存在なのだと。エルのあの反応はそういう意味合いがあったのだと。


 元より転生される気は毛頭なかったし、獣人じゃないのに獣人と思われるこんな世界ならさっさと死んだ方がマシ。


 段々と私の腹部には長々としてそれでいて鋭利な槍が近付いてきた。

 もう為す術ない私は黙って目を瞑る。

 民衆の罵詈雑言も段々とヒートアップしていき、今ではフェスに感じてしまうよ……。


「──やれ!」


 くそパーマ男が高らかに合図をする。

 ガチャりと音を立て私の腹部に槍が突き刺そうとした瞬間──


「待ってくれ!!!」


 聞き覚えのある声が聞こえた。

 私は幻聴かと思えたがビックリして目を開ける。


 そこに居たのは全身に包帯を巻いて見るからに痛そうなエルの姿だった。

 エルが生きていて私を助けるために必死にここまで来てくれたのは嬉しい……嬉しいんだけど……。


「お、遅いよ……」


 ヒーローは遅れてやってくる、なんてよく言うけれど、エルがやって来たのは、もう腹部を刺された後だった。

 地面にはボタボタと私の血が流れ、内蔵が破裂したのか口からは泡を吹くように血が溢れ、意識を失ってしまう。

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