あっという間に決闘当日、それも予定されている時刻になってしまった。
放課後ということもあり、更には実技テストをしていた裏庭で行うということもあってか私たちの決闘を一目見ようと沢山の生徒でごった返していた。
その中心には私とゴウの姿、それから公平を期すためにレナ先生が審判をしてくれるみたい。
レナ先生と目が合ってしまい少し気まずくなった私は的があった場所に目をやるが、そこには的の姿はなく実技テストのためだけに用意されていた物のようだ。
それより決闘の相手であるゴウを見ると彼は金色に輝く鎧に身を包みながら私を見下すようにして腕を組む。
顔すらも鎧に包まれていて何とも不釣り合いなその装備は鎧を着ていると言うよりかは、鎧に着られている感じがするね。
「へ、怯えて逃げなかっただけ褒めてやるよ」
「誰がアンタなんかに怯えるもんですか」
当初、学園ではお嬢様口調で通そうと思っていたけれど、どう足掻いてもボロが出てしまうのは明白だったのでいつもの物怖じしない雰囲気を醸し出している。
しかし、実技テストの時のように内心冷や冷やだ。
だが本性を見せてしまえば相手の空気に飲まれてしまう。
あたかも自分が勝ってゴウに吠え面をかかせてやる、そんな意気込みで睨みつけ木剣を構える。
「そんな棒切れで俺様を倒せると思ってるのか?」
「アンタこそ、そんな重そうな鎧に着せられて動けないんじゃない?」
まるでプロレスを始める前のマイクパフォーマンスさながらだ。
意図して狙った訳ではないのだが、私たちを見物している生徒たちは声を張り上げ会場のポルテージはマックスに達している。
「すぐに俺様の偉大さを分からせてやるさ。その後は──」
捨て台詞を吐きながらもゴウは私と距離を取り臨戦態勢に入る。
最後に何を言いたかったのか疑問が残るが、それよりも一応鎧を着ていても動けるくらいには筋力があるのに驚いた。
「それではこれより、ゴウ・ハシズとマリア・スメラギによる決闘を行います。相手を死に至らしめる攻撃、又は後遺症が残る攻撃を禁止します。また相手が降参、もしくは気絶をした場合、させた方が勝者と見なします。よろしいですね?」
レナ先生が私とゴウを交互に見ながら最後に念を押すようにして訊ねた。
もちろん私たちはルールを理解しているのでレナ先生を見て頷くだけ。
改めて思うけど後遺症が残らなければ骨の二、三本くらい折っても平気そうなルールだよね。
まぁ私はそこまでやるつもりもないし、出来るとも思っていない。
相手の魔力切れを狙ってそこから畳み掛けるだけだ。
それまではがむしゃらに逃げて逃げて逃げまくるのみ!
改めて自分の立てた作戦を頭の中で再確認していると、レナ先生は右手を広げたまま天に向け、地面に向かって振りかざす。
「始め!」
決闘が始まった。
「──ファイアーボール!」
先手を仕掛けてきたのはゴウだ。
彼は自分の右手に意識を集中させ片手だからか実技テストで見せた火の玉より二回りも小さな火の玉を私に向かって放つ。
実技テストで見ていたし威力こそ強いが速度は大したことはないのを知っていたので避けられる。
──初めはそう余裕をこいていた。
「っ! 危なっ!? 殺す気なの!!!」
実技テストで見た速度より速く、それでいて正確に私の顔面を狙ってきていた。
獣人の反射神経がなければ今頃私の私の可愛いお顔に火傷の痕が残っていたよ。
「チッ」
ゴウは舌打ちを一度だけすると、私の言葉に耳を傾けることはなく続けて魔法を放つ。
わざと威力を抑えて速度を重視しているのか、気を緩めてしまえば被弾しかねない。
被弾は私にとって負けを意味する。
絶対に当てられてたまるもんか!
立ち止まってしまえばただのいい的になってしまうのは明白なので左右に動き回り、時には背後に回りながら隙があれば攻撃を仕掛けようとしてみた。
だが鎧を着ていても身のこなしは普段通りで木剣を振りかざすタイミングがない。
「……ちょこまかとすばしっこいやつだ。これならどうだ!
ゴウは魔法による攻撃を止め、何故か腰に手を当てていた。
どうしてかとすぐに答えは分かる。
彼の鎧が発光したように光り輝いたのだ。
「──うわ、眩しっ!?」
目を守るため咄嗟に腕を前に出し目を瞑る。
私だけではなく、決闘を観戦している人たちも眩しいのか悲鳴が辺りから聞こえる。
その悲鳴は獣人モドキの私にとっては耳元で叫ばれているかのようにうるさい。
特にレナ先生はご高齢ということもあり激しくもがき苦しんでいる声がよく聞こえた。
「俺様の輝きにやられるがいい──ファイアーボール!」
目がやられているうちに決着をつけようとしているのか容赦なく詠唱するゴウの声が聞こえた。
目も耳もやられてしまっている状況、かと言って立ち止まっている訳にもいかない。
視界が見えないながらも動き回り、火の玉が近寄ってくると熱が伝わってくるのでドッチボールの玉を避けるかのようにスレスレで躱す。
これで乙女の髪の毛がチリチリになっていたら末代まで呪ってやるんだから。
それにおろしたての制服が焦げてたりしたら絶対に許さない。
動き回って少し疲れてきたけどまだまだ戦えるし、目も少しずつ見えるようになってきた。
……未だにピカピカ光り輝いているのはネタなのか、それとも王族だから目立ちたいだけなのか。
どちらにせよ実戦には向いていないね。
「今度はこっちから反撃だよ! ウォーター!」
私はジグザグに走り、金ピカに光り輝いているゴウに向かってき一粒の水を振りかける。
魔石を持ってきていないのでこれが私の出来る精一杯だ。
元より魔法を使って戦うつもりは毛頭ないので、陽動でしかない。
「ふっ、そんなもの効く訳がなかろう」
ゴウの身体は風を纏い始めた。
詠唱を聞いていないし、どうやらあの鎧には何かしらのエンチャントが施されているようだった。
金色に光る無属性魔法と、風を纏わせる風魔法。
他にも何かありそうだけれど彼の性格上、出し惜しみなどせずに力でねじ伏せてからジワジワと楽しむタイプでしょうね。
なので私は彼の背後をとり、そうして背中に向かって木剣を振りかざす。
「──トォ! …………」
ゴーン、という鈍い音が響き渡る。
観戦していて目が慣れてきた者はそう思うだけだろう。
だが攻撃を仕掛けた私の場合は違った。
鈍い振動が木剣を握っていた右手から私の身体全体に通じてくる。
「痛ったぁ!? 硬すぎでしょ!?」
堪らず叫び距離をとる。
魔法は端から効かないし木剣による斬撃も鎧の前では無力。
一体どうすれはいいんだってばよ。
「諦めて降参でもしたらどうだ? これ以上惨めな醜態を晒さずに済むぞ」
勝利の糸口を考えていると彼は両手を軽く広げて負けを認めろと言わんばかりに訊ねてくる。
しかし、彼がそんなこと言うのは何か裏があると考えるのが妥当でしょうね。
魔力切れ? それとも鎧を着ているから暑い?
どちらにせよ私にとっては好都合だ。
「勝てないくせに最初から決闘だなんて挑まないでよね。そんなに私がシロムと契約したのが気に食わなかったの?」
私は腕を組みそこまで怒っている訳ではないが頭の周りにぷんぷんと怒りマークが出てきそうな程度には怒りながら最後にはニヤッとして訊ねる。
「……俺様が、俺様が素直に紳士として振舞っていたのに……死して後悔しろ! マリァアアアア!!!」
あれれー、おっかしぃなぁ?
よく分かんないけどゴウの堪忍袋の緒が切れてしまったようで、鎧の輝きは更に増し、オマケに何やらヤバいと私の獣耳と尻尾が震えている。
「ファイアーウォール」
ゴウが静かにそう唱えると私の視界は真っ赤に燃え上がった。