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第43話 炎の壁

「困ったなぁ……」


 後頭部を摩り辺りを見渡す。


 右も左も前も後ろも紛うことなき炎の壁。

 触らなくても熱風が私を襲っている。

 この状況になって私は初めて理解した。

 ゴウは最初から全力で戦ってはおらず、決闘を仕掛けたくせに善意として降参をするように促していたのだ。

 転入してから目立ちっぱなしの私のことがただ単に気に入らなかったので自分も目立つためにこんなことをしていたのかな。

 そして自分の方が強いと証明したかったんだと思う。


「──マリアっ!?」


 セシリーの心配する声が聞こえた。

 でも降参をしない限りセシリーの介入は出来ないし、死に至らしめる攻撃は禁止されているのでいざとなったらレナ先生がどうにかして──


「くれない?」


 黄金化ゴールデンタイムとか言う鎧が光り輝く魔法のせいでレナ先生は人一倍悲鳴を上げ苦しんでいた。

 ご高齢ということもあり視界が元に戻るのも遅いでしょうね。


 絶体絶命、今更命乞いをしても聞く耳を持たないだろうし、自力で脱出するかゴウの魔力切れを待つしかないのかな。


「最初から俺様の魔力切れを狙っていたようだが無駄だ。この鎧を着ている限り俺様の魔力は尽きることはない。死んで後悔するんだな。フハハ!」


 炎の壁の奥からゴウのいやらしい声が聞こえた。

 どうやらあの鎧を着ている限りは魔力切れを起こすことがないようだ。


 なんというチート装備。

 私もあれを着たら少しは魔法が上手に使えるのかな。

 だけどあんなピカピカは嫌だね。


 なんて現実逃避をすることしか出来ない。


 体育座りになり炎の壁をじっと見る。

 やることもないので地面の草を抜いて遊んだりもした、一体何分経過したのだろうか。

 暑い。全身汗ダラダラ、喉もカラカラに渇いてきた。

 私の今の状況はさながら焼かれているケバブのようだった。

 こんな時だと言うのに使い魔であるシロムは私を助けに来てくれない。

 何が使い魔だよ『使えな』に改名した方がいい。

 思考がどんどんおかしくなり座ることもままならず私はうつ伏せになりそこからもっと体制が楽な仰向けになる。

 炎の中だから酸素もろくに供給出来ていないんでしょうね。


 空を見る。今日も今日とていい天気だ。


「ん?」


 そこで私は初めて気が付いた。

 そう、上はガラ空きなのだ。

 炎の壁は高さは多く見積っても五メートルほど。

 確実に成人男性の平均的な身長三人分くらいはあるので間違ってはなさそう。


「一か八か、だね……」


 普通の人ならば飛び越えることは不可能に近い。

 だが今の私は普通の人ではなく獣人モドキだ。

 この状況を脱却するには炎の壁を飛び越えることしか出来なさそう。

 失敗すると太陽に向かってき飛んで行ったイカロスのように燃えてなくなってしまうでしょうね。

 まぁ私の場合、翼なんてなく代わりにあるのは獣耳と尻尾だけ。


 尻尾をひと撫でする。


「アンタに掛かってるんだからね」


 果たして化け猫に声が届いているのか分からないが自分を鼓舞するためにそう呟きしゃがみ込んで脚に力を入れる。

 異世界じゃどうか知らないけど猫は自分の五倍のジャンプを見せるという。

 流石に身長は一メートルはゆうに越えているのでデータで見れば飛ぶことは可能なのだ。


「──トォ!」


 気分はさながらスーパーヒーローのように右手を握って力拳を前に突き出し自分が持てる力全てを使い地面から離れる。

 思っていた通り炎の壁を超えることが出来た。

 あれだけ暑かったのが嘘のよう。

 今では涼しい風が私を包み込んでいる。

 生きてるって素晴らしい、生きてるってこれほどまでに気持ちがいいことなのか。

 一ミリくらいはくそ女神様に感謝してもいいかもね。


 だが問題はこれからだ。


「な、何っ!? 俺様のファイアーウォールを越えただと!?」


 鎧越しからでもゴウが驚いているのが伝わる。

 魔力切れを起こすことがない彼をどうやってねじ伏せるかだ。

 でもどうだっていい。私の怒りをぶつけてやりたい。

 今はそれだけを考えていた。


 本気で殺そうとしていたみたいだし、こっちも本気で怒って怒って怒りまくってやるんだから。


 呼吸も普段通りに出来るまで回復したので私はゴウに向かって走り出す。


「し、死ね! 死ね!」


 きょどりながらもゴウは火の玉を連発する。


 小細工なんて必要ない。

 火の玉を出そうが持ち前の脚力で難なく躱す。

 アサシンのように木剣を逆手持ちにし、鎧を着てようが固くて右手が痺れようがお構い無しに攻撃を繰り出し、距離をとってまた違う箇所へと攻撃する。

 それを何度も何度も仕掛ける。


 次第に右手の感覚もなくなってきた。

 だけどシロムが作ってくれた木剣は折れることもなく、まるで接着剤を使ったのかと言わんばかりに私の手から離れることを知らない。


 何度も攻撃を仕掛けているとあることに気付く。

 一部分だけ金属で覆われてはおらず、金色をしてはいるのだが布のようだ。


「──ちぇすとぉぉぉおおおーーー!!!」


 何の流派か忘れてしまったが自然とそんな声が出た。

 私の木剣は下から上へと振りかざし、ゴウのお尻に向かっていく。


 そうして彼は木剣に浣腸をされる形になり、お尻を両手で抑えバタりと倒れた。

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