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第44話 勝利?

「やった……やったよ!」


 数秒経って目の前の光景にやっと理解して私は兎のようにピョンピョンとその場で飛んで喜んだ。

 観戦をしていた生徒たちも喜んだり泣いたりと緩急激しい。

 それよりも目立ったのは驚きの声と未だに目を抑えて苦しんでいるレナ先生の姿。

 あれは後で学長に持っていこうね。


「マリア!」


 ミレッタが駆け寄り私を抱きしめる。

 その後にセシリーたちも続いた。


「やりましたわね。何だか見ててスッキリしましたわ」

「おめでとう、マリア」


 セシリーは縦ロールを靡かせ私が勝利したことを喜び、日頃から何かしらの鬱憤があったのか言葉通り何処かスッキリした表情をさせていた。

 ミオは単純に私が勝利したのをお祝いしてくれている。


「ありがとう、みんな」


 ミレッタの肩を二度トントンと軽く叩き少し距離をとる。

 その動作に不審がってはいなそうだけど、認識阻害を使っているだけで実際には獣耳と尻尾が存在しているので抱きついた拍子にバレてしまいそうだった。

 それに炎の壁の中に居たせいで私は汗だくで少し匂いそう。


「ゴウ! ゴウ!」


 お尻を抑えたまま気を失ったゴウを心配しているのか取り巻きの二人が鎧を脱がし彼を楽な姿勢にさせていた。

 攻撃しておいてなんだけど自分のお尻に木剣が刺さるのを想像すると少し身震いするね。


「さてと、これで私にちょっかい出して来なくなるんだよね?」


 私は腕を組みゴウたち三人を見下すようにして眺めた。

 だがそんな態度とは裏腹に私は満身創痍。

 少しでも気を緩めてしまえばバタンキュー間違いなしだ。


「くっ……ゴウは……ゴウはマリアに一目惚れしていたんだ」


 取り巻きの一人、エナメル線の髪色のチリチリ頭野郎。

 確かセシリーが言うにはモル・タリスと言う名前だったかな?

 その彼が下を俯き悔しそうに白状していた。


「一目惚れって……色んな女の子に声を掛けてたんでしょ?」


 まさかの言葉に気が緩みそうになるが踏ん張って訊ねた。


「確かにゴウは色んな子に声を掛けていた。だけど何度も俺に相談するくらい悩んでたんだ」


 重力を無視して髪をツンツンさせている茶髪の男性。

 こっちもセシリーから聞いている。

 グレイル・オブセと言う名前らしい。

 名前だけ聞いたら彼が主人公みたいでかっこいい。


「悩んでた、って割には本気で殺しに来てたけどね……」


 決闘を仕掛けるんじゃなくてもう少しまともなアプローチの仕方があったのではなかろうか。

 この場で醜態を現在進行形で晒してしまっているから彼らは苦し紛れにそういう嘘を吐いているのかと思っていたが。


「ゴウは一度切れると取り返しがつかなくなるんだ」


 だそうで。

 これは将来典型的なDV夫になりかねない。

 ゴウと結婚する女の人が可哀想にも思えてくるよ。


「はぁ、なんでもいいや。二人はさっさとゴウのお尻を治してもらって。セシリー、レナ先生の目を誰かに治してもらえたりするかな?」


 黄金化ゴールデンタイムとやらで完全に失明してしまったりしていたら授業に支障をきたしてしまう。


 モルたちは重たいゴウとこれまた重そうな鎧を担ぎその場から退場しようとしていた。

 セシリーも頷きレナ先生を起こし自分の肩を貸すと目を治せる人が居る所に向かおうとする。


 私も疲れたから自分の部屋に戻ってお風呂に入りたい。


 ──だが運命とは皮肉なもので。


「──きゃっ!?」


 一人の女の子が声を上げる。

 それがきっかけとなり前後左右から悲鳴と逃げ惑う足音が聞こえる。


 どうしてかと思えば一番最初に悲鳴を上げた女の子の目の前には人ではない何かの姿があった。

 緑色の腕に見立てた蔓をうねらせ、ラフレシアのように見る人を危惧させてしまうほどの歪なオーラを放っている植物。

 前世で見るような花とは明らかに違う。

 赤い花は私よりも遥かに大きく、もちろん茎なんかも太く頑丈に見える。

 それでいて獲物を肉眼で捉えることが出来る目が複数存在していた。


 その姿だけで理解した──魔物だ。


 魔物は最初に声を上げた女の子を自慢の蔓を使って左足に絡ませるとそのまま吊り上げ女の子は逆さ吊りになる。

 最初はもがこうかと考えていたのか一度だけ左右に揺れたが彼女と地面の距離は炎の壁くらいある。

 そんな空中から落とされてしまえば当たり所が悪いとどうなるかは容易に想像出来てしまったのか大人しくなる。


「セシリー!」

「分かりましたわ!」


 名前だけ呼ぶとセシリーは頷き私のしたいことを理解してくれたようだ。

 ミオも何も言わないで頷いている。

 誰も魔法を使って魔物に攻撃しないのは触発させないようにしているのか、それともビビっているのか。

 見れば我先に逃げようと人混みを掻き分けて進んでいく学生がチラホラ存在している。

 どちらにせよあのくそ花に攻撃を仕掛けないのは私にとって好都合。

 魔物は魔法を使ってくる様子もないので私は一直線に向かっていく。


 狙うはもちろん。


「──ハァ!」


 彼女と魔物を繋げている蔓。

 私の手首くらいの太さはあるものの茎よりは太くない。

 なので蔓は木剣と言えどスパッと切れる。

 問題はここから。


「セシリー!」


 さっきからセシリーの名前しか呼んでないと思いながらもセシリーたちに彼女を任せる。

 ミオが彼女の周りに風を纏わせ、彼女はセシリーの作った水のクッションを何度も通り最後はセシリーがキャッチする。

 二人ともずぶ濡れだけど命に別状はないようで一安心だ。


「はぁ、決闘の次はくそ花ですか……もうなんだってやってやんよ!」


 今の私はかなりやけくそだ。


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