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第59話 アリア

「って言っても簡単な受け答えくらいしか出来ないんだがね」


 嬉しそうにしていたが肩を脱力させ少し悲しそうに話す。


「それでも凄いと思いますけどね。アリアとマリアって少し名前も似てて親近感が湧くね。よろしくね、アリアちゃん」


 ターシャさんを励ましながら私はアリアちゃんの手を取って握る。

 すると驚くことにアリアちゃんは人形にも関わらず人のように体温がある。


「おお、ターシャさん凄いですね! まるで人のような温もりがありますよ!」


 私は興奮した。

 一体どんな仕組みで暖かくなっているのかな。

 ヒーターが入っているとは思えないし、感触も人間そのものだ。

 それだけターシャさんの腕が凄いということだよね。


「マリアは冗談を言うのが上手いね。アリアに人と同じような温もりがある訳なかろう──んん!?」


 ターシャさんは笑いながら否定し、私が握っている反対の手を握ると電流が流れたのではないかと思わせるほど身体をビクリと揺らし驚いていた。


「おはようございます。お母様、マリアさん。そんなに驚いてどうなさいましたか?」


 抑揚がなく無機質にも感じる声は嫌味がなく澄み渡った水のような声をして、首を傾げていた。


 体温があるにも驚いたが、アリアちゃんはターシャさんをお母様と呼び、私をマリアさんと呼んだ。


 私の第一印象としては初めて見るアリアちゃんの目はターシャさんとお揃いの青い瞳でとても綺麗だと思った。


 それから少し遅れて思考がやってくる。

 百歩譲ってターシャさんはアリアちゃんの製作者だから理解出来るけど、どうして私の名前まで知っている訳?


「アリア……お前はアーティファクトなのかい?」


 何かを察したのかターシャさんはアリアちゃんの頬を撫でるようにして触り彼女へ問いかけた。


「はい。わたしは、アリア・リール。お母様に作られたアーティファクトであり、お母様の娘です」


 小さく頷きターシャさんの質問に答えていた。

 私にはさっぱり理解出来ないのだが、ターシャさんは念願のアーティファクトを作ることが出来た。

 それと同時に自分の娘であると言われた感動からなのか目元からは涙が滴っていた。


「そうか……これでようやく……」


 長年追い続けて諦めた夢を、老婆になって叶えたかった夢を同時に叶えられた喜びは私の知っているどんな喜びよりも大きいでしょうね。


「おめでとうございます、ターシャさん」

「あぁ、ありがとうマリア……ありがとうアリア」


 お祝いの言葉を掛けると、ターシャさんは私とアリアちゃんを同時に抱きしめ更に涙を流している。

 それを見て私とアリアちゃんは目が合い笑い合う。

 私はターシャさんとは血の繋がりなんてないし、人形でもないのでターシャさんに作られてもいない。

 だけどターシャさんが本当の自分の母親に思えてきて少し恥ずかしくもあり嬉しくもあった。


 ──だが嬉しい出来事はそう長くは保たない。


「ターシャさん、透けてないですか? アリアちゃんまで!?」


 私以外の二人がぼんやりと青白い光を放ち、光の粒子が天へと向かって行っているのが分かる。


「お母様、そろそろ」

「そうかい。マリア、元気で。魔道具を作るにせよ作らないにせよ、あたいはアンタの活躍を応援してるよ」

「マリアさん、お元気で」


 アリアちゃんはターシャさんの袖を引っ張り何かを訴えると、ターシャさんはゆっくりと頷き本当の娘を見つめるような眼差しでニッコリと微笑んでいた。


「え、ちょ、ターシャさん!? アリアちゃん!?」


 私は必死に二人を掴もうとするがすり抜けて掴むことが出来ない。


 そうして次第に光が強くなり眩しくなって私は腕を使って目を隠す。

 そして光が消えた後、ゆっくりと目を開けるとそこは真っ暗になっていた街中、それもターシャさんのお店があった場所。

 だがターシャさんのお店は跡形もなく、隣にはお花屋さんがあるだけ。


「ゆ、夢? まさかね──」

「マリア! 無事か!」


 狐につままれた気分を味わっていると、地面に魔法陣が描かれ出てきたのは白猫であり私の使い魔でもあるシロムの姿。

 シロムは血相を変え、猫が喋っているのを誰かに見られたら困るというのに大声を出し私を見つめ、前のめりになり臨戦態勢とも取れる仕草をしていた。


「久しぶりだね。何してたの?」


 反対に私はシロムの変な行動を不思議に思うがあえて訊ねず、久しぶりなことと何をしていたのか訊ねた。


「魔法陣から出れなくなって外界との通信も遮断されていたんだ。怪我はないか!?」

「そうなんだ。うん、見ての通り何ともないけど」


 シロムは私に駆け寄り私の身体をくまなく観察する。

 そこまで必死なシロムは初めて見るので少し引き気味になる。

 だけどそこまで私のことを心配しているってことだよね。


「そうか……何だかマリアから懐かしい匂いがするな」

「匂い? あぁ、ターシャさんのお香の匂いなのかな。匂いがするってことは夢じゃないんだね」


 鼻を鳴らし私の匂いを嗅ぐ。


 その行為は猫だからまだ許せるけど人だったら叫んでるからね?

 なんて考えながら匂いの正体はターシャさんのお香の匂いだと答える。

 初めて店内に入った時に私も気になったけど、何度も通ううちに何も思わなくなっていた。

 でも嫌な匂いじゃないし、何処かノスタルジックにさせる匂いなんだよね。


「ターシャだと!? ターシャに会ったのか!?」

「んー、会ったって言ったらいいのか分からないけど、く、詳しい話は返ってから──ん?」


 ターシャさんの名前を聞いたらシロムはこれまた血相を変えて私の膝にしがみつき揺らしながら聞き返す。

 正直鬱陶しい。視線を逸らし、ターシャさんのお店があった地面を見ていると濃い紫色の布切れとその上にはキラキラと光る綺麗な物が置かれていた。


「指輪、だね。それとローブだ」


 キラキラした物と布切れを拾い上げると、キラキラした物は指輪のようでアリアちゃんに使われていた魔核と同じ赤いルビーのような綺麗な色をしている。

 布切れは濃い紫色をしていてターシャさんが着ていたローブと同じものだった。

 だけど使用された形跡はなく新品みたい。


「精巧な魔道具のようだな。ローブはマリアのためにターシャが作ったのだろう」

「そっか……ターシャさん、ありがとうございました」


 目頭が熱くなりローブを抱きしめる。

 しばらくして何もない場所にお辞儀をすると私とシロムは寮へと戻ることにした。


 その際、何やら私たちを見て声を上げている人たちが居たような気がしたけど気のせいかな?

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