これはどうにも……、完全にエリィ女史を抱え込みにかかっているようにしか……。
正直捜査機関を動かせるのであれば、これは放置してしまっても良いという考え方もできます。
しかし、動かせるのは書式通りに報告書を作成し、申請した後に私からの
その間にエリィ女史から様々な知識を吸い上げ、再現に乗り出すことでしょう。
そうなれば、完全に異世界転生者保護法違反としての捜査令状が発行されることになります。
…………後手に回ってしまいます。
理想としては法が抑止力となり、罪人を出すことなく秩序が保たれることです。
でもこのままでは、彼らは止まらない。
私は目の前でこれから行われるであろう違法行為を、指を
「………………ディーン、ちょっといい?」
私はディーンに、一つ提案をしてみたのでした。
次の日。
私とディーンは、ランドール伯爵家へと向かい――。
「突然の訪問、大変申し訳ございません。ご対応ありがとうございます。私はローグ侯爵の娘、レイナ・ローグでございます。本日は折り入って相談があるのですわ」
――
この行動は貴族社会において非常識
アポイントメントを取らないで爵位を持つ者の家を訪問することは、ありえない。
ですが緊急性を
礼儀作法を
「野暮ったい挨拶は不要だよレイナ嬢、どういった要件かな?」
私の自己紹介に対してランドール伯爵は単刀直入に要件を聞き出す。
では私も単刀直入に。
「エリィ・パールは異世界転生者です。このまま一部貴族のみで囲い込むのは異世界転生者保護法に抵触いたします。公平のローグ侯爵家の者として忠告をしに参りました」
私はランドール伯爵に堂々とそう宣った。
内心は怖くて震え上がっています。
表情に不安が出るのを扇子で隠します。
「はあ……、異世界転生者。それは初耳だね、まさか息子の友人が異世界転生者だとは、恐れ入ったよ」
私をあしらうようにランドール伯爵はそう返す。
知らなかったのですか……、まあ虚偽の可能性もありますがどちらにしても今知ったことによりここで規定通りの行動をしなくては違反になります。
「……
ランドール伯爵はやや威圧的に私に問う。
「彼女が異世界転生者である証拠は? 捜査機関からの立証は? もしかして公平のローグ侯爵家である君が手ぶらで、そんな空想を元に証拠や根拠がない状態で伯爵位を持つ私の家に約束もなしに押しかけたというのかね。君はただの学生で捜査権も逮捕権も有していないだろう」
低い声で、口調のみを柔らかく鋭い目付きで伯爵は私に語る。
……こ、怖い。
確かにランドール伯爵の
でも今はディーンが
ディーンがいれば、問題なんてありません。
「確かに本来であればこんな無礼は許されませんが、緊急性があると判断いたしました。それに私は――」
「――なんであんたがいんのよ!」
もはや聞きなれた大きな声が背後から私の話を
振り返るとゴルト・ランドールを含む三名の同級生に連れられたエリィ女史が、驚いた顔で私を見ていました。
「こんなところにまで……、もう関わらないでって言ったのに……」
強く私を
どうにも私は完全に嫌われてしまっているようですね……。
大昔に異世界転生者の方と出会った当時のローグ侯爵は記録の中で異世界転生者の方を、
環境や常識の違いでトラブルに巻き込まれ続ける親友を守るために作った法律、それを百二十年を経て子孫の私が
まあ私は嫌われてしまっていますが……、ああご先祖さまはどのように異世界転生者の方と友好を……私には難しすぎます……。
「エリィさん落ち着きなさい。レイナ嬢はもうお帰りのようだ」
伯爵はエリィ女史に向けて言葉を向けるが、これは私へ、暗に帰れと言っている。
…………仕方ないですね。
やはり一旦ここは引いて、報告書を制作して手続きを踏んでから捜査機関を動かすしかないようです。
後手に回るのは仕方ない。
実際に捜査が進み、エリィ女史の保護に
いや、せめて最後にもう一度だけ。
私はご先祖さまの遺した異世界転生者の記録に記されていた通りに指を折り曲げて、エリィ女史へと突き出す。
「……? 何を――」
ゴルト・ランドールが突然の私の奇行を不思議がったのと同時。
「……ふざけんな……っ」
怒りを滲ませたエリィ女史の声、さらに続けて。
「
エリィ女史は私を怒鳴りつけた。
「貴女には、
私はエリィ女史に確認をとる。
「当たり前でしょ! あんた頭おかしいんじゃないの⁉ いきなり
エリィ女史は
有効な証言を得られました。
この中指を立てるハンドサインは、かなり下品で攻撃的な意味合いがある
そう、こんな文化はこの国にはありません。
このハンドサインは異世界ではかなり広まった、スラング的なもののようです。
エリィ女史はこの意味合いを正確に理解して反応し、認めました。
つまり。
「エリィ・パールは異世界転生者である証明ができました! 異世界転生者保護法に基づき、エリィ・パールを保護いたします!」
私は高らかとそう宣言する。
「い、異世界転生者……保護法……?」
私の宣言にエリィ女史はきょとんとした顔で返す。
「に、逃げるんだエリィ! 奴らは君を拉致して異世界の知識を独占しようとしているんだ! とにかく安全な場所へ――」
ゴルト・ランドールはかなり都合の良いことを言いながら学友たちと共にエリィ女史を連れ出そうとするので。
「ディーンッ!」
私が名を呼ぶと、ディーンは最速で移動してゴルト・ランドールの腕を掴んであっという間に組み伏せてしまう。
「い、痛っ! 暴力だと⁉ 貴族に対して、いち使用人が……っ!」
ゴルト・ランドールは拘束されながらそんな悪態をつく。
貴族に対して、ね。
やはりあの自由意志の尊重するような思想は、エリィ女史に向けたポーズだったようです。
「これは問題だぞレイナ・ローグ! ランドール家に乗り込んで暴力行為……、こいつらを捕らえろ! 人を集めろ!」
伯爵は屋敷中に響き渡るような大きな声でそう宣う。
その論でうやむやにする気でしょうか。
でも、そうはいかない。
部屋にぞろぞろとナイフや棍棒を持った人が入ってきました。
「ただで済むと思うな、正当防衛というやつだよ」
成立しない正当防衛を伯爵は主張する。
ああ、もう……。
一つずつ、教えてあげましょう。
「武器準備集合罪、
私は口元を扇子で隠して目をふせながら今この部屋で起こる犯罪行為を
こうなっては異世界転生保護法違反よりも重要な犯罪行為。
「
私がそう言うと、手足を縛って完全に拘束したゴルト・ランドールを置いて私の前に立ち。
「国家指定正規騎士団所属、ディーン・プラティナ。ローグ侯爵家の要請と騎士の権限により、この場にいる者は全員拘束する」
ディーンは威風堂々と、名乗った。