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第三話 超ノンプリフリークの激痛オタク。

「作戦はシンプルでかつ、ぶっとんでいる方がいい。どうせ一回しかやらないんだから」


 私は煙草をくゆらせながら、正座をして聞くノワールに王妃謁見えっけん計画を語り出す。


「ば、爆弾をつかうのですか……?」


 ぶっとんで、というところでノワールは驚きの反応を返す。


 どうやらこないだの騎士との大立ち回りでちょっとトラウマ気味になってるみたい。

 めっちゃかっこよかったのに、可愛すぎるでしょ。


「ふふ、それもいいけどね。今回は城の出入り業者を懐柔したの、補填要員に私たちがまぎれ込んで城に入り込む。スニーキングミッションってやつよ」


 私は彼に作戦概要を伝える。


 城に入れるの王家に呼ばれた貴族か、よりすぐりの特選側仕えたちと、


 現在モーフィング家は事業の一部でいくつかの王家御用達出入り業者と繋がりを持っている。

 モーフィング家で雇用して教育した中で優秀な人間を派遣したりしている。

 本来は正規雇用の御用達業者だけしかお城には入れないけど、二名ほど欠員が出ている。そこにモーフィング家から派遣している二名が、代役として入るのだけれど。


 この二名が謎の合気道マスターに襲われて服を奪われることになるってワケ。

 ちゃんとモーフィング家も被害者としておくとこがミソ。


「もちろん変装もするわよ。簡単に落とせる染髪剤せんぱつざいとファンデも用意してある」


 私は化粧箱を開きながらノワールに説明する。


 この世界は思ったより化粧品が充実している、多分どこかのタイミングで異世界転生者が関わっているのとイザベラ……夫人の小遣い稼ぎで研究開発が進んだものだと思われるけど。


「王妃の寝室までの経路は思い出せたから、見つからないように移動して近衛兵を何人か畳んで王妃に会う」


 さらりとそう言うとノワールの緊張感が高まる。


 まあノワールは多分、この世界において五本の指に入る強キャラだ。

 アダムスキー、キッドマン、ディーン君、後は誰だか知らないけどノンプリⅡのラスボス。この辺りに並ぶ……いやアダムスキーのダン少年がいたか。

 あれは番外編での出来事で覚醒したはずだけど、こないだ会った感じまだ覚醒してないみたいだから今のところ問題はない。 


 ダン少年覚醒を阻止する方法は存在はするけど、私のような悪役令嬢だとどうやっても覚醒を誘発ゆうはつしてしまう恐れがある。


 私ができる方法は可能な限り関わらないで、覚醒に巻き込まれないことだけ。まあ多分結局ダン・ホワイトはアダムスキーをぐ者として英雄になるんだろうけど。


「んで帰りは適当に爆発させてどさくさで逃げ切ろうかなって」


「ば、爆弾使ってるじゃないですか……」


 私の適当すぎる作戦にノワールはおののきながら返す。

 ふふ、可愛い。


 まあ別に私は爆弾が好きってことは一切ないし爆弾キャラになりたいわけでもないんだけど。

 私が今まで勉強してきた機械工学や化学の知識が前世の記憶と合わさりがっちりハマって、凄いものが造れるってのが楽しいのよね。


 もちろん虐殺みたいなことはしないけど、無茶苦茶なくらいじゃないと城に乗り込んで王妃と話して無事に帰るなんてことは出来ない。


 無理は承知。

 それでも私はメリィベルに会わなくてはならない。


「でも多分上手くいくわよ。何故ならその日、騎士団や軍はローゼンバーグ公爵邸爆破予告に駆り出されてるはずだから私たちを追うのは近衛兵のみだから」


「めちゃくちゃ爆弾使うじゃないですか」


 私の補足に最早呆れ顔でノワールは返す。


「ローゼンバーグんとこに使うのはただのダミー模型よ、でも王妃はそれを無視出来ない。血眼ちまなこになって探させるだろうから、あくまでも陽動ようどうのため」


 一応ちゃんと危険はない旨も伝えて。


「それに恐らく城の警備自体が甘くなってる。十九年前のアダムスキーによる反体制派粛清しゅくせいが終わってセピアラ公国との和平も締結されて、国内の問題は過激なことは出来ないけどなんとか政治的な主導権を得たい技術開発推進派のたくらみくらいなもの。王家の守りを固めるより王都や国境沿いの治安維持に人員を割いているはずだからね」


 適当に推測したことを語る。


 まあそれでも難しいことには変わりないけど、近衛兵だって王家を守るための訓練を受けている。


 でも。


「基本的に身を隠して進むから戦闘状況にする気はなないけど、見つかるくらいなら先手瞬殺で落としてもらう。できるかしら?」


「そちらは問題なく、声を上げる間もなくめて締めて落とします」


 私の問いに、ノワールは即答する。

 端的たんてきに、問答無用でかっこいい。


 劇中最強格のノワールが近衛兵におくれを取るわけがない。実際逃亡生活中、国軍や捜査機関では相手になってないわけだし。


 まあ調和を重んじる合気道の六段が悪事に手を染めてるのはどうかとも思われるかもしれないけど。

 彼にとっては私を守るということだけが、世界と調和できる唯一の方法なんだ。

 彼は彼でそこまで壊れている、いびつに欠けている。


 だから私とくっつことしかできない、彼には私しかいない。


「……流石ね。まあ何にせよエリィ・パールよりも先に王妃に一言いっておかないと――」


 私は煙草を灰皿ですり潰して言いながら。


「――……ってね」


 心から、ただの私怨しえんつぶやいた。


 数日の後の夜明け前、準備が整った。


「……さあ、いきましょうか」


 ノワールが畳ん……眠らせた二人の派遣された業者から奪った服を着て、私はノワールに言う。


 一応安全に落としたらしい、巻き込んだお二人には申し訳ないけどそもそもこうする為に雇用したようなものだからこれも仕事のうちなの。ごめんね。


 そこから計画通りに城の中へと侵入。

 思った通り、言っちゃあなんだけど警備はザルだ。

 御用達出入り業者というだけですんなり通れた。


 納品作業中にそのまま私とノワールはしれっと城内を進み。

 頭の中で柿山しぶたろう先生が描いていた城内設定図をめぐらせて、効率よく一切の無駄なく王妃の元へ向かう。


 柿山先生が描いたのはノンプリ無印時点の城内設定だけど、さすがに二十年近く経とうが大きなレイアウト変更とかはないみたいね。


 道中三名ほど近衛兵をノワールが無音で制圧。

 前世で私も本当に少しだけ合気道に触れたことがあるけど合気道ってのはとにかく攻撃をされた感覚ってのがない、徹底的にバランスを崩されて気づいたらまっている。


 そんな感覚で危機感を覚える前に、ノワールは近衛兵の首を絞めあげて落としていった。


 そして。


「ごきげんようメリィベル。私はノンプリⅡ悪役令嬢のジュリエッタ、もちろん貴女と同じノンプリを知っている異世界転生者。危害を加えるつもりはないわよ、聞きたいこととか言いたいことがあるだけだから騒がないで」


 私は突然の来訪者に寝起きで驚愕きょうがくするメリィベル王妃に向かけて、一方的に名乗って語りかける。


「聞きたいことはいくつかあるんだけど、まず一つ目はどうして原作改変を行ったのか。次は何故メリィベルが王妃でネモが王になっているのか……まあとりあえずこの辺りを聞きたいのよね」


 私は当たり前のように、部屋の椅子を動かして王妃の対面に座りながら話を進める。


「ああ、逆に私へ聞きたいことがあるならそれも全然答えるわよ。今日は意見交換をしにきたのよ……あ、煙草吸っていいかしら、まあ全然勝手に吸うけど。あ、一本いる? ほらくわえて……はい」


 語りながら煙草を取り出して火をつけて、驚愕きょうがくして言葉を失って固まっているメリィベルに煙草をくわえさせて火をつける。


 するとメリィベルは無言で煙草を吸って、どっぷりと煙を吐いて。


「どうし…………いや、え……? どうやって――――」


「ああ、まあ割愛かつあいするけど忍び込んできたの、近衛兵はノワールが眠らせてる。ほら知ってるでしょ? クロガネ・ノワール。Ⅱにおけるキッドマンポジションの」


 ようやく驚愕きょうがくから混乱に反応が移ったので、被せるようにサクッと説明する。


 もう少し遊びたい気持ちもあるけれど、じきに近衛兵がやってくる。部屋の外にノワールを置いているので可能な限り時間は稼いでくれるとは思うけど余裕はない。


「そろそろ落ち着いた? まあまあ時間ないから話を進めたいのだけれど」


 私は未だに混乱しているメリィベルにそう前置いて。


「……ではメリィベル、なぜ貴女は原作改変を行ったの? それもネモに出会った上でトゥルーエンドに進まずに、わざわざ王妃となるなんて。ただノンプリファンで詳しかったから好き勝手やるのなら適当に……そうねロートとかジョーヌとかと付き合っておけばいいのに」


 問答無用で話を切り出す。


「……ふ――――――――っ………………わかった、わからないけどわかったわ。私はお察しの通り異世界転生者、しかも前世は超ノンプリフリークの激痛オタクで――――」


 思いっきり煙を吐いて、ニコチンがめぐって眠気と混乱から覚めて状況を察したメリィベルは語り出した。

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