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第四話 トゥルーエンドシナリオ。

 彼女が前世の記憶を思い出したのは十二歳の時。

 ノンプリ本編の五年前。


 そこから彼女が考えたのは、トランス版ノンプリⅡで起こる内乱の阻止。

 トランス版ノンプリⅡのシナリオが始まらないようにする為に、原作改変を行ったらしい。


 いかにトランス版ノンプリⅡがクソゲーなのかを語って、さらに具体的な原作改変方法についても語ってくれた。


 そんなクソゲーなトランス版ノンプリⅡとの繋がりを断つ為にノンプリには存在しないエンディングを目指して、自身の持つノンプリ知識を総動員させてロート・ローゼンバーグのルートを使って追放された。


 辺境の地で当時第一王子のステルラ・カラリアと出会って、なんだかんだでイザベラへの好感度によって冤罪をくつがえし。


 王子と結ばれ今にいたる。


「なるほどね…………トランス版ノンプリⅡに辿たどり着かせない為、なるほどね。そんな話だったんだⅡって、マジにクソゲーね……そう。つまり貴女はノンプリのを知らず、も知らずにネモに出会ったってことなのね」


 私は彼女の常軌を逸した行動力に驚きつつも、彼女の話を飲み込んでいく。


 それにしてもトランス版ノンプリⅡはかなりクソゲーというか、そもそもノンプリってYuKiCoが書いたからそこそこ人気出たのに。トランスの担当者はマジで馬鹿ね消しておいて正解だった。


「トゥルーエンドシナリオ……? いや真ノンプリⅡ? 何を言って……どういうこと?」


 頭の中で彼女の話をまとめているところで、驚愕した彼女がたずねる。


「まあ単純な話、私は前世の貴女が死んだより後に死んだ人間の生まれ変わりなのよ」


 私はあっけらかんと、どういうことかを教えてあげることにする。


「私の前世はただのくっつけたがりの犯罪者で乙女ゲーム? とかそういうのに全然明るくない。ノンプリ以外のタイトルも知らないくらい。ビデオゲームって私ブロックパズルみたいなのしかやったことないくらいにうといから」


 簡単な私についての話をして。


「でもノンプリだけは知っている。貴女ほど詳しくもないけど、貴女の知らないことは知っている」


 たっぷりと意味深に前置いて。


「私……つまり前世の私は、


 ついに私はそれを、つまびらかにした。


 前世を思い出してから、しばらく不思議な感覚におちいった。

 なんか私はフルカラ王国を知ってる。

 なんかローゼンバーグ公爵家だとか、ローグ侯爵家とかを知っている。


 そりゃ私はディアマンテ伯爵令嬢としてこの国に生まれて育ったんだから、国の名前や上級貴族を知っていてしかりなんだけど。


 モーフィング子爵家を乗っ取りジュリアとして学園に通い始めて、悪役令嬢イザベラにそっくりなローズ・ローゼンバーグ公爵令嬢の姿を見て。


 一気に繋がった。

 この世界が姉のYuKiCoが書いたゲームの世界だって気づいた。


 そして私がトランス版ノンプリⅡにおける悪役令嬢であることにも気づいた。

 トランス版ノンプリⅡはYuKiCoが書いてないからやってないけど、キャラ原案だけはYuKiCoのプロットをベースにしたらしいから。そのプロットを見たことがあった。


 そこから今度は私が知るノンプリの流れとは違うことに気づいて、原作改変を行った人物がいることにも気づけた。


 というかシナリオそのものをねじ曲げるような改変を行えるのは一人しかいない。


 メインヒロインであるメリィベル・サンブライト。

 だから私は無理を通してまでここに来た。


「もちろんプロデューサーの高崎さんも、渋谷さん……柿山しぶたろう先生とも面識がある。だから私はノンプリのシナリオを制作段階から見聞きしているの」


 私は私とノンプリの関係性について語り出す。 


「まあ私はたずさわったわけではないけど一応エンドロールのスペシャルサンクスに名前もってるのよ、もちろんあだ名みたいな感じだけど」


 もはやただのマウントみたいな開示をする。


 まあでもマジに私はなんも携わってない。

 ちょっと気分転換のお喋りに付き合ったくらいしかしてないのだけれど、毎回姉は私をスペシャルサンクスの欄に入れていた。完全なる身内贔屓びいきの文字通りの身内ネタね。


「だから初期段階からノンプリにはタイトル回収するのを前提に王子ルートが用意されていたことを知っているの」


 私は話の信憑性を高めるために彼女が知りえない、トゥルーエンドについて語り出す。


「タイトルのノンプリンスノンプリンセス……このクソダサ白星記号はそもそもネモ、つまりステルラ王子を意味するマークなのよ。ほら、他のキャラにはピクトグラムみたいなマークがあるでしょ? アダムスキーだと緑の剣とかブラウだと青い酒瓶とか、パッケージにもってるやつ」


 かつて高崎さんから嬉々として語られた最早小ネタのようなことや。


「ステルラはラテン語で星を意味するからね。ほら、偽名のネモはラテン語で何者でもないってことでどちらもノンプリの根幹こんかんに触れるように出来ている」


 そんな姉から聞いた裏設定みたいなことを語り。


「シナリオ出現条件は全ルートクリア後、二周目のロートルートにのみ出現する選択肢を辿たどって冤罪裁判にて追放されるバッドエンドを達成すること……その後、辺境の地でネモとの生活が始まるって流れなの」


 私はデバックの手伝いでプレイした知識をそのまま伝えた。


「……見事に私の人生そのものね…………気持ちの悪いほどに」


 話を聞いていた彼女は、わかりやすく頭を抱えて吸っていた煙草の火を消しながら感想を漏らす。


「でも、貴女はトゥルーエンドへは進まなかった。YuKiCoのシナリオでは、ネモとメリィベルはだったのよ。身分やしがらみを全て捨て去って、女性医師に協力してもらって二人で国境を越えてセピアラに向かう。何か女性医師から選択を迫られなかった? まあ細かいところまで同じとは限らないけど」


 私は淡々とトゥルーエンドシナリオについて語る。


。ってな感じで、タイトルを回収して終わる予定だった」


 ネタバレ配慮はいりょゼロで完全にオチまで語ると。


「……っ、ゆ…………YuKiCoシナリオっぽーい……」


「でしょう? こういう伏線回収的なの大好きだからね。パッケージの☆もわざとメリィベルに重なるように配置したりイザベラをロートの位置に重ねたり……パッケージから匂わせていってたんだけど……」


 新たな煙草に火をつけながら彼女は間抜けな顔で驚愕しているところに、補足で製品版に残ったままの伏線を伝える。


「まあ容量の関係というか……当時のPC環境が悪かったのとパラレルデザインのSE不足が原因ね。キャラも少ないしノベルゲームだから本来全然容量は使わないはずだったんだけど、当時のOSであるVivaがこれまた動きが悪くてねぇ」


 私は前世の記憶を思い返して当時のPC環境を語る。


「……あったわねそんなの、確かに私も一個前のOS……xqのパソコンでプレイした気がする」


 メリィベルも煙草をくゆらせながらしみじみ当時のPC環境を思い返す。

 というか王妃様がOSの話をしてるのはちょっと面白いわね。


「そそ。ある程度のスペックがあればVivaでも動いたんだけど、そんなスペック要求できないしもう当時の最新PCはVivaが標準になっていてVivaより前のOSを積んでるのはスペック的にもちょっと古いPCだった。だからパラレルデザインはノンプリをVivaで動かすために色んな試行錯誤をしてパッチを当てまくった結果、容量がまあまあ増えちゃったの」


 さらに私は当時のパラレルデザインについて語り。


「そこで急遽トゥルーエンドルートを削って、後に追加コンテンツとして発表するか完全版を出すってことにせざるを得なかったの」


 パラレルデザインの行った対策について伝えた。


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