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第五話 接着少女。

 まあ私としてはとりあえず動くか動かないかのラインでパッケージ版を発売しちゃって、公式サイトから修正パッチをダウンロード出来るようにしちゃえばよかったと思ったけど。

 流石に当時でもPCでゲームやる人の家にはそこそこのネット環境はあったしね。


 でもパラレルデザインはそういう面倒なことで初速が落ちることを嫌ったみたい。うーんこれもこれで正しくはあるんだけどね。

 そもそも期待されてたタイトルでもないし公式サイトにヒットするかもわからない乙女ゲームにダウンロードページを作る労力が見合うかどうかとかあるし。

 ヒットしたんだったら追加コンテンツや完全版も出せるようになるだろうしね。


「それでもノンプリ自体はそこそこヒットはした。でも、その後のパラレルデザインは鳴かず飛ばずで追加コンテンツや完全版どころじゃなくなった」


 当時のパラレルデザインを思い出して語る。


 ノンプリ自体はドラマCDが出たりOVAになったり、色々と展開されるくらいにはヒットしたんだけど麻雀ゲームやパズルゲームのオンライン版に手を出したら全然流行らずに大赤字を叩き出した。

 既に無料ゲームで似たようなものがあったのに有料パッケージフルプライスで販売したのはギリギリ時代遅れだったみたい。


「一応YuKiCo自体はif小説とかでそこそこ稼げてたし、続編のキャラ原案くらいまでは用意していたんだけど完全版や続編は出せずにパラレルデザインは倒産」


 私は当時を懐かしみつつ語る。


 結構忙しそうにしていた。結構ノリノリで高崎さんも続編への展望を語っていた。

 だからYuKiCoもプロット程度だけど続編キャラ原案を書いていて、初期稿を見せてもらったことがある。


 そこには今の私であるジュリエッタ・ディアマンテやクロガネ・ノワールの名前や何となくのキャラ設定がっていた。ちなみに無印のキャラは色と星がモチーフでⅡは鉱物がモチーフだった。


「そこで私はパラレルデザインの高崎さんをノンプリ版権と一緒にトランスへ移した」


 ここでかつての私が唯一ちゃんと介入した件を語る。


 トランスはアクションRPGで人気タイトルをいくつか持っている業界大手のメーカー。

 当時トランスは女性ユーザー獲得のために女性向け恋愛シュミレーションゲームの開発を行おうとしていた。


 そこにパラレルデザイン倒産により宙に浮いていたノンプリというそこそこのヒットタイトルと、そのタイトルを開発した失業中のプロデューサーを取り込ませた。


 高崎さんには仕事とノンプリ制作の続きを、トランスには乙女ゲーム開発のノウハウと人気タイトルを。


 悪くないくっつけ方だったはずなんだけど……、結果としてこれは失敗だった。


「トランスの大馬鹿野郎共はYuKiCoのノンプリⅡキャラ原案だけ使い高崎さんをチームから外して勝手に続編を作った……その結果がクソゲーのトランス版ノンプリⅡってわけ」


 こうして彼女の知るところに話を繋げて。 


「そこから、高崎さんは独立して新たなゲーム会社を立ち上げた。さらに裁判までしてノンプリ版権も手に入れた」


 彼女の知りえない、彼女の死後に起こった話をする。


 ちなみにこの裁判には私も手を回した。

 トランスの上層部のスキャンダルを週刊誌に渡し、高崎さんとの裁判どころじゃない状態にした。


「そしてトゥルーエンドシナリオを追加してHD化したノンプリ完全版発売と、プロデューサーに高崎さんをえたYuKiCoシナリオで柿山しぶたろう先生キャラデザのの制作が発表された」


「うっそでしょ…………っ‼」


 私からの思わぬ新作発表に、彼女は目を見開いて全身の毛を逆立てる勢いで驚愕きょうがくする。


「ちょっと待って……今、生まれ変わってから初めて心から死ぬんじゃなかったと後悔してるわ……私」


 両手で顔をおおって、項垂うなだれるように彼女は言って。 


「その真ノンプリⅡは、どんなシナリオなの? キャラクター自体は元のⅡと同じなの? 前作との繋がりは?」


 顔を近づける勢いで新作情報についての質問を捲し立てる。


「……ごめん、私リリース前に死んじゃったから真ノンプリⅡについては何も知らないのよ」


 私は彼女の勢いにちょっと引き気味に答える。


 そう、私が知っているのは高崎さんが起業してノンプリの完全版と続編を出すって息巻いて姉も気合いを入れ始めていたところまでだ。


 私はその後すぐに死んだ。

 だから私はノンプリⅡも真ノンプリⅡも、知らない。


「だからこそ改めて、について話したいの」


 声を低く真面目なトーンで私は切り出して。


「ねえ、ネモとメリィベルが王と王妃になったこの世界は……?」


 それを聞く。

 これを聞きたかった。


「私とかノワールとかエリィ・パールとかディーン・プラティナとかみたいなⅡの登場人物は今、トランス版Ⅱと真Ⅱのどちらの流れに乗っているのかしらね」


 この世界における最重要事項を突きつけた。


 私はトランス版ノンプリⅡを知らない。

 だから彼女の原作改変によってどれだけトランス版ノンプリⅡから離れているのか。

 真ノンプリⅡからどれだけズレてしまっているのか。


 これが知りたいんだ。


「…………多分ノンプリⅡには進んでいないはず。ノンプリⅡ特有のスチームパンクモドキな世界観になっていないから……でも、もしその真ノンプリⅡが完全版トゥルーエンドを基準にしてるのなら真ノンプリⅡにも進んでいるとは思えない……」


 彼女は私の話もふくめて少し考えて、想定通りの回答をべる。


「そうね、私もそう考えていた」


 想定していた私は同意を示すと。


「でも……、確かにノンプリオタクとしては真ノンプリⅡシナリオが気になり過ぎるけど。私はこの国の王妃としてノンプリⅡの内乱さえ回避出来れば良いと考えています」


 彼女は真面目な顔で、そんなふざけたことを抜かす。


「……


 私はふざけたことに怒りを抑えられずに言ってしまう。


「セッちゃんが考えた物語を改変して、なに王妃ヅラしてんのよ。ふざけんじゃねえぞオタク女」


 上着の内側からカランビットナイフを抜いて、かまえながら彼女に怒りを向ける。


 一応私は前世で多少なりと軍事格闘をかじっている。でも今の私はほぼ身体を鍛えてないし、そもそもたまたまモーフィング家にあったカランビットナイフ持ってきただけだからこんな扱いづらい武器も使えない。視覚的な怖さは与えれるけどね。


を渡せ。トランス版ノンプリⅡのシナリオも記してるんでしょう?」


 ナイフを彼女の喉元に突きつけながら要求を伝える。


 メリィベルの日記、ノンプリの初回限定盤に同梱どうこんされていたキャラクターブックというかミニノベライズだ。

 ヒロインのメリィベル目線で各キャラのイラストや簡単な設定と、メリィベルの日常的なエピソードがつづられているオマケだ。


 一応劇中でメリィベルが日記をつける描写がある、つまりこいつもまた日記をつづっている。


 この女がそれを作ったのなら、情報量はオマケレベルでは済まないはず。

 前世のノンプリ知識を忘れる前に全て記した、自作攻略本と化しているはずだ。


「私がこの世界を真ノンプリⅡに辿たどり着かせる。その為にトランス版ノンプリⅡについて知っておく必要がある」


 ぴったりと目を合わせて、私は彼女に思惑を伝える。


 YuKiCo……いやセッちゃんが考えて渋谷さんが描いて高崎さんがまとめた三人が作り上げた世界で、私はノワールと幸せになりたい。


 


 これが、この世界における私の逆襲だ。


 両親が死んだのがセッちゃんの考えたシナリオなのか、それともトランスの馬鹿が考えたものなのかも知りたい。

 でも私はトランス版ノンプリⅡに対する知識がとぼしい、キャラ原案はYuiCoとはいえ今の私やノワールのようなⅡのキャラクターがどのくらいⅡの設定に寄っているのかを確認しなくてはならない。 


 それにノンプリⅡのラスボスに当たる人物、少なくともキャラ原案の初期稿には居なかったその人物がYuKiCo原案なのかも確認しておく必要がある。

 YuKiCo原案のキャラなら、真ノンプリⅡにも登場している可能性が高いからだ。


 故に、メリィベルの日記は原作改変されているこの世界で私が世界を真ノンプリⅡへ正すのに必要不可欠なのよ。


「殺しはしない、でも殺さないだけ。私は悪役令嬢だから容赦ないとかじゃなくて、前世の段階から必要なら邪魔な人間を消したりゆがめたりして形が合うように整えてきた」


 私は目から炎が漏れ出るほどに、心を燃やして彼女に嘘一つなく言って。


「勘違いオタク女一匹、一分もありゃあどうにでも出来る」


 流石に嘘でしかないことで、脅しをかける。


 良心は痛まない、この世界をちゃんとセッちゃんの物語とくっつける。


 そして私は絶対にセッちゃんたちの世界でノワールと――――。


「――――…………接着少女ボンドガール


「――――っ⁉」


 突然。

 彼女が口にしたに、私はあからさまに反応してしまう。

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