高崎とは大学時代からの付き合い。
大学の頃から自作のゲームを即売会で売っていたりゲーセンで格ゲーをやり込みすぎてヤンキー少年たちにも容赦をせず投げハメと煽りコンボを繰り返して恨みをかって駐車場でボコボコにされてから、鼻にティッシュを詰めて
そんな変態はなんだかんだでちゃんとゲームメーカーに就職して、何だかんだで色々なタイトルに参加している。社会に溶け込んでしまった変態だ。
「コンセプトは青春泣きゲー、んでファンタジーっぽい雰囲気で行きたいんだってさ」
私は高崎から伝えられた要望をそのまま伝える。
「へえ、私は恋愛シミュレーション? というか乙女ゲームとかのカルチャーには明るくないけどファンタジーが人気あるのね」
ハルちゃんもポテトベーコングラタンをつまんで口に運びながら返す。
「いやぁ……これは正直逆張りね。今の界隈は幕末とか武将とかの方が来てる、全然アイドル系とか学園モノとかも勢いあるから……少なくともファンタジーの流れではない。ファンタジーはRPGで足りちゃってるし。まあ私や高崎の世代はファンタジー作品が強かったし、監修とか史実とか絡めないで済む分好きに書けるから助かるけど…………」
私はやや苦い顔をしながら、胸中を語る。
「
ハルちゃんは梅酒のロックを片手に、私の表情から爆死臭を汲み取ってビジネス的な観点から私を
「まあ確かにそうなんだけど……、要望はあくまでもファンタジーっぽい雰囲気なだけでちゃんとしたファンタジーじゃないものなのよね。魔法やら禁止の架空世界の中世西洋国家が舞台って感じなの」
私は高崎からの原案というか通してきた企画案による制限を語る……いや愚痴り出す。
「魔法は作品ごとに設定違ったり込みいっていて物語への没入に時間かかるし、画的に派手にはなるけどグラフィックで容量食うし、ご都合主義もまかり通りやすくなるからダメだし。獣人とかエルフとかはビジュアル的に今の子のウケが悪いからパラレルデザイン的にはダメなんだってさ……」
高崎が企画をファンタジーで通しきれなかった理由も伝える。
「ふーん……まあいいんじゃない? なんか派手なバトルアクションとか戦闘パートのあるRPGとかアドベンチャー要素のあるものなら厳しい条件だけど、セッちゃんも高崎さんも人間ドラマ好きだから硬派な方が書きごたえあるでしょ」
梅酒を煽りながらハルちゃんは、あっけらかんと私たちを過大評価してくれる。
まったく……この子はどうにも私たちを凄いと思いすぎてるというか、自分の凄まじさを自覚しているのに棚に上げがちなのよね。
まあいいか。私はお姉ちゃんだし。
「うん、まあその通りなんだけどね。高崎の顔も立てとかなきゃならないから、ちょっとの文句は言いつつもちゃんとやるわよ。でも渋谷はめちゃくちゃ文句言ってるけどね、マッチョな獣人描かせろ! 魔法陣描かせろ! ってね」
私はあんず酒のソーダ割りを煽りながら笑顔でそう返す。
渋谷は柿山しぶたろうというペンネームでイラストレーターをしている、男性名ではあるが渋谷は女である。私のラノベのイラストも何作かやってもらっている一つ下の大学時代の後輩だ。
大学時代に漫研でBLイラストを描かなきゃいけない
実際、絵は上手いし手も早い。
でも描かされるのがウルトラ嫌いという致命的な馬鹿だけど、私や高崎が拾って
「あー柿山先生か……あの人好きだもんね、幾何学模様とか筋肉質な動物とか。でも美少女とイケメンの絵が評価されて仕事が来るようになったんだからそろそろ割り切りなさいよ」
相変わらずな渋谷の近況にハルちゃんは呆れながら正論を返す。
「あ、そろそろといえばセッちゃん」
私が追加で頼んだ砂肝の甘辛煮に箸を着けたところで、ハルちゃんは。
「
かなり
くっそ、油断した……絶対に最初っから今日はこれを聞くつもりだったでしょ……。
「…………しないよ。多分今くらいの感じがちょうどいーの」
私は砂肝を食べながら、
私と高崎は付き合っている。
出会ってから六年、付き合い出してなんだかんだで四年くらい。
大学の頃にオタク趣味で話が合ってレンタルビデオ屋で借りてきたロボットアニメを高崎のアパートで一緒に見たりしたり。
高崎の作るゲームのシナリオ書いたりしたりしてたら良い感じになった。
んでだらだらと二人で居たら童貞と処女が童貞と処女じゃなくなって、大学生でもなくなってもマジギレ喧嘩を何回か
ほんとに作家としての力不足と認めざるを得ないくらいに、ドラマチックにもロマンチックにも表現出来ない超ふつーのカップルだ。
「ふーん、まあ別に私はどっちでもいいとは思うけどどうせ別れることもないんなら保険とか税金とかどちらかが死んだ時とかの相続とか結婚してた方が絶対楽だよ。システムは使ってなんぼ、もう二十代も半ばにさしかかるんだから色々と準備しても良いと思うけど」
ハルちゃんも砂肝の甘辛煮に箸を伸ばしながら、システマチックに結婚の利点を語る。
出た。
ハルちゃんの
昔っから、ほんとにあらゆるものをくっつけてきた。
私が五つくらいの時ハルちゃんがまだ言葉も話せない頃。
ほら平らな木箱にぴったり収まる積み木のおもちゃあるじゃない、ハルちゃんはあれが好きだった。
でもハルちゃんはその積み木で高く積んだり崩れるのを楽しんだりするのではなく、がらがらと散らばる積み木を平らな木箱にぴったり戻すのが好きだった。
接着剤を使って隙間を埋めてがっちりと固定してしまった。
そこからブロックのおもちゃに激ハマりしたり、欠けているものや満たされていないもの、収まりの悪いものを見る度にどうにかそれを解消するために接着剤を片手に駆け巡っていた。
さらに小学生なのにも関わらず商店街のパン屋さんとお弁当屋さんを取り持って新メニューを作り出したり、学校の先生と植木屋さんの娘の縁談を成功させたり。
私のお下がりのパソコンを手に入れてネットの世界に手を伸ばせるようになった中学生の頃には中小企業やベンチャー企業、就活中の人と働き口、投資家と投資を受けたい有望な企業などを繋げまくり。
英語とスペイン語とフランス語と中国語と韓国語をマスターして、十七歳で日本を飛び出した。
今は世界中を飛び回り、あらゆるものを繋げて埋めて収めてくっつけている。
とんでもない知識と行動力で、世界を股に掛けるスーパー仲介業者。
誰が呼んだか
強いて問題を挙げるなら、ハルちゃんのこの活動に善悪の区別がないことくらいだろう。
まあ別に私はハルちゃんが悪者だろう興味がない、私は警察でも正義の味方でもなくただの作家でハルちゃんのお姉ちゃんなわけだから。
「……り、理屈はわかるけど、私は一人で暮らすのが楽すぎて手放せる気がしないのよね。それに苗字が変わっちゃうでしょ? ほらハルちゃんとおそろいじゃなくなっちゃうじゃない」
私はあんず酒のソーダ割りを飲み干して、苦し紛れにそんな返しをする。
いや考えてないわけではないし多分結婚したところで今の関係性もそれほど変わらないってのもわかっている。でも今わりと仕事が楽しいし、新居探しやら新生活やらでバタつくのが単純に面倒臭いのよねぇ……。
「いや私何個名前あると思ってんのよ。とっくに
煙草に火をつけながらハルちゃんはさらっととんでもない衝撃的な事実を明かす。