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第三話 ☆がクソだせぇ。

 え、ええ……、なにそれお父さんとお母さん知ってるの? それ後でなんかの機会に戸籍見てお父さん驚いてぶっ倒れるんじゃないの? というかお墓って……ええ……、そんなにしなきゃいけないほどハルちゃんの活動って大変なの……? え、ほんとに大丈夫なの? 危なくないの?


「まあだからセッちゃんが高崎さんと結婚したところで、私の活動が二人に影響することはないから高崎さんに迷惑はかからないよ」


 ハルちゃんは煙草をくゆらせながら、にこりと笑ってそう言った。


 ああそっか、自分の活動が原因で私が結婚出来ないでいるって思って……まあ自意識過剰ではないか。

 普通なら身内に名前を何個も使い分ける国際犯罪者っぽいのがいたら婚姻とかにブレーキをかけるもんね。


「そんなこと心配するわけないでしょ。ハルちゃんが私たちに迷惑かけるような失敗をするわけがない」


 私は砂肝の甘辛煮をつまみながら、さもありなんと返す。


 私はハルちゃんを心配したことがない。

 昔っから頭が良くて勉強も運動もできて、行動力の権化で、めちゃくちゃ天才だった。


 かたや私は半端なラノベ作家、自分の心配をするべきだ。


「はあ……、まあそうね。私は好き勝手に生きて死ぬんだろうけど、絶対にセッちゃんたちに迷惑かけることはないよ。セッちゃんと高崎さんと渋谷さんの三人は、。この世界で一番美しいチームだからさ」


 満足そうに煙草をくゆらせながら、笑顔でハルちゃんは言う。


 よし、どうやら話はらすことが出来たみたいね。まあまあ酔っているようで助かった。くっつけられてしまうところだった。


 そんな感じで久しぶりの姉妹食事会は楽しく続いて、ハルちゃんは私の家に泊まって。


 次の日。


「じゃ、とりあえず次はチュニジア行ってトルコからシカゴでベナンとブルキナファソだから……多分年内もう一回帰ってこれる……いやギリクリスマス前か年をまたぐかも、だから一応良いお年を」


「うん、多分その頃にはゲームも大体出来てると思うから楽しみにしててね」


 世界を飛び回るにしては小さいトランク一つ持ってまだ立春したばかりなのに年末の挨拶をするハルちゃんに、私はそう返して別れた。


 っていうかベナンとブルキナファソってアフリカだよね、しかもシカゴから直行便ってあるのか……? まあどこで何をするのかも全然わからないけど、達者に暮らしてくれたらなによりだ。


 私はそんなことを思いつつ、本格的に乙女ゲーシナリオ制作に取り掛かった。


 システムは結構ノーマルなノベルゲーム寄り、育成とかパラメータ管理とかの作業要素がないタイプ。どちらかといえばギャルゲーに近いシステムかな?


 冒頭の共通ルートから分岐選択ルートで各キャラに設定された正解の選択肢を選んで個別ルートに入る流れ。


 四キャラはテーマカラー、赤青黄緑として分かりやすくいわゆる属性被りしないようにわかりやすく。


 各キャラの個別ルートには突入時に一回と展開時に二回とクライマックスに一回のアニメーションを入れる予定。共通ルートやオープニングアニメーションもふくめれば結構なボリュームになる。

 アニメーション制作は結構な大手を引っ張ってきたらしい。高崎は変態だが優秀みたいだ。


 さらにプラスで全キャラクリア後にトゥルーエンドルートも作る。


 アニメーションで容量を使う関係でシナリオは五人分、とりあえず四人はハルちゃんと話でざっくりだけど固まった。スペシャルサンクスには毎回、接着少女ボンドガールの名をきざませてもらっている。


 トゥルーエンドルートに関してもある程度は考えてある。

 一応コンセプトととしてヒロインは姫でなく攻略キャラに王子はないようにするって感じで組み立てている。


 だからさんざっぱら王子や姫がいないことを押しておいて、トゥルーエンドルートは王子を攻略するという感じにする。裏切りにいく。

 タイトルは高崎とかとも話し合わなきゃならないだろうけど、現在の仮タイトルはノンプリンスプリンセス。プリプリ……いやって略す感じかな。


 んで、をすると。


 一応ざっくりこんな感じで、トゥルーエンドルートは四キャラの要素や伏線を回収していく流れにしたいからとりあえず先に四キャラを仕上げるか。


 今回は常に画面に挿絵が入るし効果音やBGMもある、絵は渋谷だから絵からも情報量があるのでそこを考慮しながら語りすぎないようにバランスを考えて書く必要がある。


 基本的に会話劇、説明的なこともなるべく会話の中で自然に出てくるようにしてモノローグ的なところで視覚情報を入れすぎない。


 さらに選択肢でシナリオが分岐するので選択肢ごとの文章も書かなくてはならないので、やや面倒ではあるけど。


 物語作りってのは結局、軸さえ決めてしまえばストックしていたシーンの組み合わせでしかないと私は思っている。

 これをやりたいと思ったシーンまで持って行けるシーンとそれらを繋ぐシーンを組み合わせて形にして、けずってらして整えてみがく。


 まあこれは私の自論だけどね、他の作家はどうやってるかは知らない。

 色んなもの見て「私だったらこうするのに」とか「私だったらこの展開こう使うのに」とかを溜めまくったのを色んな状況に当てはめていくというか……。


 私が十二歳の時。

 読書家な中学生の女の子がバイオリン作る男の子と出会って恋して小説書いて坂道でチャリンコを押す超名作アニメ映画を見て小説を書き始めた。


 そこから基本的にこの書き方だ。

 でも十二歳から十二年経った今は、シーンのストックの量が違う。

 今のところストックは使うよりも溜まる方が早いので、面白く出来れば私はまだしばらく物書きとして活動出来そうだ。


 閑話休題。


 私はここから三日ほど家にこもって、一気に執筆を行った。


 とりあえず共通ルートと四キャラ、まだ荒いけどある程度形になった。叩き台にはなるだろう。

 ここからは高崎との打ち合わせを挟みつつ、渋谷にも読ませてキャラデザもさせる。


 というか先に高崎がざっくりイメージしたキャラ設定から渋谷がざっくりキービジュアルを描いて、そこから私が書き始めればいいのに……。


 これも渋谷が描きたいか描きたくないかのアレがあるので、渋谷を使う時は一回私が先に文章を書かなくてはならない。

 渋谷は私の書いたものを高確率で描きたがる。生意気で巨乳で気分屋だが、なんだかんだであいつは私のファンだ。


 だけどその分私に対する仕事のウエイトが……、まあ別に渋谷も全く楽は出来てないんだけど。


「うん……セッちゃんこれ、面白いよ。正直結構戦う気で来たけどこのまま行こう」


 私の書いてきたシナリオを見て高崎は言う。


 高崎とは恋人同士ではあるけど、こいつはこいつで私の作品に忖度をしない。だから何回かマジぶちギレ大喧嘩にも発展したことがある、ちなみにその度になぜか渋谷が大暴れするか大泣きしてことが収まる。


「……渋谷が明日にはキャラデザを終わらせて明後日にはキービジュアルを上げてくる……、システムも今のところ問題ない……、なら思ったよりアニメーション制作とも話が詰められそうだな」


 手帳とノートパソコンを見ながら高崎が進捗状況とスケジュールを確認してつぶやく。


 この辺の管理とか全体の統率やら方向性をまとめあげるのは高崎の仕事だ。私はゲームシナリオライターがメインってわけじゃないし漫画原作とかもやったことはあるけど基本的にラノベ作家で学生時代に高崎の作るゲームのシナリオを書いた程度でゲーム制作に関しては素人だ。


 


 私も渋谷ほどじゃあないけど執筆速度はまあまあ早い。手応えを感じた時はさらに早くなる。


 今回は手応えあり。

 具体的な文字数制限や必要なパートなどの指示を受けて、私は再び家にこもって書いた。


 書いて、打ち合わせて、直して、書いて、直して、打ち合わせて、書いて、書いて、直して、直して、直して……。


 とりあえず最初にタイトルが決まった。

 仮タイトルからそこまで変わらなかったけどね。


 ノンプリンス☆ノンプリンセス~何者でもない私たちは恋をする~で、略称はノンプリ。

 ジャンルとしては、青春恋愛シミュレーション。


 ☆がクソだせぇってとこに関しては女性向けゲームってとこでキャッチーさというか可愛げみたいなものをつけようってことでハートやら音符やら色々と案が出たけど。


 主人公がメリィベル・サンブライト。太陽のようなな明るいイメージで。

 ライバルの令嬢がイザベラ・ムーンライト。月のように闇に光るイメージってことと。


 トゥルーエンドシナリオの王子がステルラ・カラリア。ラテン語で星って意味の名前にした。星の引力で引かれ合うみたいな……まあそんな感じのイメージ。

 ちなみに偽名はネモ、これは子供の頃見てたアニメでネモはラテン語で誰でもないって言ってたところから影響を受けて名付けた。サブタイトルの何者でもないってところにかけてる感じ。

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