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第四話 テストプレイ。

 他のキャラは色で。

 医者家系の公爵子息ロート・ローゼンバーグのロートはドイツ語で赤。

 へっぽこ執事のブラウ・バルトのブラウはフランス語で青。

 悲劇の天才画家ジョーヌ・フェスタのジョーヌもフランス語で黄。

 最強の軍人ベルデ・アダムスキーのベルデはスペイン語で緑。


 かなりストレートに名付けた。

 変にりすぎて滑るよりはわかりやすさを重視した。

 アニメーション制作班も順調に動いていて、声優陣によるアフレコも進んでるみたい。


 ここからは絵をつけたり、ゲーム進行のテンポに合わせて細かくセリフや表現に直しを入れていく感じだ。


 あー結構楽しかったな。いやまだ終わってはないんだけど。私の仕事としてはほぼ終わりといっていいかな。


 なんて感じで、


 初回限定特典ミニノベライズの入稿も終わりノンプリがほぼ完成して、ゲーム雑誌に新作情報が載り始めた頃。


「…………うん、面白かった。まあ好みだけで言うんなら私は普通にセッちゃんの小説の方が好きだけど、高崎さんや柿山先生と作り上げただけあって全員のらしさがぴったり噛み合っていて非常に良い。それと、今回もスペシャルサンクスに接着少女ボンドガールって……まあいいけど、マジで私何もやってないわよ」


 約束通りにクリスマス前に日本へ戻ってきたハルちゃんはパラレルデザインのパソコンでほぼ完成したノンプリをプレイしたところで、感想をべる。


 しばらく日本でゆっくりするとのことだったので、時間があったハルちゃんにテストプレイをしてもらった。


 まあまあ好印象みたいだ。

 ハルちゃんは乙女ゲーというか恋愛シミュレーションみたいなものには全然興味がない。


 


 単純に美人で賢くて優しいので言い寄る男は多いのだけれど。

 ハルちゃんは別に奔放ほんぽうなわけでも誰も彼も関係を持つわけじゃなくて、ハルちゃんの中で魅力的な何かがある異性と関係を持つことに抵抗がない。良い男ばっか捕まえてくる。

 でも特定の相手を作ろうとはしない、自身がぴったり収まるか自身の穴をぴったり埋めてくれる人を探している。

 運命の人……いやハルちゃんはこういう言い方はしないか。なんだろ、……かな。


 まあ姉としては病気や妊娠や金銭トラブルにさえ気をつけてくれれば好きにモテまくってくれて構わないけどね。そもそもハルちゃんはそこを抜かるような人間じゃあないし。


「まあいい出来だよな、特にベルデは描いてて楽しかった。次はベルデとキッドマンだけで一本作ろうぜ」


 パイプ椅子に胡座あぐらをかいて、ハルちゃんのプレイを見ていた渋谷は言う。


 渋谷のやる気を出させるために軍人ベルデはプロレスラーのような筋骨隆々の軍人って設定にしたけれど。

 イザベラの執事キッドマンは特に指定しなかったので髭の筋肉大男にされてしまった……でもなんか優秀さに説得力がある感じになったしかなり良いビジュになったから採用された。良いライブ感だった。


「おい流石にBLゲーはパラレルデザインじゃ出せねぇぞ……。基本的に横スクシューティングとパズルの会社だからな、乙女ゲーが出るのもわりと奇跡だ。それは二次創作方面に期待しろ、あんま酷くなきゃ著作権侵害は見逃すつもりだからさ」


 近くのパソコンで作業をしながら高崎が渋谷に返す。


 私と渋谷の仕事はほぼほぼ終わってるけど、プロデューサーの高崎はまだまだ忙しい。発売に向けた最終調整をさらに調整しているところだ。


「私もBLは書けないからね? 書いたとしても男女間の恋愛を男同士に置き換えただけみたいなのになるから、多分BL好きな人が求めるものにならない。ifとか書くんなら……ベルデはどっかの貴族令嬢に救われる感じにしたりキッドマンは過去編かな……いやまあそれも需要によるけど」


 少し離れた位置の換気扇下をテープで区切られただけな喫煙スペースで煙草を吸いながら、私も渋谷に返す。


 まあ色々と設定は練ったし、本編には差し込めないけどやってみたいシーンとかも何個か出たから書こうと思えば書ける状態にはしてある。

 でも私は書きたいものを書くタイプじゃなくて需要に対して最大限私なりに応えるってタイプの作家だから、仕事ととしてBLが求められるなら勉強はするけどね。


「うーん、私は乙女ゲームにうといから比較出来ないけど……まあYuKiCoシナリオだからファンは流れてくるし、柿山先生絵ってだけでネット見てる感じ期待値思ったより高めっぽいからそこそこ初速出るんじゃない?」


 ネット掲示板を開きながらハルちゃんは、ざっくりとした世論から予想をべる。


「どうだろうなー、ネットの奴らって口だけ出して金出さねえからな。あんま信用してねえんだよな」


 作業を続けながら高崎はハルちゃんの予想に返す。


「いや高崎先輩はオタクを舐めてる、オタクはどぶどぶ金を使う。私はファンレターに同封された私が描いたキャラがプリントされたスポーツカーの写真を見て……たまげた」


 真剣な面持ちで渋谷が高崎に、オタク論を返す。


 ちなみに渋谷が真剣な顔をする時は基本的に半分以上ふざけてる時だ。


「ああそれ私も見たかも……【チャフガールズ】のやつよね。え、あれイベント用の車とかじゃなくて個人所有なの? 版権とか以前に道交法とか車検は大丈夫なの?」


 私も記憶の片隅かたすみにあった話を投げかける。


 最近界隈で流行りだした痛車ってやつだ。なんかの記事で見たけどロゴとかキャラクターのステッカーやら塗装をした車……。


 ちなみに渋谷こと柿山しぶたろうは【阻害女史そがいじょしチャフガールズ】というラノベでイラスト担当をしてアニメ化もされた。この影響で私のラノベで渋谷がイラスト担当したやつも増刷されたので、ありがたい限りだ。


「いやなんか道交法は一応大丈夫らしい。でも版権的なところは……私はわがままで最も生意気な若手美人イラストレーターだけど、あの労力を法律で剥がさせるほど強靭きょうじんな精神性を有しちゃあいない」


 渋谷は私の問いに、複雑な心境を吐露とろする。


「まあ宣伝効果がある間は泳がせて、アニメ版権持ってるとこと出版社が人知れず抹殺するだろ……やつらは闇の組織だからな」


 そんな渋谷の心境に、高崎はこちらを向くことなく作業を進めながらあっけらかんと返す。


「別に出版社は闇の組織じゃないわよ。労働基準法を採用してないだけで」


「ユキ先輩それあんまり表では言うなよ……、消されるぜ」


「ゲーム制作も大概たいがい、闇だけどな」


 なんて、世知辛い馬鹿話をしていると。


「……ねえこれxqだけど、要求スペック高めじゃない? ?」


 パソコンをいじっていたハルちゃんがたずねる。


 私はシステム面については全く専門外なので、高崎の方に視線を向けると。


「…………一応社内のVivaでは動くって話だけど……検証しとくよ」


 高崎は少し考えて作業を止めて振り返るように、答える。


 Vivaは最新のパソコンOS、今年の夏頃に出たけど

 私はあんまり詳しくないけど、Vivaはなんか動かすのにまあまあなパソコンの性能を要するみたいで一つ前のxqを動かすことを前提に作られたそこそこのスペックのパソコンに入れたりアップデートをすると入れてたソフトの動作に影響が出るとか出ないとか。


 私は文章作成ソフトと圧縮と解凍とメール添付やらブラウザやらのネット関連が動けばいいだけなので、そんなに影響はないと思われるけど出版社からまだアップデートはしないように注意喚起を受けている。


 まあそんな話をしつつ高崎をパラレルデザインに残してハルちゃんと渋谷と私で、買い物に行った。


 街はクリスマスムード一色、まあ私も高崎も別にクリスマスだから何かをするってタイプでもない。タイミングが合えばケーキ食べていつもより激しめにするくらい。


 でも妹と友達と過ごせるクリスマス時期はレアで楽しい。


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