そこから私はすっかりノンプリⅡのことは忘れていた。
仕事は他にもあったし、まさかの【
さらに、同アニメ制作会社で十五年以上前のデビュー作【不思議を喰らう少女は現実に胃が
その間にハルちゃんは二回くらい現れて、夏海と遊んで消えて。
ノンプリⅡ発売から、あっという間に四年が経ち。
夏海は十歳になった。
世の中は大流行中の感染症で、学校も休みになったりして在宅勤務が増えていた頃。
出版社からファンレターが届いた。
ダンボールいっぱいとかじゃないけど【
手書きのものは熱意が高いものが多い。めちゃくちゃ励みになる。
ありがたく読ませて貰っていると。
一通、気になる手紙があった。
ギリギリ読めるくらいの、大きく震えて乱れた文字。
子供が書いた……いや、どうやら違うみたいだ。
内容はアニメ化した【
ノンプリについてのものだった。
凄いなノンプリに関するお手紙なんて久しぶり過ぎる、だってノンプリってもう十三年くらい前のゲームだ。夏海も生まれてないしまだ結婚もしてない頃。
ノンプリⅡの時に何通か関係ない私の元にもご意見メールが届いたけど……それももう五年くらい前の話だ。
なんかノンプリ自体は根強いファンが未だにイベントとかやってたりするってのは聞いてたけど……いや読もう。なんかこの手紙には熱がある。
以下、手紙の内容。
拝啓、YuKiCoさま。
私は高校生の時にノンプリをプレイしてからあなたのファンです。
ゲームはもちろんノベライズもコミカライズも全部、ドラマCDもOVAも見ています。
かんしゃを伝えたくて、お手紙を送らせていただきました。
字がきたなくてごめんなさい。画すうが多い字も書けません。
私は、去年くもまっ下出血でたおれました。
死にはしませんでしたが、半身にまひがのこりました。
しゅみのフィギュア造形もできなくなって。
仕事も失って彼氏にもふられました。
正直、死んでしまえたほうが良かったんじゃないかとも思いましたが私は立ち上がれました。
ノンプリがあったからです。
とくにイザベラの存在が大きかった。
どんな困なんからも、どれだけ辛くても立ち上がったイザベラが私の中にいたから私も立ち上がることができました。
今はリハビリをして一人で歩けるようになることを目ひょうにしています。
まだこんな字しか書けませんが、資格の勉強も始めました。
なんとか生きていきます。
本当にノンプリで、私は生きることができました。
高崎プロデューサーや柿山しぶたろう先生にも、あわせてかんしゃを伝えたいです。
ありがとうございます。
皆さんのますますのごかつやくをお祈り申し上げます。
「…………これ、
私は手紙を読んで、声を漏らす。
これは……、多分本当だ。
まあそもそも嘘をつく理由もないし、私みたいな
この震えて
文章以上の情報が、
時に物語というのは、人の人生に大きく影響を与える。
誰かの頭の中で思いついただけの嘘に騙されて、人生を変えられてしまうことがある。
私の場合は確実に、あの小説書きの女の子とバイオリン作りの男の子と猫のアニメ映画だった。今でも夏海と一緒にDVDで観たりするくらいに好きだし、私の人生に大きくくい込んで離さない。
まさか私の……いや、ノンプリは私たちか。
私たちの作った物語が、こんなにも誰かの人生にくい込んでいるなんて。
私は何かお返事を出そうとしたけれど、住所と名前がどうしても読みとれなくて返事は出せなかった。
その夜、私は高崎に手紙を読ませた。
「………………
高崎は手紙を熟読して、
声は小さいが、その背中からは大きな決意が
数日後。
「セッちゃん、俺トランス辞めるわ。自分で会社を立ち上げる、独立する」
会社から帰ってきた高崎は、テーブルを
「まあ良いと思うよ、そろそろ
私はそれほど驚くこともなく肯定を
正直、この間の手紙で火が点いたのはわかっていた。
あれには仕事に対してドライな私ですら、熱に当てられた。
ちなみに渋谷にはまだ手紙は見せていない、あいつは火が点きやすすぎる。ガソリンスタンドで喫煙するより
「……うん、それとノンプリの権利主張をしようと思う。多分バチバチに裁判になると思うけど…………俺やっぱノンプリ完全版とあんなクソゲーじゃなくてちゃんとセッちゃんのシナリオで渋谷が描いたノンプリⅡを出してえ…………正直結構お金を使いますし収入も怪しくなります……」
申し訳なさそうに、これからの喧嘩について高崎は語る。
「いいわよ別に。アニメ化作家舐めないで、まだ私の方が全然年収あるからね。夏海を大学行かすくらいの貯えは全然あるし、結婚する時決めたからね。どっちがどうなってもなんとかするって」
私は呆れるように笑いながら、当然の答えを返す。
「すげぇな、セッちゃん。まだ好きになる」
「次はあんたがかっこいいとこ見せてよね」
高崎は少し柔らかい顔で言って、私は照れながら返した。
翌日、渋谷を呼び出して。
「そうか……、よし、全部わかった! 私は誰を蹴っぱぐりゃあいい?」
「わかってねえ――っ! 蹴るな馬鹿! 今暴行障害事件なんて起こしたらおしまいだ馬鹿! ブス! バツイチ……ゴパァッ!」
渋谷に手紙を読ませて経緯を説明したところで、案の定渋谷が爆発しそうになったところに高崎が捲し立てて返したら
「しーぶーや……、今のは高崎が悪いけどあんたも
うずくまる高崎をよそに、私は呆れながら渋谷に言う。
「だったらユキ先輩も、
椅子に