翌週、公式ホームページ並びに公式SNSアカウントにて。
ノンプリ完全版(仮)と真ノンプリⅡ(仮)の制作開始を発表。
トランス炎上の余波もあって、そこそこ注目度が高まりネットニュースとしても取り上げられてちょっと話題になった。
渋谷の書き下ろしキービジュアルと、アニメ化作家となった私と渋谷の名前も上手く絡めて記事にしてくれてまあまあ盛り上がった。
期待の声やかつてのファンからの支持が思ったより多かった。十五年も前の乙女ゲーの完全版やら七年も前に出たクソゲーの作り直しなんて、今更だろとか古臭すぎるだろって言われるもんだと思ったけど……。
まあ良かった。
このくらいの話題性があれば、きっとあの手紙の子にも届くだろう。
「…………さて」
私は一人
ひと吸いでひっさしぶりのニコチンが身体中に
流石に美味しくもない……でも、私は今からノンプリを書く。
十五年以上前、私がまだ二十代の頃に書いていた話だ。二十代の私のテンションに四十になった私を出来る限り近づける。
ノンプリを書いていたのは結婚して煙草をやめて母になってアニメ化した
まあ現実的に、体力も集中力も肌のハリも体重も全然違うけれど。せめてテンションだけは戻す。
…………よし、慣れた。
当面のご飯は冷凍してある。
デリバリーもオッケー出した。
夏海にも説明した。
高崎もなるべく帰るようにしている。
どうしても寂しい時は夏海と高崎と一緒にご飯食べる。
「さあ、書くか」
私はあえてスタートを言葉にして、保存日時が十五年前で止まったままのファイルを開いた。
三日後、ぶっ通しで叩き台となる追加エピソードを加筆してプロジェクトシーズンのクラウドにぶっ込んで泥のように眠り。
起きた頃には叩き台を読んだ渋谷が、追加スチルのラフを描き終えていた。
そんな感じで、無理の利く範囲で無理をしつつ。
書いて打ち合わせて書いて書いて打ち合わせて。
ノンプリを作った頃と違ってクラウドや通話ソフトで自宅に居ながら、迅速に修正や
システム側も問題はなし、VivaのようなOSトラブルもなく。
夏海が十三歳、中学校に上がった頃。
202X年、四月二十五日木曜日。
プロジェクトシーズンより【ノンプリンス☆ノンプリンセス:Nova~何者でもない私たちは恋をする~】が発売。
相変わらずラテン語から「新しい」を意味して英語では「新星」を意味する
PC版はダウンロードのみ。
スニッチ版とQS4版はパッケージ版とダウンロード版で展開。
詳しくはないけど色々なハードからの発売をするのは、マジでめちゃくちゃ頑張ったらしい。高崎がトランス時代に作った人脈をフルに活用して、ノウハウを活かした結果だ。
初動は上場。
ここ六年くらいの異世界転生モノブームでファンタジー風なノリがウケていたのが大きかったのと、SNSで人気配信者がこの件に触れたことで注目度が上がった。
これに
:Novaで追加というか初公開された、トゥルーエンド以外の配信を許可して人気と発信力のある人々にいわゆる実況プレイをしてもらうことにした。
これが思った以上の話題になって、乙女ゲーとしてはまあまあの認知度となった。
そして、本格的に真ノンプリⅡの制作が始まる。
「十五年前に考えたキャラ原案は使うかい? トランスに使われたやつだから……、まあ別に一から作り直しでも全然いい。今の作風ってのもあると思うし」
高崎はプロジェクトシーズンの喫煙所で、加熱式タバコをくゆらせながら私に確認をする。
「んー、まあ正直どっちでもいいんだけど……なるべく当時のテンションというかノリで書きたいのよね。だから煙草もまた吸い始めたし、髪も切ったし、当時の聴いてたCDもダウンロードした」
私も煙草に火を点けながら高崎へと心境と近況を語り。
「……だから当時のテンションで書いた原案は使いたいっちゃ使いたいかな。まあいっても全然ちゃんと書いてなかったから叩き台にする程度だけど」
とっぷりと煙を吐いて、私は私の方針を伝える。
まあ別に駄目だと言われれば変えるけどね、情熱はあるが芯はない。それが私の作家としての生き方だ。
「……いいねぇ。いや俺も原案は使って欲しかったんだ。泥棒野郎の偽物ヘボ作家に同じ設定で本物のストーリーってのを見せつけて吠え面かかせんのは悪くねえからな」
「いやそんなつもりないからね?」
喧嘩脳な高崎が好意的に話を受け取ったのをちゃんと否定しておく。
「ああでも二十年後が舞台って設定はトランス版から逆輸入したいかな、あのゲームで褒められる点は二十年後が舞台ってところとキャラデザとメカデザと音楽くらいだけど特に二十年後ってところはかなり丁度いい
私はさらに要望を伝える。
トランス版は本当にクソゲーだったと思うけど、キャラデザやメカデザなんかは渋谷とはまた違うタッチというか作風でかっこよかった。
それと二十年後って舞台案も悪くない。
まあSF考証的にありえない発展度って違和感を全面に出した設定だからあんまり褒めるのは皮肉っぽいかもだけど。
前作のキャラが健在で、その子供たちが丁度ティーンエイジャーくらいの時系列なら前作ファンも気になるところだと思うし。
まあ独立したストーリーとしてノンプリⅡから遊んでも楽しめるように、そこまでガッツリ前作キャラは出すつもりないけど前作からの系譜はキャラへの説得力を増すしね。
「いいねえ! あえてトランス版と舞台を同じにすることで正々堂々真正面から叩き潰す感じかぁ! あっちぃな!」
「だからそんな気ないって……」
喜ぶ高崎に呆れながら煙を吐きながら
「よし、とりあえず基本的に五キャラ五ルートにプラスでトゥルーエンド。アクションは入れる気はない、硬派にノベルゲームでいく。アニメーション制作も強いとこ引けたしな、前回頼んだ監督が独立して起こした会社でセッちゃんの【不思議を喰らう少女~】の制作にも
仕事モードに切り替えた高崎は、つらつらと基本的な方針を私に語る。
「うん、了解。しばらく掃除と洗濯はあんたがやってね。朝晩のご飯は私が作って洗い物するけど、それ以外の時間は基本的に執筆に使うから」
私はあっけらかんと了承して、奥さんモードで返す。
「任せとけ。ただシナリオ上がってからは多分俺泊まり込むことになるから……色々終わったら夏海連れてどっか遊び行くか」
「終わった頃には中学二年生でしょ。お友達と遊ぶほうが楽しいんじゃない?」
父親モードな高崎の言葉に、母親モードで答える。
「マジかよ……もう舞浜でも遊んでくれねえかな?」
「うーん……舞浜ならギリ……行けるかな……?」
思わぬタイミングで、我が子の早すぎる成長に寂しくなりながら喫煙所ミーティングを済ませて。
私は書いた。