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第十二話 唯一仕事が順調なことを恨みたくなる。

 とりあえず過去に作ったキャラ原案を開く。


 ヒロイン、エリィ・パール。

 十七歳、フルカラ学園高等部二学年。

 平民出身で靴屋の娘だが、成績優秀で靴をおろしていた貴族の推薦もあり貴族の子息令嬢の通う学園へ高等部より入学。

 快活、面倒見が良いというかお節介……。


 いや出来すぎか……? 共感しにくいか。

 初期稿過ぎて流石に適当過ぎる。


 平民……基本的に身分の差が起こるのなら、そういう格差社会そのものにへきへきしている感じ……。


 まあ要するに、貧乏な家の女の子がすげえお金持ちしかいない高校で天パの俺様系御曹司やら色んな御曹司やらと雑草根性で反発しながら色々あるラブコメ少女漫画みたいなノリ……いや流石に古いか? 私の世代としては最早教科書レベルなんだけど。


 今のトレンドで言うんなら現代倫理観無双……これもピークではないけど、理不尽に切り込むノリはまだまだウケている。ざまぁ系とまではいかないけど、インスタントなカタルシスの連続性はウケが良い。


 いっそ異世界転生に手を出す……いや、私あんまり好きじゃないのよね。まああんまり好みを反映させることはしないけど。


 それに異世界転生に対する理由付けみたいなところが、神様とかSF的なあれを入れたり説得力のある設定入れたくなっちゃうのよね。

 ラノベ執筆で何回か書いたこともあるけど……、編集者から「この辺はふわっとでいいです。気にしてる読者いません」とか言われるし……。


 単純に気が強くて生意気でさかしい小娘……ここに面倒見の良さとかの健気さで可愛げを出すか。

 あんまりクソガキ感が出ないように、理不尽を嫌う感じの正義感から来るトラブルメイカー。


 そうなると対するイザベラポジションは。


 悪役令嬢、ジュリエッタ・ディアマンテ。

 フルカラ学園高等部二学年。

 伯爵令嬢で執事のクロガネ・ノワールを連れている……。


 流石に適当過ぎる……、もうちょっと色々書いてなかったっけ?


 このジュリエッタは、トランス版ではたしか……なんだっけ。ディアマンテ家で魔法技術者を集めて秘密裏に兵器開発をしていて国家転覆の中心核みたいな……。


 なんか数十年前から地下研究施設で云々みたいな話だったっけ、そんな悪巧わるだくみをしていたのにアダムスキーに粛清されてないことをツッコまれまくってた気がする。


 クロガネはなんか刀を使う剣士だったっけ……シーンによって太刀なのか打刀うちがたななのかよくわからないし、結局戦闘パートでは刀から謎ビームを出し続けていたやつだったかな。


 この辺も一旦、高崎から資料貰おう。変に被りすぎても面白くない。

 まあそれは後で照らし合わせる感じにして今は今のテンションで考えよう。


 ヒロインを生意気に快活で人間味のあるティーンエイジャーにするのなら、悪役令嬢は対象的にしたい。

 その世界における良識的で教養のあるニュートラルな人間を装っている……怪物、とか。


 イザベラと違って野心でも義でもなく、ただ混乱や不破や破綻を望む……逆ハルちゃんみたいなイメージ? くっつけてハメて繋げて整えるのではなく。


 剥がして外して絶って断つ。


 単純に純粋な破壊を望むが故に、ヒロインが恋を通して物事を解決にみちびくのを壊したくてたまらない……みたいな?


 その為だけに動く執事クロガネ……、なんかの使い手にしようかな。結局前作のキッドマンは中国武術ベースの使い手って感じにしたから、今作の悪役令嬢付き執事はどうしようかな。


 壊すイメージ……やっぱり空手とか? ハンマーを使う……いや武器を持たせるとキャラデザにも影響でちゃうしなぁ。


 破壊……の逆は?


 破壊の否定ってなるとシステマとかの話になるけど、あくまでも軍事格闘で銃などの武器戦闘や作戦行動のベースとなるものだからそれだけで戦うってのはリアリティがないか。


 何だかんだで前作でプロレスを見るようになってから、いつの間にか武術やらなんやらにちょっと詳しくなってしまった。


 だったらやっぱり合気道か。

 確か調和を重んじて、受け入れることで力の流れやらを使って投げてめる武道。

 それを否定や破壊や混乱の為に悪用するっていうのは、なかなかどうして道徳的にも倫理的にも悪と位置づけられる。


 一旦ざっくりヒロインと悪役令嬢サイドについてはこのくらいにしておいて、後から思いついたら足したり引いたりしよう。


 ここからは攻略対象、五人プラストゥルーエンド用のキャラ。


 えーっと昔に書いた原案だと……。


 若き騎士ディーン・プラティナ。

 モグリの医師ライオ・コープル。

 傲慢ごうまんな伯爵子息ゴルト・ランドール。

 はぐれ技術者クリス・アルジャント。


 四キャラか。

 というか改めて見ると、このクリスの技術者ってとこがもしかするとトランス版Ⅱをスチームパンクに魔法アクション寄りの話に持ってけるみたいなことになったのかな。


 まあ女性ユーザーをトランスの自社3Dアクションタイトルに流したいみたいな思惑があって、難易度の高くないアクション要素を入れたらしいけど単調でバグだらけの作業ゲーになっちゃったみたいなことだった。


 私たちのノンプリⅡにアクション要素はない。

 ただ、アニメーションは入るので画的に映える方が良い。


 アダムスキーのダン少年をどう出すかって感じだけど、攻略対象にはなり得ないから……。


 五人目の攻略対象キャラは、新たに考える。


「……基本コンセプトは青春泣きゲー、必要なのは救いと解決と達成。大団円と駆け抜け感、勝利ではなく到達……幸せと愛、充実、補完、解放、満たされること…………救われること。少しの奇跡と努力による必然……」


 私は頭の中で思いついたことをぶつぶつとつぶやきながら、適当に羅列られつするようにタイプしていく。


 こんな感じで私は、ノンプリⅡキャラクターやらざっくりのシナリオの引っかかりになる程度のイメージを固めていく。


 五人目はウィリアムズ・アルーマナム、自称魔法使いの詐欺師。


 ノンプリの世界には魔法などのファンタジーはない、そんな世界で魔法使いを名乗るという……まあちょっとメタ的にトランス版のⅡを揶揄やゆしてる感じ。


 


 本命は、トゥルーエンドルートにて使を出すこと。

 ノンプリには魔法がないということを逆手にとって、ファンタジー展開を見せるっていう裏切りギミック。


 前作でいうところの、ノンプリには王子が出てこないという前提をフリにしてトゥルーエンドルートで王子攻略をするというアレだ。

 硬派でファンタジー風な世界という今までのノンプリに対する使


 あらかた書き終えたところで、高崎が帰ってきたので夏海と三人で晩御飯を食べてから軽く打ち合わせをして。


「……うん、特に今のとこ問題ないかな。倫理的にもあれだし詐欺師ってのがどのくらいまでのアレかによるけど、セッちゃんその辺はうまくやるだろ? このまま渋谷に流そう」


 高崎はソファに座りながらタブレットで私の書いたキャラ原案に目を通して言う。


「あ、容姿の指示入れとかないと全員サイドチェストとフロントダブルバイセップスのマッチョにされるかもだからちょっと足しとく…………あー、ライオとクリスだけは筋量多めに……」


 私はさくっと追加指示を伝えると、そのまま高崎は指示を入れてクラウドにぶっこんで渋谷に共有メッセージを入れる。


「働いてるねえ、セッちゃんもアッキーも。楽しそうで何よりだよ私は……」


 台所でココアを作りながら夏海が私たちを見てしみじみと言う。


「まあな、好きな仕事でいい流れの時には全力で楽しまないとな。好きな仕事でも九割は面白くねえもんだから、この一割くらいはご褒美みたいなもんなんだ」


 高崎はにこりと笑いながら夏海に返す。


 艱難辛苦かんなんしんくを飲み込んで、負けっぱなしの喧嘩屋として四十年以上生きてきた高崎は勝利を噛み締めることに生きがいを感じている。


 高崎からしたらそりゃあ、楽しいだろう。


「まあノって書ける仕事は楽しいからね、どうせ人生の五割以上労働するんならせめて楽しくないとトータルで損でしょ」


 私も夏海に対して同じようなことを返す。


「ふーん……楽しく出来る仕事……好きなこと……うーん」


 私たちの返し受けて、くるくるとココアをかき混ぜながら夏海はつぶやいて自室へと戻っていった。


 中学生か、まだまだ子供だし何者でもないけれど。

 なんとなく漠然ばくぜんと大人像を作り上げようとしているのかもしれない。


「まだまだ子供でいてくれていいんだけどな……、もっと夏海と遊びたいよ。俺は」


「あっという間だとは聞いてたけど本当にあっという間ね。唯一仕事が順調なことを恨みたくなる」


 高崎と私はしみじみとそんなことを言った。

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